第四十二話 十万のオーク大軍勢と冥魂狼クロ
翌朝。
銀の月亭の食堂で、私は少し遅めの朝食を取っていた。
今日の献立は炊きたての白米、香草を利かせた腸詰め、半熟の目玉焼き、玉葱と芋をじっくり煮込んだ温かなスープ。それに焼き野菜も添えられている。
「いただきます」
白米に半熟の黄身を少し絡め、腸詰めと一緒に口へ運ぶ。塩気のある肉と白米がよく合っていて、朝から食欲が進む。
「……美味しい」
『朝からよく食べるな』
向かいに座るアルも、すでに二杯目の白米を食べていた。
「アルもおかわりしたよね」
『私は身体が大きいからな』
「私も成長したから」
『レベルが上がっても胃袋まで大きくなるわけじゃないだろう』
「気分」
『便利な言葉だな』
昨日、私たちは《経験値圧縮》によって、これまで蓄積してきた経験値履歴を現在の成長効率で再演算した。
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リリス・ルクスヴィア
Lv527
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アルドラ・ヴァルグレイヴ
Lv491
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ノルン
Lv503
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ヴァルカ
Lv497
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四人とも経験値効率は一万倍。
私はさらに新規技能百種類を取得し、それまでに習得していた技能も含めてLv100まで強化している。
身体に異常はない。《並列思考》《超高速魔力演算》《成長演算最適化》のおかげなのか、大量に増えた知識も自然に整理されていた。
ただ、一つだけ昨日のうちに処理していなかったものがある。
「そういえば、APまだ全部使ってなかった」
『今思い出したのか?』
「昨日はスキルの方が楽しくて」
『五百万以上ある能力ポイントを忘れるな』
ステータスを開く。
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未使用AP:
5,145,000
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「いっぱい」
『見れば分かる』
私は弓も剣も魔法も使う。錬金術もするし、速さも防御力も欲しい。
だったら、極端に偏らせるより全部伸ばした方が使いやすそうだった。
「均等にしよう」
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《AP一括振分》
筋力 +735,000
耐久 +735,000
敏捷 +735,000
器用 +735,000
知力 +735,000
精神 +735,000
魔力 +735,000
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消費AP:
5,145,000
残りAP:
0
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決定した瞬間、身体の奥から静かに力が広がった。
急激に能力値が増えたはずなのに、身体が暴れるような感覚はない。《完全姿勢制御》や《成長演算最適化》が、新しい能力値へ自動的に適応してくれているらしい。
軽く指を動かすだけでも昨日までとは違う。
「すごく身体が軽い」
『朝食の席で机を持ち上げるなよ』
「しないよ」
『先に言っておく』
信用が少し低い気がする。
そんなことを考えながら最後のスープを飲んだ、その時だった。
カァン――! カァン――! カァン――!
王都全体へ響き渡るような鐘の音。
食堂の空気が一変した。
店員も宿泊客も窓の外を見る。アルもすぐに立ち上がった。
『警戒鐘だ』
「ギルドに行こう」
『ああ』
◇◇◇
今日は遊びではない。
私は《創晶透明戦衣》の上から、主力装備である《蒼聖勇装》を纏った。
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《蒼聖勇装》
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背中には《聖蒼銀弓》。
腰には二振りの《双耀聖剣》。
アルも防御特化の岩王装備ではなく、状況への対応力に優れた《剛魔鋼》製の主力装備を選んでいた。
《剛魔重騎鎧》。
《剛魔重騎兜》。
《剛魔城塞大楯》。
そして巨大な両刃大戦斧《剛魔破城斧》。
『岩王装備じゃなくていいのか?』
「敵の構成が分からないから、最初は万能型の方がいいと思う」
『私も同じ考えだ。必要なら戦場で換装すればいい』
「《インベントリ》に入れてあるからすぐできるよ」
『本当に便利だな』
裏庭へ出ると、ノルンとヴァルカもすでに異変を察知していた。
ノルンは王都の外へ耳を向け、ヴァルカも低い唸り声を上げながら翼を広げている。
「行こう」
「ウォン!」
「グオッ!」
◇◇◇
冒険者ギルドへ近づくにつれて、事態がかなり大きいことが分かった。
通りには武装した冒険者が溢れ、軍用馬車が次々と行き交っている。矢束、予備武器、大盾、回復薬、魔力回復薬、携帯食料、治療用天幕まで、ありとあらゆる物資が運び込まれていた。
ギルドへ入ると、広間中央の掲示板に赤い縁取りの巨大な依頼書が貼られている。
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緊急防衛依頼
《オーク大軍勢迎撃戦》
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【緊急報告】
王都北西部にて
超大規模オーク軍勢を確認。
推定総数:
100,000体以上
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確認個体:
《オーク》
《オークウォリアー》
《オークアーチャー》
《オークメイジ》
《オークナイト》
《オークジェネラル》
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上位指揮官:
《オークロード》複数
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高位統率個体:
《オークキング》複数
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全軍統率個体:
ネームド・オークカイザー
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軍勢全体脅威度:
SSS級国家災害
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「十万……」
『さすがに多いな』
「うん」
二万でも十分な大軍だった。
十万となれば、平原そのものが魔物で埋まる規模だ。
「リリスさん! アルドラさん!」
受付からエレナさんが呼んでいた。
「ちょうどよかったです。お二人にも緊急防衛戦への参加をお願いしたいところでした」
「参加します」
『私もだ』
「ありがとうございます!」
ほとんど同時に答えると、エレナさんは目に見えて安心した。
「ノルンとヴァルカも一緒です」
「それも非常に助かります。昨日までなら、ここまで安心できなかったんですが……」
「昨日まで?」
「一晩で皆さんのレベルが数百上がったという報告を受けたばかりなんですよ!」
「あ」
『やはり相当な衝撃だったらしいな』
「ちゃんと座ってもらってから話したのに」
「座っていれば平気という問題じゃありません!」
配慮したつもりだった。
◇◇◇
その時、ギルド奥からギルドマスターのグレン・バルディスさんが姿を現した。
短い灰髪に左頬の古い傷。鍛え抜かれた大柄な身体には、すでに完全な戦闘装備を纏っている。
「全員、聞け!」
低く太い声が響き、広間が静まり返った。
「偵察隊から追加報告が入った。最初に確認された軍勢は全体の一部だった」
大型の魔導映像板へ、平原を覆い尽くすほどのオーク軍が映し出される。
「まず通常種だ。最も数が多い」
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《オーク》
推定Lv:
40~70
危険度:
C級前後
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「次に上位種」
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《オークウォリアー》
Lv70~110
危険度:B級
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《オークアーチャー》
Lv60~100
危険度:B級
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《オークメイジ》
Lv80~130
危険度:B~A級
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《オークナイト》
Lv120~180
危険度:A級
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「そしてジェネラル級。こいつらは軍団の現場指揮官だ」
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《オークジェネラル》
確認数:
200体
推定Lv:
220~320
危険度:
S級
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広間にどよめきが広がった。
Sランクが二百体。
それだけでも、普通なら大災害だと思う。
「さらに、その上がいる。複数の軍団を直接率いる《オークロード》だ」
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《オークロード》
確認数:
24体
推定Lv:
430~560
危険度:
SS級
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『二十四体か』
「アルたちと近いレベル」
『上位個体は私たちより高いな』
グレンさんの説明はまだ終わらない。
「ロードを束ねる王種も確認されている」
魔導映像が七体の巨大なオークへ切り替わる。
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《オークキング》
確認数:
7体
推定Lv:
610~710
危険度:
SSS級
分類:
王種
方面軍統率個体
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「キングが七体」
『全員お前より高レベルだな』
「うん」
『嬉しそうにするな』
「強そうだから」
『だからだ!』
そして最後。
魔導映像が、大軍勢の中央へ移動する。
七体のオークキングより、さらに巨大な個体。
赤黒い肌を黒紫色の重厚な全身鎧が覆い、頭には黒い角を組み合わせた皇帝兜。
両手には巨大な肉断包丁。
背後には、黒赤の巨大な皇帝旗。
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《|暴虐皇ヴォルガン》
種族:
ネームド・オークカイザー
Lv782
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危険度:
SSS級・上位
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分類:
皇帝種
大軍勢統率個体
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装備:
《黒冥皇帝鎧》
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武器:
《血肉断ちの双皇包丁》
品質:
固有級
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主能力:
《皇帝覇気》
《軍勢統率》
《軍団強化》
《血戦強化》
《超再生》
《黒冥闘気》
《双断連殺》
《暴虐進軍》
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「Lv782……」
私より二百五十五も高い。
しかも本人だけではなく、七体のキング、二十四体のロード、二百体のジェネラルまで従えている。
『リリス』
「何?」
『目が輝いているぞ』
「強そう」
『やっぱりか』
「リリスさん」
エレナさんが私を見る。
「はい?」
「楽しそうにしないでください!」
「まだ誰と戦うか決まってないよ」
『全部と戦う選択肢を残すな』
アル。
最近、本当に鋭い。
◇◇◇
「次に討伐報酬だ!」
グレンさんの声に合わせて、魔導映像へ報酬表が表示された。
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【緊急防衛戦・討伐報酬】
《オーク》
1体:
金貨20枚
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《オークウォリアー》
1体:
金貨40枚
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《オークアーチャー》
1体:
金貨40枚
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《オークメイジ》
1体:
金貨60枚
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《オークナイト》
1体:
金貨80枚
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《オークジェネラル》
1体:
金貨1,000枚
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《オークロード》
1体:
白金貨1,000枚
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《オークキング》
1体:
白金貨5,000枚
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ネームド・オークカイザー
《暴虐皇ヴォルガン》
白金貨30,000枚
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さらに、偵察隊が確認した現在の軍勢内訳から、全滅時の最大支払額まで計算される。
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《オーク》
60,000体
報酬総額:
金貨1,200,000枚
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《オークウォリアー》
16,000体
報酬総額:
金貨640,000枚
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《オークアーチャー》
10,000体
報酬総額:
金貨400,000枚
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《オークメイジ》
7,452体
報酬総額:
金貨447,120枚
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《オークナイト》
9,000体
報酬総額:
金貨720,000枚
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《オークジェネラル》
200体
報酬総額:
金貨200,000枚
━━━━━━━━━━
《オークロード》
24体
報酬総額:
白金貨24,000枚
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《オークキング》
7体
報酬総額:
白金貨35,000枚
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《暴虐皇ヴォルガン》
1体
報酬:
白金貨30,000枚
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【全軍討伐時・最大報酬】
金貨:
3,607,120枚
白金貨:
89,000枚
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広間が静かになった。
金額が大きすぎて、逆に反応しづらいみたい。
「三百六十万……」
『金貨だけでな』
「白金貨八万九千」
『まさか全部取るつもりじゃないだろうな?』
「全部倒したら?」
『お前ならやりかねないから困る』
もちろん、これは軍勢全体を倒した場合の国家側の最大支払い額。
実際には支給される討伐記録魔導具が撃破者を判定し、それぞれが倒した分だけ報酬を受け取ることになる。
素材と通常ドロップも原則として討伐者の所有物。
「十万体分の素材……」
『結局そっちか』
「すごい量」
『戦争の説明中に在庫を想像するな』
「錬金術師だから」
『万能な言い訳にするな』
◇◇◇
こちら側も国家規模の戦力を集めていた。
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【王都防衛総戦力】
王国軍:
28,000名
王都騎士団:
7,500名
地方駐屯軍・援軍:
14,000名
冒険者:
約6,800名
治癒・補給・工兵・魔導支援:
約8,000名
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総動員:
約64,300名
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敵は十万以上。
数では大きく劣っている。
それでも、こちらには防衛陣地と魔導兵器があり、王国軍や騎士団は統率されている。
前方にはAランクパーティーが五組集められていた。
そのうちの一組。
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A級パーティー
《白銀の城壁》
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構成:
剣士
盾士
槍士
神官
魔導士
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「Aランクの集団戦術、見てみたい」
『今のお前なら個人戦闘力は遥かに上だろう』
「レベルだけじゃ分からないことあるから」
誰を守るか。
いつ攻めるか。
どこで退くか。
大規模戦での判断は、強さだけでは身につかない。
Aランク昇格を目指すなら、実際の動きを見ておきたい。
◇◇◇
「全軍の第一目標は敵の殲滅じゃない!」
グレンさんが声を張り上げる。
「侵攻を止めろ! 負傷したら退け! 防衛線を維持しろ! そして単独で敵軍深部へ突っ込むな!」
「おおおおおっ!」
冒険者たちの声が広間を震わせる。
『リリス』
「何?」
『最後のところ、聞いたな?』
「聞いたよ」
『ならいい』
「単独じゃなければ」
『そういう意味じゃない!』
「ウォン!」
「グオッ!」
「ほら、四人」
『数を増やすな!』
ちゃんと聞いていたのに。
◇◇◇
出発まで一時間。
中庭で支給された回復薬や携帯食料を《インベントリ》へ収納していると、新しい技能候補が気になった。
「十万体か……戦場広いし、念話欲しい」
『それはまともだ』
「召喚も欲しい」
『後半でおかしくなった』
技能検索。
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上位派生技能解放
《魂界大召喚》
《広域精神念話》
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「取得」
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《魂界大召喚》Lv100
《広域精神念話》Lv100
習得完了
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『召喚まで今試すのか?』
「一時間ある」
『時間の問題ではないと思う』
◇◇◇
中庭の端で《魂界大召喚》を発動する。
銀、黒、青白の魔力が幾重にも広がり、巨大な召喚陣を形成した。
黒い霧が立ち上がり、その奥で二つの青白い瞳が開く。
やがて現れたのは、巨大な黒狼だった。
ノルンが雪原の白銀なら、こちらは夜そのもの。
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《冥魂狼》
Lv534
危険度:
S級
分類:
魂喰魔獣
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能力:
《魂喰》
《魔力吸収》
《呪詛捕食》
《魂炎》
《冥界疾走》
《精神感応》
《高位再生》
《魔力捕食成長》
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『我を呼んだのは、お前か』
『うん』
『妙な人間だ。強大な力を持ちながら、魂の濁りが少ない』
「褒めてる?」
『そう受け取って構わぬ』
「これから十万体くらいのオークと戦うんだけど、手伝ってほしい」
『十万か。なかなかの餌場だ』
「お願い」
『対価は?』
「ご飯?」
『……』
アルが額を押さえた。
『Sランク魔獣を食事で勧誘するな』
「ノルンとヴァルカは喜ぶよ」
『基準がそこなのか』
黒狼は低く笑った。
『面白い。しばし、お前と歩むとしよう』
互いの同意を確認し、《従魔契約》を結ぶ。
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《従魔契約》
対象:
《冥魂狼》
契約方式:
相互契約
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契約成立
個体名設定可能
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真っ黒。
「クロ」
『……随分と単純だな』
「嫌?」
『いや。短く、呼びやすい。悪くない』
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個体名:
《クロ》
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「よろしく、クロ」
『よろしく頼む、リリス』
頭を撫でてみる。
「ふわふわ」
『我は魂喰魔獣なのだが』
「でもふわふわ」
『否定はせぬ』
「ウォン!」
「ノルンもふわふわ」
「ウォン!」
『張り合わなくてもよかろう』
◇◇◇
クロにも《成長同調》を付与する。
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《成長同調》
対象:
クロ
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経験値効率:
×10,000
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共有完了
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『会ってすぐ一万倍を配るな!』
「仲間だから」
『強くなれるのなら歓迎しよう』
「クロ、話が早い」
『そこで意気投合するな!』
◇◇◇
これで終わろうと思った。
でも、技能検索画面の端に新しい項目が光っている。
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特殊強化系統
《精霊感応》
《精霊同調》
《精霊魔力循環》
《精霊加護》
《精霊武装》
《精霊鎧装》
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「変身系」
『変身?』
「精霊の力を身体と装備へ重ねて、戦闘形態になるみたい」
『……』
「欲しい」
『知っていた』
説明を確認する。
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《精霊鎧装》
精霊魔力を全身へ同調させ、
身体・既存装備・武器へ
精霊霊装を重ねる変身型技能。
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強化効果:
身体能力上昇
魔力出力上昇
属性威力上昇
属性耐性上昇
武器性能上昇
移動性能上昇
障壁性能上昇
魔力回復補助
装備自己修復補助
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「カッコよさそう」
『そこが最初なのか?』
「強いのも大事」
『二番目なんだな』
全部取得する。
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《精霊感応》Lv100
《精霊同調》Lv100
《精霊魔力循環》Lv100
《精霊加護》Lv100
《精霊武装》Lv100
《精霊鎧装》Lv100
━━━━━━━━━━
取得した瞬間、周囲に存在する精霊たちがはっきりと感じられるようになった。
火、水、氷、風、土、雷、光、闇。
八属性の精霊が、小さな光の粒のように空気中を漂っている。
「……綺麗」
『私にも何となく感じるぞ』
「アルも適性ある」
『私もか?』
「大地、炎、風が強い」
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《精霊同調》
高適性対象:
アルドラ・ヴァルグレイヴ
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「アルも取れるよ」
『今回は興味がある』
「やる?」
『頼む』
「即答」
『戦士なら変身して強くなると聞けば興味くらい持つ!』
珍しく、アルがかなり乗り気だった。
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精霊技能共有
対象:
アルドラ・ヴァルグレイヴ
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《精霊感応》Lv100
《精霊同調》Lv100
《精霊魔力循環》Lv100
《精霊加護》Lv100
《精霊武装》Lv100
《精霊鎧装》Lv100
━━━━━━━━━━
共有完了
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「本番で使おう」
『今試さないのか?』
「変身は戦場で初めて使う方がカッコいい」
『そこは譲らないんだな……』
◇◇◇
一時間後。
王都北西部の大平原。
六万を超える防衛軍が、複数の防衛線へ分かれて布陣していた。
私たちは通常のBランク部隊ではなく、独立遊撃部隊。
グレンさんから、ロード級以上の突出個体への対応と、崩れた戦線への増援を任されている。
私は《広域索敵網》と《超遠距離感知》を同時発動した。
十万を超える生命反応を、Lv100の感知・演算技能が瞬時に分類する。
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《オーク大軍勢》
総数:
102,684体
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《オーク》
60,000体
Lv40~70
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《オークウォリアー》
16,000体
Lv70~110
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《オークアーチャー》
10,000体
Lv60~100
━━━━━━━━━━
《オークメイジ》
7,452体
Lv80~130
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《オークナイト》
9,000体
Lv120~180
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《オークジェネラル》
200体
Lv220~320
━━━━━━━━━━
《オークロード》
24体
Lv430~560
━━━━━━━━━━
《オークキング》
7体
Lv610~710
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ネームド・オークカイザー
《暴虐皇ヴォルガン》
Lv782
━━━━━━━━━━
「十万二千六百八十四」
『本当に平原が埋まっているな』
見渡す限り、オーク。
巨大な軍旗。
重装歩兵。
弓兵。
魔法部隊。
騎獣。
その中に二十四体のロード。
さらに七体のキング。
そして全軍中央に、黒赤の皇帝旗を背負った《暴虐皇ヴォルガン》。
クロの青白い瞳が細くなる。
『あれが最上位か。なかなか上等な魂だ』
「倒したあとなら食べていいよ」
『承知した』
「素材は残して」
『もう覚えた』
「偉い」
『完全に教育されているな……』
アルが呆れていた。
◇◇◇
敵軍から巨大な角笛が鳴った。
ブオォォォォォォォォ――!
続いて七つの王軍。
さらに二十四の軍団。
次々と角笛が応える。
十万を超える大軍勢が一斉に前進を始め、大地が震えた。
こちら側でも王国軍、騎士団、冒険者たちが武器を構える。
「アル」
『ああ』
「使おう」
『精霊鎧装だな』
「うん」
私は八属性の精霊へ意識を向ける。
「《精霊感応》」
火、水、氷、風、土、雷、光、闇。
八属性の精霊光が私の周囲へ集まった。
「《精霊同調》」
精霊の力と私自身の魔力回路が重なる。
全身の魔力が一気に高まった。
「――《八耀精霊鎧装》!」
眩い光が全身を包み込んだ。
白銀と蒼を中心に、八属性の光が螺旋を描いて身体を駆け巡る。
《蒼聖勇装》の表面へ半透明の白銀精霊装甲が形成され、胸、肩、腕、腰、脚へ次々と重なっていく。
装甲の縁には八色の魔力光。
黒髪の輪郭は銀蒼色に輝き、瞳には八属性の光彩が宿った。
背中で光が大きく広がる。
八枚の精霊光翼が、一斉に展開した。
━━━━━━━━━━
《八耀精霊鎧装》
完全展開
━━━━━━━━━━
同調属性:
火/水/氷/風
土/雷/光/闇
━━━━━━━━━━
《精霊武装》
《聖蒼銀弓》
《双耀聖剣》
霊装化
━━━━━━━━━━
「……カッコいい」
『第一声がそれか!』
「アルもやって」
『分かった!』
アルが《剛魔城塞大楯》を前へ構え、《剛魔破城斧》を握る。
『《精霊同調》! ――《竜地精霊鎧装》!』
琥珀、深紅、蒼白。
三色の光がアルの身体を包み込んだ。
《剛魔重騎鎧》の上へ重厚な琥珀色の精霊装甲が形成され、装甲の隙間を深紅と蒼白の光が走る。
長い赤髪の縁が淡く発光し、こめかみの角にも光が宿る。青い瞳の中心には琥珀色の輝き。
《剛魔城塞大楯》は巨大な精霊外殻を纏い、両刃大戦斧《剛魔破城斧》には大地と炎の精霊魔力が螺旋状に絡みついた。
━━━━━━━━━━
《竜地精霊鎧装》
完全展開
━━━━━━━━━━
主同調属性:
大地/炎/風
━━━━━━━━━━
《精霊武装》
《剛魔破城斧》
《剛魔城塞大楯》
霊装化
━━━━━━━━━━
「アル、ものすごくカッコいい」
『……私もかなり気に入った』
「素直」
『今回は否定する理由がない!』
周囲の兵士や冒険者たちが、光を纏った私たちを見て固まっていた。
グレンさんまで振り返る。
「お前ら、また何か増えてないか?」
「さっき覚えました」
「さっき!?」
「出発前に」
「俺が作戦説明してた裏で何してたんだ!」
『変身技能を覚えていた』
クロが答える。
「クロ、それ説明すると長くなるから」
『そうなのか』
「今は戦争だからな! とにかく味方を巻き込むな!」
「はい」
◇◇◇
敵軍との距離が縮まる。
私は《広域精神念話》を展開し、アル、ノルン、ヴァルカ、クロを一つの通信網へ繋いだ。
『最初に前衛を削る。ロードとキングの位置は私が共有するね』
『了解した』
『ウォン!』
『グオオッ!』
『我も好きに戦わせてもらおう』
『素材は――』
『残す。もう分かっている』
『完璧』
『クロまで完全にリリス側だな……』
私は精霊霊装化した《聖蒼銀弓》を構える。
百本程度なら、今の私には少なすぎる。
「一万本」
『本当にやるのか?』
「十万体いるから」
『理由になっていない!』
「全部に十本なら百万本だよ?」
『基準をさらにおかしくするな!』
魔力と精霊へ命令を送る。
「《魔力矢多重生成》」
「《百矢制御》」
「《多重弾道分割》」
「《同時着弾制御》」
「《戦場全域把握》」
「《超高速魔力演算》」
「《八属性同時制御》」
私の背後から上空へ、八色の光が次々と生まれていく。
千。
三千。
五千。
七千。
そして一万。
━━━━━━━━━━
《八属性精霊魔力矢》
生成数:
10,000
━━━━━━━━━━
空が八色の光で埋め尽くされた。
火炎の赤。
水流の蒼。
氷の青白。
風の翠。
大地の琥珀。
雷の紫。
光の黄金。
闇の黒紫。
無数の光条が私の上空で静止し、十万を超える敵軍へ狙いを定める。
「……綺麗」
『見惚れるな!』
「あ」
そうだった。
正面には十万二千六百八十四体。
S級のジェネラルが二百体。
SS級のロードが二十四体。
SSS級のキングが七体。
そしてSSS級上位のネームド・オークカイザー。
さらに軍勢を全滅させた場合の最大討伐報酬は――。
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最大討伐報酬:
金貨3,607,120枚
+
白金貨89,000枚
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「……頑張ろう」
『今、報酬見ただろう!』
「街を守るため」
『間があったぞ!』
クロが低く笑った。
『実に愉快だ』
「クロも頑張ろうね」
『無論だ』
私は《聖蒼銀弓》の弦を引き絞る。
八枚の精霊光翼が大きく広がり、一万本の精霊魔力矢が一斉に標的を捉えた。
「じゃあ――始めよう」
十万を超えるオーク大軍勢を相手に。
王都を賭けた大規模迎撃戦が、ついに始まった。




