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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
二章 魔法少女が戦う理由と、あの人の秘密。
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第15話 予想外のこと







「おかしいなあ、何でだろ?」


 首をひねるルーンの隣で、桃香は情けなくもぐったり伸びていた。


(本当にどうしてなの。ルーンの説明と違うよね?)


 ハプニングもありつつにぎやかだったあの晩から、三週間は過ぎている。そろそろ梅雨も明け、蒸し暑い夏が近づいてくる季節だ。


 桃香は会社の営業車の運転席で、ハンドルにもたれかかっていた。エンジンはとうに切っていて、あとは降りて自席へ向かうだけなのに、その動作が億劫なのだ。


 たまたま銀行へ行く用事があった桃香は、帰り道に〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉が出現したとルーンに言われ、さくっと浄化してきた。それはいいのだが。


「ねえルーン、あなた確か、私が戦う頻度は月に一回か二回だって言ってたよね?」

「うん、言ったとも」

「さっきの〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉で、もう四回目だよ? ルーンに無理やり促された最初のを含めて、これで五回目。三週間で五回って、どう考えても多いよね?」


 何とか上半身を起こすと、ルーンは今度は上体をそらし車の天井を見上げた。


「僕も変だとは思ってるよ。知りあいにこの周辺を探ってもらってるけど、原因はまだ判明していないんだ」


 桃香はため息をついた。これまでに会社の入ったビルの敷地内で、もう三回も変身し体調を崩している。他の社員から「まとまった有給とれば?」だの「病院へ行った方がいいのでは?」だのと心配されているが、その度に後ろめたさを感じていた。


 ルーンの予想通り、戦いを経るごとに疲労の度合いは減っているが、それでもまだ即座に動けないことに変わりはなかった。


「これって何かの予兆だったりする? 〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉が更なる悪だくみをしているとか、宿った人間がルーンの知らない間に動き出した、とか」


 ルーンの説明だと〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉を宿した人間は、少なくとも現時点でこの日本にはいないらしいが。


「その可能性も考慮してるよ。でも確定じゃないんだ。だから桃香には申し訳ないけども、結論が出るまでもう少し待ってほしい」

「……わかった。理由がわからないんだから、ルーンも困ってるよね」


 ようやく戻る気になれたので、車から降りて駐車場を進む。まだどこか、雲の上を歩いているような覚束おぼつかなさがある。


(若い魔法少女だと、こういうことはあんまり起きないってルーンも言ってたし。要は私が年取ってて、体力ないってことか。筋トレくらいしようかな。それともサプリに頼ってみるか。疲れてるからビタミンがいいのかな)


 などと思いながら、エレベーターを降りて歩いている時だった。


「あ、雪平さん、ちょうどよかった」

「え? は、はい」


 思わす背筋を正す。前方から少し安堵した表情の瀬河が、カツカツとヒールを鳴らして向かってきた。


「悪いんだけど、小野松君の代わりに手伝ってくれない? 彼、風邪をひいちゃったみたいで早退したの。高橋水産様と中村商事様に用があるから、ついてきてくれる? 後で比見課長に許可はとるから」


 桃香は己のタスクを脳内で思い起こし、うなずいた。もう一度外出しても特に支障はないはずだ。


「承知しました。いつ出発しますか?」

「注文の品を車に詰めてからね。三十分後には出ましょう。キリのいいところでいいから、あとで駐車場に集合で」

「何か運ぶんですよね? お手伝いします」

「いいわよ。私一人でもなんとかなるから」


 瀬河は倉庫へ向かったのだろう。桃香も自席へ向かい、やりかけの仕事を今一度確認する。途中めまいがして体が傾きかけたが、机に肘をついて倒れるのだけはまぬかれた。


「大丈夫ですか?」


 草薙がささやく。トイレでの例の一件以来、彼女から話しかけられる回数が増えたのは気のせいだろうか。


 桃香の彼女への印象は、仕事はごく普通にこなすがどこか自信なさげな子、だ。派遣社員の彼女は正社員の石山と荒田と仲良くしてはいるが、それも無理に居場所を求めたため、に桃香は感じることがある。勿論三人の事情は全く知らないので、完全な妄想なのだが。


「うん。ごめんね。私のせいで草薙さんに何回か迷惑かけたよね。今度おやつでもおごらせてくれるかな?」

「い、いえ、甘いものは苦手なので、大丈夫です」


 そう言うと草薙は、さっとパソコンへ向きなおる。


 桃香は内心首をひねる。


(私と話したいと思ってるのかそうでないのか、どっちなの?)


 そうこうしているうちに、瀬河がオフィスへ戻ってきた。二人で課長に外出の許可を得、駐車場へと向かう。


 桃香は一日の間に二度も社外へ出るのはめったにない。こんな珍しい日に、ちょうど仕事が立てこんでないのは幸いだ。


 その油断のせいか、ビルの玄関を出てからよろけてしまう。


「雪平さん?」

「すいません、ちょっとふらついちゃって」

「横になっていた方がいいんじゃないの?」

「いえ、問題ありません」


 感覚的には、最初に戦った時よりは遥かにマシなのだ。


 だが瀬河の提案により、運転は瀬河がすることになった。本当なら下の立場の人間がすることなのに、と桃香は落ち込む。


「すみません、瀬河さん」

「謝らないで。お願いしているのはこちらの方だもん。どうにも小野松君以外が捕まらないし、私より目上の人に頼むのはちょっと気まずくて。雪平さんが戻ってきてくれてよかった」


 気まずい。


 いつもなら聞き流しそうな他愛ない単語なのに、瀬河の口から出たということで、興味がわいてしまう。


「その、失礼ですけど、瀬河さんも気まずいなって思うことがあるんですね」


 帰ってきたのは、愉快そうな苦笑だった。


「当り前よ。私だってあれこれ悩んだりするんだから」


 初めて、桃香は瀬河の人間らしい一面を見た気がした。

 何せ彼女は、感情をあまり表に出さない仕事マシーンのような印象もあるから。


 大通りから曲がり、昔からある市道を走る。街路樹の緑のカーテンが、二人の乗る営業車に穏やかな木漏れ日を落とした。

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