第五十話 三万二千の宝箱と虹の秘宝
大豪邸で初めての夕食を終えたあと、私はアルと一緒に本館三階に用意された私室へ移動した。
さすが旧公爵家の屋敷だけあって、部屋そのものが《銀月亭》の客室とは比べものにならないほど広い。寝室のほかに応接スペース、衣装室、浴室まであり、窓の外には夜の大庭園が広がっていた。
もっとも、今の私が気になっているのは部屋ではない。
ベッドの前に置かれた大きなソファへ座り、《インベントリ》を開く。
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宝箱保管数:
32,684個
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「……改めて見ると多い」
『戦場では平然としていたのに、今さら実感したのか』
「三万個を部屋で見ると違う」
『実際に部屋へ出すなよ。床が埋まるぞ』
「大丈夫。インベントリの中で開ける」
アルが少し安心した顔をした。
私も三万個以上の宝箱を一つずつ取り出して開けるつもりはない。試しに《インベントリ》の宝箱一覧へ意識を向けると、同じ種類の宝箱がまとめて表示されていた。
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《木の宝箱》×8,240
《銅の宝箱》×7,615
《鉄の宝箱》×6,988
《銀の宝箱》×5,204
《金の宝箱》×3,579
《白金の宝箱》×912
《ミスリルの宝箱》×112
《アダマンタイトの宝箱》×25
《ヒヒイロカネの宝箱》×6
《オリハルコンの宝箱》×2
《虹の宝箱》×1
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木の宝箱へ触れる。
すると。
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開封方法を選択してください。
一個開封
数量指定開封
一括開封
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「ある」
『何がだ?』
「《一括開封》」
『昨日欲しいと言っていたものが最初からあったのか!?』
「今まで大量に開けたことなかったから知らなかった」
『……まあ、三万個を一つずつ開けられるよりはいい』
それは私もそう思う。
「まず木から」
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《木の宝箱》×8,240
一括開封しますか?
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「はい」
次の瞬間、インベントリの内部で大量の光が弾けた。
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一括開封完了
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取得:
銅貨
銀貨
低級魔石
鉄鉱石
銅鉱石
薬草
毒消し草
魔物素材
初級ポーション
携帯食料
一般級武器
一般級防具
生活用品
その他
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取得品総数:
41,826点
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「多い」
『宝箱より増えていないか?』
「一箱から複数出てる」
『なるほど。嫌な予感がしてきた』
その予感は正しかった。
◇◇◇
銅、鉄、銀と順番に一括開封していく。
開けるたびに数万単位のアイテムが増えていき、《インベントリ自動整理》《資源自動分類》が休む間もなく働いていた。
金の宝箱からは希少な魔石や魔導具、上級ポーション、技能書、魔導書が目立つようになり、白金以上になると明らかに内容が変わった。
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《白金の宝箱》×912
一括開封完了
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高位取得品:
《白金魔晶》×184
《高純度アルケリウム》×326
《上級技能書》×73
《上級魔導書》×61
《高位治癒薬》×208
《魔導装備設計書》×42
《高位結界石》×35
《転移魔導石》×18
《希少級武器》×96
《希少級防具》×104
その他多数
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「素材がいっぱい」
『金よりそちらに目が行くのだな』
「《神級錬金術師》になったばかりだから」
『そうだったな……昨日だけで増えすぎて忘れそうになる』
さらにミスリル。
アダマンタイト。
そしてヒヒイロカネ。
上位宝箱になるにつれて、通知される品物も豪華になっていった。
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重要取得品を検出
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《大型転移門魔導核》×2
《広域大結界核》×3
《自動修復魔導核》×4
《大型魔力炉》×2
《高位騎獣結界石》×5
《神級錬金触媒》×12
《龍晶鋼》×24
《星銀》×31
《聖霊晶》×18
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「これ、屋敷に使える」
『どれだ?』
「大結界核と自動修復魔導核。転移門も便利そう」
『買った翌日に屋敷を魔改造する気か』
「強化」
『言い換えても同じだ』
でも十八万平方メートルもある屋敷なら、広域結界はあった方がいい。
ノルンたちがいるので普通の盗賊が侵入してくるとは思わないけれど、守りが厚いに越したことはない。
それに《大型転移門魔導核》があれば、将来的に別の拠点と屋敷を繋ぐこともできるかもしれない。
「あとでローデリックさんに相談しよう」
『設置前に相談する気があるだけ進歩だな』
「私も成長してる」
『昨日四百以上レベルが上がったという意味ではなくな』
◇◇◇
残る上位宝箱は三個。
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《オリハルコンの宝箱》×2
《虹の宝箱》×1
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「まずオリハルコン」
一箱ずつ開ける。
さすがにこれはまとめて終わらせるのが少しもったいない。
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《オリハルコンの宝箱》
開封
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《星界オリハルコン》×10
《古代魔導炉核》×1
《空間属性魔晶》×5
《高位魔法書》×2
《古代級装備設計書》×1
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「おお」
『十分すごそうだな』
「もう一個」
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《オリハルコンの宝箱》
開封
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《神聖ミスリル》×10
《龍王魔晶》×3
《精霊王晶》×3
《超高位結界核》×1
《古代級魔導杖》×1
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最後に出てきた杖へ目が止まる。
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《八耀魔導長杖》
品質:
S
《古代級》
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効果:
八属性魔法威力上昇
魔法制御上昇
魔力消費軽減
多重魔法補助
極大魔法安定化
精霊魔法同調補助
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「杖」
『ちょうど魔法を使いたいと言っていたな』
「うん」
インベントリから取り出してみる。
全長は私の身長より少し短いくらい。白銀色の長杖で、先端には八色に輝く小さな魔晶が輪状に配置されていた。
握ると、魔力が杖の内部へ自然に流れる。
「……使いやすい」
『しばらく弓の代わりに持つのか?』
「そうしようかな」
《弓王》まで到達したばかりだけど、だからこそ一度区切りをつけたい。
剣も同じ。
これからしばらくは魔法を中心に戦ってみる。
「魔法使いリリス」
『見た目はまだ騎士装備だがな』
「ローブも欲しい」
『また作る気だな』
「そのうち」
今すぐではない。
たぶん。
◇◇◇
そして最後。
七色の光を放つ宝箱だけが残った。
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《虹の宝箱》×1
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これは《災厄魔皇ヴォルガン・ディザスター》を倒したことで出現した特別な宝箱だ。
「開ける」
『今度は慎重に鑑定してから触れよ』
「宝箱なのに?」
『お前の場合、何が出るか分からん』
否定できない。
私は《虹の宝箱》を開いた。
七色の光が部屋いっぱいに広がる。
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《虹の宝箱》
開封完了
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取得:
《魔王秘宝珠》×1
《虹天魔晶》×10
《世界樹の神雫》×10
《神魔錬成触媒》×5
《空間魔導炉核》×1
《極大魔法書》×3
《特殊技能書》×3
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「当たりっぽい」
『“っぽい”どころではない気がするぞ』
最初に《世界樹の神雫》を鑑定する。
極めて高位の回復・錬金素材。
《虹天魔晶》は八属性すべてへの高い親和性を持つ特殊魔晶。
《神魔錬成触媒》は、神聖属性と魔属性のような本来反発する性質を同時に扱うための超希少触媒らしい。
「面白そう」
『まずそちらではないだろう』
アルの視線。
分かってる。
中央に浮かんでいる黒紫色の宝珠。
《魔王因子核》とは違う。
でも、どう見ても普通ではない。
「《鑑定》」
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《魔王秘宝珠》
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分類:
魔王種専用秘宝
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効果:
魔王系技能覚醒補助
魔王武装共鳴
魔王魔力増幅
魔王領域形成補助
特殊進化時追加能力解放
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使用条件:
魔王種
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現在使用:
不可
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「使えない」
『よかった』
「何で安心するの?」
『隣に《魔王因子核》を持っている者がいるからだ!』
「あ」
『“あ”ではない!』
確かに。
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《魔王因子核》
分類:
魔王種進化因子
通常使用:
非推奨
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そして。
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《魔王秘宝珠》
使用条件:
魔王種
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並べると。
かなり分かりやすい。
「これ、先に魔王になれば使えるんじゃ」
『言うと思った!』
「まだ使わないよ」
『“まだ”も禁止だ!』
「アル厳しい」
『お前が軽すぎるのだ!』
◇◇◇
残りは《極大魔法書》三冊と《特殊技能書》三冊。
今日は魔王因子核へ触らない。
その代わり、こっちは普通に使えそうだった。
一冊目の魔法書を鑑定する。
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《極大魔法書》
収録魔法:
《星天墜界》
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分類:
極大星属性魔法
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次。
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《極大魔法書》
収録魔法:
《虚空崩界》
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分類:
極大空間魔法
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三冊目。
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《極大魔法書》
収録魔法:
《神聖天界光》
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分類:
極大聖属性魔法
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「……魔法使いになろう」
『決断が早いな!?』
「だって面白そう」
三冊とも習得する。
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《星天墜界》
習得
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《虚空崩界》
習得
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《神聖天界光》
習得
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そして即座に。
「《技能一括強化》」
『知っていた』
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対象魔法:
3種
Lv1
↓
Lv100
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強化完了
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「よし」
『頼むから屋敷では撃つなよ』
「撃たないよ」
『なぜ少し残念そうなんだ』
「試したいだけ」
『外でも場所を選べ! 昨日平原を消し飛ばしたばかりだろう!』
それは覚えている。
◇◇◇
特殊技能書三冊も確認する。
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《特殊技能書》
《超魔法演算領域》
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《特殊技能書》
《魔法完全追尾》
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《特殊技能書》
《極大魔法連結》
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三つとも習得。
当然Lv100。
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《超魔法演算領域》Lv100
《魔法完全追尾》Lv100
《極大魔法連結》Lv100
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「かなり魔法使いっぽくなった」
『昨日まで弓を撃っていた人間とは思えんな』
「《弓王》になったから、一旦卒業」
『卒業という言い方でいいのか?』
「使いたくなったらまた使う」
『それは休学ではないか』
「じゃあ一旦休み」
『何の話をしているのだ、私たちは』
私も分からない。
でも、方向性は決まった。
しばらく私は弓を主武器にしない。
剣も必要な時だけ。
次の冒険からは、《八耀魔導長杖》を手に魔法を中心として戦う。
火、水、氷、風、土、雷、光、闇。
それに聖属性、空間、星属性。
使える魔法はかなり増えた。
まだ試していない組み合わせもいっぱいある。
「楽しみ」
『その笑顔を見ると敵が少し気の毒になるな』
「失礼」
◇◇◇
その時、部屋の扉が控えめに叩かれた。
「リリス様、失礼いたします」
ローデリックさんだった。
「どうしたの?」
「明日の予定につきまして確認に参りました。屋敷内の人員配置が一通り完了いたしましたので、施設管理計画をご報告できます」
「ちょうどいい。これ見て」
《広域大結界核》。
《自動修復魔導核》。
《大型転移門魔導核》。
机の上へ並べる。
ローデリックさんが黙った。
「屋敷に付けたい」
「……こちらを、ですか?」
「うん」
「リリス様」
「はい」
「本日購入されたばかりの屋敷でございます」
「知ってる」
「もう要塞化なさるので?」
『私と同じことを言う者が現れたぞ』
アルが嬉しそう。
「要塞じゃないよ」
私は《広域大結界核》を持ち上げた。
「ちょっと安全になるだけ」
ローデリックさんとアルが同時に私を見る。
『ちょっと?』
「……少々、でございますか?」
「たぶん」
二人とも信じていない顔だった。
失礼。
ただ。
テーブルの端。
《インベントリ》から出していない二つのアイテム。
《魔王因子核》。
《魔王秘宝珠》。
それだけは今日は触らない。
本当に。
明日以降なら――。
『リリス』
「何?」
『今また考えただろう』
「屋敷の結界のこと」
『本当か?』
「半分くらい」
『残り半分を言え!』
言わない。
まだ。
今は、新しい家と、新しい魔法を楽しむ方が先だから。




