第八十七話 星月神狐装の設計
翌朝。
リリスが食堂へ入ると。
昨日までとは少し違う光景が広がっていた。
「リゼット。それ、食事中も着けるの?」
「普段着形態だから大丈夫!」
リゼットは。
完成したばかりの《星炉魔神工匠装》を身に纏っていた。
見た目は。
いつもの青白い作業服とほとんど変わらない。
だが。
襟元や袖口には。
細かな星炉回路が淡く輝き。
腰には小型化された《星炉魔神槌》が収まっている。
「寝る時は脱いだ?」
「脱いだよ」
「何時に寝た?」
「……十二時」
「本当?」
「工匠装に記録されてるから確認していい!」
リリスが装備情報を開く。
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《星炉魔神工匠装》
昨夜の記録
作業終了:午後十時十二分
入浴:午後十時三十八分
就寝:午後十一時二分
起床:午前六時三十一分
睡眠時間:七時間二十九分
健康状態:良好
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「ちゃんと寝てる」
「でしょ?」
『装備に監視されなければ休めない時点で、威張ることではない』
クロが呆れたように言う。
「監視じゃなくて休息管理!」
「呼び方を変えても同じではありませんか?」
フィオナが笑う。
その狐耳が。
小さく左右へ揺れていた。
今日の朝食は。
焼きたての丸パン。
白身魚と野菜の香草焼き。
ふわりと焼かれた卵。
芋と茸の温かいスープ。
果実を混ぜた乳酪。
そして。
マルタが新しく試作した、米粉入りの薄焼きパン。
「お米はまだ収穫できてないよね?」
「備蓄していた米粉を、少量使用したそうです」
フィオナが答える。
「もちもちしてる」
「天穀米が収穫できれば、もっと作れるようになるでしょう」
「米粉パン。団子。煎餅。麺も作れる」
『朝から食べ物の未来を広げるな』
「大事だから」
リリスは薄焼きパンを一枚食べ。
満足そうに頷いた。
その後。
何気ない様子でフィオナを見る。
「今日から、フィオナの装備を作ろう」
フィオナの手が止まった。
「本当に、すぐ始めるのですか?」
「昨日決めたから」
「リゼットの装備が完成したばかりですよ」
「神炉も工房も問題ないよ」
「私も手伝う!」
リゼットが勢いよく手を上げる。
「設計図、もう途中まで考えてるから!」
「いつの間に?」
「昨日の夕食後!」
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警告。
昨夜の自由作業時間内に。
新規装備設計を二十七件作成しています。
過集中傾向を確認。
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「二十七件?」
フィオナが目を丸くする。
「形の違いとか、回路の置き方とか、細かい案も含めて!」
『休んでいるのか働いているのか、分からんな』
「設計は趣味だから!」
「でも、一人で決めるのは禁止」
リリスが言う。
「フィオナが着る装備だから、本人の希望を聞いてから」
「分かってる。だから今日は設計会議!」
リゼットは。
既に食事を終えている。
今すぐにでも地下工房へ向かいそうな勢いだった。
「まず朝食を終えよう」
「待てる!」
『本当か』
「たぶん!」
◇◇◇
朝食後。
《黒月》は地下工房へ集まった。
中央作業台の上には。
フィオナが現在使用している装備が並べられている。
《月狐魔剣》。
《月狐軽装》。
《星纏いの外套》。
そして。
神格級の《天聖錬成手袋・月狐型》。
「最初に、全部の状態を確認する」
リリスが《万象解析》を発動した。
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《月狐魔剣》
品質:神話級成長武装
所有者
フィオナ・ルーヴェル
所有者同調率:100%
成長状態:良好
蓄積記録
・魔法剣戦闘
・多属性循環
・月狐魔刃
・月狐雷刃
・月狐氷刃
・月狐爆雷刃
・迷宮救助
・神代竜王戦
・異界邪神戦
・星温室管理
進化条件達成率:93%
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「九十三パーセント……」
フィオナが剣へ触れる。
「あと少しで、自然進化できたのですね」
「うん。でも、今回は無理やり上げるんじゃなくて、装備全体との進化にする」
「剣を別の武器へ作り直すのですか?」
「剣は剣のまま残すよ」
リリスは。
《月狐魔剣》の記録を拡大する。
「これはフィオナが最初から使ってきた武器だから」
魔法剣士として。
何度も振るった剣。
リリスから贈られ。
修練を重ね。
複数の属性を受け止めてきた成長武装。
「新しい杖は別に作る」
「剣と杖の二つを持つのですか?」
「戦い方で使い分ける」
リゼットが。
空中へ二つの装備模型を投影した。
「近距離では魔剣。遠距離魔法、回復、結界、錬金では杖!」
「持ち替える時間は?」
シグレが尋ねる。
「一瞬で切り替える!」
リゼットが設計画面を操作する。
二つの武器が。
それぞれ光へ変わり。
交互にフィオナの手元へ現れた。
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仮設機構
《星月双装転換》
登録武装
・魔剣
・神杖
機能
・思考操作による瞬時転換
・使用していない武装の亜空間待機
・転換中の魔力維持
・術式詠唱状態の継承
・武装同士の魔力共有
想定転換時間
0.001秒未満。
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「剣で防いだ直後に、杖で結界を張れる」
「杖で魔法を放った後、すぐ剣へ戻せる!」
リリスとリゼットが。
交互に説明する。
『また二人で盛り上がっているな』
「師匠」
フィオナが静かに呼ぶ。
「うん?」
「私の希望も聞いてくださるのですよね?」
「もちろん」
二人が同時に口を閉じる。
フィオナは。
作業台の前へ立った。
「私は、師匠ほど強くありません」
「これから強くなるよ」
「それでもです」
琥珀色の瞳が。
並べられた装備へ向けられる。
「敵を倒す力だけでなく、皆を守れる装備が欲しいです」
フィオナは。
魔法剣士。
剣と魔法を組み合わせ。
近距離でも遠距離でも戦える。
だが。
それだけではない。
錬金術を学び。
治療薬を作り。
迷宮では負傷者を支え。
仲間の魔力や状態を何度も確認してきた。
「私が剣を振ることで、敵を倒せる」
《月狐魔剣》の柄を握る。
「杖を使うことで、誰かを治せる」
まだ存在していない神杖へ。
視線を向ける。
「その両方ができる装備にしたいです」
「うん」
「それから」
フィオナが。
リリスを見る。
「師匠が、無茶をした時に止められる力も」
「それは必要?」
「必要です」
『最優先でもよい』
クロが即答する。
「私も賛成だ」
シグレまで頷いた。
「私も!」
リゼットも手を上げる。
「全員?」
「師匠は自分に状態異常が通らず、体力も魔力も多すぎます」
フィオナが続ける。
「自分では問題ないと思っていても、周囲から見れば危険な時があります」
「魔神化のこと?」
「それだけではありません」
「ほかにも?」
三人と一匹が。
無言でリリスを見る。
「……安全機能を入れよう」
◇◇◇
まず。
《月狐魔剣》の進化方針を決める。
「現在の得意属性は?」
リゼットが尋ねる。
「火、水、風、土、雷、氷、光です」
「闇は?」
「扱えますが、まだ得意とは言えません」
「無理に全属性へしない方がいい」
リリスが言う。
「《多属性循環》の強みは、必要な属性を切り替えて繋ぐことだから」
「すべてを最大出力にすると、循環が複雑になりすぎる」
リゼットが頷く。
「じゃあ、今ある七属性を中心にする?」
「基礎は月属性にしたいです」
フィオナが答えた。
「月?」
「《月狐魔剣》ですから」
柔らかな月光。
狐人族としての力。
魔法剣士として歩み始めた時から。
フィオナの武器を象徴してきた属性だった。
「月を中心にして、七属性を巡らせる」
「《星月多属性循環炉》」
リリスが新しい回路を描く。
中央に月。
その周囲を七つの星が巡る。
火。
水。
風。
土。
雷。
氷。
光。
属性同士は直接ぶつからず。
月の魔力を経由して。
次の属性へ穏やかに切り替わる。
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魔剣進化案
《星月神狐魔剣》
基礎核
《月狐魔剣》
予定階位
神格級成長武装
主要機能
・星月多属性循環炉
・七属性魔法剣
・月狐神気
・属性複合魔刃
・魔法反射斬撃
・結界切断および修復
・所有者魔力自動調整
・成長記録継承
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「名前が長いね」
リゼットが言う。
「《ルナ・ヴァルペス》は残したいから」
「正式名称は長くても、普段は《月狐魔剣》でよいのでは?」
フィオナが微笑む。
「それでいい?」
「はい。今までどおり呼べますから」
◇◇◇
次に。
新しく作る杖。
リリスは。
一本の細長い杖を空中へ投影した。
全長は。
フィオナの肩を少し超える程度。
白銀色の杖身。
上部には。
三日月と星を組み合わせた輪。
中央へ。
淡い金色の神晶。
輪の左右には。
狐の耳や尾を思わせる装飾が施されている。
「杖の用途は、攻撃魔法だけじゃない」
リリスが説明する。
「回復、結界、浄化、支援、錬金。それから広範囲の魔力制御」
「フィオナの魔法剣の補助も必要だ」
シグレが言う。
「剣へ属性を送れるようにする?」
「杖で術式を構築して、剣で放つ」
フィオナが。
立体映像の杖と剣を見比べる。
「逆もできますか?」
「逆?」
「剣で受け止めた敵の魔力を、杖へ送って解析するのです」
リゼットの目が輝いた。
「できる!」
「相手の魔法を斬って、魔力情報だけ杖へ送る?」
「はい。危険な術式を理解できれば、次の攻撃を防ぎやすくなります」
「攻撃を受けることを前提にしすぎないでね」
リリスが言う。
「師匠には言われたくありません」
「……確かに」
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専用神杖設計案
《星月神杖》
予定階位
神格級成長武装
主要機能
・星月魔力炉
・七属性大魔法補助
・神聖回復増幅
・広域結界展開
・状態異常浄化
・魔力供給
・術式解析
・敵性魔力分解
・魔剣との双装転換
・錬金術補助
・魔法薬品質補正
・所有者成長記録
━━━━━━━━━━
「錬金術補助も入ってる」
フィオナが表示を見る。
「フィオナの二つ目の職業だから」
「戦闘だけの装備にしたくないのです」
「うん」
リリスは。
杖の内部へ。
小さな錬金術式を追加した。
「簡易薬剤調合。毒物解析。素材の一時保存。緊急用の薬液生成」
「薬草がない場所でも?」
「フィオナが事前に登録した薬なら、杖へ保存した素材から作れる」
『便利だが、無限ではないのだろうな』
「使った素材は減るよ」
「師匠のインベントリとは違うのですね」
「同じにしたら、フィオナが管理できなくなるから」
装備の強さは。
使える能力の数だけでは決まらない。
本人が理解し。
判断し。
安全に使えることが大切だった。
◇◇◇
最後に。
防具の設計へ移る。
「今の《月狐軽装》を核にする?」
リゼットが尋ねる。
「うん。《星纏いの外套》も統合する」
「外套は残したいです」
フィオナが言う。
「形も?」
「はい。背中と尻尾を包んでくれるので、落ち着きます」
「大きな尻尾が動きやすい構造にする」
リゼットが防具模型を回転させる。
フィオナは狐人族。
大きな狐耳。
そして。
背後には、巨大で柔らかな一本の尾。
普通の人族用防具では。
耳と尾の動きを妨げてしまう。
「耳の周りには装甲を付けすぎない」
「音が聞こえにくくなりますから」
「代わりに透明な防御膜を張る」
「尻尾にも?」
「尻尾は全体を柔らかい神装布で包める。でも、戦闘中は自由に動かせるようにする」
「尻尾で均衡を取ることもあります」
シグレが頷く。
「動きを制限すべきではないな」
立体映像の防具が。
少しずつ形を整えていく。
白銀と月白色を基調とした軽装。
胸部や肩。
前腕。
脚部には。
淡い金色と蒼銀色の軽量装甲。
腰には。
複数の布が重なる短い戦装束。
背中には。
星空のような光を宿す外套。
外套の中央は分かれ。
大きな狐尾が自由に動かせる。
帽子や兜は使わず。
狐耳の間へ。
三日月型の細い額飾りだけを置く。
「普段は目立たない形にできる?」
「日常着形態も作るよ」
「屋敷では、普通の服で過ごしたいです」
「戦闘時だけ展開する?」
「お願いします」
━━━━━━━━━━
専用防具設計案
《星月神狐装》
予定階位
神格級成長防具
外見
・白銀、月白、蒼、神金を基調とする軽装
・狐耳完全対応
・狐尾可動構造
・星月外套
・三日月額飾り
主要機能
・神格級物理防御
・神格級魔法防御
・七属性耐性
・精神および魂魄防護
・状態異常防護
・月光魔力回復
・星月結界
・味方生命感知
・広域治療補助
・魔剣および神杖連結
・高速移動補助
・自動修復
・自動清浄
・日常着形態
━━━━━━━━━━
「味方生命感知」
フィオナが項目を読む。
「全員の体調を確認できるのですか?」
「装備登録した仲間だけ」
「どこまで分かりますか?」
「体力。魔力。怪我。毒。呪い。疲労。精神負荷」
「師匠の疲労も?」
「……分かる」
「採用してください」
即答だった。
「魔力の使いすぎも?」
「分かるよ」
「生命力の低下も?」
「うん」
「危険な神格変化も?」
「たぶん」
「必ず入れてください」
『装備の中心機能が決まったようだな』
「防御じゃなくて、私の監視になってない?」
「安全確認です」
リゼットが笑う。
「私の工匠装と同じ!」
「リゼットは自分の体調を確認するためでしょ」
「フィオナはリリスの体調を確認するためだね」
シグレが僅かに口元を緩めた。
「私だけ?」
「もちろん、皆さんの状態も確認します」
フィオナは笑顔で答えた。
「ですが、師匠は特に注意が必要です」
◇◇◇
設計機能が増え。
三つの装備は。
互いに繋がり始める。
魔剣。
神杖。
神狐装。
それぞれが独立しているだけではない。
防具を中心に。
二つの武器が魔力と情報を共有する。
━━━━━━━━━━
神格装備連結機構
《星月神狐循環》
中核
《星月神狐核》
接続装備
・《星月神狐魔剣》
・《星月神杖》
・《星月神狐装》
主要機能
・武装間魔力循環
・七属性情報共有
・治療術式共有
・結界出力共有
・双装瞬間転換
・損傷分散
・自己修復連携
・仲間生命情報共有
・所有者魔力負荷調整
━━━━━━━━━━
「リゼットの《星炉循環機関》と似てる」
「基礎は同じ。でも、フィオナの装備は生命と魔力の循環を中心にする」
「私のは熱と衝撃と魔力」
「フィオナは属性、回復、結界、生命情報」
『使用者に合わせて同じ仕組みを変えるのか』
「その方が管理しやすい」
リゼットは。
自分の装備へ使った経験を。
早くも次の製作へ活かしていた。
◇◇◇
機能が決まった後。
素材選定が始まる。
リリスはインベントリを開き。
候補素材を工房中央へ並べた。
《災厄魔王鋼》。
《神魔鋼》。
《神鋼》。
《天聖革》。
《聖空蚕糸》。
《蒼天聖羽》。
《星銀》。
《月神晶》。
《聖月樹の霊枝》。
《神狐霊毛》。
《七耀魔晶》。
《星界聖水》。
《月雫霊液》。
《浄水貝珠》。
《生命樹根皮》。
《蒼命蓮》。
「《災厄魔王鋼》を、フィオナの装備にも使うのですか?」
「そのまま使わないよ」
黒紫色に輝く金属。
強大な魔王神格を宿す素材。
「《神格浄化統合》で、フィオナに合わない魔王性を取り除く」
「全部取り除くと、普通の金属にならない?」
リゼットが尋ねる。
「魔王としての支配性や威圧は消す。でも、神格への耐性と強度は残す」
「性質だけ組み替えるんだ」
「完成後は《星月神鋼》になる予定」
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素材再構築候補
《災厄魔王鋼》
↓
《星月神鋼》
除去特性
・魔王威圧
・災厄侵食
・敵性支配
・暗黒汚染
維持特性
・神格級強度
・超魔力伝導
・自己修復
・神性耐性
付与特性
・月属性親和
・星属性親和
・神聖魔力伝導
・生命魔力安定
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「リリスの素材を、私のために変えてしまってよいのですか?」
「フィオナのために使うから、持ってる意味があるよ」
「ですが、とても貴重な――」
「フィオナ」
リリスは。
珍しく少し強い声で名前を呼んだ。
「私が作りたいから作る」
「師匠……」
「フィオナが仲間だから」
それ以上の理由は。
必要なかった。
「遠慮して弱い装備にしたら、危ない時に守れない」
『その通りだ』
「使った素材は、また集めればよい」
シグレも言う。
「私の装備にも、同じように遠慮なく使うのだろう」
「うん」
「ならば、フィオナだけが遠慮する必要はない」
フィオナは。
並べられた素材を見る。
それから。
小さく息を吐いた。
「分かりました」
琥珀色の瞳へ。
迷いの代わりに。
はっきりとした決意が宿る。
「最高の装備をお願いします」
「うん」
「私も、必ず使いこなします」
◇◇◇
素材候補を確認していたリゼットが。
《神狐霊毛》の箱を持ち上げた。
「これ、量が少ない」
「今あるのは十二束」
「外套と防具の内装に使うなら、最低でも二十束欲しい」
「召喚訓練で集める?」
『安全確認を忘れるな』
「神格級は呼ばないよ」
リリスは。
《異界訓練領域》の召喚候補を開く。
━━━━━━━━━━
素材取得候補
《星月霊狐》
危険度:A
推奨人数:四名以上
性質
・温厚
・月夜に活動
・自然に抜けた霊毛を巣へ集める
・敵対しない限り攻撃性なし
取得可能素材
・《神狐霊毛》の下位互換素材
・《星月霊狐毛》
・《月光狐爪殻》
・《星雫狐涙晶》
注意
討伐不要。
交換および信頼獲得による採取を推奨。
━━━━━━━━━━
「倒さなくても素材がもらえる」
フィオナの狐耳が。
僅かに立つ。
「狐の魔物ですか?」
「霊獣に近いみたい」
「会ってみたいです」
「明日、呼ぶ?」
「その前に、召喚情報の完全確認だ」
シグレが言う。
「クロの承認も必要です」
「今回は危険度Aだね」
『それでも確認はする』
「分かってる」
邪神召喚以降。
神格級召喚に限らず。
未知の召喚存在は。
必ず詳細を確認してから呼び出すことになっている。
━━━━━━━━━━
《星月霊狐》召喚審査
完全危険情報:取得可能
世界破壊能力:なし
精神支配能力:なし
神格汚染:なし
召喚領域脱出能力:なし
敵対時強制帰還:可能
クロ承認:未確認
仲間承認:未確認
━━━━━━━━━━
『問題は少なそうだ』
「私は賛成です」
フィオナが言う。
「私も構わない」
シグレも頷く。
「素材交換なら、何を渡すか考えないと!」
リゼットは。
既に交換品の設計を始めていた。
「食べ物がいいかな」
「狐だから油揚げ?」
「それ、前の世界のイメージ?」
『まず食性を調べろ』
リリスが解析欄を開く。
━━━━━━━━━━
《星月霊狐》
好物
・月蜜果
・星雫葡萄
・霊鶏の卵
・清浄な魔力水
・柔らかな寝床
・光る小物
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「星蜜葡萄が使えるかも」
「少し種類が違う」
「月属性を付与すれば近くなるよ」
「光る小物も好きなんだ」
リゼットが。
小さな歯車型の魔導玩具を取り出した。
「これ、回すと光る」
『なぜ持っている』
「試作品!」
「それも交換品にしよう」
◇◇◇
設計会議は。
昼を過ぎても続いた。
魔剣。
神杖。
防具。
三つを別々に作りながら。
一つの装備群として完成させる。
リゼットの装備より。
構成部品も。
連結回路も多い。
━━━━━━━━━━
製作計画
第一装備
《星月神狐魔剣》
第二装備
《星月神杖》
第三装備
《星月神狐装》
統合機構
《星月神狐循環》
推定工程数
2,947
通常製作期間
百八十二日
時間圧縮併用
四日
《同時工程千重》最大使用
五時間以内
推奨製作方式
共同製作。
━━━━━━━━━━
「五時間で作れる」
「駄目」
今度は。
リゼットとフィオナが同時に止めた。
「分かってる。共同製作だよね」
「私も参加します」
フィオナが言う。
「使用者本人が回路を刻んだ方が、同調率が上がる」
リゼットも頷く。
「魔剣の記憶抽出は、私が補助するよ」
「裁断が必要なら任せろ」
シグレが言う。
『安全管理は私が行う』
クロも。
当然のように加わった。
リリスは。
全員の顔を見回した。
「じゃあ、みんなで作ろう」
━━━━━━━━━━
共同製作登録。
製作対象
・《星月神狐魔剣》
・《星月神杖》
・《星月神狐装》
主製作者
リリス・ルクスヴィア
共同製作者
・フィオナ・ルーヴェル
・リゼット・ヴァルカン
製作協力者
・シグレ・ヤルク
安全監督
・冥獄神狼クロ
製作理念
・剣と魔法の両立
・治療と守護
・仲間の生命保護
・所有者の成長尊重
・旧装備記録の完全継承
・過剰な自己犠牲機能禁止
━━━━━━━━━━
「最後の項目は何ですか?」
フィオナが尋ねる。
「フィオナが仲間を守るために、自分の生命力を全部使わないようにする機能」
「必要な場合は――」
「禁止」
リリスが即答した。
「師匠は自分のことを棚に上げています」
「私は不老不死だから」
「それでもです」
『両方に制限を付ければよい』
「クロ?」
『リリスには単独暴走防止。フィオナには過剰自己犠牲防止だ』
「採用!」
リゼットが設計画面へ追加する。
━━━━━━━━━━
安全機構追加。
《相互守護制御》
・所有者生命力の危険域消費禁止
・仲間への過剰魔力供給停止
・生命危険時の自動退避提案
・リリスの危険行動をフィオナへ通知
・フィオナの危険状態をリリスへ通知
━━━━━━━━━━
「相互監視になった」
「相互守護です」
フィオナが微笑む。
リリスは。
少しだけ不満そうに表示を見たが。
削除はしなかった。
◇◇◇
夕方。
設計図が完成した。
神炉の前へ。
《月狐魔剣》。
《月狐軽装》。
《星纏いの外套》。
そして。
新しく使う素材が並べられる。
だが。
まだ製作は始めない。
不足している《神狐霊毛》。
代替可能な《星月霊狐毛》。
そして。
フィオナ自身の魔力を。
三つの装備へ繋ぐための神格中核。
それらを揃える必要がある。
━━━━━━━━━━
《星月神狐装備》
設計完成率:100%
素材準備率:87%
不足素材
・《神狐霊毛》×8束
代替候補
・《星月霊狐毛》×24束
未作成中核
《星月神狐核》
作成条件
・フィオナ本人の七属性魔力
・月属性魔力
・治癒魔力
・仲間を守る明確な意思
━━━━━━━━━━
「私の意思が素材になるのですか?」
「装備の中心だから」
リリスは答えた。
「リゼットの《星炉魔神装備》も、最後は本人の理念を登録したでしょ」
「フィオナの装備は、それを中核として結晶化する」
リゼットが続ける。
「だから、私たちだけでは作れない」
「私にしか作れない部分があるのですね」
「うん」
フィオナは。
自分の《月狐魔剣》を両手で持つ。
師匠からもらった剣。
仲間と戦ってきた剣。
これからも。
自分と共に成長していく剣。
「分かりました」
大きな狐耳が。
真っ直ぐ立つ。
「明日の召喚訓練で、必要な素材を集めます」
「無理に取らないよ」
「もちろんです」
「霊狐が嫌がったら諦める」
「その時は、別の素材を探しましょう」
フィオナは。
迷わず答えた。
装備を作るために。
別の命を傷つけるつもりはない。
それは。
《星温室種子保管庫》や。
《生命循環管理区画》で。
彼女たちが学んできたことでもあった。
━━━━━━━━━━
翌日の予定
《異界訓練領域》
召喚対象
《星月霊狐》
目的
・交流
・素材交換
・フィオナとの適性確認
禁止事項
・先制攻撃
・強制採取
・契約強制
・霊狐の持ち帰り
・《魔神化》
━━━━━━━━━━
「持ち帰りも禁止?」
「師匠が連れて帰りそうですから」
「まだ見てもいないよ」
『可愛らしい姿なら、可能性は高い』
「屋敷は広いけど」
「駄目です」
「はい」
神炉の前。
三つの設計図が。
月と星の光を放ちながら浮かんでいる。
剣。
杖。
神狐装。
まだ形にはなっていない。
だが。
フィオナが望んだ。
戦うため。
治すため。
そして。
大切な仲間を守るための装備は。
既に最初の輪郭を得ていた。




