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第七十二話 能力再構築



 新たな百種類の上位スキル。


 さらに、上昇系、減少系、必要量圧縮系を含む二十八種類の特殊上位スキル。


 合計百二十八種類。


 そのすべてをLv.MAXまで強化した後も。


 リリスは、地下工房に浮かぶ能力画面を閉じようとはしなかった。


「まだ何か探しているのですか?」


 フィオナが尋ねる。


 大きな狐耳は少しだけ後ろへ傾いていた。


 百二十八種類ものスキルを一度に取得した直後である。


 普通ならば、能力を確かめるだけで数日掛かってもおかしくない。


「今のうちに、取っておいた方がいいスキルがあるかもしれないから」


「もう十分ではないか?」


 シグレが腕を組む。


「必要経験値も、必要APも、必要SPも百分の一になったのだろう」


「うん」


「それ以上、何が必要なのだ」


「振り分けを間違えた時に、やり直せるスキルとか」


 シグレが一瞬、言葉を失う。


『今までに振ったポイントを、すべてやり直すつもりか』


「まだ決めてないよ」


『その顔は、すでにやると決めている顔だ』


 黒い首布を巻いたクロが、床へ伏せたまま念話を送る。


「念のために調べるだけ」


『念のためで終わったことが、今まで何度あった』


「覚えてない」


『一度もないからだ』


 リリスはクロの指摘を聞き流し、《万象解析》を発動した。


━━━━━━━━━━


追加特殊スキル検索


検索条件


・能力配分の初期化


・使用ポイントの返還


・再振り分け


・成長損失防止


・ポイント管理


・能力上限解放


・多数技能の統合


検索結果:12種類


━━━━━━━━━━


「十二種類あった」


「本当に見つけるのですね……」


 フィオナの尻尾が、少しだけ力なく下がった。


◇◇◇


━━━━━━━━━━


【能力再構築系特殊スキル】


01 《能力再構築》


AP、SP、職業ポイント、技能ポイントなどの配分を、安全に初期状態へ戻す。


レベル、記憶、経験、職業ジョブは失われない。


02 《使用ポイント完全返還》


過去に使用したAP、SPおよび各種ポイントを、損失なく全額返還する。


返還手数料、減衰、上限は存在しない。


03 《再振分最適化》


現在の能力、職業、装備、戦闘方法、将来計画に応じ、最適なポイント配分案を算出する。


04 《全能力均衡補正》


特定の能力だけが不足しないよう、全能力の成長と配分を補助する。


05 《成長値損失無効》


能力再配分、転職、進化、装備変更などで生じる成長値の損失を完全に防ぐ。


06 《ポイント永久保存》


未使用のAP、SP、特殊ポイントを、上限なく永久保存する。


07 《ポイント相互変換》


APとSPを相互に変換する。


Lv.MAX時、変換損失を最小化する。


08 《ポイント獲得履歴再計算》


過去のレベルアップ、討伐、依頼、技能成長を再解析し、現在の獲得量補正を基準に不足分を算出する。


不足分は補填ポイントとして一度だけ獲得できる。


09 《ステータス上限超越》


すべての能力値上限を撤廃する。


《限界突破》と重複し、上限到達後も継続成長する。


10 《技能枠上限撤廃》


取得可能スキル数、常時発動数、同時使用数の上限を撤廃する。


11 《常時効果統合》


多数の上昇、減少、耐性、補助スキルを競合させず、同時に常時発動する。


12 《配分結果未来演算》


AP、SPを配分した場合の能力、戦闘力、生産力、成長効率への影響を事前に演算する。


━━━━━━━━━━


「全部便利そう」


「また全部取るつもりですね」


「うん」


 リリスは迷うことなく頷いた。


「《必要SP百分之一》があるから、一種類百SPで取れるよ」


「価格の問題ではない」


 シグレが即座に返す。


「特に、《ポイント獲得履歴再計算》という技能が危険に見える」


『過去に得たはずのポイントを、現在の補正で再計算するのだろう』


「どのくらい増えるかな」


『嬉しそうに言うな』


━━━━━━━━━━


追加特殊スキル:12種類


一種類あたり


新規取得:20SP


Lv.1からLv.MAX:80SP


合計:100SP


総消費SP:1,200


現在SP:487,300


取得後SP:486,100


━━━━━━━━━━


「全部取得。Lv.MAXまで強化」


 決定した瞬間。


 十二個の光球が、リリスの周囲へ出現した。


 白。


 金。


 青。


 銀。


 様々な色を帯びた光が、順番に身体へ吸収されていく。


━━━━━━━━━━


追加特殊スキル12種類を取得しました。


全技能の強化を開始します。


Lv.1



Lv.10



Lv.50



Lv.100



Lv.MAX


━━━━━━━━━━


取得数:12


Lv.MAX到達数:12


消費SP:1,200


残存SP:486,100


現在の新規取得総数:140種類


━━━━━━━━━━


「これで、本当に終わり?」


 フィオナが念を押すように尋ねる。


「……良いこと思いついた」


『やはり終わらなかったか』


 クロが深く息を吐いた。


「何を思いついた」


 シグレの声には、明らかな警戒が混じっている。


「今までに使ったAPとSPを、全部リセットする」


 工房の中へ、沈黙が落ちた。


「全部ですか?」


「うん」


「百種類の上位スキルを取得するために使った百万SPも?」


「それも返ってくる」


「最初に取得した技能も?」


「全部」


 リリスは《必要SP百分之一》の説明を開いた。


「リセットした後、《必要SP百分之一》を最初に取り直す。それから、今までのスキルを全部、百分の一の費用で取り直せばいいんだよ」


『……なるほど』


 クロが珍しく感心したような声を漏らす。


「百万SPを使った百種類も、取り直す時は一万SPで済むのか」


「うん」


「先ほど悔しがっていた九十九万SPも取り戻せるということですね」


「そういうこと」


 フィオナの狐耳が立ち上がる。


 シグレはしばらく考え。


「理屈としては間違っていない」


 小さく頷いた。


「だが、本当に失敗しないのか?」


「《成長値損失無効》と《使用ポイント完全返還》があるから大丈夫」


『その二つも、リセットで失われるのではないか』


「再構築の実行中だけは、保護機能として最後まで残るみたい」


━━━━━━━━━━


《能力再構築》実行確認


対象


・使用済みAP


・使用済みSP


・各種成長ポイント


・ステータス強化履歴


・スキル取得履歴


・スキル強化履歴


維持される情報


・レベル


職業ジョブ


・記憶


・知識


・使用経験


・技能熟練記録


・称号


・加護


・祝福


・固有能力


・装備


・インベントリ


保護技能


《能力再構築》


《使用ポイント完全返還》


《成長値損失無効》


再構築完了後、保護技能も未取得状態へ戻ります。


実行しますか?


━━━━━━━━━━


 リリスは少しだけ考える。


「実行」


 工房の床へ、巨大な魔法陣が広がった。


◇◇◇


 最初に変化したのは、能力画面だった。


 これまで取得してきた無数のスキルが、一つずつ淡い光へ変わる。


 消滅したわけではない。


 技能の名称。


 効果。


 使用経験。


 習得した知識。


 それらは《技能記録保管領域》へ移され、再取得を待つ状態となる。


━━━━━━━━━━


スキル取得状態を初期化します。


《鑑定》Lv.MAX



未取得


《神級錬金術》Lv.MAX



未取得


《万象解析》Lv.MAX



未取得


《限界突破》Lv.MAX



未取得


《必要経験値百分之一》Lv.MAX



未取得


《必要AP百分之一》Lv.MAX



未取得


《必要SP百分之一》Lv.MAX



未取得


━━━━━━━━━━


 リリスの中から、力が一時的に抜けていく。


 だが。


 恐怖はなかった。


 使い方も、感覚も、知識も覚えている。


 ただ、能力として発動できない状態へ戻っただけだ。


 続いて。


 これまでステータスへ振り分けてきたAPが、光の粒となって身体から溢れ出す。


 スキルへ使ったSPも同じ。


 金色と青色の光が、工房の中で巨大な渦を作った。


━━━━━━━━━━


【ポイント返還処理】


過去使用AP:2,500,000


現在保有AP:0


返還後AP:2,500,000


過去使用SP:2,513,900


現在保有SP:486,100


返還後SP:3,000,000


返還損失:0


手数料:0


未返還ポイント:0


━━━━━━━━━━


「ちょうど三百万SP」


「狙ったような数字だな」


「偶然だよ」


『本当か?』


「たぶん」


 さらに。


 新しく取得した《ポイント獲得履歴再計算》が、最後の処理を始める。


━━━━━━━━━━


《ポイント獲得履歴再計算》を実行します。


対象期間


転生時点から現在まで


再計算対象


・レベルアップ


・魔物討伐


・依頼達成


・技能成長


・職業成長


・称号獲得


・迷宮攻略


適用補正


《AP獲得量極大上昇》


《SP獲得量極大上昇》


《熟練度上昇率極大化》


━━━━━━━━━━


 画面の数字が高速で増えていく。


 十万。


 百万。


 五百万。


 そして。


━━━━━━━━━━


【再計算結果】


不足AP:10,000,000


不足SP:12,000,000


補填を実行します。


━━━━━━━━━━


 工房全体が、金と青の光に包まれた。


「眩しい……!」


 フィオナが両目を細める。


 シグレの白銀髪と、クロの黒い毛並みが、激しい魔力の風に揺れる。


 光は数秒で収まり。


 リリスの前へ、最終結果が表示された。


━━━━━━━━━━


【現在保有ポイント】


AP:12,500,000


SP:15,000,000


━━━━━━━━━━


「千二百五十万AP……」


「千五百万SP……」


 フィオナとシグレが、それぞれ呟く。


『使い切れるのか』


「APは全部使うよ」


『聞くのではなかった』


◇◇◇


 ただし。


 現在のリリスは、ほぼすべてのスキルが未取得状態である。


 最初に取り戻すべき能力は、決まっていた。


「《必要SP百分之一》を取得」


━━━━━━━━━━


《必要SP百分之一》


新規取得費用:2,000SP


Lv.1からLv.MAX:8,000SP


合計:10,000SP


取得しますか?


━━━━━━━━━━


「取得して、Lv.MAX」


 金色の光が身体へ吸収される。


━━━━━━━━━━


《必要SP百分之一》Lv.MAX


必要SPを通常の100分の1へ変更しました。


消費SP:10,000


残存SP:14,990,000


━━━━━━━━━━


 その瞬間。


 技能記録保管領域に登録されている、すべての再取得費用が書き換わった。


━━━━━━━━━━


再取得対象スキル:273種類


再取得・最大強化費用


一種類平均:100SP


必要SP:27,300


━━━━━━━━━━


「二万七千三百SPで、全部戻せる」


「百種類だけではないのですね」


「最初に持っていたスキルも、以前取得した百種類も、今回の百四十種類も全部入ってる」


「それほどの技能を、百万にも満たない費用で……」


「百分の一って、すごいね」


『今さら気づいたのか』


「全技能を再取得。全部Lv.MAX」


 リリスが決定する。


 次の瞬間。


 二百七十三個の光が、地下工房へ出現した。


 天井。


 壁。


 床。


 視界を埋め尽くすほどの無数の光球。


 一つ一つが、以前リリスの中に存在していた能力だった。


「多すぎませんか!?」


「数えたら二百七十三個あるよ」


「そういう問題ではありません!」


 光球が、次々とリリスへ吸い込まれていく。


 鑑定。


 索敵。


 剣術。


 弓術以外の既存技能。


 錬金術。


 魔法。


 耐性。


 防御。


 採取。


 生産。


 迷宮管理。


 商業。


 能力再構築。


 そのすべてが、Lv.MAXの状態で再び定着した。


━━━━━━━━━━


全記録スキルの再取得が完了しました。


再取得数:273


Lv.MAX到達数:273


失敗:0


重複:0


消費SP:27,300


━━━━━━━━━━


【SP最終結果】


再構築後SP:15,000,000


《必要SP百分之一》:10,000


全技能再取得:27,300


残存SP:14,962,700


━━━━━━━━━━


「ほとんど減ってない」


 リリスは満足そうに頷いた。


「元々、三百万SPしかなかったのですよね?」


「補填で増えたからね」


「それでも、全技能を戻して三万七千三百しか使っていない」


 シグレは頭が痛そうに額へ手を当てる。


『これから先、SPが不足することはあるのか』


「新しい技能をたくさん見つけたら、あるかも」


『一万種類の素材と同じように、技能も一万個集めるつもりではあるまいな』


「面白そう」


『聞かなかったことにする』


◇◇◇


 最後に残っているのは。


 千二百五十万AP。


「今度はAPだね」


━━━━━━━━━━


《必要AP百分之一》Lv.MAX


ステータス強化に必要なAPを、通常の100分の1へ変更します。


現在AP:12,500,000


━━━━━━━━━━


「全部使うのですか?」


「うん」


「少し残しておかなくてよいのか?」


 シグレが尋ねる。


「ステータスは今必要な分へ全部振った方がいいと思う」


『先ほど取得した《ポイント永久保存》は何のためにある』


「SPを残すため」


『APにも使えるのだが』


 リリスは《再振分最適化》《配分結果未来演算》《全能力均衡補正》を同時に発動した。


 複数の配分案が表示される。


━━━━━━━━━━


【AP配分方針】


主要用途


・戦闘


・錬金術


・装備製作


・素材採取


・迷宮管理


・商会運営


・領地開発


・仲間支援


推奨方針:万能均衡型


重点能力


・魔力


・器用


・精神


・敏捷


・幸運


━━━━━━━━━━


 リリスは表示された案を確認し、少しだけ配分を調整する。


━━━━━━━━━━


【AP最終配分】


筋力:1,500,000AP


耐久:1,500,000AP


敏捷:1,750,000AP


魔力:2,250,000AP


精神:1,750,000AP


器用:2,000,000AP


幸運:1,750,000AP


合計:12,500,000AP


残存AP:0


━━━━━━━━━━


「決定」


 振り分けた瞬間。


 リリスの身体から、凄まじい魔力が溢れ出した。


「師匠!?」


 フィオナが咄嗟に一歩下がる。


 床へ刻まれた防御術式が起動。


 壁の魔導灯が激しく揺れる。


 リリスの黒髪が浮かび。


 黒い瞳の奥へ、金、紫、青、銀の光が重なった。


『抑えろ、リリス!』


「抑えてるよ!」


『それで抑えているのか!』


 《必要AP百分之一》の効果により。


 一ポイント分の能力強化に必要なAPは、通常の百分の一。


 つまり。


 今回振り分けた千二百五十万APは。


 通常換算で、十二億五千万AP相当の成長をもたらしていた。


━━━━━━━━━━


【AP強化結果】


筋力加算値:+150,000,000


耐久加算値:+150,000,000


敏捷加算値:+175,000,000


魔力加算値:+225,000,000


精神加算値:+175,000,000


器用加算値:+200,000,000


幸運加算値:+175,000,000


━━━━━━━━━━


《ステータス上限超越》適用


《限界突破》適用


《全能力極大上昇》適用


《全能力均衡補正》適用


最終能力値:測定上限超過


━━━━━━━━━━


「……測定できない」


「それを嬉しそうに言うな」


 シグレが《白雨星刀》の柄を押さえながら言う。


 リリスの魔力へ反応し、刀が鞘の中で震えていた。


「身体は大丈夫なのですか?」


 フィオナが心配そうに近づく。


「うん。《全能力均衡補正》があるから、力が暴れたりはしないよ」


 リリスは右手を握る。


 開く。


 その動き自体は、以前と変わらない。


 試しに一歩踏み出す。


 床は割れない。


 椅子も壊れない。


 増えた力は《超越技能統合制御》によって完全に制御されていた。


「普通に動ける」


『普通という言葉の意味が分からなくなってきたな』


「戦う時だけ、必要な分を出せるよ」


「本当に必要な分だけにしろ」


 シグレが真剣な表情で念を押す。


「今のお前が全力で刀を振ったら、王都ごと消えかねない」


「結界の中で試すよ」


『試すつもりなのか』


「一度くらいは確認しないと」


『王都の外でもやめておけ』


◇◇◇


 リリスは、再構築後の能力画面を確認した。


━━━━━━━━━━


リリス・ルクスヴィア


能力再構築:完了


保有AP:0


保有SP:14,962,700


取得済みスキル:273種類


Lv.MAX:272種類


自然成長中


《弓術》Lv6


ステータス上限:なし


スキル所持上限:なし


常時発動上限:なし


必要経験値:通常の100分の1


必要AP:通常の100分の1


必要SP:通常の100分の1


総合戦闘能力:測定不能


総合生産能力:測定不能


総合成長効率:測定不能


━━━━━━━━━━


「弓術だけは、そのままなのですね」


「うん。弓術は実際に使って育てたいから」


「ほかの能力をすべて最大にしておきながら、そこだけ拘るのか」


「好きな技能だからね」


 リリスは能力画面を閉じた。


 過去に使ったAPとSP。


 そのすべてを取り戻し。


 必要量を百分の一にしたうえで、全技能を取得し直した。


 APは全額使用。


 SPは大量に残っている。


 戦闘。


 採取。


 製作。


 錬金。


 商会。


 領地。


 人工ダンジョン。


 これから何を始めても対応できるよう、自分の力を整理した。


「これで、今度こそ終わり」


『本当か』


「たぶん」


『やはり信用できん』


「次は召喚訓練ですね」


 フィオナが苦笑する。


「最初は弱い魔物一体だけにするんだな?」


 シグレも念を押す。


「うん。ゴブリン一体くらい」


『その一体を消し飛ばすなよ』


「力を抑える練習にもなるね」


『そういう問題ではない』


 地下工房へ、クロの呆れた声が響く。


 能力再構築。


 全ポイント返還。


 全技能再取得。


 そして、千二百五十万APの完全振り分け。


 リリス・ルクスヴィアはこの日。


 これまで積み重ねてきた力を失うことなく。


 より無駄がなく。


 より成長しやすく。


 そして、以前とは比較にならないほど強力な存在へと生まれ変わった。

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