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第四十六話 災厄魔王ヴォルガン・ディザスター



 《皇帝血戦領域》の第二段階へ移行した《暴虐皇ヴォルガン》が地面を蹴った。


 赤黒い闘気を纏う巨体が一瞬で加速し、次に姿を捉えた時には、すでにアルの《剛魔城塞大楯》へ二振りの巨大な包丁を叩きつけようとしていた。


『来る!』


 アルの《竜地精霊鎧装》が強く輝く。


『《竜地城塞》!』


 大地と風の精霊が《剛魔城塞大楯》へ集中し、琥珀色の巨大な精霊障壁を形成した。


 直後、二本の《血肉断ちの双皇包丁》が同時に激突する。


 ズガァァァァァァンッ!


 大地が陥没し、衝撃波が周囲数百メートルへ広がった。


『ぐっ……!』


「アル!」


『大丈夫だ! まだ止められる!』


 アルの足元は大きく沈んでいたものの、盾は砕けていない。


 そこへノルンが白銀の風となって駆け込んだ。


「ウォォォォン!」


 《白銀疾駆》から《銀嵐刃》。


 白銀の風刃がヴォルガンの右膝へ命中し、巨体の姿勢をわずかに崩す。


 その瞬間をヴァルカも逃さない。


「グオオオオオッ!」


 上空から急降下し、深紅の炎を纏った巨体をヴォルガンの左肩へ叩き込んだ。


 爆炎が巻き起こり、皇帝の身体が数歩後退する。


『ならば我も行こう』


 黒霧が地面を走った。


 クロがヴォルガンの背後へ姿を現し、青白い魂炎を纏った牙を頸部装甲へ食い込ませる。


『《冥魂喰牙》!』


「ブゴオオオオオッ!」


━━━━━━━━━━


《魂喰》


《魔力吸収》


《呪詛捕食》


同時発動


━━━━━━━━━━


 ヴォルガンの赤黒い魔力がクロへ吸い取られていく。


 私はその間に《聖蒼銀弓》を構え、《万象解析》を重ねた。


 胸部装甲。


 頸部。


 魔力循環。


 そして《皇帝血戦領域》。


 いくら強くても、無限に力を生み出しているわけじゃない。


「アル、もう少しだけ止めて!」


『任せろ!』


 私は一気に上昇すると、ヴォルガンの真上から弓を引いた。


「《射撃威力収束》」


「《魔力矢超圧縮》」


「《装甲貫通射撃》」


 八属性全部を使う必要はない。


 今回は光と雷。


 貫通力へ集中する。


「――《雷光魔穿狙撃》!」


 紫電と黄金を纏った一矢が落下した。


 ヴォルガンが気づき、右の大包丁を頭上へ掲げる。


 矢と固有級武器が激突した。


 バギィィィンッ!


「ブオッ!?」


 巨大な包丁の刃へ亀裂が入り、そのまま魔力矢が右肩へ突き刺さった。


 爆発。


 ヴォルガンの巨体が地面へ片膝をつく。


「効いた!」


『リリス、続けろ!』


「うん!」


◇◇◇


 私たちは一斉に攻勢へ転じた。


 アルが大楯で正面から押さえ、ノルンが脚を狙う。


 ヴァルカは頭上から炎を浴びせ、クロは影から現れて魔力を削る。


 私は上空から皇帝鎧の同じ箇所へ狙撃を重ねた。


 一撃では壊れなくても、十回、二十回と同じ場所へ攻撃すればいい。


━━━━━━━━━━


《同一点連続狙撃》


《弱点狙撃強化》


《超精密射撃》


━━━━━━━━━━


 白銀の魔力矢が連続して胸部へ突き刺さる。


 ガンッ!


 ガンッ!


 ガギィンッ!


 ついに。


 バキィィンッ!


━━━━━━━━━━


《黒冥皇帝鎧》


胸部装甲:


破壊


━━━━━━━━━━


「開いた!」


『リリス、退け!』


 アルの声を聞いた瞬間、私は光翼を広げて上昇する。


 代わりにアルが踏み込んだ。


『――《竜地破皇断》!』


 炎、大地、風。


 三属性を纏った《剛魔破城斧》が、露出したヴォルガンの胸へ叩き込まれた。


 ドォォォォォォォンッ!


「ブオオオオオオオッ!」


 血が噴き出す。


 ノルンの《銀嵐刃》。


 ヴァルカの《緋炎竜息》。


 クロの《冥魂咆哮》。


 三つの攻撃が続けて直撃し、ヴォルガンの巨大な身体がついに地面へ倒れた。


「……倒した?」


『いや』


 クロの声が低くなる。


『まだ魂が沈んでおらぬ』


 私の《危険未来予測》も、警告を止めていなかった。


 むしろ。


 今までより強い。


━━━━━━━━━━


警告


《暴虐皇ヴォルガン》


異常魔力上昇


━━━━━━━━━━


「みんな、離れて!」


 直後。


 倒れていたヴォルガンの身体から、赤黒い魔力が爆発した。


◇◇◇


「ブ……オオオオオオオオオオオオオッ!」


 平原全体が震えた。


 赤黒い魔力の柱が天空へ伸び、周囲に倒れていたオークたちから血、魔力、生命力が一斉に吸い上げられていく。


「何……これ」


 《万象解析》を発動する。


━━━━━━━━━━


《暴虐皇ヴォルガン》


特殊進化条件:


達成


━━━━━━━━━━


条件:


皇帝種


大量の配下喪失


極限戦闘


致命的損傷


皇帝怒気最大


災厄魔力蓄積


━━━━━━━━━━


特殊進化を開始します。


━━━━━━━━━━


『リリス、下がれ!』


「うん!」


 私たちは急いで距離を取った。


 ヴォルガンを中心に巨大な黒赤の魔法陣が広がり、残っているオーク軍勢の一部からさえ魔力が吸い取られていく。


「ブゴッ!?」


「グアアアッ!」


 力を奪われたオークたちが次々と倒れていく。


 皇帝鎧にも変化が始まった。


 黒紫色だった装甲へ赤黒い魔力が浸透し、肩、腕、背中から禍々しい角と棘が伸びていく。


━━━━━━━━━━


《黒冥皇帝鎧》


特殊進化



災厄魔皇鎧ディザスター・アダマンティス


━━━━━━━━━━


特殊品質:


《魔王級》


━━━━━━━━━━


 続いて二本の巨大包丁。


 刃へ無数の赤黒い文字が浮かび、さらに巨大化する。


━━━━━━━━━━


《血肉断ちの双皇包丁》



魔皇断肉双包丁ディザスター・ブッチャーズ


━━━━━━━━━━


特殊品質:


《魔王級》


━━━━━━━━━━


 そして。


 ヴォルガン自身。


 身体がさらに巨大化した。


 兜の隙間から漏れていた真紅の瞳は、もはや二つの赤い炎のように燃えている。


 背中には六本の黒い魔角。


 全身から噴き出す魔力だけで、地面が崩れていく。


━━━━━━━━━━


特殊進化完了


━━━━━━━━━━


《暴虐皇ヴォルガン》


ネームド・オークカイザー


Lv782



魔王種オークディザスター


《|災厄魔皇ヴォルガン・ディザスター》


Lv1180


━━━━━━━━━━


危険度:


SSS(ランク)極位


特殊指定:


《災厄級》


━━━━━━━━━━


「Lv1180……」


 さっきまでLv782だったのに、一気に四百近く上がっている。


 私がLv689。


 アルがLv678。


 クロがLv694。


 完全に格上。


「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 魔王の咆哮が戦場を薙ぎ払った。


 ただの声なのに、王国軍の戦列が揺れる。


 兵士が膝をつき、冒険者が武器を取り落とした。


━━━━━━━━━━


《災厄魔王威圧》


発動


━━━━━━━━━━


 私たちは耐えられる。


 でも、戦場にいる全員がそうとは限らない。


『リリス、このままでは周囲の者が巻き込まれる!』


「分かってる」


 ヴォルガンを倒すだけなら方法はある。


 問題は。


 私が本気で撃ったら、周りも危ない。


 だから先に。


「みんなを守る」


◇◇◇


 私は《八耀精霊鎧装》の光翼を大きく広げた。


 《広域索敵網》で味方全員の生命反応を捕捉する。


 王国軍。


 騎士団。


 冒険者。


 治癒術師。


 魔導兵。


 補給要員。


 戦場後方にいる支援部隊まで含める。


━━━━━━━━━━


味方生命反応:


64,300


━━━━━━━━━━


「全員入った」


『まさか全員を守るのか?』


「うん」


『六万以上だぞ』


「だから広域魔法」


 まず。


 身体を守る。


「《天軍の大加護セレスティアル・ブレス》」


 私の身体から黄金の光が広がった。


 数百メートルでは止まらない。


 数キロ。


 さらに。


 平原にいる味方全員を包み込む。


━━━━━━━━━━


上位広域補助魔法


《天軍の大加護セレスティアル・ブレス


Lv100


━━━━━━━━━━


対象:


味方64,300名


━━━━━━━━━━


効果:


全能力上昇


物理防御上昇


魔法耐性上昇


状態異常耐性上昇


精神干渉耐性上昇


衝撃耐性上昇


━━━━━━━━━━


「な、何だ!?」


「身体が軽く……」


「魔力まで回復していくぞ!」


 次。


「《生命連環(ライフ・リンク)》」


 金色の光の中へ、淡い緑の輝きが混ざる。


━━━━━━━━━━


上位広域回復魔法


生命連環ライフ・リンク


Lv100


━━━━━━━━━━


対象:


味方64,300名


━━━━━━━━━━


効果:


HP継続回復


重傷時自動治癒


回復速度大幅上昇


生命力保護


戦闘不能時緊急回復


━━━━━━━━━━


 最後。


 これが一番大事。


「《守護天蓋(ガーディアン・ドーム)》」


 空に巨大な白金色の魔法陣が展開した。


 そこから無数の小さな紋章が降り注ぎ、味方一人一人の身体へ吸い込まれていく。


━━━━━━━━━━


上位広域守護魔法


守護天蓋ガーディアン・ドーム


Lv100


━━━━━━━━━━


対象:


味方64,300名


━━━━━━━━━━


効果:


致命攻撃自動防御


個別多層障壁展開


衝撃完全拡散補助


魔力爆発耐性


広域破壊攻撃耐性


━━━━━━━━━━


 さらに。


 念のため。


「《多層障壁》」


 王国軍全体。


 巨大な防衛線。


 その上。


 半透明の巨大障壁を何層も展開する。


━━━━━━━━━━


広域多層障壁:


100層


━━━━━━━━━━


「これで大丈夫」


『……何をする気だ?』


 アル。


 気づいた。


「上から撃つ」


『どれくらいの威力で?』


「限界まで」


『待て!』


 でも。


 待っている時間はなかった。


◇◇◇


 ヴォルガン・ディザスターが動く。


 魔王化した巨体が一歩踏み出しただけで、大地が数十メートルにわたって砕けた。


 双包丁を持ち上げる。


━━━━━━━━━━


《災厄双断》


発動準備


━━━━━━━━━━


 このまま撃たせたら。


 防衛軍ごと。


 危ない。


「みんな、下がって!」


 《広域精神念話》を最大範囲へ展開した。


『王国軍、騎士団、冒険者全員! ヴォルガンから距離を取ってください! 防御魔法は私が維持します!』


 頭の中へ突然響いた声に混乱が広がったけれど、グレンさんがすぐに反応した。


『全軍後退! リリスの指示に従え! 前衛も下がれ!』


 王国軍が動く。


 騎士団も後退。


 冒険者たちも防衛線まで下がっていく。


『アル、ノルン、ヴァルカ、クロも』


『お前は?』


「上」


『……やはり一人でやるつもりか』


「一人じゃないよ」


 八枚の精霊光翼を見る。


「精霊もいる」


『そういう問題では――』


「大丈夫」


 アル。


 少し黙る。


『……絶対に戻ってこい』


「うん」


◇◇◇


 私は上昇した。


 百メートル。


 三百。


 五百。


 さらに高く。


 平原全体が見渡せる高度まで一気に昇る。


 眼下。


 巨大なヴォルガン・ディザスター。


 その周囲には、まだ大量のオーク軍勢。


 だったら。


 まとめて。


「消す」


 《聖蒼銀弓》を下へ向ける。


 通常の射撃じゃない。


 今まで使わなかった力まで。


 全部。


 使う。


「《魔力出力限界突破》」


 ドクン。


 体内。


 魔力炉みたいに。


 脈打つ。


━━━━━━━━━━


《魔力出力限界突破》


発動


━━━━━━━━━━


通常魔力出力制限:


解除


━━━━━━━━━━


「《限界魔力充填》」


 莫大な魔力が《聖蒼銀弓》へ流れ込んでいく。


 白銀だった弓が。


 発光。


 輪郭。


 見えなくなるほど。


 輝く。


 八枚の精霊光翼。


 さらに巨大化。


 火。


 水。


 氷。


 風。


 土。


 雷。


 光。


 闇。


 八属性の精霊が、空を埋め尽くすほど集まってくる。


━━━━━━━━━━


《八属性同時制御》


《属性融合》


《超魔力圧縮》


《魔力収束増幅》


《魔力出力増大》


《射撃威力収束》


《魔法余波抑制》


━━━━━━━━━━


 一本。


 矢。


 形成する。


 見た目は。


 意外と小さい。


 でも。


 内部。


 魔力密度。


 今までとは。


 比べものにならない。


 《危険未来予測》が。


 私自身の攻撃へ。


 警告。


 出している。


━━━━━━━━━━


警告


現在生成中の魔力矢は

極めて大規模な地形破壊を

引き起こす可能性があります。


━━━━━━━━━━


「知ってる」


 だから。


 みんなを守った。


 ヴォルガンが空を見上げた。


「グオオオオオオオオッ!」


 双包丁を交差する。


 赤黒い魔力。


 極限。


━━━━━━━━━━


《災厄双断・魔王極》


━━━━━━━━━━


 巨大な斬撃が空へ向かって放たれた。


「来た」


 でも。


 私は逃げない。


「《多層障壁》」


 斬撃。


 障壁。


 激突。


 百層。


 次々。


 砕ける。


 その間。


 照準。


 終わる。


━━━━━━━━━━


標的:


《災厄魔皇ヴォルガン・ディザスター》


Lv1180


━━━━━━━━━━


周辺敵対生命反応:


多数


━━━━━━━━━━


味方生命反応:


退避完了


━━━━━━━━━━


「よし」


 弦を。


 限界まで。


 引く。


 《弓聖》Lv100。


 《八耀精霊鎧装》。


 五百万を超えるAP。


 全ての射撃技能。


 精霊。


 魔力。


 全部。


 一撃。


 込める。


「――《|八耀魔穿狙撃・限界突破《オクタ・アストラル・ピアース・オーバーリミット》》」


 指を離した。


◇◇◇


 音。


 消えた。


 八色の光。


 一本。


 地上へ。


 落ちる。


 ヴォルガン・ディザスターが双包丁を交差して受け止めようとする。


 魔王障壁。


 一枚。


 二枚。


 十枚。


 数十枚。


 一瞬。


 全部。


 貫通。


「グオ――」


 光。


 ヴォルガン。


 飲み込む。


 そして。


 地面へ。


 到達。


 一拍。


 遅れて。


 世界。


 白く。


 染まった。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン――ッ!!


 大爆発。


 平原が持ち上がった。


 地面が砕け、巨大な岩塊が空へ舞い上がる。


 八属性の魔力が巨大な柱となって天へ噴き上がり、その周囲を円形の衝撃波が広がっていった。


「うわああああっ!」


「障壁を維持しろ!」


「いや、リリスの障壁がある!」


 味方側へ衝撃波が到達する。


 けれど。


━━━━━━━━━━


《守護天蓋》


自動発動


━━━━━━━━━━


《多層障壁》


衝撃遮断


━━━━━━━━━━


《天軍の大加護》


耐性補正


━━━━━━━━━━


 白金色の巨大障壁が防衛軍全体を包み込む。


 爆風。


 熱。


 魔力衝撃。


 全部。


 受け止める。


 傷を負った人がいても、《生命連環》が即座に癒やしていく。


 誰も。


 死なない。


 私は上空から、爆発の中心を見つめた。


 魔力光が少しずつ薄れていく。


 そこにあったはずの平原。


 消えていた。


 代わりに。


 巨大なクレーター。


 中心部は高熱でガラス状に変化し、周囲には幾重もの亀裂が走っている。


 そして。


 ヴォルガン・ディザスター。


「……いない」


 《広域索敵網》。


 検索。


━━━━━━━━━━


対象生命反応:


消失


━━━━━━━━━━


《万象解析》。


━━━━━━━━━━


魔王種オークディザスター


《災厄魔皇ヴォルガン・ディザスター》


Lv1180


━━━━━━━━━━


完全消滅を確認


━━━━━━━━━━


討伐完了


━━━━━━━━━━


「倒した」


 しばらく。


 誰も。


 声を出さなかった。


 そして。


『……リリス』


 アル。


「何?」


『やりすぎだ!』


「でもみんな無事だよ」


『そこは本当に偉い! だが地形を変えるな!』


「加減したよ?」


『それでか!?』


 クロの低い笑い声が念話へ響いた。


『なるほど。これは確かに、我を召喚できるだけの人間だ』


「褒めてる?」


『最大限にな』


「よかった」


◇◇◇


 その直後。


 空中に大量の通知が現れた。


━━━━━━━━━━


特殊討伐達成


━━━━━━━━━━


ネームド・オークカイザー


《暴虐皇ヴォルガン》



魔王種オークディザスター


《災厄魔皇ヴォルガン・ディザスター》


━━━━━━━━━━


討伐完了


━━━━━━━━━━


 さらに。


━━━━━━━━━━


パーティー共有経験値取得


対象:


《災厄魔皇ヴォルガン・ディザスター》


Lv1180


━━━━━━━━━━


経験値効率:


×10,000


━━━━━━━━━━


 私。


 アル。


 ノルン。


 ヴァルカ。


 クロ。


 五人の身体が。


 同時に。


 眩い光へ包まれた。

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