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第四十五話 暴虐皇ヴォルガン



 《暴虐皇ヴォルガン》が走り出した瞬間、地面が大きく陥没した。


 十メートルを優に超える巨体。それだけでも相当な重量があるはずなのに、その速度は巨体から想像できるものではない。


━━━━━━━━━━


《|暴虐皇ヴォルガン》


Lv782


SSS(ランク)・上位


━━━━━━━━━━


《暴虐進軍》


《黒冥闘気》


《皇帝覇気》


同時発動


━━━━━━━━━━


 赤黒い魔力を纏ったヴォルガンが、周囲にいた味方のオークすら弾き飛ばしながら一直線に迫ってくる。


『アル!』


『任せろ!』


 《広域精神念話》で呼び掛けた瞬間、アルが私たちの前へ飛び出した。


 琥珀、深紅、蒼白。


 三色の精霊光を纏う《竜地精霊鎧装》が強く輝く。


 アルは巨大な《剛魔城塞大楯》を地面へ突き立て、腰を落とした。


『《不動要塞》!』


 大地の精霊が呼応する。


 盾を中心に幾重もの琥珀色の魔法陣が展開され、アルの足元から巨大な岩盤がせり上がった。


 その直後。


「ブオオオオオオオッ!」


 ヴォルガンが右手の《血肉断ちの双皇包丁》を振り下ろした。


 轟音。


 包丁と大楯が正面から激突する。


「ぐっ……!」


 アルの身体がわずかに沈んだ。


 地面が蜘蛛の巣状に割れ、衝撃波が周囲へ広がる。


 それでも。


 アルは立っていた。


『止めた!』


「アル、すごい!」


『褒めるのは後だ! 重いぞ、こいつ!』


「ブオッ!」


 ヴォルガンが左の大包丁を横から振るう。


『ヴァルカ!』


「グオオオッ!」


 上空からヴァルカが急降下した。


 巨大な後脚がヴォルガンの左腕へ叩き込まれ、攻撃軌道がわずかに逸れる。


 包丁はアルの兜すれすれを通過し、その先にあった地面を数十メートルにわたって切り裂いた。


「ウォォォン!」


 さらにノルン。


 白銀の巨体が横から飛び込み、ヴォルガンの右脚へ《銀嵐刃》を放つ。


 白銀の風刃。


 黒紫色の皇帝鎧へ直撃。


 火花と魔力が弾けた。


 けれど。


━━━━━━━━━━


《黒冥皇帝鎧》


損傷:


軽微


━━━━━━━━━━


「硬い」


『当然であろう。皇帝種の装備だ』


 クロが黒霧の中から現れる。


『ならば、鎧の外ではなく内を狙う』


 青白い魂炎。


 クロの口元。


 凝縮。


『《冥魂咆哮》』


 音ではない衝撃がヴォルガンを包んだ。


 魂そのものを震わせる攻撃。


「ブ……オオッ!」


 初めて。


 ヴォルガンの動きが止まった。


「効いてる」


『完全には通らぬ。こやつの魂そのものが強い』


「なら、その隙で十分」


 私は《聖蒼銀弓》を構える。


 狙う場所。


 兜。


 覗き穴。


━━━━━━━━━━


《弱点看破》


《超精密射撃》


《射撃威力収束》


《障壁貫通射撃》


《魔力矢超圧縮》


━━━━━━━━━━


「《雷光魔力矢》」


 雷と光。


 二属性を重ねた魔力矢が弦上に形成される。


 さらに。


「《精霊武装》」


 八属性の精霊鎧装から、雷と光の精霊が矢へ集まった。


「――《魔穿狙撃》!」


 放つ。


 紫電と黄金の光が一直線に走った。


「ブオッ!」


 ヴォルガンが顔を動かす。


 速い。


 矢は覗き穴を外れた。


 でも。


 兜の左側面へ直撃。


 ドォォンッ!


 爆発と雷撃。


 黒紫色の兜が大きく弾かれ、表面に亀裂が走る。


━━━━━━━━━━


《黒冥皇帝鎧》


頭部装甲:


損傷


━━━━━━━━━━


「壊せる」


『今ので亀裂だけか!?』


「アル、一回で壊れたら簡単すぎるよ」


『お前が言うと感覚がおかしく聞こえる!』


◇◇◇


 ヴォルガンの真紅の瞳が、今度は私だけを捉えた。


「ブオオオオオッ!」


 魔力。


 増える。


━━━━━━━━━━


《皇帝標的指定》


対象:


リリス・ルクスヴィア


━━━━━━━━━━


《暴虐進軍》


出力上昇


━━━━━━━━━━


「あ、狙われた」


『当たり前だ! 皇帝の頭を撃ったんだぞ!』


 ヴォルガンがアルの大楯を力任せに押し退ける。


「ぐっ!」


『アル!』


『問題ない!』


 アルは数メートル滑っただけで体勢を立て直した。


 その間に。


 ヴォルガン。


 跳ぶ。


「え」


 巨体。


 空。


 来た。


『リリス!』


「見えてる!」


 右の包丁。


 上段。


 私は八枚の精霊光翼を大きく広げる。


━━━━━━━━━━


《瞬間加速》


《三次元機動》


《慣性制御》


━━━━━━━━━━


 真横へ。


 消えるように移動。


 直後。


 大包丁。


 空を切る。


 でも。


 左。


 来る。


「二本あるの忘れてた」


『忘れるな!』


 左の包丁を《聖蒼銀弓》で受ける。


 ガァァァァンッ!


「重っ……!」


 身体が空中で数十メートル押される。


 だけど。


 耐えられる。


 《八耀精霊鎧装》。


 《身体強化》Lv100。


 《超筋力強化》Lv100。


 そして昨日振った七十三万以上の筋力AP。


 ヴォルガンの真紅の目が、わずかに見開かれた。


「私も結構力あるよ」


「ブオオオオッ!」


「怒った?」


 包丁を押し返す。


 同時。


 弓。


 収納。


━━━━━━━━━━


《武器瞬間切替》


━━━━━━━━━━


 《双耀聖剣》。


 二本。


 抜く。


「《双剣同時戦技》」


 右。


 斬る。


 左。


 続く。


 ヴォルガンの胸部装甲へ、白銀の斬撃が連続して走る。


 ガガガガガガガッ!


━━━━━━━━━━


《剣聖》Lv100


《無間連斬》Lv100


《装甲分断》Lv100


《弱点連斬》Lv100


━━━━━━━━━━


「ブオオオオッ!」


 ヴォルガンが腕を振るう。


 私は光翼を畳み、巨体の脇を抜けて背後へ回った。


 背中。


 皇帝鎧。


 首。


 鎧の継ぎ目。


「ここ」


 双剣。


 交差。


「《断鋼》!」


 白銀の斬光。


 硬い感触。


 でも。


 今度は。


 切れた。


━━━━━━━━━━


《黒冥皇帝鎧》


頸部装甲:


一部破損


━━━━━━━━━━


「いける」


 ヴォルガンが振り返るより先。


「クロ!」


『承知!』


 黒霧。


 ヴォルガンの背後。


 クロ出現。


 巨大な牙が、露出した頸部へ食い込んだ。


「ブゴオオオオオッ!」


 初めて。


 大量の血。


 噴き出す。


━━━━━━━━━━


《魂喰》


《魔力吸収》


同時発動


━━━━━━━━━━


『……濃い!』


 クロの青白い魂炎が急激に大きくなる。


 ヴォルガンの身体から、魔力そのものが吸い取られていく。


 でも。


「ブオオオオオオオオオッ!」


『むっ!』


 ヴォルガンがクロの身体を掴んだ。


「クロ!」


『問題ない!』


 投げる。


 巨大な黒狼の身体が地面へ叩きつけられる。


 轟音。


 土煙。


 でも。


 次の瞬間には黒霧。


『我を普通の獣と同じと思うな』


 クロが別の影から現れた。


「強い」


『感心している場合ではないぞ』


「分かってる」


◇◇◇


 戦場の別方向では、残った五体のオークキングと二十三体のオークロードも動いていた。


 王国軍。


 騎士団。


 Aランクパーティー。


 各部隊が必死に抑えている。


 でも、こちらがヴォルガンへ集中しすぎれば、別の戦線が崩れる。


 《戦場全域把握》。


 確認。


 西。


 危険。


『グレンさん』


『リリスか!』


『西側へキング一体が出ました。Lv704。ロード三体も一緒です』


『見えている! Aランク二組を回す!』


『南東はジェネラルが四十七体』


『第四騎士団へ伝える!』


 通信。


 終わり。


 その一瞬。


 《危険未来予測》。


 赤。


「っ!」


 ヴォルガン。


 正面。


 両手。


 大包丁。


 交差。


━━━━━━━━━━


《双断連殺》


発動


━━━━━━━━━━


 赤黒い巨大な斬撃が、二方向から飛んできた。


 後ろ。


 王国軍。


 いる。


 避けたら。


 当たる。


「これは避けない」


『リリス!』


 私は両手を前へ。


「《多層障壁》!」


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 十枚。


 五十枚。


 そして。


「《金剛障壁アダマン・バリア》!」


 巨大な半透明の障壁。


 正面。


 展開。


 赤黒い斬撃。


 衝突。


 ドォォォォォォォンッ!


 最初の十枚。


 砕ける。


 二十。


 三十。


 四十。


 でも。


 止まる。


 最後。


 《金剛障壁》。


 受け止める。


 平原全体へ暴風が広がった。


「……止めた」


『お前、攻撃だけではなく防御までおかしくなっているな』


「クロ、それ褒めてる?」


『褒めている』


「ならいい」


 後方の王国兵たち。


 無事。


「よかった」


◇◇◇


 ヴォルガン。


 止まる。


 見る。


 私。


 アル。


 ノルン。


 ヴァルカ。


 クロ。


 そして。


 後ろの軍勢。


「ブ……オオオ……」


 低い声。


 魔力。


 変化。


『リリス』


「うん」


 嫌な感じ。


 来る。


━━━━━━━━━━


警告


《暴虐皇ヴォルガン》


固有技能発動準備


━━━━━━━━━━


《皇帝血戦領域》


━━━━━━━━━━


 ヴォルガンが二振りの包丁を地面へ突き刺した。


「ブオオオオオオオオオオッ!」


 赤黒い魔法陣。


 広がる。


 百メートル。


 五百。


 一キロ。


 もっと。


 戦場。


 覆う。


━━━━━━━━━━


《皇帝血戦領域》


効果:


配下オークの死亡数に応じて

術者を強化


━━━━━━━━━━


強化対象:


筋力


耐久


敏捷


魔力


再生能力


闘気出力


━━━━━━━━━━


現在死亡オーク:


多数


━━━━━━━━━━


強化率:


急上昇


━━━━━━━━━━


「……これ」


『敵が死ぬほど強くなるのか』


 アル。


 声。


 低い。


 まずい。


 私が一万体。


 倒した。


 王国軍も。


 かなり倒してる。


 つまり。


「いっぱい倒したの、逆に強化材料になってる」


『お前だけのせいではない!』


 ヴォルガンの身体から、赤黒い魔力が噴き上がる。


 鎧の亀裂。


 塞がる。


 首の傷。


 治る。


━━━━━━━━━━


《超再生》


強化


━━━━━━━━━━


《軍勢統率》



《死兵血統率》


━━━━━━━━━━


 さらに。


━━━━━━━━━━


《暴虐皇ヴォルガン》


Lv782


戦闘能力補正:


上昇中


━━━━━━━━━━


 レベルそのものは変わらない。


 でも。


 圧。


 明らかに。


 上がった。


「強くなった」


『嬉しそうに言うな!』


「ちょっとだけ」


『やっぱりか!』


◇◇◇


 その時。


 空。


 巨大な火球。


 降る。


「グオオオッ!」


 ヴァルカ。


 前へ。


━━━━━━━━━━


《緋炎竜息》


━━━━━━━━━━


 火球。


 相殺。


 爆発。


 上空。


 見る。


 オークメイジ。


 大量。


 集団詠唱。


「そっちも来た」


 さらに。


 西。


 キング。


 一体。


 中央へ。


 動く。


 東。


 ロード。


 二体。


 私たちへ。


 近づく。


『リリス、状況が悪い』


「うん」


 ヴォルガン一体だけなら。


 集中。


 できる。


 でも。


 十万規模。


 戦争。


 皇帝。


 部下。


 いる。


 当然。


「じゃあ先に、周り片付ける」


『どうするつもりだ?』


「数減らす」


『さっき敵が死ぬほど皇帝が強くなると分かったばかりだぞ!』


「あ」


 確かに。


 倒す。


 ダメ。


 じゃあ。


「動けなくする」


『なるほど』


 私は《聖蒼銀弓》を再び手に取った。


 属性。


 選ぶ。


 氷。


 水。


 土。


 状態異常。


 殺さない。


 拘束。


「《八耀精霊鎧装》、制御変更」


━━━━━━━━━━


攻撃属性配分変更


火:0%


雷:5%


光:5%


闇:0%


水:25%


氷:35%


風:10%


土:20%


━━━━━━━━━━


「《魔力矢多重生成》」


 空。


 また。


 光。


 増える。


 でも。


 今回は。


 一万じゃない。


「五千本」


『感覚が麻痺してきたぞ』


「少ないよ」


『その言葉がもう怖い!』


 五千本の青白い精霊魔力矢。


 敵。


 脚。


 武器。


 盾。


 狙う。


━━━━━━━━━━


《非致死制御》


《状態異常矢制御》


《同時着弾制御》


《多重弾道分割》


━━━━━━━━━━


「《氷縛精霊雨》」


 放つ。


 五千本。


 一斉。


 降る。


 ズドドドドドドドドッ!


 地面。


 凍る。


 脚。


 固定。


 武器。


 氷。


 覆う。


 オーク。


 次々。


 転ぶ。


━━━━━━━━━━


拘束:


4,826体


━━━━━━━━━━


討伐:


0体


━━━━━━━━━━


「成功」


『本当に殺さず止めたのか』


「うん」


『……器用にもほどがある』


 ヴォルガン。


 見る。


 赤黒い魔力。


 増えてない。


「これなら大丈夫」


『リリス』


「何?」


『今度はかなり頭を使ったな』


「いつも使ってるよ」


『そういうことにしておこう』


◇◇◇


 その直後だった。


 ヴォルガンが、突然。


 笑った。


「……グ、グググ……」


「え?」


 初めて。


 明確。


 笑い。


「グオオオオオオオオッ!」


 両手。


 大包丁。


 持ち上げる。


━━━━━━━━━━


《暴虐皇ヴォルガン》


《皇帝血戦領域》


第二段階移行


━━━━━━━━━━


条件:


配下損耗率一定以上


強敵認定


皇帝怒気最大


━━━━━━━━━━


「第二段階?」


『まだ何かあるのか』


 ヴォルガンの鎧。


 赤い線。


 走る。


 黒冥皇帝鎧。


 変形。


 棘。


 肩。


 腕。


 背中。


 増える。


 双包丁。


 刃。


 赤黒く。


 発光。


━━━━━━━━━━


《黒冥皇帝鎧》


戦闘解放形態


━━━━━━━━━━


《血肉断ちの双皇包丁》


真価解放


━━━━━━━━━━


 魔力。


 跳ね上がる。


 私の《危険未来予測》が、今までで一番強く反応した。


「……今度は本当に危ないかも」


『やっと言ったか』


 アル。


 盾。


 構える。


 ノルン。


 低く。


 唸る。


 ヴァルカ。


 上空。


 旋回。


 クロ。


 魂炎。


 最大。


 私。


 光翼。


 広げる。


 そして。


 ヴォルガンが。


 地面を蹴った。


 今度は。


 さっきより。


 速い。


「全員」


 《広域精神念話》。


 繋ぐ。


『ここから本気でいくよ』


『最初からそうしろ!』


 赤黒い皇帝。


 五人。


 正面。


 激突。


 する。

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