第三十三話 二着の創晶透明戦衣
夜。
銀の月亭。
自室。
机の上には、完成したばかりの装備が置かれている。
━━━━━━━━━━
《創晶透明戦衣》
S級
古代級
分類:
高位戦闘用フルボディインナー
━━━━━━━━━━
主性能:
《完全外観透明化》
《衝撃吸収》
《瞬間超硬化》
《自己修復》
《温度自動調節》
《重量軽減》
《動作補助》
《魔力伝導向上》
《魔力遮断耐性》
《装備干渉軽減》
━━━━━━━━━━
「いい感じ」
手に持っている状態では、薄い銀白色。
魔力を通すと。
スッ。
インナーそのものだけが視覚的に消える。
もちろん身体が透明になるわけじゃない。
上から服や防具を着れば、インナーの色や形が外観へ一切影響しなくなる。
白銀の勇者装備。
黒い隠密装備。
どっちにも使える。
「これならずっと着てられる」
温度調節もある。
自己修復もある。
しかも薄い。
かなり便利。
……ん?
「ずっと?」
そこで。
ふと思う。
私だけ?
「……アルにもあった方がいいよね」
前衛。
しかも真正面から攻撃を受ける重騎士。
どう考えても私より必要かもしれない。
「作ろう」
決定。
◇◇◇
部屋を出る。
アルの部屋へ。
コンコン。
「アル、起きてる?」
「ああ」
扉が開く。
アルは黒い部屋着姿だった。
長い赤髪を下ろしている。
「どうした?」
「身体測らせて」
「……夜に部屋まで来て最初の言葉がそれか?」
「装備作るから」
「先に言え!」
「あ」
順番。
間違えた。
◇◇◇
「また装備なのか?」
「インナー」
「インナー?」
「これ」
完成品を見せる。
アルが受け取る。
「薄いな」
「魔力流してみて」
「こうか?」
アルの魔力が流れる。
スッ。
「……消えた?」
「透明になる」
「透明な防具?」
「インナーだけね」
「身体まで消えたら隠密装備ではないか」
「それはそれで欲しい」
「話を広げるな」
《上級鑑定》の内容も見せる。
「衝撃吸収……瞬間超硬化……自己修復……」
アルの目が止まる。
「品質《古代級》?」
「うん」
「お前は下に着る服にまで古代級を使うのか?」
「防御は大事」
「理屈は正しいのが腹立たしいな」
「アルにも作る」
「私にも?」
「うん」
アルが少し考える。
「私の《剛魔重騎鎧》だけでもかなり硬いぞ」
「鎧の内側から衝撃を吸収できる」
「……」
「瞬間超硬化もある」
「……」
「温度調節も」
「それは欲しい」
「そこ?」
「全身重鎧は暑いんだ!」
切実だった。
◇◇◇
アルの体格を改めて確認する。
肩幅。
腕。
脚。
胴。
可動範囲。
龍人族だから、人族とは少し骨格が違う。
「動いてみて」
「こうか?」
腕を上げる。
腰を捻る。
屈伸。
「もう少し」
「注文が細かいな」
「インナーだから」
「鎧より採寸が厳密なのか」
「直接動きに関係するし」
「なるほど」
アルが納得する。
私は数値を《並列思考》で整理。
「終わり」
「早いな」
「作ってくる」
「今から?」
「今から」
「……昨日も聞いた気がする」
「慣れた?」
「残念ながらな」
◇◇◇
自室へ戻る。
素材。
━━━━━━━━━━
《創晶石》
《高純度魔晶石》
《高位魔導繊維》
《虹霊晶》
━━━━━━━━━━
ただ。
アル用は少し変える。
重装騎士。
大楯。
大戦斧。
そして。
ヴァルカでの高速騎乗戦。
「衝撃吸収を強めよう」
さらに。
身体補助。
摩擦軽減。
重量分散。
鎧の内側でズレないように。
「《複合素材加工》」
「《素材特性融合》」
「《繊維加工》」
「《魔導回路構築》」
「《古代装備錬成》」
「《装備性能限界突破》」
「《製作品質超向上》」
銀白色の光。
素材が融合。
細い繊維へ。
アルの体格に合わせて形成される。
数秒。
光が消えた。
━━━━━━━━━━
《製作成功》
━━━━━━━━━━
《創晶透明戦衣》
S級
古代級
専用調整:
アルドラ・ヴァルグレイヴ
━━━━━━━━━━
主性能:
《完全外観透明化》
《衝撃吸収・極》
《瞬間超硬化》
《自己修復》
《温度自動調節》
《重量軽減》
《重量分散》
《動作補助》
《筋力動作補助》
《騎乗衝撃軽減》
《魔力伝導向上》
《魔力遮断耐性》
《装備干渉軽減》
━━━━━━━━━━
「できた」
ちょっと性能が増えた。
専用品だから。
「持っていこう」
◇◇◇
もう一度。
アルの部屋。
コンコン。
「できた」
「早すぎないか?」
「錬金術だから」
「便利な言葉だな、それ」
完成したインナーを渡す。
「私の物より少し前衛向けにしてある」
「少し?」
アルが鑑定。
「《衝撃吸収・極》」
「うん」
「《重量分散》」
「うん」
「《騎乗衝撃軽減》」
「ヴァルカ用」
「……少し?」
「少し」
「お前の少しは信用しないことにする」
「ひどい」
「学習だ」
◇◇◇
「着て試していいか?」
「もちろん」
「なら外で待っていろ」
「うん」
扉。
閉まる。
少し待つ。
「入っていいぞ」
中へ。
アルはすでに黒い部屋着を着ている。
「どう?」
「分からん」
「失敗?」
「違う」
アルが腕を動かす。
「着ている感覚がほとんどない」
「成功」
「それでいて……」
拳を握る。
魔力。
一瞬。
━━━━━━━━━━
《瞬間超硬化》
━━━━━━━━━━
インナーの一部だけが瞬間的に硬化。
でも。
外からは何も見えない。
「なるほど」
「良さそう?」
「ああ」
アルが頷く。
「鎧の下に着ても邪魔にならない。むしろ動きやすい」
「温度は?」
「快適だ」
「よかった」
「……しかし」
「何?」
「古代級装備を下着代わりに使う奴なんて、この世界に何人いるんだろうな」
「二人?」
「今ここに二人いるからな!」
「あ」
確実に二人。
◇◇◇
翌朝。
王都外縁の訓練場。
アルが完全武装する。
まず。
《創晶透明戦衣》。
その上から。
《剛魔重騎鎧》。
剛銀色の重装甲。
フルフェイス兜。
《剛魔城塞大楯》。
《剛魔破城斧》。
さらに。
濃い蒼色の《蒼雷竜翼外套》。
カシャンッ。
『準備完了だ』
「見た目変わらない」
『透明なんだから当然だろう』
「成功してる」
『昨日確認しただろう』
「鎧でも確認したかった」
『徹底しているな』
「防具大事」
『それは同意する』
◇◇◇
「少し攻撃してみていい?」
『どの程度だ?』
「軽く」
『お前の軽くは信用できん』
「なんで?」
『昨日覚えた』
最近。
アルの学習速度が速い。
「じゃあ本当に軽く」
『弓を置け』
「まだ何もしてない」
『その聖弓を持ったまま“軽く”と言われても怖い』
「魔法?」
『もっと駄目だ!』
「じゃあ拳」
『……それならいい』
なんか。
信用されてない。
◇◇◇
アルが大楯を構える。
「行くよ」
『来い』
拳。
軽く。
コン。
「……」
『……』
「どう?」
『今のは軽すぎる』
「注文が難しい」
『普通の人間相手なら正解だが、私は重騎士だ』
「じゃあ少し強く」
踏み込む。
ドンッ!
大楯。
衝撃。
アルの身体が。
少しだけ後ろへ。
『おお』
「大丈夫?」
『何ともない』
盾から鎧へ流れた衝撃。
さらに。
インナーが吸収。
分散。
『かなり違うな』
「成功」
『鎧だけでも耐えられたが、身体へ響く衝撃がほとんど消えている』
「よかった」
アルが大楯を下ろす。
『これなら大型魔物の突進を受けた時も楽になる』
「もっと硬くなったね」
『だから――』
「城壁」
『言うと思った!』
◇◇◇
「ウォン!」
ノルンがやってくる。
「おはよう」
「ウォン!」
後方。
翼音。
バサァァァッ!
「グオオオッ!」
ヴァルカも到着。
アルを見る。
「グル?」
『何だ?』
ヴァルカがアルの匂いを嗅ぐ。
首を傾げる。
「グルル?」
「インナーの匂い分かるのかな」
『見えないから混乱しているんじゃないか?』
ヴァルカ。
もう一度。
クンクン。
「グル……」
そして。
アルの胸甲を鼻先で軽く押した。
『何だ?』
「たぶん中に何かあるって言ってる」
『本当に分かるのか?』
「たぶん」
『便利な通訳だな』
昨日も言われた。
◇◇◇
私は自分の《創晶透明戦衣》も装備している。
その上。
いつもの白銀装備。
見た目には一切変化なし。
でも。
内側の防御性能はかなり上がった。
「これで二人とも古代級インナー」
『言葉だけ聞くと恐ろしく贅沢だな』
「素材あったから」
『その理屈で何でも古代級にするなよ?』
「靴下とか?」
『作る気か!?』
「今ちょっと思った」
『忘れろ』
「でも温度調節付きなら――」
『忘れろ!』
「ウォン!」
「グオッ!」
ノルンとヴァルカまで鳴く。
「二匹は欲しい?」
『その二匹に靴下を履かせるな!』
「冗談」
『……本当か?』
「たぶん」
『やめろ!』
朝の訓練場に。
アルの声が響いた。
◇◇◇
装備確認終了。
私。
アル。
ノルン。
ヴァルカ。
準備はできた。
「今日はどうする?」
『冒険者ギルドへ行くんだろう?』
「うん」
昨日。
私もアルもBランクになった。
受けられる依頼が一気に増えている。
「Bランク依頼見てみたい」
『今度は依頼を選んでから出発しろよ』
「いつも選んでるよ?」
『昨日は索敵して強そうな奴を探していただろう』
「査定だったから」
『その前も似たようなことをしていた気がするが』
「気のせい」
「ウォン」
「グル」
二匹が同時に鳴く。
「……何?」
『全員から否定されているぞ』
「味方いない」
『昨日から何度目だ、それ』
アルが笑う。
私も少し笑った。
「じゃあ行こう」
『ああ』
「ウォン!」
「グオオオオッ!」
古代級の透明戦衣。
二着。
また一つ。
冒険の準備が整った。
あとは。
Bランクになって初めての依頼を選ぶだけだった。




