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第八話 Eランク昇格試験



 翌朝。


 朝食を済ませた私は部屋へ戻り、冒険用の装備へ着替えた。


 暗灰色の《剛猪毛鎧下アーマード・ボアインナー》の上から、《剛猪革鎧アーマード・ボアメイル》を装着する。


 腰には《剛牙鉄剣ボア・ファングソード》。


 左腕には《剛猪小盾アーマード・ボアバックラー》。


 弓は《インベントリ》へ入れ、必要な時に取り出せるようにしておく。


 最後に暗灰色の布マスクを着けた。


「よし」


 今日はEランク昇格試験。


 合格すれば、行ける場所も受けられる依頼も増える。


 そして。


「鋼刃蟷螂と黒鋼鉱」


 昨日ガレスさんに教えてもらった新しい素材。


 特に《鋼刃蟷螂(スティールマンティス)》の鎌刃は欲しい。


 黒鋼と合わせれば、今よりずっと強い剣を作れそうだ。


「絶対合格しよう」


 私は宿を出た。


◇◇◇


 冒険者ギルドへ入る。


「おはようございます、リリスさん」


「おはようございます」


 受付にいるエレナさんへ近づくと、すぐに一枚の書類を渡された。


━━━━━━━━━━


《Eランク昇格試験》


受験者


リリス・ルクスヴィア


現在ランク:F


試験内容


実戦能力確認


状況判断確認


指定地点到達


━━━━━━━━━━


「討伐だけじゃないんですね」


「はい。冒険者ランクは強さだけで決まりませんから」


 エレナさんが説明してくれる。


「今回の試験では、王都西側にある旧街道を通り、《西ルミナス森林》手前の監視小屋まで移動してもらいます」


「そこまで行けばいい?」


「基本的には。ただし、途中で発生した問題への対応も評価対象になります」


「問題?」


「そこは試験なので秘密です」


「なるほど」


 少しゲームのクエストみたいで面白い。


「試験官も同行します。ただし、危険な状況を除いて手助けはしません」


「分かりました」


「それと――」


 エレナさんが別の書類を取り出した。


「忘れるところでした。以前出品した競売品ですが、昨日すべて落札されています」


「あ」


 そういえば。


 《素早さの小宝玉》と《スライムピアス》。


 素材集めや装備作りが楽しくて、少し忘れていた。


━━━━━━━━━━


《ギルド競売結果》


《素早さの小宝玉》×12


最終落札総額


金貨48枚


━━━━━━━━━━


《スライムピアス》×7組


最終落札総額


金貨28枚


━━━━━━━━━━


総落札額


金貨76枚


━━━━━━━━━━


「七十六枚?」


「予想以上でした。特に《素早さの小宝玉》は、低級品とはいえ能力値を恒久的に上昇させる品ですから」


「一個四枚くらい」


「競り合いになった物はもっと上がっていますよ」


「スライムから出たのに」


「普通はそんなに出ません」


「そうなんですか?」


「十二個まとめて持ち込む新人さんの方がおかしいです」


 またおかしい扱いされた。


 受付で精算を済ませ、金貨を《インベントリ》へ収納する。


「これで素材いっぱい買える」


「装備じゃないんですね」


「素材があれば装備も作れます」


「……確かに」


 エレナさんが少し納得したところで、ギルドの奥から一人の男性が歩いてきた。


 四十歳前後。


 短い茶髪。


 使い込まれた革鎧の上から部分的に金属板を付けている。


 腰には長剣。


「こいつが今回の受験者か?」


「はい。リリス・ルクスヴィアさんです」


「Fランクでアーマーボアを八体狩ったって子か」


「リリスです。よろしくお願いします」


「俺はダリオ。今日は試験官だ」


 差し出された手を握る。


「先に言っておく。レベルが高かろうが、魔物を大量に倒せようが、判断が悪ければ落とす」


「はい」


「逆に全部の魔物を倒す必要もない。目的を忘れないことだ」


「分かりました」


 素材を見つけても寄り道しすぎるな、という意味にも聞こえた。


 ……気をつけよう。


◇◇◇


 王都西門を出る。


 試験官のダリオさんと二人で旧街道を進んだ。


 昨日まで何度も通った方向だけれど、今回は少し南寄りの道だ。


 私は歩きながら《索敵》《気配察知》《危険察知》を使う。


 新しく取得した《上級索敵》も意識してみた。


「……すごい」


「どうした?」


「いえ」


 今までより周囲の気配がはっきり分かる。


 小動物。


 魔物。


 人。


 木々の向こうにいる生き物の位置まで、ぼんやりと頭の中に浮かんでくる。


 少し先。


 街道脇の茂みに三体。


「右前方に魔物がいます」


「ほう」


 ダリオさんが視線を向ける。


「距離は?」


「百二十メートルくらい。三体です」


「種類は?」


「まだ分かりません」


 近づいて確認する必要はない。


 私は《インベントリ》から弓を取り出した。


━━━━━━━━━━


剛骨牙弓ボア・コンポジットボウ


品質:上質


━━━━━━━━━━


 背中側には《自動補充矢筒オートリロード・クイヴァー》。


 一本抜く。


 《青樫鉄矢ブルーオーク・アイアンアロー》。


 《遠視》。


 視界が一気に拡大される。


━━━━━━━━━━


《フォレストウルフ》


Lv13


━━━━━━━━━━


《フォレストウルフ》


Lv15


━━━━━━━━━━


《フォレストウルフ》


Lv14


━━━━━━━━━━


「フォレストウルフ三体」


「どうする?」


「こっちへ向かってきてるので倒します」


 弓を引く。


 《弓術Lv10》。


 《狙撃Lv10》。


 《精密射撃Lv10》。


 さらに《軌道予測》。


 狙う。


 放つ。


 シュッ!


 百メートル以上離れた場所。


 一体目の頭部へ鉄矢が突き刺さった。


━━━━━━━━━━


《フォレストウルフ》


討伐


━━━━━━━━━━


「当てたか」


 二本目。


 放つ。


━━━━━━━━━━


《フォレストウルフ》


討伐


━━━━━━━━━━


 三本目。


 残った一体がこちらへ走り始める。


「速い」


 でも。


 距離はまだある。


 もう一度射る。


━━━━━━━━━━


《フォレストウルフ》


討伐


━━━━━━━━━━


《自動収集》


発動


━━━━━━━━━━


 素材が《インベントリ》へ収納された。


 同時に。


 シュン。


 矢筒へ矢が自動補充される。


「その矢筒は何だ?」


「作りました」


「矢が勝手に増えたように見えたが」


「《インベントリ》から自動補充されます」


「……便利な物を作るな」


「ですよね」


 やっぱり作って正解だった。


◇◇◇


 さらに進む。


 途中、《自動収集》が何度か発動した。


━━━━━━━━━━


《薬草》×40


《魔力草》×30


《森薬草》×40


《香草》×20


《鉄鉱石》×60


《青樫の落枝》×18


━━━━━━━━━━


 試験中なので、大きく寄り道はしない。


 自動で集まる分だけ受け取って進む。


「ちゃんと道を外れないんだな」


「試験なので」


「普段なら?」


「気になる素材があったら行きます」


「正直だな」


 ダリオさんが笑った。


◇◇◇


 しばらくして。


 《危険察知》が反応した。


 今までより強い。


「前方に何かいます」


「分かった」


 街道の少し先。


 横倒しになった荷車が見えた。


 その周囲に人影が三つ。


「助けてくれ!」


 商人らしい男性が叫んだ。


 護衛らしい二人も武器を構えている。


 その前には、大型の魔物。


━━━━━━━━━━


《アーマーボア》


Lv24


━━━━━━━━━━


 さらに二体。


 合計三体。


「試験の仕込みですか?」


 小声でダリオさんへ聞く。


「違う」


 表情が真面目になった。


「偶然だ。どうする?」


 目的は監視小屋への到達。


 でも、目の前に襲われている人がいる。


「助けます」


「試験時間が延びるぞ」


「人を放って先に行く方がおかしいので」


「よし。好きにやれ」


 私は弓を構えた。


 アーマーボアは正面の防御が硬い。


 昨日戦ったから分かっている。


「まず動きを止める」


 一本。


 狙いは脚。


 シュッ!


 鉄矢が前脚の付け根へ突き刺さる。


「ブオオッ!」


 二本目。


 別の個体の後脚。


 三本目。


 もう一体の目元。


 突進しようとしていた三体の動きが乱れた。


「今です! 荷車から離れてください!」


「分かった!」


 商人たちが後退する。


 私は弓を《インベントリ》へ収納。


 代わりに剣と盾。


「《身体加速》」


 身体が一気に軽くなる。


 一体目へ接近。


 横から首へ。


「はっ!」


 ザンッ!


━━━━━━━━━━


《アーマーボア》


討伐


━━━━━━━━━━


 二体目が突進してきた。


 今度は避けない。


「盾も試したかった」


 《盾受け》。


 《防御強化魔法》。


 左腕を前へ。


 ドゴンッ!


「おおっ」


 衝撃は大きい。


 でも耐えられる。


 《剛猪小盾アーマード・ボアバックラー》が突進を正面から受け止めた。


 以前なら避けた攻撃。


 今は止められる。


「強い」


 弾かれたアーマーボアの首へ剣を振り下ろす。


━━━━━━━━━━


《アーマーボア》


討伐


━━━━━━━━━━


 最後の一体。


 すでに脚へ矢が刺さっている。


 横へ回り込み、一閃。


━━━━━━━━━━


《アーマーボア》


討伐


━━━━━━━━━━


《自動収集》


発動


━━━━━━━━━━


《アーマーボアの硬皮》


《アーマーボアの牙》


《アーマーボアの骨》


《アーマーボアの腱》


《アーマーボアの魔石》


アーマーボアの遺骸


収納完了


━━━━━━━━━━


「大丈夫ですか?」


 商人たちへ近づく。


「あ、ああ! 助かった!」


「怪我は?」


「護衛が一人、腕をやられた」


 見ると、男性の左腕から血が流れている。


「診せてください」


 《上級回復魔法》。


 淡い光が傷口を包む。


 裂けた皮膚が塞がり、出血が止まった。


「……もう痛くない」


「動かしてみてください」


「動く……!」


「今日は無理しない方がいいです」


「ああ、本当にありがとう」


 荷車も確認する。


 車輪の一つが外れかけていた。


「これくらいなら」


 《装備修復》では少し違う。


 でも《木工》と《金属加工》がある。


 簡単に補修する。


「終わり」


「何でもできるんだな、お嬢ちゃん……」


「色々スキル取ったので」


 振り返ると、ダリオさんが腕を組んでいた。


「終わったか?」


「はい」


「なら行くぞ」


「試験は?」


「まだ途中だ」


 そうだった。


◇◇◇


 それから一時間ほど。


 指定された監視小屋が見えてきた。


 古い木造建築。


 入口にはギルドの紋章。


「到着」


「ですね」


 ダリオさんが携帯していた時計を見る。


「寄り道した割には十分早い」


「合格ですか?」


「まだ一応確認する」


「あ」


 ダリオさんが一枚の試験用紙を取り出した。


「実戦能力。問題なし」


 書き込む。


「索敵。問題なし」


 さらに書く。


「危険への対処。問題なし」


「はい」


「第三者保護。問題なし」


「はい」


「目的管理……素材を見つけても試験中は寄り道しなかった」


「我慢しました」


「そこは評価しておく」


「やった」


「最後に判断力」


 ダリオさんが私を見る。


「街道で商人を助けた理由は?」


「助けられるのに放っておく理由がなかったからです」


「試験に遅れる可能性があっても?」


「人が死ぬよりいいです」


「よし」


 紙の一番下へ印を付ける。


━━━━━━━━━━


《Eランク昇格試験》


判定


合格


━━━━━━━━━━


「合格だ」


「やった!」


「ただし、その戦闘力で無茶をしないようにな」


「気をつけます」


「本当にか?」


「たぶん」


「そこは言い切れ」


◇◇◇


 王都へ戻ったのは昼過ぎ。


 冒険者ギルドへ入り、エレナさんのところへ向かう。


「お帰りなさい」


「ただいまです」


 ダリオさんが試験書類を渡す。


「問題なし。合格だ」


「やっぱりですか」


「やっぱり?」


「リリスさんなので」


「どういう意味です?」


「褒めてますよ」


 本当かな。


 エレナさんが私のギルドカードを受け取り、専用の魔道具へ通した。


 カードが淡く光る。


━━━━━━━━━━


《冒険者ギルドカード》


リリス・ルクスヴィア


冒険者ランク


F



E


━━━━━━━━━━


「これで正式にEランク冒険者です。おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 カードを受け取る。


「Eランクからは、森林調査、採取護衛、鉱山周辺の依頼、少し危険度の高い魔物討伐なども受注できます」


「鉱山周辺」


「やっぱりそこに反応しますよね」


「黒鋼鉱を探したいので」


「黒鋼鉱?」


「あと鋼刃蟷螂」


 エレナさんの手が止まった。


「……昇格したその日に?」


「まだ行きませんよ」


「良かった」


「依頼があれば見たいです」


「そういうことですか」


 Eランク用の依頼板を確認してもらう。


 何枚かの依頼票。


 その中。


 一枚が目に入った。


━━━━━━━━━━


《Eランク調査依頼》


《黒鋼岩地周辺調査》


目的


周辺魔物の確認


鉱脈状況の確認


街道安全調査


━━━━━━━━━━


確認魔物


鋼刃蟷螂(スティールマンティス)


ほか


━━━━━━━━━━


確認資源


黒鋼鉱ブラックスティール


《鉄鉱石》


《魔晶砂》


創晶石(アルケリウム)


ほか


━━━━━━━━━━


「……これ」


「ちょうどありますね」


「受けます」


「即答!」


 新しい魔物。


 新しい鉱石。


 新しい素材。


 そして、新しい剣。


 私は依頼票を見ながら、布マスクの下で思わず笑っていた。

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