第四十三話 一万の精霊矢と大軍勢迎撃戦
空を埋め尽くした一万本の《八属性精霊魔力矢》が、十万を超えるオーク大軍勢へ一斉に照準を合わせていた。
火、水、氷、風、土、雷、光、闇。八属性の光が上空で幾重にも重なり、朝の平原を虹色に染めている。
私の背中では《八耀精霊鎧装》によって形成された八枚の精霊光翼が大きく広がっていた。
「じゃあ――始めよう」
《戦場全域把握》で敵全体を捉え、《攻撃軌道演算》と《多重弾道分割》を同時に起動する。
狙うのは、味方防衛線に最も早く到達する前衛部隊。
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標的割当
《オーク》 6,000体
《オークウォリアー》 1,600体
《オークアーチャー》 1,000体
《オークメイジ》 800体
《オークナイト》 500体
《オークジェネラル》 100体
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総標的数:
10,000
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『……ジェネラルまで百体混ぜたのか』
アルの声が《広域精神念話》から聞こえた。
『うん。指揮官は減らした方がいいでしょ?』
『判断自体は正しい。だが、一斉に百体狙うのがおかしいんだ!』
『一万体の中の百体だよ?』
『比率の問題ではない!』
クロが低く笑う。
『撃ってみればよかろう。敵も待ってはくれぬぞ』
「それもそうだね」
弦から指を離す。
「――《一万重精霊射撃》」
瞬間。
一万本の光が空から消えた。
正確には、速すぎてそう見えただけだった。
次の瞬間には空中へ無数の光跡が描かれ、それぞれがまったく異なる軌道を通ってオーク軍勢へ降り注ぐ。
火炎属性は盾陣の隙間へ。
水と風は装甲の継ぎ目へ。
氷は脚部や関節へ。
土は正面装甲を打ち砕き、雷は金属鎧を伝って内部へ浸透する。
光は魔法障壁を撃ち抜き、闇は高い魔力耐性を持つ個体へ食い込んだ。
ドドドドドドドドドドドドドドドド――ッ!!
もはや一つの轟音だった。
「ブゴォッ!?」
「グガアアアアッ!」
「ブオオオオ――!」
オーク軍の最前列から、巨大な土煙が一斉に噴き上がった。
盾。
鎧。
武器。
地面。
ありとあらゆるものが同時に砕け、平原の一部が八色の閃光に覆われる。
私は《広域索敵網》で着弾結果を確認した。
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《一万重精霊射撃》
命中:
10,000/10,000
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討伐:
《オーク》 6,000/6,000
《オークウォリアー》 1,600/1,600
《オークアーチャー》 1,000/1,000
《オークメイジ》 800/800
《オークナイト》 500/500
《オークジェネラル》 100/100
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総討伐数:
10,000体
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「全部倒せた」
『……』
「アル?」
『ちょっと待ってくれ』
「何?」
『十万いた敵が、一射で一万減ったんだぞ』
「まだ九万以上いるよ」
『そういう問題ではない!』
確かにまだ多い。
でも、一万本を同時に完全制御できた。
《弓聖》Lv100と《八耀精霊鎧装》の組み合わせは、思っていた以上に強いらしい。
◇◇◇
私だけが驚いていたわけではなかった。
後方の王国軍と冒険者たちは、目の前で起きたことを理解できずに静まり返っていた。
「……今ので何体倒した?」
「分からん……一千……いや、それ以上だ」
「一万です!」
戦場監視を担当していた魔導兵の叫び声が響く。
「敵軍前衛、生命反応一万消失! 一撃です!」
「一万!?」
今度は味方側が騒がしくなった。
少し離れた場所で指揮しているグレンさんまでこちらを見る。
「リリス!」
「はい?」
「お前、さっき“一万本から試す”とか言ってなかったか!?」
「試したら全部当たりました」
「報告が軽いんだよ!」
「でも成功です」
「そういう問題じゃ……いや、今はいい! 敵が崩れているうちに全軍攻撃開始!」
グレンさんが剣を振り上げた。
「全軍、前へ! 敵前衛が崩れたぞ! 今のうちに押し返せ!」
「おおおおおおおおっ!」
六万を超える防衛軍が一斉に動き始めた。
◇◇◇
王国軍の弓兵隊から矢が放たれ、魔導兵団の集団魔法が敵陣へ降り注ぐ。
騎士団は盾を連ねながら前進し、その隙間から槍を突き出していた。
冒険者たちもただ突撃しているわけではない。
特にA級パーティー《白銀の城壁》の動きは綺麗だった。
盾士が先頭。
そのすぐ後ろに槍士。
剣士は側面。
魔導士が敵の進路を土壁で制限し、神官が負傷者へ回復魔法を飛ばしている。
五人が別々に戦っているようで、全部の行動が一つにつながっていた。
「……なるほど」
『何を見ている?』
「《白銀の城壁》。倒す速度じゃなくて、敵を味方が倒しやすい位置に誘導してる」
『ああ。集団戦では重要だ』
「覚えておこう」
私なら火力でまとめて倒せる。
でも、それだけが冒険者としての強さではない。
味方と一緒に戦うなら、こういう技術も必要になる。
◇◇◇
そこで大量の表示が視界へ現れた。
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《パーティー経験値共有》
討伐対象:
10,000体
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共有対象:
リリス
アルドラ
ノルン
ヴァルカ
クロ
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経験値効率:
×10,000
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「来た」
『何がだ?』
「経験値」
『……嫌な予感がする』
表示が一気に流れる。
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リリス・ルクスヴィア
Lv527
↓
Lv642
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「百十五上がった」
『百十五!?』
続く。
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アルドラ・ヴァルグレイヴ
Lv491
↓
Lv625
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『……百三十四上がった』
「アル、かなり追いついた」
『戦争中にレベル競争をするな!』
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ノルン
Lv503
↓
Lv631
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「ウォォォォォン!」
ノルンの全身から白銀の魔力が噴き上がる。
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ヴァルカ
Lv497
↓
Lv627
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「グオオオオオッ!」
上空ではヴァルカの翼から深紅の魔力が溢れた。
そして。
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クロ
Lv534
↓
Lv647
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『……これは』
「一万倍すごいでしょ?」
『想像以上だ』
「クロが一番レベル高い」
『今のところはな』
『リリス! 競争相手を増やすな!』
増やしたつもりはない。
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さらに、私にはレベルアップ分のAPとSPも入った。
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レベル上昇:
+115
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《獲得ポイント増加》Lv100
獲得量:
×100
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AP:
+1,150,000
SP:
+1,150,000
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「また百万増えた」
『今使うなよ』
「戦闘中だから使わないよ」
『……成長した』
「さっきも言われた」
『別の意味だ!』
◇◇◇
だが、オーク軍勢も黙ってはいなかった。
最初の一万体が消えたことで軍勢中央から次々と角笛が鳴り、二十四の軍団が大きく展開し始める。
オークナイトが巨大盾を並べ、その後方へメイジとアーチャー。
さらにジェネラルたちが怒鳴り声を上げ、崩れた兵を強引に再編成していた。
『リリス』
クロの声。
『大きなものが動くぞ』
「見えてる」
軍勢東側。
巨大な戦斧を持った一体のオークが前へ出る。
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《オークロード》
Lv548
危険度:
SS級
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能力:
《軍団統率》
《巨斧豪撃》
《鋼鬼闘気》
《衝撃波》
《超筋力》
《指揮強化》
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「アル」
『私が行く』
「お願い」
『お前は上から全体を見ていてくれ』
アルの《竜地精霊鎧装》が強く輝いた。
琥珀色の霊装装甲。
炎と大地を纏う《剛魔破城斧》。
巨大な大楯。
さっきまでLv491だったアルは、もうLv625。
相手はLv548。
『ヴァルカ!』
「グオオッ!」
ヴァルカが急降下し、アルがその背へ飛び乗る。
『行くぞ!』
「グオオオオオッ!」
深紅の翼が大きく羽ばたいた。
◇◇◇
「ブオオオオオオッ!」
オークロードが巨大戦斧を振り上げる。
その周囲には数百体のオークナイトとウォリアー。
アルとヴァルカ。
正面。
突っ込む。
『《精霊武装》!』
《剛魔破城斧》へ炎が集まる。
同時に、大地の精霊魔力が刃の周囲へ重なる。
『ヴァルカ、落とせ!』
「グオッ!」
急降下。
オークロードの斧。
振るわれる。
アル。
大楯を構えた。
『《大楯固定》!』
ガァァァァァンッ!
衝撃波が平原を走る。
でも。
アル。
動かない。
「おお」
以前のアルなら、同格近い相手の全力攻撃を受ければ地面を削りながら後退していた。
今は。
完全に止めた。
『軽い!』
「アル、カッコいい」
『今それを言うのか!?』
大楯。
押し返す。
オークロードの巨体がよろめいた。
『《精霊破城斬》!』
両刃大戦斧。
横薙ぎ。
深紅と琥珀の光が巨大な弧を描く。
ズバァァァァンッ!
「ブオォッ!?」
オークロードの重鎧が胸部から大きく裂けた。
そのままアルが一歩踏み込む。
『《重斬撃》!』
ドゴォォォォンッ!
巨体が地面へ叩きつけられた。
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《オークロード》
Lv548
討伐完了
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「一撃に近い」
『二撃だ!』
「細かい」
『大事だ!』
でも、アル。
本当に強くなってる。
◇◇◇
別方向。
ノルンも動いた。
「ウォォォォォン!」
Lv631。
白銀の巨狼。
《地王獅心首環》と《白銀疾装》が魔力へ反応し、白銀と琥珀色の光を放っている。
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《白銀疾駆》
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ノルンの姿が消えた。
次の瞬間には数百メートル先。
オークの隊列。
真横。
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《銀嵐刃》
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巨大な白銀の風刃が地面を走る。
オークナイトの盾。
鎧。
まとめて斬り裂く。
「ウォン!」
さらに加速。
別の集団へ。
「ノルン速い」
『お前が一万倍など与えるからだ』
「クロもだよ」
『否定できぬな』
◇◇◇
上空ではヴァルカも、アルを降ろしたあと単独戦闘へ移っていた。
Lv627。
「グオオオオオッ!」
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《緋炎竜息》
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巨大な炎が、オークアーチャーの部隊を薙ぎ払う。
そしてクロ。
『我も行くぞ』
「うん」
漆黒の巨体が黒霧へ溶ける。
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《冥界疾走》
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影から影へ。
現れるたびにオークが倒れる。
青白い《魂炎》が敵だけを包み込み、次々と生命反応が消えていく。
『なかなかよい』
「魂?」
『ああ。数が多い』
「食べ過ぎないでね」
『我は腹を壊さん』
「なら大丈夫」
『そこなのか』
◇◇◇
私も上空へ出た。
八枚の精霊光翼を広げる。
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《三次元機動》
《空中歩法》
《慣性制御》
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身体。
軽い。
翼で飛んでいるというより、空そのものが足場になったような感覚。
視界の下では、九万を超えるオーク軍勢と王国軍がぶつかり始めている。
私は《広域精神念話》を王国側の指揮官数名へ一時的に接続した。
『グレンさん』
『うおっ!? 頭の中に声が――リリスか!?』
『はい。西側にオークロード二体が移動してます。中央のジェネラルが六十体くらい前へ出ました』
『そんなところまで分かるのか!?』
『全部見えてます』
一瞬。
沈黙。
『……分かった! 西軍を二列下げる! Aランク二組を中央支援へ回す!』
『了解です』
通信を切る。
少し。
嬉しい。
「こういう使い方もできる」
ただ火力で敵を消すだけじゃない。
今なら、戦場全体を見ながら味方へ情報を渡せる。
さっき見たAランクパーティーの戦い方と同じで、全体を見ることも大事。
◇◇◇
そこで。
《危険未来予測》。
反応。
「……来る」
私は東を向く。
遠方。
巨大な魔力反応。
一つ。
いや。
二つ。
オークロードではない。
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高位個体接近
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《オークキング》
Lv668
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《オークキング》
Lv691
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危険度:
SSS級
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「キング二体」
『見えている』
アルの声。
『ロードとは圧が違うな』
七体いたオークキング。
そのうち二体が同時に前線へ出てきた。
一体は巨大な黒鉄の戦槌。
もう一体は、身の丈を超える大剣。
二体が進むだけで、周囲のオークたちの魔力が急激に増していく。
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《王威統率》
発動
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周辺オーク軍:
全能力上昇
士気上昇
状態異常耐性上昇
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「王様らしい」
『リリス』
「何?」
『その声は戦う気だな』
「うん」
現在。
私Lv642。
相手。
Lv668とLv691。
少し上。
ちょうどいい。
《弓聖》の実戦熟練度。
それに。
《八耀精霊鎧装》。
もっと試したい。
「一体、私がやる」
『もう一体は?』
「アルたち」
『一人でキングを?』
「危なかったら呼ぶ」
『……分かった。ただし無理はするな』
「うん」
私は《聖蒼銀弓》を構える。
今度は一万本じゃない。
一体。
SSSランクの王種。
だから。
一本に。
全部。
集中する。
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《射撃威力収束》
《魔力矢超圧縮》
《超魔力圧縮》
《属性融合》
《精霊武装》
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八枚の精霊光翼が広がった。
火。
水。
氷。
風。
土。
雷。
光。
闇。
八属性の精霊が一本の矢へ集まっていく。
遠く。
Lv691のオークキングが私を見上げた。
「ブオオオオオオオオオッ!」
王の咆哮。
大剣。
私へ。
向ける。
「気づいた」
『当然であろう。お前は今、空で八色に光っている』
「目立つ?」
『非常にな』
精霊鎧装。
カッコいい。
でも隠密には向いてないみたい。
「まあいいか」
今は。
隠れる必要。
ない。
私は弦を引き絞る。
「まずは、キング」
八属性を宿した一矢が、眩い光を放ち始めた。




