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第八十八話 星月神狐装備



 翌朝。


 屋敷の地下工房には。


 甘い果実の香りが満ちていた。


「これで足りるかな」


 リリスが作業台へ並べたのは。


 《星蜜葡萄》。


 《月雫霊水》。


 霊鶏の新鮮な卵。


 月属性の魔力を薄く纏わせた果実菓子。


 そして。


 小さな歯車や星が回転する、青白い魔導玩具だった。


「食べ物より、玩具の方が多くない?」


 フィオナが尋ねる。


「光る小物が好きみたいだから」


「全部、昨日の夜に作ったの?」


「リゼットと一緒に」


「休みましたか?」


「休んだよ」


 リリスとリゼットが答える。


 フィオナの視線が。


 リゼットの《星炉魔神工匠装》へ向けられた。


━━━━━━━━━━


昨夜の作業記録


作業終了:午後九時四十八分


就寝:午後十一時五分


睡眠時間:七時間十二分


健康状態:良好


━━━━━━━━━━


「本当に休んでいますね」


「装備が記録してるから、誤魔化せないんだよ」


 リゼットが少しだけ不満そうに言う。


『よい機能だ』


「クロも付ける?」


『断る』


「即答……」


 シグレは。


 完成した交換品を一つ手に取った。


 透明な球体の中を。


 小さな銀色の月が回っている。


「これを渡して、素材と交換するのか」


「うん。嫌がったら、無理には取らない」


「連れて帰るのも禁止ですよ」


 フィオナが念を押す。


「分かってる」


『今、少し残念そうな顔をしたな』


「してないよ」


◇◇◇


 朝食後。


 《黒月》は《異界訓練領域》へ移動した。


 今回の環境は。


 穏やかな夜の森。


 頭上には。


 大きな銀色の月。


 足元には。


 月光を反射する短い草。


 白い花。


 淡く光る小川。


 風が吹くたび。


 木々の葉から星のような光が零れ落ちる。


━━━━━━━━━━


《異界訓練領域》


召喚交流設定を起動。


環境


《星月霊森》


安全機構


・外界完全隔離


・召喚存在保護


・参加者生命保護


・敵対行動自動停止


・緊急強制帰還


・領域外脱出禁止


・契約強制禁止


・素材強制採取禁止


固有変身《魔神化》


《魔神化共同封印》を維持。


━━━━━━━━━━


「最後の項目は毎回出るの?」


『必要なうちは出す』


「解除するつもりはないよ」


「制御方法が完成するまでは、禁止です」


 フィオナが言う。


「今日は霊狐との交流だけ」


「なら問題ありません」


 召喚審査へ。


 クロ。


 フィオナ。


 シグレ。


 リゼットが順番に承認を与える。


━━━━━━━━━━


召喚対象


《星月霊狐》


完全危険情報:確認済み


世界破壊能力:なし


精神支配能力:なし


神格汚染:なし


強制契約能力:なし


承認者


・クロ


・フィオナ


・シグレ


・リゼット


召喚を許可します。


━━━━━━━━━━


「《安全召喚》《異界生命招来》」


 リリスの前へ。


 銀色の召喚陣が広がる。


 中心には三日月。


 その周囲には。


 小さな狐の足跡を思わせる紋様が並んでいた。


 光が強くなる。


 木々の間から。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 淡い影が姿を現した。


「可愛い……」


 フィオナの狐耳が。


 真っ直ぐ立つ。


 現れたのは。


 全部で七匹。


 最も大きな個体でも。


 クロより一回り小さい。


 白銀色の毛並み。


 耳の先と四本の脚は、夜空のような深い藍色。


 額には。


 三日月型の淡い紋様。


 大きな尾の中には。


 細かな星の光が瞬いている。


━━━━━━━━━━


《星月霊狐》


分類


上位霊獣


危険度:A


個体数:7


敵意:なし


警戒度:中


興味対象


・フィオナ


・交換品


・クロ


━━━━━━━━━━


「私?」


 七匹の視線が。


 フィオナへ集まっていた。


 フィオナは。


 その場へ静かに膝をつく。


 目線を低くし。


 両手を見える位置へ置いた。


「初めまして」


 最も大きな一匹が。


 慎重に近づいてくる。


 鼻先を動かし。


 フィオナの匂いを確かめる。


 そして。


 大きな狐耳。


 長い髪。


 背後の巨大な狐尾を順番に見た。


「同じ狐だと思っているのか?」


 シグレが小声で尋ねる。


『少なくとも、近しい存在とは感じているようだ』


 星月霊狐は。


 フィオナの周囲を一周した。


 その後。


 巨大な狐尾へ顔を埋める。


「えっ」


 もう一匹。


 さらに一匹。


 小さな星月霊狐たちまで集まり。


 フィオナの大きな尾へ潜り込み始めた。


「人気だね」


「師匠、見ていないで助けてください」


「嫌がってる?」


「嫌ではありませんが……少しくすぐったいです」


 フィオナの尾の中から。


 白銀色の顔が幾つも覗く。


 リゼットが口元を押さえた。


「持って帰りたい」


「禁止」


 今度はリリスが即座に止めた。


「私より先に言った……」


『双方とも考えていたのだろう』


◇◇◇


 警戒が解けると。


 リリスは交換品を並べた。


 月属性を纏った星蜜葡萄。


 清浄な魔力水。


 果実菓子。


 霊鶏の卵。


 そして。


 光りながら回転する魔導玩具。


 星月霊狐たちは。


 最初こそ食べ物へ集まった。


 だが。


 すぐに魔導玩具へ気づく。


 小さな月を追いかけ。


 回転する歯車へ前脚を伸ばし。


 青い光を放つ球体を転がし始めた。


「食べ物より玩具の方が人気だ」


 シグレが言う。


「作ってよかった!」


 リゼットが嬉しそうに笑う。


 一匹が。


 歯車型の玩具を口へ咥え。


 森の奥へ運ぼうとする。


 だが。


 領域の端へ行く前に足を止め。


 リリスたちを振り返った。


「持って帰っていいよ」


 リリスが言うと。


 狐は尾を大きく振った。


 その直後。


 最も大きな星月霊狐が。


 フィオナの前へ座る。


 口元から。


 銀色に輝く毛の束を幾つも落とした。


━━━━━━━━━━


《星月霊狐》から交換品が提示されました。


提供物


・自然脱落した霊毛


・自然に剥離した爪殻


・月露から生成された涙晶


・巣周辺で採取された霊森素材


交換意思:あり


強制性:なし


━━━━━━━━━━


「もらっていいのですか?」


 フィオナが尋ねる。


 星月霊狐は。


 短く鳴き。


 鼻先で交換品を押した。


『構わないと言っている』


「ありがとうございます」


 フィオナは。


 深く頭を下げた。


 素材を受け取ると。


 新たな表示が現れる。


━━━━━━━━━━


新規素材を確認しました。


157 《星月霊狐毛》


158 《月光狐爪殻》


159 《星雫狐涙晶》


160 《星狐尾綿》


161 《月映樹皮》


162 《星蜜果核》


163 《月露苔》


164 《星環花蜜》


165 《霊月銀砂》


166 《狐火晶》


累計確認素材数


156



166


取得方法


・友好交換


・自然脱落物


・霊森余剰素材


討伐:なし


生体損傷:なし


━━━━━━━━━━


「十種類増えた」


『交換の成立を確認してから収納しろ』


「分かってる」


 リリスは。


 星月霊狐が示した素材だけを。


 丁寧にインベントリへ収めた。


 必要だった《星月霊狐毛》は。


 三十二束。


 代替素材として必要な量を上回っている。


「十分集まりました」


 フィオナが安堵したように言う。


「装備を作れるね」


 その時。


 最初に近づいてきた星月霊狐が。


 フィオナの額へ鼻先を触れた。


 淡い銀色の光。


 フィオナの大きな狐耳と尾が。


 月光を受けたように輝く。


━━━━━━━━━━


《星月霊狐の友誼》


対象


フィオナ・ルーヴェル


効果


・月属性親和上昇


・霊狐種との意思疎通補助


・夜間感知能力上昇


・月光下での魔力回復補助


契約ではありません。


支配関係は発生しません。


━━━━━━━━━━


「友達になったみたい」


 リリスが言う。


「はい」


 フィオナは。


 嬉しそうに微笑んだ。


 帰還の時間になると。


 尾の中で休んでいた小さな霊狐たちが。


 一匹ずつ外へ出ていく。


 最後の一匹だけは。


 名残惜しそうにフィオナの尾を前脚で掴んでいた。


「また会いに来ます」


 フィオナが優しく撫でる。


 星月霊狐は。


 小さく鳴いて離れた。


「連れて帰らないんだね」


 リゼットが言う。


「この森が、あの子たちの家ですから」


『正しい』


 七匹の霊狐たちは。


 光る玩具を咥え。


 星月の森へ帰っていった。


◇◇◇


 屋敷の地下工房へ戻ると。


 製作が始まった。


 最初に行うのは。


 《災厄魔王鋼ディザスタニウム》の再構築。


 リリスは。


 漆黒の金属を神炉へ入れた。


「《神格浄化統合》《素材特性分離》《神性素材融合》」


 黒紫色の魔王威圧。


 災厄侵食。


 敵性支配。


 フィオナの装備に必要ない性質を、一つずつ分離する。


 残すのは。


 強度。


 靱性。


 自己修復。


 神格耐性。


 魔力伝導。


 そこへ。


 《月神晶》。


 《星月霊狐毛》。


 《星雫狐涙晶》。


 《七耀魔晶》。


 フィオナ自身の月属性魔力を加える。


 漆黒だった金属が。


 次第に白銀色へ変わっていった。


 表面には。


 淡い金色の月と。


 蒼銀色の星が浮かんでいる。


━━━━━━━━━━


新規神格金属の錬成に成功しました。


167 《星月神鋼》


基礎素材


災厄魔王鋼ディザスタニウム


性質


・神格級強度


・超魔力伝導


・月属性親和


・星属性親和


・生命魔力安定


・自己修復


・神性および魔性耐性


累計確認素材数


166



167


━━━━━━━━━━


「《災厄魔王鋼》の強さを残したまま、雰囲気が全然違う」


 リゼットが。


 白銀の金属板を持ち上げる。


「優しい魔力ですね」


 フィオナが触れると。


 《星月神鋼》の表面に。


 小さな狐の紋様が浮かび上がった。


「もうフィオナへ反応してる」


「では、核を作ろう」


◇◇◇


 神炉の前。


 フィオナが両手を重ねる。


 右手には。


 《月狐魔剣》。


 左手には。


 透明な神格結晶。


「七属性を、一つずつ流して」


「はい」


 火。


 赤い光。


 水。


 青い光。


 風。


 緑の光。


 土。


 黄褐色の光。


 雷。


 紫電。


 氷。


 白銀の光。


 最後に。


 神聖な白金色の光。


 七属性が。


 神格結晶の周囲を星のように巡る。


「次は月属性」


 柔らかな銀色の光が。


 結晶の中心へ入る。


「治癒魔力」


 淡い金色の光。


 そして。


「最後に、フィオナが装備で何をしたいのか」


 フィオナは。


 目を閉じた。


 師匠と出会った日。


 剣を受け取った日。


 若返り。


 新しい人生を与えられた日。


 迷宮で。


 仲間と肩を並べて戦った日々。


 負傷者を治療し。


 シグレを迎え。


 リゼットが加わり。


 今では。


 五人で食卓を囲んでいる。


「私は」


 フィオナが。


 静かに口を開く。


「師匠の弟子でありたいです」


 銀色の光が強くなる。


「皆と並んで戦える仲間でありたい」


 七つの属性が。


 一つの環を作る。


「傷ついた人を治したい」


 金色の光が。


 結晶の内部へ広がる。


「大切な人たちを守りたい」


 フィオナは。


 目を開いた。


「でも、守るために自分を捨てるのではなく」


 リリスを見つめる。


「皆と一緒に、生きて帰りたいです」


━━━━━━━━━━


所有者理念を確認。


《研鑽》


《治癒》


《守護》


《共生》


《生還》


過剰自己犠牲:否定


神格中核を形成します。


━━━━━━━━━━


 透明な結晶が。


 三日月と七つの星を宿す宝玉へ変化する。


━━━━━━━━━━


《星月神狐核》


品質:神格級


所有者


フィオナ・ルーヴェル


構成


・七属性魔力


・月属性魔力


・治癒魔力


・星月霊狐の友誼


・仲間を守る意思


・共に生還する意思


適合率:100%


━━━━━━━━━━


「できました……」


「うん」


 リリスは。


 《星月神狐核》を受け取る。


「ここから、三つの装備を繋ぐ」


◇◇◇


 製作は。


 三日間にわたって行われた。


 《月狐魔剣》の記憶抽出。


 これまでの戦闘。


 魔法剣技。


 フィオナの成長。


 そのすべてを残したまま。


 刀身へ《星月神鋼》を融合する。


 リゼットが内部回路を刻み。


 シグレが刀身の均衡を確認する。


 リリスが神格構造を整え。


 フィオナ本人が。


 七属性を一本ずつ定着させた。


 新しい神杖には。


 《聖月樹の霊枝》。


 《星月神鋼》。


 《七耀魔晶》。


 《星雫狐涙晶》。


 《蒼命蓮》。


 《浄水貝珠》。


 さらに。


 フィオナの錬金術と治癒魔法の記録を組み込む。


 防具には。


 《月狐軽装》と《星纏いの外套》の記録を保存。


 《天聖革》。


 《聖空蚕糸》。


 《星月霊狐毛》。


 《星狐尾綿》。


 薄く加工した《星月神鋼》。


 フィオナの耳と尾を妨げないよう。


 何度も形状を確認しながら縫製する。


 《天聖錬成手袋・月狐型》は失われない。


 独立した神器として残し。


 新しい装備群へ完全連結する。


━━━━━━━━━━


《天聖錬成手袋・月狐型》


《星月神狐循環》への接続完了。


独立機能:維持


所有者制限:維持


錬金術補助:強化


多属性魔力伝導:強化


━━━━━━━━━━


「これで、手袋も一緒に成長する」


 リリスが言う。


「大切にしていた装備が、全部残るのですね」


「うん。消す必要はないから」


◇◇◇


 三日目の夕方。


 神炉の前へ。


 三つの装備が並べられた。


━━━━━━━━━━


最終統合工程。


製作対象


《星月神狐魔剣》


《星月神杖》


《星月神狐装》


中核


《星月神狐核》


統合機構


《星月神狐循環》


安全確認


・人格干渉:なし


・精神支配:なし


・生命力強制消費:なし


・過剰魔力供給:自動制限


・自己犠牲型機能:なし


・所有者判断支援:あり


・所有者判断強制:なし


━━━━━━━━━━


「始めるよ」


「はい」


「《神格装備創造》」


 神炉が。


 白銀色の炎を上げる。


「《神性素材融合》《完全合成》《装備進化誘導》《超越技能統合制御》」


 月。


 星。


 七色の光。


 白金色の治癒光。


 それらが。


 三つの装備を包み込む。


━━━━━━━━━━


最終統合進行率


11%



32%



57%



81%



99%


所有者理念を再確認。


《皆と共に生還する》


承認。


統合完了。


━━━━━━━━━━


 工房の天井へ。


 銀色の月が浮かんだ。


 その周囲を。


 七つの星が巡る。


 星々の光が降り注ぎ。


 三つの神格装備が。


 静かに姿を現した。


◇◇◇


 一本目。


 白銀色の魔剣。


 刀身には。


 月光のような淡い輝き。


 鍔には。


 三日月と狐の紋様。


 柄には。


 七属性を示す小さな宝石が並んでいる。


━━━━━━━━━━


星月神狐魔剣ルナ・ヴァルペス・セレスティア


品質


神格級成長武装


所有者


フィオナ・ルーヴェル


基礎核


月狐魔剣ルナ・ヴァルペス


主要能力


《星月多属性循環炉》


《七耀魔法剣》


《星月狐神気》


《多属性複合魔刃》


《敵性魔力反射斬》


《結界切断》


《結界修復》


《成長記録継承》


━━━━━━━━━━


 二本目。


 白銀色の神杖。


 上部には。


 三日月を抱く七つの星。


 中央には。


 淡い金色の神晶。


 杖身へ。


 星月霊狐の尾を思わせる柔らかな紋様が刻まれている。


━━━━━━━━━━


星月神杖ルナ・セレスティア


品質


神格級成長武装


所有者


フィオナ・ルーヴェル


主要能力


《星月魔力炉》


《七属性大魔法補助》


《神聖回復増幅》


《星月広域結界》


《完全浄化補助》


《味方魔力供給》


《敵性術式解析》


《敵性魔力分解》


《神薬簡易調合》


《錬金術補助》


《星月双装転換》


━━━━━━━━━━


 三つ目。


 月白色と蒼銀色の軽装。


 柔らかな神装布。


 胸。


 肩。


 腕。


 脚へ配置された、白銀と神金の軽量装甲。


 背中には。


 夜空を映す《星月外套》。


 大きな狐尾は。


 装備に妨げられることなく、自由に動かせる。


 狐耳の間には。


 三日月型の細い額飾り。


━━━━━━━━━━


星月神狐装ルナ・フォックスレガリア


品質


神格級成長防具


所有者


フィオナ・ルーヴェル


主要能力


《星月神狐循環》


《神格級物理防御》


《神格級魔法防御》


《七属性完全耐性》


《精神魂魄防護》


《状態異常防護》


《月光魔力回復》


《星月神狐結界》


《仲間生命感知》


《広域治療補助》


《高速星歩》


《自動修復》


《自動清浄》


《日常着形態》


安全機構


《相互守護制御》


━━━━━━━━━━


「フィオナ」


 リリスが。


 三つの装備を差し出す。


「受け取って」


 フィオナは。


 最初に魔剣へ触れた。


 《月狐魔剣》と同じ。


 使い慣れた重さ。


 握り心地。


 魔力の流れ。


「私の剣です」


「うん」


「ずっと使ってきた剣のままです」


 次に。


 神杖を受け取る。


 月と七つの星が輝き。


 魔剣と神杖の間へ。


 一本の銀色の光が繋がった。


 最後に。


 《星月神狐装》が光へ変わり。


 フィオナの身体を包み込む。


 月白色の軽装。


 星空の外套。


 大きな狐耳と尾が。


 淡い月光を纏う。


━━━━━━━━━━


所有者登録完了。


フィオナ・ルーヴェル


専用武器


《星月神狐魔剣》


《星月神杖》


専用防具


《星月神狐装》


所有者適合率:100%


装備称号を獲得。


《星月の神狐姫》


━━━━━━━━━━


「神狐姫……」


 フィオナの頬が。


 僅かに赤くなる。


「似合っています」


 リゼットが言う。


「月の神官のようだな」


 シグレも頷く。


『以前よりも、魔力が安定している』


 クロが目を細める。


「師匠」


 フィオナが。


 リリスへ向き直る。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


「大切に使います」


「壊れても直せるよ」


「そういう意味ではありません」


 リゼットと同じ返事だった。


◇◇◇


 性能試験は。


 《異界訓練領域》で行われた。


「《星月双装転換》」


 魔剣が。


 銀色の光へ変わる。


 〇・〇〇一秒にも満たない時間で。


 フィオナの右手に神杖が現れた。


「《星月神狐結界》」


 七つの星と月を描く巨大な結界が。


 《黒月》全員を包み込む。


━━━━━━━━━━


結界防御力:神格級


保護対象


・リリス


・フィオナ


・シグレ


・リゼット


・クロ


敵味方識別:正常


生命状態共有:正常


━━━━━━━━━━


「全員の状態が分かります」


 フィオナの視界には。


 仲間たちの生命と魔力が。


 小さな星として映っていた。


「師匠の魔力は……表示範囲から大きくはみ出していますね」


「細かく分からない?」


「危険な変化は分かります」


 その直後。


 フィオナの装備へ表示が出た。


━━━━━━━━━━


対象


リリス・ルクスヴィア


確認事項


固有変身《魔神化》


《魔神化共同封印》中。


危険な神格変化:なし


━━━━━━━━━━


「そこまで確認するの?」


「安心しました」


『よい機能だ』


「みんな、魔神化を気にしすぎだよ」


「制御不能ですから」


「分かってる」


 続いて。


 治療魔法。


 七属性魔法剣。


 結界修復。


 術式解析。


 錬金術補助。


 すべての機能が。


 正常に作動した。


 最後に。


 フィオナが魔剣を構える。


「《七耀循環》」


 赤。


 青。


 緑。


 黄。


 紫。


 白銀。


 白金。


 七つの光が。


 刀身を順番に巡る。


「《星月七耀魔刃》」


 振り抜かれた一撃が。


 七属性の光となって放たれる。


 だが。


 試験標的を破壊する直前。


 フィオナは出力を止めた。


 光は。


 月の粒子となって消えていく。


━━━━━━━━━━


出力制御:成功


周辺損傷:なし


所有者負荷:0.3%


装備適合率:100%


全試験項目:正常


━━━━━━━━━━


「止められた」


「最初から最大威力で壊す人とは違うね」


 リゼットが言う。


「誰のこと?」


『お前たち二人だ』


「今回はリゼットだけだよ」


「私はちゃんと止めた!」


 穏やかな笑い声が。


 月夜の訓練領域へ広がった。


◇◇◇


 夜。


 屋敷の食堂で。


 フィオナの装備完成を祝う食事が開かれた。


 フィオナは。


 《星月神狐装》を日常着形態へ変えている。


 見た目は。


 月白色の上衣と淡い蒼色のスカート。


 大きな狐尾の先には。


 小さな星の光が瞬いていた。


「次はシグレだね」


 リリスが言う。


 シグレの手が。


 《白雨星刀》の柄へ触れる。


「私の刀も、記憶を残せるのだな」


「全部残すよ」


「名は?」


「《天月神刀アマツ・ミカヅキ》」


 リゼットが。


 すぐに設計板を取り出す。


「防具は《天月剣神装アマツ・ブレイドレガリア》!」


「もう決めていたのか」


「前から聞いてたから!」


 シグレは。


 《白雨星刀》を静かに見下ろした。


 その刀には。


 故郷から持ってきた技。


 傷。


 借り。


 新しい仲間との戦い。


 多くの記憶が刻まれている。


「今度は、私も自分で打ちたい」


「もちろん」


 リリスが答える。


「刀だから、シグレの技が必要だよ」


「私も回路を刻む!」


 リゼットが言う。


「素材は遠慮しないで使うから」


『先に本人の希望を聞け』


「分かってる」


 星月の装備を得たフィオナ。


 星炉の装備を得たリゼット。


 二人の新たな神器が。


 食堂の灯りの下で静かに輝く。


 そして次は。


 白雨の刀剣士が。


 自らの刀と共に。


 新たな月へ至る番だった。

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