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第四十四話 二王撃破と暴虐皇の進軍



 八属性の精霊を宿した一本の魔力矢が、《聖蒼銀弓》の弦上で眩い輝きを放っていた。


 狙うのは、戦場東側へ姿を現した二体の《オークキング》。


━━━━━━━━━━


《オークキング》


Lv668


危険度:


SSS(ランク)


━━━━━━━━━━


《オークキング》


Lv691


危険度:


SSS(ランク)


━━━━━━━━━━


 二体とも、さっきまで戦っていたロード級とは明らかに違う。


 Lv668の個体は黒金属の重鎧を纏い、巨大な戦槌を両手で握っている。もう一体のLv691は、赤黒い全身鎧と身長を超える大剣を装備していた。


 さらに厄介なのは、二体が前線へ出たことで発動した《王威統率》。


 周囲のオークたちが強化され、王国軍の前線へ一気に圧力を掛け始めている。


「まず、Lv691の方」


『一人でやるのか?』


 アルの声が《広域精神念話》を通じて届く。


『うん。もう一体お願い』


『分かった。ただし危険だと思ったらすぐ呼べ』


『私も行こうか?』


 クロまで尋ねてきた。


「クロは中央のジェネラルをお願い。数が多いから」


『承知した』


「ノルンは西側。ヴァルカは上空からアルを援護して」


「ウォン!」


「グオオッ!」


 全員の返事を確認し、私は弦をさらに引き絞った。


 《八耀精霊鎧装》の八枚の光翼が大きく広がる。


「《射撃威力収束》」


「《魔力矢超圧縮》」


「《属性融合》」


 火、水、氷、風、土、雷、光、闇。


 八つの属性が一つの矢へ圧縮されていく。


 Lv691のオークキングも、私を完全に敵として認識したらしい。


「ブオオオオオオオオッ!」


 咆哮とともに巨大な大剣を振り上げる。


 赤黒い闘気が刃を覆い、数十メートルもの巨大な斬撃となって飛んできた。


「速い」


 でも、見える。


 《危険未来予測》が攻撃軌道を先読みし、《超速反応》と《三次元機動》が身体を動かす。


 光翼をわずかに傾けるだけで、私は空中を滑るように横へ移動した。


 直後、赤黒い斬撃がさっきまでいた場所を通過する。


 そのまま後方の地面へ直撃し、轟音とともに数十メートルにわたって大地を抉った。


「威力高い」


『感想を言っている場合か!』


「大丈夫。避けたから」


『それは見れば分かる!』


 アルの声を聞きながら、照準を戻す。


 オークキングの鎧。


 厚い。


 魔力障壁もある。


 だったら。


「真正面から抜く」


━━━━━━━━━━


《装甲貫通射撃》Lv100


《障壁貫通射撃》Lv100


《射撃威力収束》Lv100


《魔力矢超圧縮》Lv100


《弱点狙撃強化》Lv100


━━━━━━━━━━


「――《八耀魔穿狙撃》」


 放つ。


 八色の光が一本へ収束し、空を貫いた。


 轟音は後から来た。


「ブオッ!」


 オークキングが大剣を盾のように構える。


 赤黒い障壁が幾重にも展開された。


━━━━━━━━━━


《王級魔力障壁》


《重装防御》


《大剣防壁》


━━━━━━━━━━


 矢。


 衝突。


 最初の障壁が砕ける。


 次。


 砕ける。


 さらに三枚目。


 四枚目。


 全部。


 抜く。


「ブゴオオオッ!?」


 最後に巨大な大剣と激突した。


 八属性の精霊光が爆発し、刃の中央へ亀裂が走る。


 そのまま。


 貫通。


 大剣を撃ち抜き、胸部装甲へ突き刺さった。


 ドォォォォォォォンッ!


 巨大な爆発。


 オークキングの身体が数十メートル後方へ吹き飛ばされた。


「倒した?」


━━━━━━━━━━


対象生命反応:


存続


━━━━━━━━━━


「まだ」


 土煙。


 その奥から。


「ブ……オオオオオオッ!」


 巨体が立ち上がった。


 胸部装甲は大きく砕け、そこから血が流れている。


 でも致命傷ではない。


「SSSランク、硬い」


『むしろ今のを受けて立つ方を褒めるべきだろう』


「クロ、余裕あるね」


『こちらは順調だ』


 ちらりと中央へ意識を向ける。


 クロの周囲では、青白い魂炎が巨大な渦を作っていた。ジェネラルを含むオークたちが次々と倒れ、魂だけがクロへ吸収されている。


 でも。


 今は目の前。


◇◇◇


 負傷したオークキングが、大剣を地面へ突き立てた。


「ブオオオオオオオオオッ!」


 魔力が急激に増大する。


━━━━━━━━━━


《王種狂戦》


発動


━━━━━━━━━━


効果:


筋力大幅上昇


耐久大幅上昇


敏捷大幅上昇


痛覚抑制


魔力出力上昇


━━━━━━━━━━


「狂化系」


 赤黒い魔力を纏った巨体が地面を蹴る。


「速っ」


 一瞬で距離を詰めてきた。


 大剣。


 振り下ろし。


 私は弓を《インベントリ》へ収納する。


 同時に。


━━━━━━━━━━


《武器瞬間切替》


━━━━━━━━━━


 二振りの《双耀聖剣》。


 抜剣。


「《双剣同時戦技》」


 右。


 《瞬閃》。


 左。


 《受流斬》。


 巨大な大剣と二本の聖剣が激突した。


 以前なら、こんな巨体と真正面から力を合わせようとは思わなかった。


 でも。


 今は違う。


 五百十四万以上のAPを全部振った。


 《剣聖》Lv100。


 《八耀精霊鎧装》。


 精霊武装化した二振りの聖剣。


 ガァァァァァンッ!


「ブオッ!?」


 押し負けなかった。


 それどころか。


「押せる」


 右手の剣で大剣を横へ逸らし、左手の剣を胸部へ走らせる。


「《装甲分断》」


 白銀の斬光。


 すでに損傷していた王種の胸部装甲が、今度こそ大きく裂けた。


 オークキングが拳を振るう。


 《危険未来予測》。


 半歩。


 前へ。


 拳の内側へ潜り込む。


「《無間連斬》」


 一撃。


 二撃。


 四撃。


 八撃。


 十六撃。


 二振りの聖剣が、ほとんど同時に無数の軌跡を描いた。


 首。


 肩。


 腕。


 胸。


 脇腹。


 膝。


 すべて鎧の継ぎ目。


「ブ、オオオオオッ!」


 王種が無理やり大剣を振り回す。


 私は八枚の光翼を一度だけ羽ばたかせた。


 後方。


 上昇。


 距離を取る。


「やっぱり光翼便利」


『戦闘中に使用感を確かめるな!』


「初めてだから」


『本番で初使用すると言ったのはお前だ!』


 そうだった。


◇◇◇


 オークキングを見る。


 まだ立っている。


 でも。


 魔力がかなり落ちた。


「終わらせる」


 二振りの剣へ、光と雷の精霊魔力を集中する。


━━━━━━━━━━


《精霊武装》


《属性剣》


《複合属性制御》


━━━━━━━━━━


 右。


 雷。


 左。


 光。


 さらに二つを重ねる。


「《雷光双閃》」


 急降下。


 オークキングも最後の力で大剣を振り上げた。


「ブオオオオオオッ!」


 正面。


 ぶつかる。


 でも。


 大剣を斬る必要はない。


 《双剣軌道制御》。


 二本の剣が左右へ分かれ、大剣の両側を抜ける。


 交差。


 首。


 斬る。


 銀白と紫電の光が、巨大な十字を描いた。


 一瞬遅れて。


 オークキングの頭部が落ちた。


━━━━━━━━━━


《オークキング》


Lv691


討伐完了


━━━━━━━━━━


「倒した」


 すぐに《自動収集》が反応する。


━━━━━━━━━━


《オークキングの王牙》×10


《オークキングの王皮》×20


《オークキングの王骨》×10


《オークキングの王血》×30


《オークキングの魔石》×10


《オークキングの大剣》×1


━━━━━━━━━━


希少素材:


《王鬼心核》×1


━━━━━━━━━━


宝箱判定:


強敵個体


確定


━━━━━━━━━━


《白金宝箱》×1


自動収集しました。


━━━━━━━━━━


「白金」


『今は開けるなよ』


「分かってる」


『本当に?』


「戦争終わってから」


『よし』


 信用。


 少し戻った。


◇◇◇


 直後。


 別方向から巨大な轟音が響いた。


 振り返る。


 アル。


 もう一体のキング。


 真正面。


 戦っている。


━━━━━━━━━━


《オークキング》


Lv668


━━━━━━━━━━


 王種が巨大な戦槌を振り下ろす。


 地面が爆発したように砕けた。


 しかし、その中心で。


 琥珀色に輝く巨大な盾。


 動かない。


『《竜地精霊鎧装》を甘く見るな!』


 アルが《剛魔城塞大楯》で戦槌を受け止めている。


 その背後。


「グオオオオオッ!」


 ヴァルカが空から急降下した。


━━━━━━━━━━


《急降下突撃》


━━━━━━━━━━


 巨大な竜爪がオークキングの肩へ直撃する。


「ブゴオッ!」


 体勢が崩れる。


『ノルン!』


「ウォォォン!」


 白銀。


 横から。


━━━━━━━━━━


《白銀疾駆》


《銀嵐刃》


━━━━━━━━━━


 風刃が王種の膝裏へ命中する。


 巨体。


 沈む。


 そこへ。


 アル。


『もらった!』


 《剛魔破城斧》を両手で振り上げる。


 大地。


 炎。


 風。


 三属性。


 一つに。


━━━━━━━━━━


《竜地精霊武装》


《重斬撃》


《装甲破壊》


《対大型戦闘強化》


━━━━━━━━━━


『――《竜地破城断》!』


 振り下ろす。


 ドォォォォォォォォンッ!


 大地が割れた。


 王種の戦槌。


 砕ける。


 肩から胸にかけて、重鎧ごと巨大な斧刃が食い込む。


「ブオオオオ……!」


 アルがさらに踏み込む。


『終わりだ!』


 斧。


 振り抜く。


 オークキングの巨体が、地響きを立てて倒れた。


━━━━━━━━━━


《オークキング》


Lv668


討伐完了


━━━━━━━━━━


『倒したぞ!』


「アル、カッコよかった」


『……そう言われると悪い気はしないな』


「もう一回言う?」


『戦闘中だ!』


 でも声。


 嬉しそう。


◇◇◇


 二体のキングが倒れた瞬間、敵軍の一部が目に見えて乱れた。


━━━━━━━━━━


《王威統率》


消失


━━━━━━━━━━


対象軍団:


士気低下


能力強化解除


指揮系統混乱


━━━━━━━━━━


 そこを王国軍が見逃さない。


「今だ! 押せえええええ!」


 グレンさんの号令。


 騎士団。


 前進。


 魔導兵。


 一斉射撃。


 Aランクパーティーも連携して、混乱した敵部隊を次々と分断していく。


 私は上空からその様子を見ながら、《広域精神念話》で指揮官へ敵の動きを伝える。


『西側、ロード一体が中央へ移動しています。北東からジェネラル三十二体』


『了解! 第三騎士団を回す!』


『南側は今なら押せます』


『第二軍、前進!』


 少しずつ。


 戦場が見えるようになってきた。


 ただ敵を倒すだけじゃない。


 味方の動きを見て、危険な場所へ戦力を回す。


 こういうの。


「面白い」


『リリス』


「何?」


『今度は何が面白いんだ?』


「戦場全体が動く感じ」


『……それなら分からなくもない』


 アルも同意した。


◇◇◇


 そして。


 経験値。


━━━━━━━━━━


パーティー共有経験値取得


討伐:


《オークキング》×2


━━━━━━━━━━


経験値効率:


×10,000


━━━━━━━━━━


 光。


 全員。


 包む。


━━━━━━━━━━


リリス・ルクスヴィア


Lv642



Lv689


━━━━━━━━━━


アルドラ・ヴァルグレイヴ


Lv625



Lv678


━━━━━━━━━━


ノルン


Lv631



Lv683


━━━━━━━━━━


ヴァルカ


Lv627



Lv680


━━━━━━━━━━


クロ


Lv647



Lv694


━━━━━━━━━━


「クロが一番」


『再び我か』


『また競争するな!』


「してないよ」


 でも。


 Lv689。


 私も。


 かなり上がった。


 カイザーとの差。


 九十三。


 さっきまで二百五十五あった。


「近づいた」


『何にだ?』


「ヴォルガン」


 アル。


 沈黙。


『……リリス』


「何?」


『まだ中央へ行くなよ』


「分かってる」


 その時。


 《広域索敵網》。


 警告。


━━━━━━━━━━


警告


高魔力反応接近


━━━━━━━━━━


「……あ」


 中央。


 動いた。


 巨大な黒赤の皇帝旗。


 その下。


 今までほとんど前線へ出ていなかった一体。


━━━━━━━━━━


《|暴虐皇ヴォルガン》


種族:


ネームド・オークカイザー


Lv782


危険度:


SSS(ランク)・上位


━━━━━━━━━━


 ヴォルガンが歩き始めた。


 一歩。


 それだけで。


 周囲のオークが道を空ける。


 二歩。


 大地。


 沈む。


 そして。


 二振りの《血肉断ちの双皇包丁》を持ち上げた。


「ブオオオオオオオオオオオオオッ!」


 咆哮。


 空気そのものが震えた。


━━━━━━━━━━


《皇帝覇気》


発動


━━━━━━━━━━


敵対対象:


恐怖


威圧


能力低下


━━━━━━━━━━


配下対象:


《軍団強化》


《士気極大上昇》


《攻撃力上昇》


《防御力上昇》


《魔力出力上昇》


━━━━━━━━━━


 数万体のオーク。


 一斉。


 吠える。


「ブオオオオオオオオッ!」


 戦場全体が震えた。


 王国兵たちの顔が強張る。


 低ランク冒険者の中には、一歩後ろへ下がる人もいた。


 SSSランク上位。


 ネームド。


 皇帝種。


 ただ立っているだけで。


 全軍。


 影響する。


「これがカイザー」


 でも。


 私の身体。


 恐怖。


 ない。


━━━━━━━━━━


《精神干渉耐性》Lv100


《状態異常遮断》Lv100


《精霊加護》Lv100


━━━━━━━━━━


《皇帝覇気》


無効化


━━━━━━━━━━


 アルも。


 ノルン。


 ヴァルカ。


 クロ。


 立っている。


 ヴォルガンの真紅の瞳が、ゆっくりこちらへ向いた。


 私。


 見る。


 次に。


 アル。


 そして。


 倒れた二体のキング。


「……怒ってる?」


『どう見てもな』


 ヴォルガン。


 二本の大包丁。


 地面。


 向ける。


 そして。


 私たちへ。


「ブオオオオオオオッ!」


 走り出した。


 巨体とは思えない。


 速さ。


「来る」


『全員、構えろ!』


 アルが大楯を前へ。


 ノルンが低く身構える。


 ヴァルカが翼を広げる。


 クロの全身から青白い魂炎が噴き上がる。


 私は《聖蒼銀弓》を構えた。


 Lv689。


 相手は。


 Lv782。


 まだ格上。


 でも。


 さっきより。


 ずっと近い。


 八枚の精霊光翼を大きく広げる。


「次は――皇帝」


 《暴虐皇ヴォルガン》が、一気にこちらへ迫ってきた。

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