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第八十五話 星炉魔神装備の設計



 王都の屋敷へ帰還した頃には。


 既に日が傾き始めていた。


 リリスたちは、装備を解除すると。


 そのまま一階の応接室へ集まった。


 テーブルの上には。


 第十二階層《生命循環管理区画》の調査記録。


 第四深水槽の修復報告。


 救助した《蒼殻守水亀》の生命情報。


 そして。


 外部観測だけを行った《第五独立進化槽》の記録が並べられている。


「第五独立進化槽につきましては、封鎖維持でよろしいのですね」


 セバスが確認する。


「うん。向こうから接触してくるまで、こちらからは何もしない」


「生態系そのものが観測を拒んでいるのであれば、妥当な判断かと存じます」


「強制的に開けたら、何が起きるか分からないからね」


『以前のお前なら、少しくらい調べると言っていたな』


「今も調べたいとは思ってるよ」


「行動へ移さないことが重要です」


 フィオナが釘を刺す。


「分かってる」


 リリスは報告書へ。


 《封鎖維持》。


 《強制開放禁止》。


 《内部からの接触待機》。


 三つの方針を正式に記録した。


━━━━━━━━━━


《第五独立進化槽》


現行管理方針を確定。


・封鎖維持


・外部観測停止


・強制開放禁止


・内部生態系への干渉禁止


・内部生命からの接触を待機


変更条件


共同管理者全員による承認。


━━━━━━━━━━


「全員の承認が必要になった」


『よい仕組みだ』


「私だけだと、駄目みたいに聞こえる」


「魔神化」


 シグレが一言だけ告げる。


「……全員で決めるのは大事だね」


◇◇◇


 報告を終え。


 夕食まで少し時間がある。


 リゼットは。


 早速、地下工房へ向かおうとしていた。


「待って、リゼット」


「何?」


「《蒼炉戦槌》を見せて」


 階段へ向かっていた足が止まる。


 リゼットは背中へ担いでいた巨大な戦槌を下ろした。


 鍛冶師ギルドの地下炉で。


 固着した排圧管を開き。


 第二魔導炉の爆発を防いだ戦槌。


 第十二階層でも。


 十八万年以上固着していた《第四循環弁》を動かした。


 しかし。


 度重なる高出力の使用によって。


 槌頭の側面には細かな亀裂が増え。


 柄の内部に刻まれた魔導回路も、幾つか焼き切れている。


━━━━━━━━━━


《蒼炉戦槌》


品質:希少級


所有者


リゼット・ヴァルカン


状態


・槌頭亀裂:七か所


・衝撃制御回路損傷:18%


・魔力導線焼損:三本


・柄内部疲労:中


・所有者同調率:94%


修理推奨。


━━━━━━━━━━


「まだ使えるよ」


 リゼットが言う。


「修理すればね」


「それなら、今夜直す」


「修理だけじゃなくて、強くしよう」


「……強く?」


 リリスは。


 《蒼炉戦槌》へ手を添えた。


 戦槌には。


 リゼットが何度も修理し。


 改造し。


 使い続けてきた記録が残されている。


 初めて鍛冶場へ入った日。


 失敗して柄を折った日。


 初めて自分で魔導回路を刻んだ日。


 爆発事故の中で。


 誰かを守るために振るった記録。


 そのすべてが。


 金属と魔力回路の奥へ刻まれていた。


「新しい槌を一から作るんじゃない」


 リリスは言った。


「《蒼炉戦槌》を核にして、成長させたい」


「この槌を……?」


「思い出も、使い慣れた重心も、リゼットが刻んだ回路も残す」


 リゼットが。


 戦槌の柄を握り直す。


「でも、使う素材が変わったら、同じ武器じゃなくなる」


「形は変わる。性能も変わる」


 リリスは頷く。


「それでも、今まで積み重ねたものを捨てなければ、この槌の続きだと思う」


 リゼットは。


 しばらく黙っていた。


 親指で。


 柄に残った小さな傷をなぞる。


 それは。


 最初に自分で槌頭を取り付けた際。


 固定具を打ち損ねて付けた傷だった。


「……残せる?」


「全部」


「直しすぎて消えた古い回路も?」


「《過去痕跡再現》で読み取れる」


「失敗した記録も?」


「消したい?」


「消さない」


 リゼットは即答した。


「失敗した場所が分かるから、次は同じ壊れ方をしないようにできる」


「なら、全部残そう」


 リリスは。


 地下工房へ続く扉を開いた。


「リゼット専用装備の設計会議を始めるよ」


◇◇◇


 地下工房。


 中央作業台の周囲へ。


 リリス。


 リゼット。


 フィオナ。


 シグレ。


 クロが集まっていた。


「なぜ私たちも呼ばれたのですか?」


「実際に一緒に戦う仲間の意見も必要だから」


「私はまだ前線で本格的に戦ってないけど」


 リゼットが言う。


「第十二階層で大きな弁を槌で開けてたよ」


「あれは修理」


「敵が来た場合も、同じ槌で叩くのだろう」


 シグレが尋ねる。


「うん」


「ならば武器だ」


『鍛冶道具と戦闘武器を兼ねるなら、どちらか一方へ偏らせるべきではないな』


「そういう意見が欲しかった」


 リリスは。


 作業台の上へ立体設計画面を展開した。


━━━━━━━━━━


専用装備設計


使用者


リゼット・ヴァルカン


職業ジョブ


《鍛冶師》


《魔導技師》


主要役割


・鍛造


・魔導機構修復


・大型設備整備


・重槌戦闘


・現地工作


・緊急防御


━━━━━━━━━━


「最初に、リゼットが欲しい機能を全部言って」


「全部?」


「うん」


「予算は?」


「必要な分だけ」


「素材制限は?」


「安全に使える物なら」


「本当に全部言うよ?」


「言って」


 リゼットの目が輝く。


「まず、重さを変えたい!」


 空中の設計図へ。


 新しい項目が追加される。


「鍛冶作業では軽く。大型部品を動かす時は重く。戦闘で叩く瞬間だけ、最大重量にする」


「重力制御だね」


「槌頭の形も変えたい。平面、丸面、細槌、杭打ち、破砕、回路刻印用!」


「六形態」


「あと、魔導炉へ直接接続できるようにする。戦槌そのものを予備炉心にして、停止した設備へ魔力を送れるようにしたい」


「出力は?」


「最低でも大型炉一基分」


『持ち運べる予備炉ということか』


「それから、工具を内蔵したい!」


「槌の中に?」


「柄と槌頭を空間拡張する。精密工具、回路刻印針、溶接器、魔晶測定器、冷却具、切削具、全部!」


 立体設計図へ。


 次々と新しい機構が追加される。


「戦闘機能はどうする?」


 シグレが尋ねる。


「壊したくない所を壊さず、壊したい所だけ壊す」


「今の《回路衝撃制御》を上位化すればいいね」


「魔力障壁も叩いて直せるようにしたい」


「障壁を破壊するのではなく?」


「壊れて暴走している結界を、外側から正常な形に打ち直すの」


 リリスが。


 僅かに目を見開く。


「面白い」


「できる?」


「できると思う」


『二人とも楽しそうだな』


「リゼットらしい武器になりそうです」


 フィオナが立体設計図を眺める。


「ですが、防御機能も必要ではありませんか? 設備を修理している間、動けなくなることがあります」


「槌を地面へ立てて、結界を張れるようにする?」


「いい!」


 リゼットがフィオナの手を掴む。


「それ採用!」


「わ、分かりました」


「結界の属性は?」


「物理と魔法。それから、熱、爆発、毒、水圧」


「設備事故に対応する構成だね」


「水中でも振れるようにして」


 リゼットは。


 第十二階層で用意した水中装備が、ほとんど使われなかったことを思い出したらしい。


「次に水中へ入る時は、自分で潜る!」


『リリスが再び水を分ける可能性もあるぞ』


「その時は地上で使う!」


◇◇◇


 必要機能を纏めた結果。


 設計画面は。


 かなり大きなものになっていた。


━━━━━━━━━━


専用重槌・仮設計


基礎核


《蒼炉戦槌》


予定機能


・重量自在変化


・重力衝撃増幅


・六種槌頭変形


・指向性衝撃制御


・魔導炉接続


・予備炉心機能


・魔力貯蔵および供給


・工具空間収納


・現地部品生成


・魔導回路修復


・結界修復打撃


・防御領域展開


・水中戦闘


・飛行および遠隔操作


・自動帰還


・所有者限定


・成長進化


━━━━━━━━━━


「少し多くない?」


 フィオナが尋ねる。


「必要な機能だけ」


 リリスとリゼットが同時に答えた。


「やはり似ていますね」


 続いて。


 防具の設計へ移る。


「作業着の形は残したい」


 リゼットが最初に言った。


「重い全身鎧は嫌。細かい作業ができなくなるから」


「外見は今の青白い作業着を基礎にする?」


「うん。帽子とゴーグルも欲しい」


「防御力は妥協しなくていい」


「布部分まで神格装甲にできる?」


「できるよ」


「工具袋も残す!」


『武器に工具収納を付けると言っていなかったか』


「よく使う物は腰にあった方が早い」


「分かる」


『分かるのか』


 リリスは。


 防具の立体映像を作り始める。


 青白い作業用上着。


 身体へ密着しすぎず。


 動きを妨げない丈夫なズボン。


 膝。


 脛。


 前腕。


 胸部。


 必要な箇所へだけ配置された軽量装甲。


 腰には。


 空間拡張式の工具帯。


 背面には。


 大型魔導炉との接続端子。


 帽子の上へ。


 複数の解析光を投影できるゴーグル。


「耐熱は絶対」


「どのくらい?」


「神鋼を加工する炉の中へ入っても平気なくらい」


「炉の中へ入るのですか?」


「故障した時に必要かもしれない」


「入らないでください」


 フィオナが即座に止める。


「入る必要がある場合の備え!」


「温度制御と環境隔離を入れるよ」


「爆発した時は?」


「衝撃を吸収して、余剰エネルギーを武器へ送る」


「毒ガス」


「完全浄化」


「水没」


「水中呼吸と水圧無効」


「落雷」


「吸収して魔力へ変換」


「酸欠」


「内部空気循環」


「徹夜」


「対応しない」


「そこだけ?」


「睡眠は取って」


「装備で疲労を消せば――」


「駄目です」


 フィオナが再び止める。


「疲労軽減まで。睡眠不要にはしない」


「……分かった」


━━━━━━━━━━


専用工匠装・仮設計


外見


青・白・銀を基調とする軽装型工匠服。


構成


・工匠上衣


・魔導作業ズボン


・軽量胸甲


・前腕作業装甲


・神装脚甲


・多機能工具帯


・解析ゴーグル


・耐環境作業帽


・耐熱作業靴


予定機能


・神格級防御


・全属性耐性


・超高温環境適応


・極低温環境適応


・水中活動


・毒物および有害気体浄化


・衝撃および爆発吸収


・魔導回路立体投影


・設備内部透視


・危険予測


・工具自動選択


・作業姿勢補助


・飛行補助


・自動修復


・汚染除去


・所有者限定


・成長進化


睡眠不要機能


搭載禁止。


━━━━━━━━━━


「最後の項目、消せない?」


「消さない」


『必要な安全機能だ』


◇◇◇


 次は。


 使用素材を決める。


 リリスがインベントリを開くと。


 工房中央へ。


 厳重な封印を施した素材箱が並んだ。


 《災厄魔王鋼ディザスタニウム》。


 《魔皇鋼デモン・レガリウム》。


 《災皇黒鋼カラミティウム》。


 《覇魔神鋼オーバーローディウム》。


 《魔王黒金ディザスター・メタリウム》。


 《神鋼》。


 《神魔鋼》。


 《暗黒革ダークレザー》。


 《黒星神糸ノクス・シルク》。


 《異界神血樹脂エルド・レジン》。


 《世界外霊油アウター・オイル》。


 さらに。


 第十二階層から届いた管理者通知が浮かび上がる。


━━━━━━━━━━


《生命循環管理区画》


第四深水槽の水質安定率が基準値へ到達しました。


修復協力者への研究試料提供を許可します。


提供試料


149 《星水藻》×10


150 《循環珊瑚》×5


151 《蒼命蓮》×5


152 《水脈銀砂》×20kg


153 《霊鰭魚の脱鱗》×30


154 《浄水貝珠》×3


155 《生命樹根皮》×5


156 《循環魔晶》×2


取得条件


・自然脱落品


・管理用余剰分


・生態系への影響なし


受領しますか?


━━━━━━━━━━


「受領する」


 工房の転送台へ。


 青白い光が集まった。


 水草。


 珊瑚。


 銀色の砂。


 淡く発光する貝珠。


 生命力を宿す樹皮。


 そして。


 拳ほどの透明な《循環魔晶》が二つ。


 新たな素材が。


 専用の保管箱へ収められる。


「この《循環魔晶》を武器の炉心に使える」


 リゼットが。


 箱越しに結晶を観察する。


「魔力を溜めるだけじゃない。余分な魔力を循環させて、必要な場所へ戻せる」


「武器と防具を一つの循環系にする?」


「それ!」


 リゼットは作業台へ駆け戻る。


「鎧が吸収した熱や衝撃を、槌の炉心へ送る。槌で使わなかった分は鎧へ戻して、防御や修理に使う!」


「完全な相互循環装備」


「片方だけ壊れても、もう片方が補助するようにしたい」


「なら、二つを同時に設計しないと駄目だね」


 リリスは。


 武器と防具の設計図を重ねた。


 別々だった回路が。


 一本の巨大な循環構造へ繋がっていく。


━━━━━━━━━━


専用装備連結機構


《星炉循環機関》


中核


《循環魔晶》×2


武器側


・魔力貯蔵


・衝撃増幅


・鍛造熱生成


・設備魔力供給


防具側


・熱量吸収


・衝撃吸収


・環境魔力回収


・生命維持


相互機能


・余剰出力循環


・損傷分散


・自動修復共有


・緊急魔力供給


・装備状態共有


━━━━━━━━━━


「これなら、長時間作業しても出力が落ちにくい」


「無限に働ける?」


「働けない」


「やっぱり駄目?」


「装備の魔力は循環しても、リゼットの体力は別だから」


「残念」


「残念がるところではありません」


◇◇◇


 設計は。


 夕食を挟み。


 夜まで続いた。


 武器の中核には。


 《蒼炉戦槌》の記憶と回路を保存。


 主骨格に《災厄魔王鋼》。


 衝撃機構に《災皇黒鋼》。


 出力調整へ《覇魔神鋼》。


 精密回路へ《魔王黒金》。


 魔力と神性の伝導路に《神魔鋼》。


 炉心へ《循環魔晶》。


 冷却および水中機能へ《水脈銀砂》と《浄水貝珠》。


 接合材へ《異界神血樹脂》。


 防具には。


 《暗黒革》。


 《生命樹根皮》。


 《黒星神糸》。


 《霊鰭魚の脱鱗》。


 《循環珊瑚》。


 そして。


 薄く加工した《災厄魔王鋼》と《神魔鋼》を使用する。


━━━━━━━━━━


専用武器設計完了。


星炉魔神槌アストラル・フォージハンマー


基礎核


《蒼炉戦槌》


予定階位


神格級成長武装


主要機能


・星炉循環機関


・重力重量制御


・六形態変形


・神格衝撃制御


・鍛造および錬成補助


・魔導機構修復


・障壁修復打撃


・現地工具生成


・予備魔導炉


・防御領域展開


・飛行および自動帰還


━━━━━━━━━━


専用防具設計完了。


星炉魔神工匠装アストラル・フォージレガリア


予定階位


神格級成長防具


主要機能


・星炉循環機関


・神格級防御


・全環境作業適応


・高熱、爆発、水圧、毒物完全防護


・設備内部解析


・魔導回路立体投影


・危険予測


・工具空間収納


・作業動作補助


・飛行補助


・自動修復および自動清浄


━━━━━━━━━━


「名前まで決まった」


 リゼットが。


 二つの設計図を交互に見る。


「気に入らない?」


「……すごく好き」


 《星炉魔神槌》。


 《星炉魔神工匠装》。


 魔神の力を宿しながら。


 破壊のためだけではなく。


 物を作り。


 壊れた設備を直し。


 命を守るための装備。


「でも、本当に私が使っていいの?」


「リゼット専用に設計したから」


「素材だけで、王城が幾つも買えるよ」


「素材は持ってるから大丈夫」


『そういう問題ではない』


「私が失敗して、壊したら?」


「一緒に直す」


「使いこなせなかったら?」


「練習すればいい」


「もっと強い鍛冶師が仲間になったら?」


「それは関係ないよ」


 リリスは。


 迷うことなく答えた。


「これは、一番強い鍛冶師へ渡す装備じゃない」


 青い瞳を見つめる。


「リゼットのために作る装備だから」


「……そっか」


 リゼットは。


 僅かに俯いた。


 しかし。


 すぐに顔を上げる。


「なら、私も作る」


「もちろん」


「贈ってもらうだけじゃ嫌。自分の装備なら、自分で回路を刻む」


「一緒に作ろう」


「うん!」


 リリスとリゼットは。


 作業台を挟んで手を合わせた。


━━━━━━━━━━


共同製作契約を登録。


製作対象


星炉魔神槌アストラル・フォージハンマー


星炉魔神工匠装アストラル・フォージレガリア


主製作者


リリス・ルクスヴィア


共同製作者


リゼット・ヴァルカン


製作方針


・《蒼炉戦槌》の全記録継承


・所有者人格および成長性の尊重


・安全性最優先


・無断精神干渉機能禁止


・無制御出力機能禁止


・睡眠不要機能禁止


━━━━━━━━━━


「最後だけ何度も入るね」


「必要だからです」


 フィオナが即答する。


◇◇◇


 設計を終えた後。


 リリスは地下工房の最深部を開放した。


 そこにあるのは。


 神鋼。


 神魔鋼。


 災厄魔王鋼。


 通常の炉では融解できない最上位素材を加工するための、簡易神炉。


 円形の炉が起動し。


 白金色。


 黒紫色。


 深紅。


 複数の炎が重なり合う。


━━━━━━━━━━


《簡易神炉》


製作対象を登録。


第一工程


《蒼炉戦槌》の記憶抽出および核固定。


推定工程数


1,824


推定製作時間


通常作業:九十六日


時間圧縮併用:二日


《同時工程千重》最大使用:三時間以内


━━━━━━━━━━


「三時間でできる」


「駄目」


 リゼットが即座に言った。


「どうして?」


「私も作るから」


「《思考時間加速》を共有すれば――」


「最初の一回は、自分の手で回路を刻みたい」


 リゼットは。


 《蒼炉戦槌》を神炉の前へ置いた。


「時間が掛かってもいい。失敗したら直す。分からない所はリリスに教えてもらう」


 リリスは。


 少しだけ考え。


 《同時工程千重》の使用予定を解除した。


「分かった」


「二日で終わる?」


「たぶん」


『徹夜は禁止だ』


「交代で休むよ」


「リリスもです」


「うん」


 神炉の炎が。


 《蒼炉戦槌》を静かに包む。


 古い金属を溶かすのではない。


 これまでの歴史を読み取り。


 次の形へ受け継ぐための炎。


━━━━━━━━━━


《蒼炉戦槌》


記憶抽出を開始。


継承対象


・所有者情報


・鍛造記録


・修理記録


・戦闘記録


・魔導炉救助記録


・第四循環弁復旧記録


・失敗記録


・改良履歴


継承率:1%


━━━━━━━━━━


「失敗記録まで表示された」


「残すって言ったから」


「うん。残して」


 青白い炎の向こう。


 使い続けてきた戦槌が。


 次の姿へ向けて、ゆっくりと変わり始める。


 まだ。


 《星炉魔神槌》は完成していない。


 《星炉魔神工匠装》も。


 設計図が完成したばかり。


 それでも。


 リゼットの新しい装備を生み出す最初の一打は。


 この夜。


 確かに振り下ろされた。

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