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第五十二話 世界唯一の魔王ルクスヴィア



 視界が黒紫色の光で埋め尽くされた。


 《魔王因子核》から溢れた魔力は私の身体へ完全に溶け込み、今まで使っていた魔力とは違う、重く濃密な力が全身を駆け巡っていく。


 痛みはない。


 むしろ不思議なくらい身体に馴染んでいた。


『リリス! 意識はあるか!?』


「あるよ」


『本当に大丈夫なのか!?』


「たぶん」


『そこで“たぶん”を使うな!』


 アルの声を聞きながら、自分の手を見る。


 白い肌には黒紫色の細い魔紋が浮かび、指先からは淡い紫黒の魔力が炎のように揺れている。


 さらに頭の奥で何かが切り替わった。


━━━━━━━━━━


新規魔王種構築完了


━━━━━━━━━━


《人族》



《|魔王種ルクスヴィア》


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個体名:


リリス・ルクスヴィア


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世界存在数:


1


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固有指定:


《世界唯一の魔王》


━━━━━━━━━━


「……本当に魔王になった」


『自分でYESを押したのだろう!』


「押したけど」


『なら驚くな!』


 そう言われても、実際に表示されると少し違う。


 さらに変化は続いた。


 額の左右から、黒紫色の結晶を思わせる二本の魔角がゆっくりと伸びる。


 黒髪そのものは変わっていない。ただし瞳は黒から紫紅色へ変化し、虹彩の奥には淡い魔法陣のような紋様が浮かんでいた。


 背中からは六枚の巨大な魔力翼が展開される。


 鳥の翼ではない。


 黒紫色の魔力だけで形成された半透明の翼で、縁には星のような銀色の光が流れていた。


 身体を覆う魔力も、ヴォルガンのような赤黒く濁ったものではない。


 黒。


 紫。


 銀。


 三色の魔力が静かに混ざり合い、私を中心に円を描くように循環している。


━━━━━━━━━━


《魔王覚醒形態》


自動発現


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魔力出力:


大幅上昇


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魔法威力:


極大上昇


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全属性適性:


維持


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魔王属性:


新規獲得


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聖属性適性:


維持


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「聖属性も消えてない」


『そこが一番おかしいだろう!』


 アルが私を見ながら頭を抱えた。


『《真の勇者》が魔王になるなど、普通なら完全に矛盾しているぞ!』


「両方使えるみたい」


『便利そうに言うな!』


 でも、表示上は本当にそうなっている。


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特殊適合確認


《真の勇者》


《魔王種ルクスヴィア》


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競合:


なし


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特殊共存成立


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《聖魔共存》


獲得


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「共存した」


『するのか……』


 アルも諦め始めている。


◇◇◇


 私は念のため、自分の精神状態も調べた。


「《万象解析》」


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人格状態:


正常


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精神侵食:


0%


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魔王因子汚染:


0%


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支配衝動:


なし


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破壊衝動:


なし


━━━━━━━━━━


自我維持率:


100%


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「普通」


『見た目以外はな』


「そんなに変?」


『鏡を見ろ』


 アルに言われて、部屋の姿見の前へ移動する。


「……おお」


 これは。


 かなり魔王。


 紫紅色に発光する瞳。


 額の黒紫の魔角。


 肌の一部に浮かぶ魔王紋。


 背中には六枚の巨大な黒紫の魔力翼。


 さらに何もしていないのに、足元には薄い黒銀色の魔法陣まで浮かんでいる。


 ヴォルガンのような怪物っぽさはないけれど、どう見ても普通の人族ではない。


「格好いい」


『感想がそれなのか!?』


「うん」


『少しは今後のことを心配しろ!』


「元に戻れるか調べる」


『それを最初にやれ!』


◇◇◇


 新しい種族能力を確認する。


━━━━━━━━━━


《魔王種ルクスヴィア》


固有種族特性


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《魔王覚醒》


《魔王形態制御》


《魔王魔力炉》


《魔王因子完全制御》


《聖魔共存》


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「《魔王形態制御》」


 意識を通常の自分へ戻すように集中する。


 すると六枚の魔力翼が光の粒子になって消え、頭の魔角も身体へ溶け込むように消失した。


 紫紅色だった瞳も、ゆっくり元の黒へ戻る。


 魔紋も消えた。


 数秒後。


 姿見の中には、いつもの黒髪と黒い瞳の私がいた。


「戻った」


『……本当に戻ったな』


 アルが近づいて、私の頭を見る。


『角もない』


「触る?」


『いや、必要ない』


 ステータスを確認する。


━━━━━━━━━━


リリス・ルクスヴィア


種族:


《魔王種ルクスヴィア》


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外見形態:


通常形態


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《魔王覚醒形態》


任意切替可能


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「見た目が戻っても種族は魔王のまま」


『つまり普段は今まで通り生活できるわけか』


「うん」


『……まだ救いがあるな』


「何でそんな疲れてるの?」


『誰のせいだと思っている』


 たぶん私。


◇◇◇


 そこで。


 机の上に置いていた《魔王秘宝珠》が突然浮かび上がった。


「ん?」


『今度は何だ!?』


━━━━━━━━━━


魔王秘宝珠デモン・レガリア・オーブ


適合対象確認


━━━━━━━━━━


対象:


《魔王種ルクスヴィア》


━━━━━━━━━━


適合率:


100%


━━━━━━━━━━


使用条件を満たしました。


━━━━━━━━━━


 黒紫色の宝珠が私の方へ飛んでくる。


 手を伸ばすと、触れた瞬間に光へ変わった。


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《魔王秘宝珠》


融合開始


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魔王権能拡張


魔王技能群解放


魔王武装機能解放


魔王領域機能解放


━━━━━━━━━━


 そして。


━━━━━━━━━━


《魔王種ルクスヴィア》


専用技能群解放


━━━━━━━━━━


新規取得可能技能:


100


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「百個」


『……またか』


「真の勇者も百個だった」


『知っている。昨日見た』


「魔王も全部取ろう」


『止めても取るのだろう』


「うん」


『なら好きにしろ……』


 アルの諦めが早くなった。


「全部取得」


━━━━━━━━━━


《魔王種ルクスヴィア》


専用技能


一括取得開始


━━━━━━━━━━


【魔王権能】


《魔王威光》

《魔王覇気》

《魔王心核》

《魔王覚醒》

《魔王超越》

《魔王共鳴》

《魔王統率》

《魔王因子支配》

《魔王祝福》

《魔王領域》


【魔王魔力】


《魔王魔力生成》

《魔王魔力圧縮》

《魔王魔力収束》

《魔王魔力増幅》

《魔王魔力循環》

《魔王魔力回収》

《魔王魔力再生》

《魔王魔力放出》

《魔王魔力同調》

《魔王魔力極大化》


【闇・虚無魔法】


《魔王黒炎》

《魔王黒雷》

《冥氷魔法》

《深淵魔法》

《虚無魔法》

《暗黒星魔法》

《魔界重力》

《魔界空間》

《深淵崩壊》

《終焉黒界》


【魔王領域】


《魔王結界》

《魔王魔域》

《魔力領域支配》

《空間領域支配》

《領域拡張》

《領域圧縮》

《領域重層化》

《敵対弱体領域》

《味方強化領域》

《絶対魔王領域》


【防御・再生】


《魔王障壁》

《魔王多層障壁》

《魔王装甲》

《魔力衝撃無効》

《魔法被害吸収》

《属性被害軽減》

《魔王超再生》

《魔王生命再生》

《魔力再生加速》

《魔王不滅》


【移動・飛翔】


《魔王飛翔》

《六翼制御》

《空間踏破》

《魔王瞬動》

《魔王転移》

《魔王連続転移》

《虚空歩行》

《慣性完全制御》

《超空中機動》

《魔界門》


【感知・隠蔽】


《魔王感知》

《魂魄感知》

《超広域魔力感知》

《敵意完全感知》

《魔王眼》

《魔力完全隠蔽》

《魔王気配遮断》

《魔王存在隠蔽》

《鑑定妨害》

《鑑定完全無効》


【契約・眷属】


《魔王念話》

《広域魔王念話》

《眷属契約》

《眷属加護》

《眷属成長補助》

《眷属魔力共有》

《眷属位置共有》

《眷属転移》

《眷属守護》

《魔王軍勢強化》


【魔王武装】


魔王武装創造(デモン・アーセナル)

《魔王鎧装》

《魔王武装再構築》

《魔王武装修復》

《魔王武装強化》

《魔王武装同調》

《魔王武装召喚》

《魔王武装収納》

《魔王武装形態変更》

《魔王武装限界突破》


【最上位魔王権能】


《魔王魔法極意》

《魔王戦闘演算》

《魔王多重魔法》

《魔王極大魔法》

《魔王魔法連結》

《魔王因果抵抗》

《魔王空間耐性》

《魔王時間耐性》

《魔王概念耐性》

《真魔王解放》


━━━━━━━━━━


100/100


取得完了


━━━━━━━━━━


「取れた」


『次は言わなくても分かる』


「《技能一括強化》」


━━━━━━━━━━


対象:


魔王専用技能100種


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Lv1



Lv100


━━━━━━━━━━


100/100


強化完了


━━━━━━━━━━


「これで勇者百個と魔王百個」


『二日で二百個だぞ』


「全部Lv100」


『そこを追加するな』


 でも、かなり面白い能力が増えた。


 特に気になるのは。


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魔王武装創造(デモン・アーセナル)


Lv100


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魔王因子と魔力から

専用魔王装備を創造可能


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形状:


任意設定


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性能:


魔王種能力に応じて自動最適化


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「……装備作れる」


『また目が輝いているぞ』


「魔法使い用が欲しかった」


『昨日言っていたローブか』


「うん」


◇◇◇


 せっかくなので試す。


 部屋の中央へ立ち、右手を前へ出した。


「《魔王武装創造》」


 黒紫色の魔法陣が足元へ展開される。


 欲しい形を頭の中で思い描いた。


 まずはローブ。


 黒。


 長いフード付き。


 魔法使いとして動きやすくて、魔王らしいもの。


 次に仮面。


 顔を隠せる黒い仮面。


 最後に長杖。


 魔法を使うための、私専用の魔王杖。


━━━━━━━━━━


魔王武装設計を確認


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生成開始


━━━━━━━━━━


 黒紫色の魔力が私の身体を包み込んだ。


 数秒後。


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冥王黒装(ノクス・デモンローブ)


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品質:


S


《魔王級》


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効果:


魔法威力極大上昇


魔力制御極大上昇


魔力消費大幅軽減


魔力自動回復


全属性耐性


魔王魔法強化


極大魔法安定化


自動修復


サイズ自動調整


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 黒を基調とした長いローブ。


 布の表面には、光が当たった時だけ紫銀色の細い魔紋が浮かぶ。大きめのフードを被れば、顔の上半分は自然に影へ隠れた。


 次。


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冥王黒面(ノクス・デモンマスク)


━━━━━━━━━━


品質:


S


《魔王級》


━━━━━━━━━━


効果:


《鑑定完全無効》


魔力隠蔽


種族情報隠蔽


精神干渉無効


呪詛遮断


魔眼補助


視界補正


音声偽装任意


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 黒い仮面が顔へ装着される。


 表面には余計な装飾がほとんどなく、中央から左右へ細い紫色の線だけが走っていた。


「これ好き」


『完全に怪しい人物だぞ』


「格好いい」


『否定はしないが』


 最後。


 黒紫の魔力が私の右手へ集まる。


━━━━━━━━━━


冥王魔杖ノクス・デモンスタッフ


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品質:


S


《魔王級》


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効果:


魔法威力極大上昇


魔法射程極大延長


魔力収束補助


多重魔法補助


極大魔法強化


魔王魔法強化


複合属性安定化


魔力消費軽減


魔力回収


自動修復


━━━━━━━━━━


 現れたのは、私の身長を超える黒銀色の長杖だった。


 先端には黒紫色の大きな魔晶が浮かび、その周囲を八つの小さな光がゆっくり回っている。


 握った瞬間。


「……これ、すごく使いやすい」


『昨日手に入れた《八耀魔導長杖》はどうするのだ』


「予備」


『一日で予備になった……』


「良い杖だよ?」


『慰めるように言うな』


◇◇◇


 姿見の前へ移動する。


 黒いフード付きローブ。


 黒い仮面。


 黒銀色の長杖。


 通常形態なので角も翼も出していない。


 それでも。


「魔王っぽい」


『魔王なのだから当然だろう』


「これから冒険する時、しばらくこれで行こうかな」


『勇者だと誰も気づかんだろうな』


「正体隠せる」


『Sランク冒険者リリス・ルクスヴィアが急に姿を消し、同時期に正体不明の黒衣の魔法使いが現れたら、勘のいい者には疑われると思うぞ』


「……時間をずらす?」


『そういう問題か?』


 でも、新しい戦闘スタイルとしては気に入った。


 弓は一旦お休み。


 剣も当面は必要な時だけ。


 これからは。


 魔法。


「魔王魔法使い」


『真の勇者でもあるがな』


「真の勇者で魔王の魔法使い」


『情報量が多い』


 私もそう思う。


◇◇◇


 その時。


 《インベントリ》の中にある別のアイテムへ意識が向いた。


━━━━━━━━━━


災厄魔皇鎧ディザスター・アダマンティス


状態:


大破


━━━━━━━━━━


魔皇断肉双包丁ディザスター・ブッチャーズ


×2


状態:


損傷


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《災厄魔王角》×6


《災厄魔王魔石》×1


━━━━━━━━━━


 今なら。


 《魔王武装再構築》。


 《神級錬金術師》。


 両方がある。


「アル」


『何だ』


「ヴォルガンの装備、作り直せる」


『……何を作る気だ?』


「全身鎧と大剣二本」


『魔法使いになると言った直後だぞ!?』


「魔王の本気装備も欲しい」


『お前は装備を作る理由だけはいくらでも思いつくな!』


 でも。


 黒紫色の重装全身鎧。


 頭部には大きな二本角。


 背中には魔王の紋章が描かれたマント。


 武器は二本のグレートソード。


 そこへ魔王のオーラ。


「……絶対格好いい」


『もう止めても無駄だな』


「うん」


『少しは否定しろ!』


 作るのは工房で。


 せっかくなら《神級錬金術師》と《魔王武装再構築》を両方使って、ヴォルガンの装備とはまったく違うものへ作り直す。


 魔法使いとして活動する普段の《冥王黒装》。


 そして。


 本気で戦う時の《魔王鎧装》。


 二種類あればいい。


 そう決めたところで、部屋の扉が叩かれた。


「リリス様、夕食のお時間でございます」


 エリシアさんの声だった。


「今行きます」


 扉へ向かう。


『待て』


「?」


『その格好で行くのか?』


 黒いフード。


 黒い仮面。


 魔王級ローブ。


 魔王の長杖。


「駄目?」


『昨日雇った使用人二百人の前に、突然それで現れるつもりか』


「……驚くかな」


『確実にな!』


 少し考えて。


 《魔王武装収納》を使った。


 ローブ、仮面、長杖が黒紫色の粒子となって消える。


 いつもの服へ戻った。


「これなら大丈夫」


『最初からそうしろ』


「明日は着る」


『結局着るのか……』


 明日は工房で魔王鎧装を作る。


 そのあと。


 魔王になって初めての魔法も、どこか安全な場所で試してみたい。


 やりたいことが、また増えた。

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