表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
二章 魔法少女が戦う理由と、あの人の秘密。
PR
16/51

第16話 社会人も魔法少女もこなす

 高橋水産と中村商事は地元に根差した企業で、会社の古い顧客だ。


 そこを主に任されているのが瀬河なので、彼女がいかに信頼を得ているかがわかる。


 二件目の中村商事にやってきた時、ふと桃香は隣にある学校へと視線をやった。


(ここって確か、那波人君の高校だっけ?)


 今は体育の授業中らしく、生徒たちがグラウンドで順番に短距離走をしている。何人もが立って待機している中で、ひょろりと背の高い人物がいた。おそらく那波人だろう。


(前に会ったあの女の子たちも、諦めてくれてたらいいんだけど)


 もう一人の弟を見守るような気持ちで見ていたら。


「雪平さん? どうしたの?」


 声をかけられ、慌てて小走りになる。


「すいませんっ」


 瀬河の後をついていき、初めて中村商事へとお邪魔する。ファイルやメモ帳やボールペン等を段ボール箱三つ分渡し、中身を確認してもらった。


「いつもありがとう。瀬河さん」

「とんでもございません。いつでもお電話ください。こちら、請求書です」

「はい、確かに受け取りました」


 人のよさそうな社長との卒のないやりとりを、桃香は珍しく感じながらじろじろ見てしまった。やはり営業先だと、瀬河もある程度やわらかい振る舞いになるのだ。

 後は帰社するだけ、と思いきや――


 車に乗り込む前に、瀬河が予想だにしない提案をしてきた。


「ちょっとだけお茶していかない?」

「はい……え?」


 思わず素の声が出てしまう。


「えっと、そんなことしてもいいんですか?」

「雪平さんさえ良ければ。この後仕事に支障がないようなら、二、三十分だけでも涼しいところへ行きましょうよ」


 また愛想のない、社内でよく見る瀬河の顔に戻ってしまっている。彼女の本心がわからなかった。


(私と瀬河さんがお茶? 何を話せばいいの?)


 不自然な沈黙を続けるのはまずいだろう。行きたい理由もないが、断る口実も思い浮かばない。


「はい、じゃあ……」

「桃香! 〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉の気配だ!」


 背後からルーンがすっ飛んできて、足元でぴょんぴょん跳ねている。


「あの学校が怪しい。わずかだけども瘴気が発生している。悪いけど、また変身してくれ!」


 桃香は石膏像のように固まった。瀬河が重ねて問うてくる。


「どうする、雪平さん?」

「えっと、ですね」

「桃香! 頼むから急いで!」


 ルーンは瀬河に姿が見えていないのをいいことに、桃香の背中をよじ登って頭の上に乗ってしまった。


「それとも具合が悪いなら、会社へ帰る?」

「……お腹が痛いので、トイレに行ってきます!」


 言うやいなや、桃香は通りへ向かってダッシュした。瀬河が後ろで、「トイレならここで借りればいいのに」とつぶやいたことも知らずに。


 桃香は高校の正面玄関に辿りついた。息が荒いまま、辺りを見回して誰もいないのを確認し、柵を飛び越える。


 どこからどう見ても不法侵入だが、こちらも緊急事態なので致し方ない。


 授業が終わった頃なのか、生徒たちが各々校舎へ引き上げる中、桃香は敷地の周辺をなぞるように走っていく。


 そして校舎と対角線上にある、運動部用の部室や植わった木々が固まっているあたりに。


「うわ、あった」


 絶望のつぶやきが漏れた。長屋のようにいくつかの個室が連なるその建物の屋根に、黒と紫が混ざったような球体がある。そこから絶えず黒い煙のようなものが流れ出ていた。


「今日で二回目だよね? 本当にどうなってるの?」

「今の時点では何も言えないよ。ただ、これを放置するのはまずいってことだけは確かだ」

「わかった……やるしかないよね!」


 再び、誰もいないのを確認する。桃香は息を吸い、数日前から考えていた変身の呪文を叫んだ。


「サンク・エトワール・インカーネーション!」


 ルーンが「え?」と間抜けた声を出したような気がしたが、あっという間に桃香は変身完了した。ルーンの方を振り向かずに屋根へと飛ぶ。


 対峙した球体はスンとも反応しない。桃香は片手でイヤリングをはじき、黄金色の光に包まれた指先を向ける。


「エトワール・アロー!」


 指先からいくつもの黄金の針が放たれ、球体へ吸い込まれた。無反応だったそれが、震えて収縮する。


 桃香の隣へ来たルーンは、アラサーの魔法少女をまじまじと見上げた。


「それ、変身の掛け声とか必殺技名だよね?」


 頬を染めた桃香は、正面を見たままだ。


「悪い? 前々から考えてたの。恥ずかしいけど、こういうことでも言って気分を盛り上げないと、とてもじゃないけど心が折れそうなの!」


 しかし別の意味でも心が折れそうだ。まさか、ルーンがここまで不可解そうな反応をするとは思わなかった。


「僕たち指名班が見い出す魔法少女は、そういうことをする必要はないけど。でも桃香みたいに、せっかくだから叫びたいっていう子は時々いるよ」

「じゃあ、ルーンがそんなに驚く必要ないじゃない」


 足元を見ると、今度はルーンが明後日の方を向いた。


「大抵の子は、恥ずかしくなって途中でやめるんだ。僕はそのことを思い出して、恥ずかしくなってね……」

「それ以上言わないで!」


 桃香の絶叫と同時に。球体がこちらへ高速で向かってきた。


「うわっ!」


 お互いに左右に飛ぶ。球体はどちらを追いかけることもなく、離れたフェンスにめりこんで静かになった。だが、その大きさはどんどん小さくなっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ