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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
二章 魔法少女が戦う理由と、あの人の秘密。
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第11話 年齢にはあらがえない

 結局、桃香は三十分以上自席を空けていた。体感では戦いの後、少なくとも十五分は立ちあがったり歩く気に全くなれなかった。


 なけなしの気力をふりしぼり二階まで戻ると、たまたま廊下にいた瀬河が眉をひそめて近づいてくる。


「具合でも悪い?」

「すみません。貧血か何かだと思います」


 瀬河は数瞬、桃香の後方を伺ったが、桃香はそのことに気づく余裕はない。


 ふらついた桃香の肩を瀬河は支えた。そこへ小野松も通りかかる。


「大丈夫ですか? 何かお手伝いしますか?」

「ありがとう。でも私一人で何とかなるわよ。とりあえず休憩室へ行きましょう。回復したら無理しないで、帰りなさい」


 向かおうとした方向から、比見課長がやってきた。コーヒーの匂いがする。給湯室からの帰りのようだ。


「雪平さん、調子悪いの? 最近の子は俺が若い時より体力も根性もちょっと軟弱だよねえ。体のためにもちゃんとレバー食べたほうがいいよ。女性にとって鉄分はすごく大事だから」


 桃香のこめかみがひきつった。比見課長は仕事に関して特筆することのない、要は部下にとって面倒くさくはない上司なのだが、時おり配慮のない発言をするのだ。


 小野松の目も、信じがたいという感情を隠しもしない。対して瀬河は波ひとつない水面のようだ。


「課長、過去は過去、今は今ですよ。それにその発言はセクハラに当たります。止めて下さいと何度もお願いしたじゃないですか」


 時々瀬河にこうしてたしなめられる。下の人間に注意されても不機嫌にならないのは課長の良い点だと桃香も思う。が、それを忘れてしばらくたったら、またスレスレの発言をしてしまうのだ。


「すまない。また悪いクセが出ちゃったな。悪かった。で、今日はもう早退かな?」

「いえ、確認してない伝票もありますし、在庫の入力も済んでないので」


 瀬河が淡々と提案する。


「全部明日でも構わないんじゃない? 草薙さんに確認してもらって、急ぎのものは彼女にお願いしたら? 何なら私も少し手伝うから」


 小野松も続けて言う。


「事務処理はやり慣れてませんけど、出来ることがあれば言ってください」

「でも」


 さらに抑揚のない調子で、瀬河は続ける。


「具合が悪いのに無理して仕事したら、余計つらくなるわよ。ひとまず休憩室へ行きましょう。私から草薙さんに話しておくから」


 休憩室の椅子を瀬河と小野松が横並びにし、桃香はそこに一時間は横たわっていた。車を運転する気力だけは戻ったので、在席していた草薙と瀬河に頭を下げ、早々に帰宅することにする。


 いつもよりスピードゆるめの運転で家に着いた。まだ桜輝は大学のはずだから、家には誰もいない。


 どうにか玄関の鍵を閉め居間のソファーに身を沈めると、あっと言う間に眠りの沼へ沈んでいった。






「風音さーん、チンジャオロース出来ましたよ」

「おーありがと。ああ、早くビールが飲みたいなあ」

「その前に姉貴を起こさないと、ですよ」

「そうね、そろそろいいかな?」


 半覚醒のぼんやりした頭で会話を聞いていたら、肩を叩かれた。


「桃香、いい加減起きたら? 桜輝君が心配してるよ」


 何とかまぶたをこじ開けると、親友の風音が覗き込んでいた。誰がかけたのか、柔らかいブランケットが桃香を包んでいる。


「……今何時?」


 時計を見ると、二時間以上は寝ていたようだ。時刻は夜の七時半を回ろうとしていた。


「吃驚したよ。桃香が着替えもせずにここで寝てるなんて。季節の変わり目だし、疲れてるんじゃない?」


(風音がいるってことは……そうだ、今日は金曜だった)


 両親が不在となって以降、風音が月に一、二回は晩酌にお邪魔するようになったのだ。今日がその日だったことを桃香は今思い出した。


 どうして自分はここで寝ているんだと思うと同時に、日中の出来事が蘇ってくる。


「まほう、しょうじょ」

「え? 何か言った?」

「ううん、何でもない」


 すべて夢だったのかと思う。ルーンと名乗る青い目の兎も、魔法少女にさせられたことも、実際に不気味なものと戦ったことも。


 しかしこの、どうにもスッキリしない倦怠感はごまかしようのない現実だ。それにいつの間にか、ソファーの背にルーンが立っていた。だが、風音にも桜輝にもその姿は見えていない。


 宴の準備をすべて終えたらしい桜輝が、エプロンを外しながら寄ってくる。


「風邪でも引いた? おかゆ作ろうか?」

「いいよ。すっごく疲れてるだけだし」

「そっか。でも、調子悪くなったらすぐに言ってくれよ」


 桃香はのろのろと自室へ向かい、いつもの部屋着に着替えた。ついでに化粧も落とし、リビングへ戻る。


 二人は既に、缶ビールを飲み始めていた。桃香も座り、テーブルの上のごちそうに目をやる。


 チンジャオロースに、マッシュポテト。ドレッシングのかかったグリーンサラダと、塩昆布とごま油で味付けしたきゅうり。唐揚げとピザは、風音が買ってきてくれたものだろう。


「料理に統一感ないけど、いつものことだから許してください」

「いいのよ桜輝君。作ってくれるだけで最高。今のうちにレパートリー増やしておいたらいいよ。料理男子はモテるから。ね、桃香?」

「うん、そうだね」


 とりあえずきゅうりをかじる。食欲が刺激されたので、アルコールには手を出さず他のものを少しずついただいてゆく。

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