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第五十四話 魔王魔法使い、初めての実戦訓練



 新しい魔王武装を完成させた日の午後。


 私はアル、ノルン、ヴァルカ、クロと一緒に、王都からかなり離れた場所まで移動していた。


 目的はもちろん、新しい魔法の試し撃ち。


 ただし、昨日の戦争で地形を変えたばかりなので、今回はかなり慎重に場所を選んだ。


━━━━━━━━━━


《超広域索敵》


《広域生命感知》


《超広域魔力感知》


《地形完全把握》


━━━━━━━━━━


 王都から遠く離れた内陸部。


 村も街も街道もなく、周辺数十キロに人の生命反応が存在しない岩石荒野を選んだ。


 魔物はいくらかいるけれど、ほとんどが低ランク。


 試射地点からは十分に離れている。


「ここなら大丈夫そう」


『本当に大丈夫なのだろうな?』


「三回確認したよ」


『お前の場合、三回確認しても威力の方が想定を超える』


「今日は加減する」


『その言葉を信用していいのか迷うな……』


 アルは《剛魔城塞大楯》を背負ったまま周囲を見渡した。


 ノルンとクロは大きな岩の上でこちらを眺め、ヴァルカは上空を旋回している。


 念のため、私はさらに防御を追加することにした。


「《絶対魔王領域》」


 黒紫色の魔法陣が私を中心に広がる。


 直径数キロ程度で止める。


 本気ならもっと広げられるけれど、今日は訓練なので必要ない。


━━━━━━━━━━


《絶対魔王領域》Lv100


展開


━━━━━━━━━━


領域内効果:


魔力完全把握


敵味方識別


魔法威力制御


魔力余波制御


空間安定化


味方保護


敵対魔力弱体化


━━━━━━━━━━


『……訓練場をその場で作ったようなものか』


「便利でしょ?」


『便利という言葉の範囲がどんどん広くなっているな』


◇◇◇


 まずは通常の魔法使い装備。


「《魔王武装召喚》」


 黒紫色の粒子が身体を包み込む。


━━━━━━━━━━


冥王黒装(ノクス・デモンローブ)


SSS(ランク)


《魔王級》


━━━━━━━━━━


冥王黒面(ノクス・デモンマスク)


SSS(ランク)


《魔王級》


━━━━━━━━━━


冥王魔杖ノクス・デモンスタッフ


SSS(ランク)


《魔王級》


━━━━━━━━━━


 長い黒衣。


 深いフード。


 顔を覆う黒い仮面。


 右手には黒銀色の長杖。


 魔王としての気配は《魔王存在隠蔽》で完全に抑えているため、外から見れば少し怪しい黒衣の魔法使いくらいだと思う。


『“少し”ではないな』


「まだ何も言ってないよ」


『表情は見えないが、何を考えたかくらい分かる』


「アルも成長したね」


『お前への対応だけはな』


 まずは新しく得た魔王魔法の中でも、比較的分かりやすそうなものを使う。


 遠方にある高さ二十メートルほどの巨岩へ杖を向けた。


「《魔王黒炎》」


 杖先に黒紫色の炎が生まれる。


 直径は三十センチ程度。


 今回は本当に小さくした。


 軽く放つ。


 黒炎は音もなく一直線に飛び――巨岩へ触れた。


 ボッ。


 爆発はしない。


 代わりに、巨岩の中央だけが黒い炎に包まれた。


 数秒後。


「……消えた」


『岩がな』


 炎ではない。


 巨岩の上半分そのものがなくなっていた。


━━━━━━━━━━


《魔王黒炎》


効果確認:


物質燃焼


魔力燃焼


障壁侵食


継続消滅


━━━━━━━━━━


「普通の火魔法と違う」


『それは見れば分かる』


「燃やすというより、魔力ごと削ってるみたい」


『その威力で“比較的分かりやすい魔法”なのか?』


「たぶん」


『先が不安になってきた』


◇◇◇


 次は雷。


「《魔王黒雷》」


 今度は杖の周囲に黒紫色の雷光が走った。


 普通の雷魔法より音が低い。


 少し離れた岩山の一部を照準する。


 威力は一パーセント以下。


「発射」


 ズガァァァァン!


 落雷。


 岩山の一角が弾け飛び、そこから黒紫色の雷が蜘蛛の巣のように周囲へ広がった。


 私はすぐに《魔力完全制御》で拡散を止める。


「強い」


『一パーセント以下だったな?』


「うん」


『……魔王になってから、さらに加減が難しくなっていないか?』


「魔力そのものが変わったからかも」


 以前なら同じ量の魔力を込めても、ここまで威力は出なかった。


 今の私には《魔王魔力炉》と《魔王魔力極大化》がある。


 さらにSSSランクの《冥王魔杖》まで重なっている。


 魔法使いとしてはかなり扱いやすいけれど、出力だけは今まで以上に慎重に調整する必要がありそうだ。


◇◇◇


「次、空間魔法」


『待て。嫌な予感しかしない』


「《魔界空間》」


 杖先から黒紫色の波紋が広がった。


 指定範囲は直径十メートル。


 領域内だけ空間そのものの性質が変化する。


━━━━━━━━━━


《魔界空間》


指定領域展開


━━━━━━━━━━


効果:


空間支配


転移阻害


移動制限


魔法座標固定


重力制御補助


━━━━━━━━━━


「ここに《魔界重力》」


『重ねるのか!?』


「相性よさそうだから」


 黒紫色の空間が一瞬歪む。


 次の瞬間。


 ズンッ!


 直径十メートルの円形範囲だけが、一気に地面へ沈み込んだ。


 岩石が圧縮され、中心には綺麗な円形の窪みができる。


「おお」


『感心するな』


「これ、敵だけ重くすることもできる」


『なら最初から地面を潰す必要はなかったのでは?』


「実験だから」


 アルがため息をついた。


◇◇◇


 その後も、私はいくつかの魔法を試した。


《冥氷魔法》では黒銀色の氷が岩場を覆い、ただ凍らせるだけでなく内部の魔力まで停止させた。


《深淵魔法》は魔力や物質を吸い込む性質があり、制御を間違えると危なそうなので早めに解除。


《暗黒星魔法》では小さな黒紫色の星を三つ生成したものの、周辺の魔力を勝手に吸収し始めたため、これもすぐに消した。


「面白い魔法いっぱいある」


『危険な魔法の間違いだろう』


「ちゃんと制御できるよ」


『今二つほど慌てて消していただろう』


「初めてだから」


『それを聞いて安心できると思うか?』


 でも魔法そのものは楽しい。


 弓を構え、距離と風を読み、一射で仕留める戦いも好きだった。


 剣で近距離を戦うのも嫌いではない。


 ただ、魔法は自由度が高い。


 火力だけではなく、防御、移動、拘束、支援、空間制御までできる。


 今の私にはかなり合っている気がした。


◇◇◇


「次はこれ」


━━━━━━━━━━


星天墜界(アストラル・メテオ)


Lv100


━━━━━━━━━━


『待て』


「まだ撃ってないよ」


『名前からして駄目だ!』


「小さくする」


『どれくらいだ?』


「一個」


『数の問題ではない!』


 アルが本気で止めようとしてくる。


 なので今回は、さらに制御系技能を重ねることにした。


━━━━━━━━━━


《超魔法演算領域》


《魔法完全追尾》


《魔力完全制御》


《魔法余波抑制》


《魔王魔力圧縮》


《領域圧縮》


━━━━━━━━━━


 標的は五キロ先の小さな岩山。


「出力〇・〇一パーセント」


『そこまで落とすのか』


「前より強くなってるから」


『その判断は正しい』


 杖を空へ掲げる。


「《星天墜界》」


 空に直径数メートルの魔法陣が開いた。


 そこから落ちてきたのは、一メートルにも満たない白銀と黒紫の小さな星。


 見た目は可愛い。


『……嫌な予感がする』


 高速落下。


 五キロ先。


 着弾。


 ドォォォォォォォン――!


 地平線近くで巨大な光が膨らんだ。


 少し遅れて衝撃波が届く。


 《絶対魔王領域》が余波を吸収したため、こちらにはほとんど影響がない。


 煙が晴れる。


 岩山。


 なくなっていた。


「〇・〇一パーセントなのに」


『……』


「アル?」


『私はもう驚かん』


「本当?」


『嘘だ』


 よかった。


 まだ普通だった。


◇◇◇


 ノルンたちの方を見る。


「ウォン……」


 ノルンが少しだけ耳を伏せている。


『リリス』


 クロが静かに口を開いた。


『今の技を我々の近くで使うのは禁止した方がよい』


「使わないよ」


『その言葉は信用しよう』


 ヴァルカも上空から戻ってきた。


「グルル……」


「ヴァルカも怖かった?」


「グオッ」


『“怖くはないが近くでは撃つな”と言っているな』


「アル、ヴァルカの言葉かなり分かるようになったね」


『騎乗して長いからな』


 それなら問題ない。


◇◇◇


「最後に鎧も試す」


『まだやるのか』


「装着確認だけ」


 魔法使い装備を収納する。


 そして。


「《魔王鎧装》」


 黒紫色の魔力が全身を包む。


 脚部から順にSSSランクの装甲が形成され、胸、肩、腕、最後に二本角を備えた兜が出現した。


━━━━━━━━━━


黒紫魔皇鎧装ルクスヴィア・レガリア


装着完了


━━━━━━━━━━


 背中へ黒紫の長いマント。


 中央には六枚の魔翼と黒紫星、王冠を組み合わせた《ルクスヴィア魔王紋》。


 さらに。


「《魔王覚醒》」


『待て、本当にそこまで――』


 六枚の黒紫色の魔力翼が展開された。


 瞳の奥が紫紅色に輝き、鎧の各部に刻まれた魔紋へ黒紫銀の光が走る。


━━━━━━━━━━


《魔王覚醒形態》


《黒紫魔皇鎧装》


完全同調


━━━━━━━━━━


「……いい」


『自分では顔が見えないだろう』


「雰囲気で分かる」


 右手を横へ伸ばす。


「《魔王武装召喚》」


━━━━━━━━━━


黒星魔皇大剣(ノクス・レクイエム)


召喚


━━━━━━━━━━


 左手。


━━━━━━━━━━


紫冥魔皇大剣(アビス・レクイエム)


召喚


━━━━━━━━━━


 二本の巨大な魔皇大剣を構える。


 鎧との同調によって、驚くほど軽い。


『魔法使いの姿では完全になくなったな』


「これは決戦用だから」


 試しに数十メートル先の岩へ《ノクス・レクイエム》を振る。


 接触はさせない。


 ただの素振り。


 黒紫色の斬撃が飛び、岩だけでなくその後方の岩壁まで一直線に切断した。


「……強い」


『分かったから二本同時には振るなよ』


「分かった」


 次。


『まさか』


「大弓」


『やはりか』


 二本の大剣を収納。


 代わりに呼び出す。


━━━━━━━━━━


冥天魔皇大弓(ノクス・アストラル)


SSS(ランク)


《魔王級》


━━━━━━━━━━


 黒紫の巨大な弓を構える。


 《弓王》の技能が反応し、視界に複数の照準線が現れた。


━━━━━━━━━━


《弓王能力増幅》


《多重照準》


《弾道完全補正》


《魔王鎧装完全連動》


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「懐かしい感じ」


『数日前まで使っていただろう』


「でも今は魔法使いだから」


『まだ三日も経っていないぞ』


 弦を引く。


 生成するのは、極端に出力を落とした魔王魔力矢。


「三十キロ先の岩」


『見えているのか?』


「見えてる」


 《魔王眼》《遠視》《弱点看破》《超感覚》。


 全部が重なる。


「発射」


 手を離す。


 音が消えた。


 一瞬後。


 遥か彼方。


 狙った岩だけが粉砕される。


━━━━━━━━━━


命中距離:


30.18km


━━━━━━━━━━


誤差:


0.00m


━━━━━━━━━━


「当たった」


『お前の弓は休んでいても腕が落ちそうにないな』


「弓王だから」


 大弓を収納する。


 これで十分。


 《ノクス・アストラル》は普段使わない。


 でも、本当に遠距離から一撃で仕留める必要がある時には使える。


◇◇◇


 私は魔王鎧装も解除し、いつもの姿へ戻った。


「今日の訓練終わり」


『珍しく自分から終わったな』


「色々分かったから」


 魔王魔法は想像以上に強い。


 魔法使い装備も問題なし。


 魔王鎧装は近接でも魔法でも使える。


 大魔弓も正常。


 次の冒険から、本格的に魔法使いとして戦える。


「帰ろう」


『賛成だ』


 《転移》を発動しようとした、その時だった。


「……ん?」


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《超広域魔力感知》


反応検出


━━━━━━━━━━


方角:


南西


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距離:


約68km


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高密度魔力反応:


1


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「誰かいる」


『魔物か?』


「違うみたい」


 魔力の質が、人族とも魔物とも少し違う。


 私が覚醒形態になった直後から、こちらへ真っ直ぐ向かってきている。


 しかも速い。


━━━━━━━━━━


対象速度:


高速接近中


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魔力属性:


魔族系統


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「魔族?」


 アルが武器へ手を伸ばす。


『敵意は?』


「ない」


 《敵意完全感知》にも反応しない。


 むしろ――。


「なんか、すごく急いでる」


『なら待ってみるか?』


「うん」


 数分後。


 南西の空に、小さな黒い影が見えた。


 急速に大きくなる。


 人型。


 黒い翼。


 やがて私たちの上空まで到達すると、その人物は勢いよく地上へ降り立った。


 黒紫色の長髪。


 額には小さな角。


 背中には一対の黒翼。


 見た目は若い女性だった。


━━━━━━━━━━


《鑑定》


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ルシエラ・ノクティス


種族:


《黒翼魔族》


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職業(ジョブ)


《魔将》


━━━━━━━━━━


 女性は私を見つける。


 そして。


 その場で片膝をついた。


「ようやく……見つけました」


「?」


 顔を上げたルシエラさんの瞳には、はっきりとした喜びが浮かんでいた。


「この圧倒的な魔王の魔力……間違いありません」


 嫌な予感。


 隣でアルが私を見る。


『リリス』


「まだ何もしてないよ」


『今日はもう十分している』


 ルシエラさんは胸へ手を当て、深く頭を下げた。


「我が名はルシエラ・ノクティス。魔族の将たる者」


 そして。


「世界に新たなる魔王が誕生したことを感じ、この地まで参りました」


 一呼吸。


「どうか、このルシエラを御身の配下にお加えください――魔王様」


「……様はいらない」


『そこが最初に気になるのか!?』

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