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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
一章 OLさんは、ある日突然魔法少女になりました。
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第10話 いきなりはじまる初陣

 いい加減現実を受け入れてもよさそうだが、それは難しい話だ。


 二十七歳なのに魔法少女というのは、やはりどうしても矛盾している気がする。


 だが立ち止まる暇も突っ込む暇もなく、あちらは仕掛けてきた。


 ガラスを割り、桃香たちの元へ黒い何かが侵入してきたのだ。


「きゃあ!」


 ふっとばされた桃香だが、一回転して着地する。普段の自分からは考えられない身体能力を不思議に感じる間もなく、黒い何かは更に桃香へと迫ってきた。バックステップで後ずさる。


 気づけば非常階段の入り口まで追い詰められていた。扉を開け、屋上を目指す。


 人気のないそこにあったのは、不気味な黒い植物の塊だ。


 中心が光を通さないほどの闇色。そこから数本の蔓が生え、触手のようにうごめいている。瘴気を出しているのはあれだったのだ。


「あれは何?」

「君が浄化するべきもの。〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉のひとつの形さ。この程度の禍々しさなら、魔法少女初心者でも何とかなるよ」


 この程度との表現だが、桃香にとっては充分に不気味で怖気おぞけが走るレベルだ。


 ルーンと名乗る兎に言いたいことは山ほどあるが、ひとまず目の前の怪異を排除する方がよさそうだと判断する。


「浄化って、何をすればいいの?」

「君独自に使える技がいくつかあるはずだ。僕が説明するよりも、直感でやってもらったほうがいい」


 それでは説明になってない。そう言おうとしたとき。


 蔓が天空へ伸びたかと思うと、銃弾に比する早さで桃香とルーンへ向かってきた。


「わあっ!」


 それぞれが左右に跳びすさるが、蔓は延々と伸びて追いかけてくる。桃香はジグザグに軌跡を描くように走った後、わざと向かって行って蔓がからまるように仕向けた。そこで動きがやや鈍るが、すかさず二本目が迫る。


「危ないっ!」


 桃香の横へ飛んできたルーンが、蔓に捕えられ高く掲げられてしまう。


「ルーンっ!」


 桃香は初めて兎の名を呼んだ。顔をしかめながら、ルーンはなおも叫ぶ。


「僕に構っちゃだめだ。敵はあいつだよ!」


 蔓が数本同時に桃香を狙い、そのうち一つが頬をかすった。熱い痛みから、皮膚が切られたとわかる。


「……いい加減にしてよ。こっちはこんなことに長く構ってられないの」


 桃香は左右のイヤリングを一度指先ではじく。指先から肘にかけて、黄金の光の膜が覆った。


 両手を広げて禍々しい塊へと突き出し、叫ぶ。


「あんたのせいで万が一にも残業するハメになるなんて、まっぴら御免だからねっ!」


 放たれたのは、大量の青い薔薇の花びらだ。視界を一色に埋め尽くすほどの、美しく高貴な花。


 薔薇は蔓の中心の闇を覆い、やがて白い光の球となってはじける。


 瘴気は消えていた。平穏が戻ったのだ。


「お、終わったの?」


 呆然としながらも、それだけやっと言葉に出来た。勢いで行動したが本当に倒してしまったらしい。信じがたいが、いかにも魔法少女っぽいことをしてしまった。


「お疲れさま。初陣にしてはとっても上出来だよ」


 乱れたジャケットを直しつつ、ルーンが歩み寄ってくる。ほぼ同時に、桃香の変身が解けた。その直後。


 視界が傾き、気がつけばコンクリートがすぐそこにある。


 桃香は膝から崩れ、屋上に頬を押し付けていたのだ。


「大丈夫かい、桃香?!」


 ルーンの方へと、何とか視線を流した。


「……味わったことないくらい、ものすごい疲れが襲ってきてるんだけど」


 全身の筋肉が乳酸で満ち満ちているようだ。あるいは鉛にでも変化したかのよう。とにかく凄まじいだるさがまとわりついている。


 ルーンは耳の裏をこしこしと掻き、腕を組んでうなる。


「最初は誰しも疲れを感じるさ。だんだんと慣れていくと思うけどね。でも倒れた子は、少なくとも僕は見たことないなあ」

「聞いてもいい? あなたは今まで、どれくらいの年齢の子を魔法少女にしてきたの?」

「ほとんど十代だよ。二十歳の子もいたかな。桃香がぶっちぎりの最年長なのは間違いないね」

「じゃあこの疲労感って、年齢のせい?」


 ルーンは目をそらした。


「それは……可能性としては有り得るかもしれない」


 桃香は勢いよく起き上がり、ルーンを両手でがしっと掴んだ。怒りから湧き出るエネルギーのなせる業だ。


「わあっ! なんだ、元気じゃないか」


 不思議そうにまばたきするルーンへ、額に汗を垂らしながら桃香は叫ぶ。


「年齢のせいだって言うなら、さっさと若い子を見つけてその子を魔法少女にすればいいじゃない!」


 渾身の訴えさえも、体力を削る。


 桃香は再び、頬をコンクリートに虚しく押し付けた。


 オフィスに戻るまで、それなりに時間がかかりそうだった。

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