第七十三話 神代の竜王
能力再構築を終えた翌日。
リリスたちは、王都から遠く離れた場所へ来ていた。
とはいっても。
そこは、リリンズ・ワールドの地上ではない。
青白い星々が浮かぶ空。
見渡す限り続く灰色の荒野。
地平線の彼方まで建造物一つ存在せず、中央には直径十キロメートルを超える巨大な闘技場が築かれている。
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《異界訓練領域》
作成者:リリス・ルクスヴィア
使用スキル
・《異界工房展開》Lv.MAX
・《領域環境自在化》Lv.MAX
・《迷宮構造設計》Lv.MAX
・《階層自動生成》Lv.MAX
・《空間固定》Lv.MAX
・《因果遮断》Lv.MAX
・《守護領域展開》Lv.MAX
安全機能
・外界完全隔離
・世界干渉遮断
・魂魄保護
・精神汚染遮断
・致命傷無効化
・緊急救命転送
・召喚存在逃亡防止
・強制送還術式
・領域自動修復
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「これなら、少しくらい強い魔物を召喚しても大丈夫」
『少しくらい、という言葉が信用できん』
本来の巨大な姿へ戻ったクロが、低い声で念話を送る。
黒い毛並みから冥獄の魔力が溢れ、四本の脚が大地へ触れるたびに灰色の砂が揺れていた。
「昨日は、ゴブリン一体と言っていましたよね?」
フィオナが確認する。
《月狐軽装》を身につけ、腰には《月狐魔剣》。
両手には、新しく製作した《天聖錬成手袋・月狐型》を装着している。
「うん。ゴブリン一体だよ」
「普通のゴブリンなのだろうな」
シグレも念を押す。
白銀色の長髪が異界の風になびき、右手は《白雨星刀》の柄へ置かれていた。
「普通だと、効果を確認する前に終わりそうだから」
「待て」
「少しだけ強いゴブリンにするね」
「待てと言っている」
リリスは召喚対象の一覧を開く。
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《超位召喚魔法》Lv.MAX
召喚対象選択
・通常種
・上位種
・希少種
・変異種
・古代種
・神代種
・魔王種
・幻想種
・神格存在
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「神代種にしよう」
『なぜ、通常種から七段階も上げた』
「普通のゴブリンだと弱すぎるから」
「神代種は普通ではない!」
シグレの声が闘技場へ響く。
だが。
リリスはすでに対象を決定していた。
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召喚対象
《神代のゴブリン》
召喚数:1
危険度:神話級
知性:極めて高い
戦闘経験:測定不能
推奨対応人数:国家戦力以上
召喚しますか?
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「一体だから大丈夫」
『数の問題ではない』
「召喚」
闘技場中央に、金色の魔法陣が展開された。
空間が震える。
神代の文字が幾重にも浮かび上がり、その中心から一体の魔物が姿を現した。
身長は二メートルを僅かに超える程度。
黒緑色の肌。
全身を覆う古びた黄金の鎧。
右手には、星鉄で作られた長槍。
頭部には折れた王冠が載せられている。
姿だけならば、大柄なゴブリンに見えなくもない。
だが。
両目が開かれた瞬間。
フィオナとシグレの表情が変わった。
「これが……ゴブリン?」
「構えろ、フィオナ」
神代のゴブリンが長槍を持ち上げる。
ただそれだけで。
槍の先端から放たれた圧力が大地を切り裂き、闘技場の壁へ巨大な亀裂を作った。
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《神代のゴブリン王兵》
レベル:500
種族:神代祖妖族
職業
・《神槍王》
・《古代戦王》
・《軍勢統率者》
主な能力
・神代槍術Lv.MAX
・王威Lv.MAX
・星鉄武装支配Lv.MAX
・超速再生Lv.MAX
・神性耐性Lv.MAX
・絶対貫通Lv.MAX
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「王兵?」
リリスが首を傾げる。
『神代では、これがただの兵士だったということだ』
「神代ってすごいね」
「感心している場合ではありません!」
神代のゴブリンが踏み込む。
その姿が消えた。
「右です!」
フィオナが叫ぶ。
同時に、長槍がシグレの胸を狙って突き出された。
「《白雨抜刀》!」
白銀の斬撃と黄金の穂先が激突する。
甲高い音。
シグレの身体が数十メートル後方まで押し戻された。
だが。
新しい手袋が刀を握る力を自動補助し、《白雨星刀》が衝撃を分散する。
刀は手から離れていない。
「重い……!」
「《月狐雷刃》!」
フィオナが横から斬り込む。
雷を纏った魔剣が、黄金鎧の脇腹へ直撃した。
神代のゴブリンは片腕で魔剣を受け止める。
鎧の表面へ亀裂が走るが、肉体には届かない。
「《月狐氷刃》!」
雷から氷へ。
属性が一瞬で切り替わる。
手袋の効果によって、魔力の停滞は起きなかった。
凍結した腕へ。
「《白雨連華》!」
体勢を立て直したシグレの連続斬撃が叩き込まれる。
鎧の亀裂が広がり。
黄金の破片が飛び散った。
『二人とも、下がれ!』
クロの警告。
神代のゴブリンが槍を地面へ突き立てる。
「――グルァァァァァッ!」
黄金の衝撃波が周囲へ広がった。
フィオナとシグレの身体が呑み込まれる寸前。
「《損傷分散結界》」
リリスが指を動かす。
衝撃が無数の方向へ分散され、星屑のように消滅した。
「師匠、ありがとうございます!」
「防御だけするから、二人で倒してみて」
「簡単に言うな!」
シグレが叫びながらも、再び前へ出る。
フィオナも魔剣を構え直した。
「シグレさん。私が動きを止めます」
「一瞬でいい」
「はい。《多属性循環》!」
炎。
雷。
氷。
風。
四属性が、フィオナの周囲を輪のように巡る。
「《月狐魔刃・四重奏》!」
四本の属性刃が放たれた。
神代のゴブリンは槍を回転させ、炎と風を弾き飛ばす。
だが。
雷が鎧を伝い。
氷が両脚を地面へ縫い止めた。
「今です!」
「《纏刀・白月》」
シグレの全身から白銀色の魔力が溢れる。
腰を落とし。
一息で間合いを詰めた。
「《白雨奥義・天断》!」
白い斬撃が、神代のゴブリンを縦に駆け抜ける。
一拍遅れて。
黄金の鎧と星鉄の長槍が、同時に両断された。
神代のゴブリンの身体が光へ変わる。
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《神代のゴブリン王兵》を討伐しました。
経験値を獲得しました。
APを獲得しました。
SPを獲得しました。
《宝箱確定出現》が発動しました。
《素材獲得十倍》が発動しました。
《超希少品出現率上昇》が発動しました。
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「倒せた……」
フィオナが息を吐く。
「ゴブリン一体に、ここまで苦戦するとはな」
シグレは刀を納めながら、額の汗を拭う。
「でも、まだ余裕はあったよね」
「どこを見てそう思った」
「二人とも大きな怪我はしてないから」
『お前の結界が守っていたからだ』
「それも含めて訓練だよ」
リリスは出現した素材を回収する。
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【新規素材登録】
84 神代ゴブリンの王骨
神代の戦士として鍛え上げられた高密度の骨。
武器芯材、強化薬、古代魔導具に使用可能。
85 神代ゴブリンの祖血
神代祖妖族の性質を残した金色の血液。
肉体強化薬、種族研究、神代錬金の素材。
86 神代星鉄武具片
神代のゴブリンが使用していた星鉄武装の破片。
高位武器、魔導回路、星属性装備に適する。
87 神代戦紋布
神代の軍勢が身につけていた戦紋入りの布。
指揮能力、士気上昇、恐怖耐性を付与できる。
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現在確認済み累計:87種類
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続いて、金色に輝く宝箱を開く。
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《古代の宝箱》
獲得品
・《神代召喚触媒》×10
・《祖妖王の魔導核》×1
・《神槍王の秘伝書》×1
・星金貨×50
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「神代召喚触媒」
『嫌な物を手に入れたな』
「もっと強い神代種を召喚できるみたい」
『使うな』
「一回だけ」
『使うなと言っている』
◇◇◇
神代のゴブリン戦から、一時間後。
フィオナとシグレは回復薬を飲み、魔力と体力を完全に回復させていた。
さらに。
獲得した経験値は《経験値共有調整》によって二人へ優先的に分配されている。
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フィオナ・ルーヴェル
レベル:36
↓
レベル:42
獲得AP:1,200
獲得SP:1,200
《多属性循環》
Lv.3
↓
Lv.5
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シグレ・ヤルク
レベル:59
↓
レベル:64
獲得AP:1,000
獲得SP:1,000
《抜刀術》
Lv.6
↓
Lv.8
《魔力纏刀》
Lv.4
↓
Lv.6
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「一体倒しただけで、六つもレベルが……」
フィオナが能力画面を見つめる。
「私は五つだ」
「《仲間成長共鳴》と《経験値共有調整》が、うまく働いたみたい」
『二人の身体へ負担が出ないよう、成長速度を制限したのだな』
「うん。一気に上げすぎると、力に感覚が追いつかないから」
リリスは自分が獲得したAPを、《再振分最適化》によって即座に全能力へ振り分ける。
SPは《ポイント永久保存》によって蓄積された。
「次は、神代の竜を呼んでみよう」
「今の戦いを見た後で、なぜそうなる!」
「ゴブリン王兵を倒せたから」
「ゴブリン王兵より、竜の方が強いだろう!」
「だから訓練になるよ」
『普通の竜ではないのか』
「神代召喚触媒を使うから、神代の竜」
『さらに悪化しているではないか』
リリスは召喚一覧をスクロールする。
神代の幼竜。
神代の翼竜。
神代の地竜。
神代の古竜。
その中で。
最も大きな文字で表示されている項目へ、指が止まった。
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《神代竜王アウレグラム》
分類:神代最上位古竜
危険度:超神話級
全長:推定120メートル
推奨戦力
・神話級冒険者複数
・国家最高戦力
・神格存在
注意
世界規模攻撃を保有しています。
通常世界での召喚を禁止します。
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「これにしよう」
「説明を読んだのか!?」
「ここは通常世界じゃなくて、異界訓練領域だから大丈夫」
『そこではない』
「強制送還も付けてあるよ」
「問題は逃げるかどうかではない!」
シグレが額へ手を当てる。
フィオナは困ったように笑っていたが。
その狐耳は完全に後ろへ倒れていた。
「無理だと思ったら、二人はすぐ保護領域へ転送するから」
「師匠はどうするのですか?」
「私とクロで戦う」
『我も参加が決定しているのか』
「嫌?」
『お前一人に任せる方が危険だ』
「ありがとう、クロ」
『褒めてはいない』
リリスは召喚条件を設定する。
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召喚対象
《神代竜王アウレグラム》
召喚契約:訓練戦闘
外界干渉:禁止
領域離脱:禁止
世界破壊攻撃:威力制限
魂魄攻撃:禁止
敗北時:自動帰還
召喚者死亡時:強制送還
多重強制送還術式:有効
召喚を実行しますか?
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「召喚」
世界が。
暗くなった。
◇◇◇
青白い星々が消える。
異界の空が巨大な渦を巻き。
闘技場全体を覆うほどの金色の召喚陣が現れた。
直径三百メートル。
その中心から。
最初に現れたのは、一本の角だった。
天空を貫くような、白金色の巨角。
続いて。
山脈と見間違えるほど巨大な頭部。
金と銀が混ざった鱗。
六枚の翼。
星空を閉じ込めたような双眸。
全長百二十メートル。
翼を広げれば、二百メートルを超える。
神代の竜王は、闘技場へ降り立つことさえせず。
空中からリリスたちを見下ろした。
『小さき召喚者よ』
声ではない。
竜王の意思そのものが、魂へ響いた。
『我を試すか』
「訓練に付き合ってほしい」
『訓練』
竜王の瞳が細くなる。
『我を前に、その言葉を口にした者は久しい』
「怒った?」
『否』
六枚の翼が広がった。
『面白い』
ただ翼を動かしただけで、空間が砕けた。
「全員、構えて!」
竜王の口内へ、白金色の光が集束する。
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警告
《神代竜王の星滅吐息》
推定破壊範囲:大陸級
威力制限適用後:国家級
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「制限して国家級なのか!」
「《守護領域展開》《空間固定》《損傷分散結界》!」
リリスが三重結界を展開する。
直後。
白金色の吐息が放たれた。
光が世界を埋め尽くす。
音すら消し飛ぶほどの衝撃。
第一結界が砕け。
第二結界へ無数の亀裂が走る。
「師匠!」
「大丈夫!」
リリスが右手を前へ突き出す。
「《全属性吸収》!」
吐息に含まれている炎、光、星、重力、空間の属性が分解され、リリスの魔力へ変換されていく。
それでも。
勢いを完全には殺しきれない。
『《冥獄神界》!』
クロが巨大な黒紫色の領域を展開した。
白金の光と冥獄の闇が激突する。
最後に残った衝撃が左右へ逸れ、闘技場の大地を数十キロメートルにわたって抉り取った。
「今のが挨拶か……」
シグレの顔から血の気が引いている。
「でも、防げた」
「ぎりぎりだっただろう!」
「余裕は少しあったよ」
『嘘をつけ。第二結界が破られる寸前だった』
竜王が再び翼を動かす。
次の瞬間。
百二十メートルの巨体が、リリスの目の前まで移動していた。
「《未来軌道予測》!」
巨大な爪が振り下ろされる。
「《天涯瞬歩》!」
リリスはフィオナとシグレを抱え、数キロメートル離れた場所へ瞬間移動した。
クロは影となって回避する。
竜爪が大地へ触れた瞬間。
闘技場の半分が崩壊した。
「これ以上は危険です」
フィオナが魔剣を握り締める。
「私たちが足手まといになるなら、保護領域へ――」
「まだ戦えるよ」
リリスは二人へ《守護領域展開》を重ねる。
「竜王の攻撃は私とクロが止める。二人は翼の付け根を狙って」
「攻撃が通るのですか?」
「鱗と鱗の間なら、今の二人でも傷を付けられる」
「倒せるとは言っていないな」
「最後は一緒に倒そう」
シグレは一瞬だけ黙り。
《白雨星刀》を抜いた。
「そこまで言うなら、やるしかない」
「はい!」
『来るぞ!』
クロが吠える。
神代竜王が翼を広げ、無数の星光弾を生み出した。
「《星辰魔法・星群支配》!」
リリスが同じ星属性魔法を放つ。
竜王の星光弾へ、自分の星を一つずつ衝突させていく。
空中で無数の爆発が起きた。
その光に紛れ。
「《月狐爆雷刃》!」
フィオナが竜王の右側へ回り込む。
炎と雷を融合した魔剣を、翼の付け根へ叩き込んだ。
金銀の鱗が一枚だけ剥がれる。
『ほう』
竜王の瞳がフィオナへ向く。
圧倒的な殺気。
フィオナの身体が一瞬だけ硬直した。
「フィオナを見ている場合か」
反対側からシグレが迫る。
「《纏刀・白月連閃》!」
白銀の斬撃が、左翼の同じ箇所へ集中する。
一撃。
二撃。
十撃。
百に迫る連撃。
鱗の隙間へ、細い傷が刻まれた。
『小さき者たちよ。よくぞ我が身へ刃を届かせた』
「褒められた?」
「油断するな!」
竜王の尾が迫る。
クロが正面から飛び込んだ。
『《冥獄神牙》!』
巨大な顎が、竜王の尾へ食らいつく。
二体の巨獣が空中で激突し、異界全体が揺れた。
「クロ!」
『我に構うな! 今のうちに行け!』
「うん。《重力魔法》!」
リリスが竜王の周囲へ、百重の重力領域を展開する。
翼の動きが鈍る。
そこへ。
フィオナとシグレが同時に走った。
「《多属性循環・五重》!」
「《纏刀・白月》!」
炎、水、風、雷、氷。
五属性を纏った魔剣。
星光を凝縮した白銀の刀。
二人は、すでに傷つけた両翼の付け根へ同時に斬撃を放った。
「《月狐魔刃・五色天輪》!」
「《白雨奥義・天断》!」
五色の斬撃と白銀の一閃。
竜王の両翼から、金銀の鱗が大量に弾け飛んだ。
巨体が僅かに傾く。
『見事』
だが。
竜王の胸へ、太陽のような光が集まり始めた。
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警告
《神代竜王奥義・創星終焉》
威力制限を突破しつつあります。
異界訓練領域崩壊まで:30秒
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「制限を突破するの!?」
『我が力を受け止めてみせよ、召喚者!』
「フィオナ、シグレ、クロ! 私の後ろへ!」
三人が集まる。
リリスは一歩前へ出た。
黒髪が激しい魔力に煽られる。
「《空間固定》」
異界全体の空間を固定する。
「《因果遮断》」
攻撃が外界へ及ぼす因果を切断。
「《時間遅延耐性》《全属性吸収》《守護領域展開》」
そして。
右手を前へ伸ばす。
「《魔法現象保存》」
竜王の胸から放たれた光。
星を生み。
同時に星を滅ぼす。
相反する力を凝縮した神代の奥義。
そのすべてが、リリスへ向けて放たれた。
世界が白く染まる。
「《虚空魔法・無限吸界》!」
リリスの前へ、真っ黒な球体が生まれた。
終焉の光が吸い込まれていく。
だが。
黒い球体の表面へ亀裂が走る。
「師匠!」
「まだ……大丈夫!」
通常換算、十二億五千万AP相当の能力。
新たに取得した百四十種類のスキル。
そのすべてを同時に制御する。
「《超越技能統合制御》!」
割れかけていた虚空が安定する。
終焉の光が完全に吸収され。
《魔法現象保存》の内部へ封印された。
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《神代竜王奥義・創星終焉》を保存しました。
再使用可能回数:1
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「今度はこちらの番」
リリスが右手を握る。
「フィオナ、シグレ。もう一度、翼を」
「はい!」
「任せろ!」
『我が動きを止める!』
クロの影が無数の鎖となり、竜王の四肢と翼へ絡みつく。
フィオナとシグレが両側から斬り込む。
そして。
両翼が大きく下がった瞬間。
竜王の胸元にある、白金色の逆鱗が露出した。
「《天涯瞬歩》」
リリスは、その真正面へ移動する。
右手には、魔力で作られた一本の長剣。
「《魔力刃成形》《絶対軌道補正》」
刀身へ、先ほど保存した竜王自身の奥義を纏わせる。
「《破界一閃》」
リリスの斬撃が。
白金色の逆鱗へ触れた。
音はなかった。
衝撃もなかった。
ただ。
神代竜王の胸を覆う光だけが、静かに二つへ分かれた。
『見事なり』
竜王の巨体が、金色の粒子へ変わり始める。
『小さき召喚者よ。汝の力、我が魂に刻もう』
「また戦ってくれる?」
『次は、訓練では済まぬぞ』
「楽しみにしてる」
『面白き者よ』
最後に。
神代竜王は、クロ、フィオナ、シグレへ視線を向けた。
『汝らもまた、見事であった』
その言葉を残し。
百二十メートルの巨体は、星の光となって消えた。
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《神代竜王アウレグラム》を撃破しました。
経験値を獲得しました。
APを獲得しました。
SPを獲得しました。
《宝箱確定出現》が発動しました。
《素材獲得十倍》が発動しました。
《超ドロップ率上昇》が発動しました。
《超希少品出現率上昇》が発動しました。
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◇◇◇
崩壊していた異界訓練領域が、自動修復によって元の姿へ戻っていく。
リリスは空から降り立った。
「倒せたね」
「死ぬかと思った……」
フィオナがその場へ座り込む。
「致命傷は無効化されていたはずだ」
シグレも刀を杖代わりにして立っていた。
「それでも、死ぬと思うほど恐ろしかったという意味だ」
『我も同意する』
クロが元の大型犬ほどの姿へ縮小する。
『あれを余裕と呼ぶなら、お前の感覚は完全に壊れている』
「余裕ではなかったよ」
『本当か』
「最後の攻撃は、少し焦った」
「少し……」
フィオナとシグレが、同時に呟いた。
リリスは獲得素材を確認する。
━━━━━━━━━━
【新規素材登録】
88 神代竜王の天鱗
神代竜王の全身を覆っていた金銀色の鱗。
神性、星属性、空間属性に極めて高い耐性を持つ。
89 神代竜王の逆鱗
竜王の力が集中する白金色の逆鱗。
神格武装、成長装備、竜王薬の核素材。
90 神代竜王の神骨
神代から蓄積された神力を宿す骨。
超大型武装、城塞、神域建築へ使用可能。
91 神代竜王の極大牙
あらゆる結界と空間を噛み砕く竜牙。
剣、槍、矢尻、魔導砲の素材に適する。
92 神代竜王の虹翼膜
七属性と星属性を受け流す六翼の膜。
飛行装備、結界布、空間帆の製作に使用可能。
93 神代竜王の神血
生命力と神力が凝縮された竜血。
神薬、竜化薬、超位強化薬の素材。
94 神代竜王の心核
神代竜王の魔力と魂の記録を宿す心核。
神格魔導具、迷宮管理核、人工生命核へ使用可能。
95 神代竜王の時空角
時間と空間の力を蓄えた白金色の角。
転移門、時間制御装置、異界航行装置に使用可能。
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現在確認済み累計:95種類
━━━━━━━━━━
さらに。
リリスの前へ、白と金で作られた巨大な宝箱が現れる。
━━━━━━━━━━
《神の宝箱》
獲得品
・《神代竜王の契約片》×1
・《神竜星鎧設計書》×1
・《異界神格召喚触媒》×3
・神金貨×10
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「異界神格召喚触媒……」
『見るな』
「異世界の神格存在を召喚できるみたい」
『説明するな』
「今の竜王より強いのかな」
『試そうとするな』
リリスは召喚一覧を開いた。
「一度、見るだけ」
「召喚するなよ」
シグレが強く言う。
「見るだけだよ」
━━━━━━━━━━
《異界神格召喚》
検索条件を入力してください。
━━━━━━━━━━
「戦闘可能」
「なぜ戦闘可能を入れる」
「人型」
「なぜ体格を絞る」
「巨大すぎると、戦いにくいから」
『今すぐ一覧を閉じろ』
「大きさは、人間と同じくらい」
━━━━━━━━━━
検索結果:1件
名称:解析不能
種族:異界邪神
形状:人型
推定身長:168センチメートル
危険度:測定不能
レベル:測定不能
能力:解析不能
世界破壊可能性:あり
召喚非推奨
警告内容の続きを読む
━━━━━━━━━━
「人の大きさなら、なんとかなるかも」
『大きさで判断するな!』
「さっきの竜王を倒せたから、一回くらい――」
「師匠!」
「召喚」
決定した瞬間。
それまで正常に戻りつつあった異界訓練領域から。
色が消えた。
音が消えた。
重力の向きが分からなくなり。
空に浮かんでいた星々が、一斉に黒く染まった。
「……え?」
召喚陣は小さい。
直径二メートルほどしかない。
その中心に。
人間と変わらない大きさの何かが、立っていた。
細い手足。
白とも灰色とも判別できない肌。
長い黒髪。
顔の上半分を覆う、ひび割れた仮面。
纏っている衣は、光ではなく周囲の色を吸い込んでいる。
ただ立っているだけなのに。
フィオナとシグレの呼吸が止まった。
クロの毛が逆立つ。
リリスの《神域鑑定》へ、赤黒い文字が浮かぶ。
━━━━━━━━━━
解析失敗。
解析失敗。
解析失敗。
対象の存在階位が鑑定限界を超過しています。
一部情報を強制表示します。
━━━━━━━━━━
名称:■■■■■■■■
分類:異界邪神
存在階位:測定不能
危険度:測定不能
敵対性:不明
召喚契約:侵食されています
強制送還術式:干渉を受けています
世界干渉制限:突破されつつあります
━━━━━━━━━━
「……これは」
リリスの頬を、一筋の汗が伝う。
神代竜王を前にした時でさえ感じなかった。
本能から湧き上がる、明確な危機感。
「ちょっと……調子に乗っちゃったかも」
『ちょっとではない!』
クロが瞬時に本来の巨体へ戻る。
フィオナとシグレを庇うように前へ立ち、金色の瞳で邪神を睨みつけた。
人型の邪神が。
ゆっくりと顔を上げる。
仮面の奥。
本来ならば目が存在する場所へ、紫黒色の亀裂が開いた。
「――イェル・ナァグ、ヴェル=シア。オル・メゼク、ナ・ファル……」
言葉。
祈り。
金属が擦れる音。
何百もの獣が同時に呻く声。
それらが重なった謎の言語が、異界全体へ響いた。
━━━━━━━━━━
《万象解析》を実行。
翻訳失敗。
《世界記録接続》を実行。
該当言語記録:なし。
《霊魂魔法》による意味解析を開始。
解析率:3%
━━━━━━━━━━
邪神の顔が。
フィオナとシグレへ向いた。
次の瞬間。
二人の魂を消し去るためだけの殺意が、世界そのものを歪ませた。




