第九十七話 《黒月》特別昇格
翌朝。
リリスは。
いつもより少し遅く目を覚ました。
「……眠い」
昨夜。
秘密の《神獣楽園》へ向かい。
小さくデフォルメしたベモへ食事を与え。
《神獣盟約》を結び。
荒野だった異界を一から作り直した。
三時間にも満たない外出だったが。
楽しくなって。
予定以上に長居してしまった。
疲労はない。
魔力も減っていない。
ただ。
純粋に睡眠時間が短い。
「もう少し寝たい」
枕へ顔を埋め。
再び目を閉じる。
その直後。
寝室の扉が控えめに叩かれた。
「師匠、起きていらっしゃいますか?」
フィオナの声。
「起きてる」
少しだけ。
返事が遅れた。
「冒険者ギルドから使者が来ています。午前十時より、特別昇格審査を行いたいとのことです」
「十時……」
時計を見る。
午前八時十二分。
まだ時間はある。
もう一度眠るには短く。
起きるには少し早い。
「分かった。すぐ行く」
「朝食の用意もできています」
「うん」
リリスは。
名残惜しそうに布団をめくり。
ゆっくりと寝台から起き上がった。
◇◇◇
食堂。
朝食は。
炊きたての白米。
焼き鮭。
出汁巻き卵。
豆腐と若布の味噌汁。
納豆。
浅漬け。
リリスの好きな物が。
綺麗に並べられていた。
「師匠、眠そうですね」
「昨日の戦いで疲れた?」
リゼットが。
白米へ出汁巻き卵を載せながら尋ねる。
「少しだけ夜更かしした」
『何をしていた』
食卓の横で。
クロが顔を上げた。
「読書」
『ほう』
「本当だよ」
異界環境の構築前には。
空間内部の魔力循環。
土壌形成。
天候制御。
昼夜周期について。
保存していた魔導書を何冊か確認した。
読書をしたこと自体は。
完全な嘘ではない。
『何の本だ』
「異界環境について」
「急に随分と特殊な本を読んでいるな」
シグレが。
焼き鮭の骨を綺麗に外しながら言う。
「気になったから」
「師匠は、一度気になると止まりませんから」
フィオナは。
納得したように頷いた。
疑われていない。
リリスは。
味噌汁を飲みながら。
心の中で安堵した。
その時。
胸の奥へ。
柔らかな感覚が伝わってくる。
━━━━━━━━━━
《神獣盟約》
契約神獣
《ベモ》
生命状態:良好
精神状態:満足
現在地
《神獣楽園》
現在の行動
甘露南瓜畑で休息中
縮小神獣形態
維持
━━━━━━━━━━
「……可愛い」
「師匠?」
「鮭のこと」
フィオナが。
リリスの皿を見る。
焼き鮭は。
普通の焼き鮭だった。
「可愛い、でしょうか?」
「美味しいね」
「話が変わったぞ」
シグレの指摘を聞き流し。
リリスは白米をおかわりした。
◇◇◇
午前九時五十分。
王都冒険者ギルド本部。
正面玄関には。
普段以上に多くの冒険者が集まっていた。
リリスたちが入った瞬間。
喧騒が止まる。
「あれが《黒月》……」
「ベヘモスを消したパーティーか」
「あの狐人族の魔法使い、一人で軍の防衛線を守ったらしいぞ」
「白髪の剣士は、三百本以上の岩槍を一人で斬ったって話だ」
「青い帽子の技師は、戦場で幻想機を直したんだろ?」
「黒い神狼は、ベヘモスの魔力砲を焼き尽くしたらしい」
視線が。
一斉に集まる。
リリスは。
黒い仮面の下で小さく息を吐いた。
「やっぱり目立ってる」
『昨日、数千人の前で国家戦略級極大魔法を使ったからな』
「静かに暮らしたいのに」
「師匠が言っても説得力がありません」
「そんなことないよ」
「あります」
フィオナの即答だった。
受付へ向かうと。
待機していた職員が。
すぐに頭を下げる。
「パーティー《黒月》の皆様ですね。審査室へご案内いたします」
案内されたのは。
ギルド本部の三階。
通常の昇格試験では使用されない。
大会議室だった。
◇◇◇
室内には。
既に多くの人物が揃っていた。
冒険者ギルド本部長。
複数の上級査定官。
王国西方軍団の副官。
宮廷魔導師団の代表者。
王立幻想機兵団第三機装大隊長。
クラリス・ヴァンデル。
さらに。
勇者ガルド。
セリス。
ディラン。
ミレイユ。
カイルと、その仲間たち。
「ノクスさん!」
カイルが立ち上がる。
「昨日は本当にありがとうございました」
「怪我はない?」
「はい。全員、軽い筋肉痛くらいです」
新しい装備にも。
目立った損傷はない。
何度か大きな攻撃を受けたが。
防御術式が正常に機能していた。
「装備の使用報告は、後でまとめて提出します」
「急がなくていいよ」
「約束ですから」
カイルは。
真面目な表情で答えた。
「席へ」
ギルド本部長に促され。
リリスたちは。
会議室中央の長椅子へ座った。
クロだけは。
リリスの隣へ伏せる。
「これより、パーティー《黒月》の特別昇格審査を開始する」
壁面へ。
巨大な映像記録が投影された。
ベヘモスとの戦闘。
宮廷魔導師団。
勇者たち。
幻想機兵団。
そして。
戦場を駆ける《黒月》。
「冒険者ランクの査定では、戦闘能力、依頼達成実績、危険への対応力、判断力、素行を総合的に確認する」
本部長が説明する。
「軍人のように部隊を指揮できるかは問わない。冒険者へ求められるのは、与えられた依頼を達成し、生きて帰還する力だ」
冒険者は。
軍隊ではない。
大規模作戦の総指揮は。
軍団長。
騎士団長。
宮廷魔導師団長。
そうした専門の指揮官が担当する。
冒険者に求められるのは。
強さ。
実績。
そして。
危険な依頼を完遂する能力だった。
「今回の《黒月》の功績は、通常の基準では査定不能に近い。ゆえに王国軍、宮廷魔導師団、幻想機兵団、勇者各位から証言を得た」
最初に映し出されたのは。
フィオナだった。
数千人を包み込む。
《星月神狐結界》。
ベヘモスの《陸皇障壁爆震》を受け止め。
負傷者の生命反応を捉え。
救護班へ正確な情報を送り続けている。
「フィオナ・ルーヴェル」
「はい」
「現在の冒険者ランクはD級」
フィオナが。
静かに頷く。
「広域防御、治療、生命感知、魔法戦闘。いずれも現在のランクを遥かに上回る」
宮廷魔導師団の代表者が。
記録へ視線を向けた。
「防御能力だけならば、王国最高位の結界術師を超えている可能性がある。数千人を守りながら、自身の魔力をほとんど消耗していなかった」
「そ、そこまででは……」
フィオナの狐耳が。
少し横へ倒れた。
「また、複数属性の攻撃魔法、治癒、浄化、錬金術の使用実績も確認されている」
査定官が。
別の記録を開く。
「ベヘモス戦以前の依頼実績を含めても、D級へ留める理由はない」
次に。
シグレの映像へ変わる。
三百七十二本の岩槍を斬り。
落下する破片まで細かく切断した場面。
重力術式の中枢を。
一刀で断った場面。
「シグレ・ヤルク」
「うん」
「現在の冒険者ランクはB級」
シグレは。
仲間になった時点で。
既にレベル五十を超えていた。
以前から。
数々の高難度依頼を達成してきた。
実戦経験を持つ。
熟練のB級冒険者である。
「以前からA級に近い戦力を持つと評価されていた。今回、その実力と功績が明確に証明された」
映像の中で。
シグレの《天月神刀》が。
白銀の軌跡を描く。
「攻撃力、速度、精密性、危険察知、空間把握。すべてA級基準を満たしている」
「異論はない」
勇者ガルドが言った。
「一対一の近接戦闘ならば、並のA級冒険者を超えているだろう」
「分かった」
シグレは。
特に浮かれる様子もなく答えた。
だが。
赤い瞳は。
少しだけ嬉しそうだった。
続いて。
リゼット。
幻想機十三機の応急修復。
損傷した機体の救助。
重力術式の解析。
攻撃中の魔法構造へ。
直接、分解用の楔を打ち込んだ場面が映し出される。
「リゼット・ヴァルカン」
「はい!」
「現在の冒険者ランクはE級」
「一番下!」
「登録から日が浅いからな」
査定官が答える。
「だが、今回確認された能力はE級どころか、一般的な冒険者の評価基準だけでは測れない」
「戦闘もできるよ!」
「それも確認している」
クラリスが。
微かな笑みを浮かべた。
「戦闘中に幻想機十三機を応急修復し、複数の操縦者を救った。あれは単なる鍛冶師の仕事ではない」
映像には。
青白い魔法陣を展開し。
損傷した幻想機を次々と立たせる。
リゼットの姿が映っている。
「技術能力だけなら、国家級技術者として遇するべきだ」
「国家級……!」
リゼットの目が輝く。
「ただし、無断で幻想機を分解しようとした場合は話が別だ」
「しないよ!」
「許可を取ってからだよね」
リリスが確認する。
「うん!」
『分解する意思そのものは変わっていないな』
最後に。
リリスの映像。
《陸皇魔力砲》を消した場面。
落下する幻想機を救助した場面。
ベヘモスの突撃を。
《絶対空間固定》で止めた場面。
そして。
国家戦略級極大魔法。
《終焉黒星》。
全長五百四十八メートルの神獣が。
完全に消滅する。
その映像を見ながら。
リリスは。
少しだけ視線を逸らした。
「ノクス」
「はい」
「現在の冒険者ランクはA級」
リリスは。
以前。
災厄魔王ヴォルガン・ディザスター討伐の功績によって。
個人A級冒険者へ特例昇格している。
「魔王討伐の時点で、A級として十分すぎる功績を持っていた。そして今回、災害級神獣を単独で固定し、国家戦略級極大魔法を一人で発動した」
本部長は。
映像の中で消えるベヘモスを見る。
「しかも、周辺被害は皆無。味方への被害もなく、戦死者発生を防いだ」
「クロ殿についても同様だ」
『私は冒険者ではない』
「承知している。ゆえに冒険者ランクは付与しない」
本部長は。
クロへ向き直る。
「しかし、パーティー戦力を認定する上で、貴殿を除外することもできない。災害級の魔力砲を相殺し、広範囲の味方を守った力は、明らかに国家級戦力だ」
『当然のことをしたまでだ』
「それを当然にできる者は少ない」
クロは。
返事をせず。
静かに目を閉じた。
◇◇◇
審査開始から。
一時間半。
証言。
映像記録。
過去の依頼実績。
魔力測定結果。
各人の戦闘能力。
危険状況への対応。
すべての確認が終わった。
最後に。
ギルド本部長が。
四枚の冒険者証を机へ並べる。
「審査結果を発表する」
会議室が。
静まり返った。
━━━━━━━━━━
特別昇格審査結果
パーティー
《黒月》
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ノクス
現在ランク
A級
↓
新ランク
S級
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フィオナ・ルーヴェル
現在ランク
D級
↓
新ランク
B級
━━━━━━━━━━
シグレ・ヤルク
現在ランク
B級
↓
新ランク
A級
━━━━━━━━━━
リゼット・ヴァルカン
現在ランク
E級
↓
新ランク
B級
━━━━━━━━━━
《冥獄神狼クロ》
冒険者ランク
なし
認定戦力
S級相当
━━━━━━━━━━
パーティー《黒月》
新パーティーランク
S級
━━━━━━━━━━
「S級……」
フィオナが。
表示を見つめる。
「師匠だけでなく、《黒月》全体が……」
「今回の作戦において、《黒月》はS級パーティーに求められる功績を達成した」
本部長が答える。
「災害級神獣への対処。国家規模の救援。大規模攻撃の迎撃。そして、討伐作戦の完遂」
「フィオナ殿とリゼット殿はB級。シグレ殿はA級へ昇格となる」
上級査定官が。
一人ずつ新しい冒険者証を差し出した。
フィオナは。
銀青色へ変わった冒険者証を受け取る。
「二つも上がったのですね」
「D級のままでは、今後の活動に大きな制限が生じる。高危険度依頼への同行資格も含め、B級が妥当と判断した」
「ありがとうございます」
シグレは。
深紅の縁取りが施された。
A級冒険者証を手に取る。
「ようやく上がった」
「嬉しい?」
「少し」
シグレは。
冒険者証を見つめ。
ほんの僅かに微笑んだ。
リゼットは。
自分のB級冒険者証を。
何度も裏返している。
「一気にB級」
「戦闘能力と技術能力、双方を評価した結果だ」
「これで高危険度素材の採取依頼も受けられる?」
「受けられる。ただし、依頼地の設備を勝手に分解してはならない」
「しないって!」
最後に。
リリスが。
黒金色の冒険者証を受け取った。
━━━━━━━━━━
冒険者証
登録名
ノクス
個人ランク
S級
所属パーティー
《黒月》
パーティーランク
S級
主な権限
・災害級緊急依頼受諾
・高危険度迷宮入場申請
・国家機密依頼閲覧申請
・国家境界通行許可申請
・高危険度素材取扱申請
・災害現場における独立行動
━━━━━━━━━━
「独立行動」
『お前には向いているな』
「自由に動いていいってこと?」
「命令を無視してよい、という意味ではないぞ」
本部長が念を押す。
「大規模作戦の指揮は軍や騎士団が行う。ただし、S級冒険者には状況に応じ、自らの判断で重要目標へ対処する権限が認められる」
「それなら分かりやすい」
リリスは。
新しい冒険者証を眺めた。
「S級か」
「冒険者の最高ランク、ではありませんよ」
フィオナが。
以前に学んだ知識を思い出す。
「うん」
冒険者ランクは。
S級で終わりではない。
━━━━━━━━━━
冒険者ランク
E級
D級
C級
B級
A級
S級
SS級
SSS級
EX級
━━━━━━━━━━
S級。
国家を揺るがす災害や。
魔王級の脅威に対応できる。
国家級冒険者。
その上に。
複数国家規模の脅威へ対処するSS級。
大陸規模の伝説として扱われるSSS級。
そして。
歴史上。
初代勇者ただ一人だけが到達した。
最上位。
EX級が存在する。
「まだ上があるんだね」
「師匠なら、すぐに到達しそうです」
「ランクを上げるために冒険してるわけじゃないよ」
『だが、勝手に上がっていくだろうな』
否定しづらかった。
◇◇◇
「これで審査は終了となる」
本部長が。
書類を閉じる。
「昇格に伴う報奨金と、ベヘモス討伐作戦の特別報奨については、王国側の褒賞と合わせて後日支給される」
「後日?」
「国王陛下が、諸君への褒賞を自ら決定される」
その言葉と同時に。
会議室の扉が開いた。
王家の紋章が刺繍された。
白い礼服姿の使者が入室する。
「S級パーティー《黒月》の皆様へ、国王陛下より正式な召喚状をお持ちいたしました」
使者が。
封蝋された書状を差し出す。
━━━━━━━━━━
王国正式召喚状
宛先
S級パーティー《黒月》
目的
《陸皇亀》討伐功績に関する報告および褒賞
日時
明日午前十時
場所
グランゼル王国王城
《白耀謁見の間》
出席者
・ノクス
・フィオナ・ルーヴェル
・シグレ・ヤルク
・リゼット・ヴァルカン
・クロ
服装
正礼装
武器携帯
儀礼規定内で許可
━━━━━━━━━━
「正礼装」
リリスが呟く。
「持ってたかな」
「屋敷の衣装工房で用意できます」
フィオナが答える。
「一日で?」
「《月織衣装工房》なら問題ありません」
「師匠の礼装、作ってみたい!」
リゼットが。
身を乗り出す。
「リゼットは鍛冶師ですよね?」
「礼装に装甲を付ける!」
「謁見用です」
「薄い魔導装甲なら、見た目では分からないよ!」
「付けなくていい」
シグレが。
即座に却下した。
使者は。
そのやり取りを聞きながら。
僅かに口元を緩める。
「国王陛下は、皆様とお会いできることを楽しみにしておられます」
「分かりました」
リリスが答える。
「明日、王城へ伺います」
◇◇◇
審査室を出る。
廊下の先では。
カイルたちが待っていた。
「S級昇格、おめでとうございます!」
「ありがとう」
「僕たちも、今回の功績でD級相当の活動許可をいただけることになりました」
「よかったね」
「はい!」
カイルは。
腰の《白耀聖剣》へ手を添える。
「でも、僕たちはまだ弱いです。昨日も、守るだけで精一杯でした」
「守れたなら十分だよ」
「十分……ですか?」
「仲間を守って、負傷者を助けて、生きて帰った。それ以上に大切なことはないと思う」
ガルドが。
少し離れた場所で腕を組む。
「ノクス殿の言う通りだ」
「ガルドさん」
「災害級を倒した者だけが英雄になるわけではない。誰かを一人救った者も、同じ戦場では立派な功労者だ」
カイルは。
少し考え。
強く頷いた。
「はい」
「次は、もっと上手く戦えるようになります」
「装備を壊さない範囲でね」
「気をつけます!」
◇◇◇
屋敷へ戻る馬車の中。
リゼットは。
新しい冒険者証を何度も眺めていた。
「B級になった」
「嬉しい?」
「うん。高いランクが欲しかったわけじゃないけど、私の技術を認めてもらえたのが嬉しい」
「幻想機兵団からも認められていた」
シグレが言う。
その手には。
A級冒険者証がある。
「シグレもA級ですね」
フィオナが微笑む。
「前からB級だったから。リゼットほど大きくは上がってない」
「それでも、嬉しいでしょ?」
「少し」
同じ返事だった。
フィオナも。
B級冒険者証を大切そうに持っている。
「フィオナも嬉しそう」
「はい」
少し照れたように笑う。
「師匠の弟子として、恥ずかしくない結果を残せましたから」
「フィオナは、もう十分強いよ」
「それでも、もっと強くなりたいです」
リリスの隣。
クロが。
窓の外を眺めている。
『次は国王との謁見か』
「そうだね」
『ベヘモスについて詳しく聞かれるだろう』
リリスの動きが。
ほんの一瞬だけ止まった。
「戦った時に見たことなら答えられるよ」
『極大魔法についてもな』
「説明できる範囲で説明する」
「全部は教えないのですか?」
「危険な魔法だから」
それは。
正しい。
《終焉黒星》の表層術式も。
深層の異界転送も。
普通の術者が真似すれば。
大惨事になる。
「師匠なら大丈夫です」
「うん」
誰にも知られていない。
小さな神獣。
ベモ。
胸の奥へ。
盟約を通じた感覚が届く。
━━━━━━━━━━
《神獣盟約》
契約神獣
生命状態:良好
精神状態:非常に満足
現在の行動
甘露南瓜を摂食中
残存南瓜
16個
↓
15個
↓
14個
━━━━━━━━━━
「食べるの早い」
「何がですか?」
「何でもない」
三度目の返答に。
フィオナが。
少しだけ首を傾げる。
クロも。
リリスを見上げた。
『最近、何でもないことが多いな』
「気のせいだよ」
秘密は。
まだ守られている。
少なくとも。
今は。
明日の謁見を無事に終えたら。
またベモへ会いに行こう。
今度は。
甘露南瓜を百個くらい持って。
リリスは。
黒い仮面の下で。
誰にも見えないように微笑んだ。




