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第三十二話 Fランク重騎士、即日卒業



 王都へ戻る途中。


 ノルンの背中に揺られながら、ふと思い出した。


「そういえば」


『今度は何だ?』


 少し前を飛んでいるヴァルカ。


 その背中からアルの声が返ってくる。


「経験値」


『経験値?』


「今日、いっぱい倒したから」


 《ステータス》。


 確認。


━━━━━━━━━━


《パーティー経験値共有》


戦闘参加者:


リリス・ルクスヴィア


アルドラ・ヴァルグレイヴ


ノルン


ヴァルカ


━━━━━━━━━━


共有経験値獲得済み


━━━━━━━━━━


 ちゃんと入っている。


「おお」


『どうした?』


「レベル上がってる」


 まず私。


━━━━━━━━━━


リリス・ルクスヴィア


Lv103



Lv107


━━━━━━━━━━


「四つ上がった」


『……今日の相手はほとんど私たちが倒していただろう?』


「パーティーだから共有」


『なるほど』


「私は経験値十倍もあるし」


『待て』


「うん?」


『今、さらっと聞き捨てならないことを言わなかったか?』


「経験値十倍?」


『それだ!』


「あ」


 まだ話してなかった。


『お前、本当に次から次へと出てくるな……』


「便利だよ」


『便利で済ませるな』


◇◇◇


 次。


 アル。


━━━━━━━━━━


アルドラ・ヴァルグレイヴ


Lv85



Lv88


━━━━━━━━━━


「アルも三つ上がってる」


『三つ!?』


 ヴァルカが少し速度を落とした。


『今日一日でか?』


「うん」


『傭兵時代なら三レベル上げるのにどれだけ掛かったと……』


「パーティー効果?」


『お前と一緒にいると感覚がおかしくなりそうだ』


「まだ二日目だよ」


『だから怖いんだ』


 それはちょっと分かる。


◇◇◇


「ヴァルカも」


━━━━━━━━━━


ヴァルカ


緋翼重竜クリムゾン・ヘヴィワイバーン


Lv88



Lv91


━━━━━━━━━━


「グオッ!」


「ヴァルカもLv91」


『私を抜いたな』


「グルルル」


『何だその得意そうな顔は』


「グオッ!」


「嬉しいんじゃない?」


『騎手を抜いて喜ぶな』


「ウォン!」


 ノルンまで鳴いた。


『ノルンまで笑ってないか?』


「たぶん」


『私の味方がいない』


「昨日の私と同じだね」


『妙なところで仲間意識を出すな』


◇◇◇


 ノルンにも共有経験値は入っている。


「ウォン!」


 本人も何となく分かっているみたい。


 女神様の加護による十倍補正は私だけ。


 でも。


 アル。


 ノルン。


 ヴァルカ。


 みんな同じ戦闘で成長できる。


「これいいね」


『何がだ?』


「みんな一緒に強くなれる」


 アルが少し黙った。


 そして。


『……ああ』


 短く答える。


『悪くない』


◇◇◇


 王都。


 冒険者ギルド。


 扉を開ける。


「ただいま」


「ウォン!」


「お帰りなさい、リリスさん」


 受付にいたエレナさんが顔を上げる。


 その表情が。


 すぐに警戒へ変わった。


「……何をしてきました?」


「まだ何も言ってない」


「リリスさんがその顔で帰ってくる時は、だいたい何かあります」


「そんな顔ある?」


「あります」


 アルを見る。


「アルドラさん、お願いします」


「何をだ?」


「今日何があったか、常識的な範囲で説明してください」


「任せろ」


「なんで私じゃ駄目なの?」


 二人ともこっちを見た。


「……」


「何?」


「いや」


 アルが首を振る。


「エレナの判断は正しい」


「会って二日目なのに?」


「十分だった」


 また言われた。


◇◇◇


 アルの冒険者カードを提出する。


「戦闘査定ですね」


「ああ」


「記録を確認します」


 エレナさんが魔導具へカードを置く。


 光。


━━━━━━━━━━


《戦闘査定記録》


《鉄殻巨角犀》×5


最高Lv90


A(ランク)特殊個体討伐


━━━━━━━━━━


《岩鎧戦蜥蜴》×6


《岩王装甲竜》×1


最高Lv96


A(ランク)群れ主討伐


━━━━━━━━━━


前衛防御能力:


極めて高い


重武器戦闘能力:


極めて高い


騎乗戦闘能力:


極めて高い


集団戦闘能力:


極めて高い


パーティー連携:


極めて良好


━━━━━━━━━━


「…………」


 エレナさんが黙った。


「どう?」


「少し待ってください」


「最近よく待たされる」


「原因はリリスさんです」


「今日はアルの査定なのに」


「そのアルドラさんを連れてきたのは?」


「私」


「その装備を作ったのは?」


「私」


「Aランク魔物がいる場所へ連れていったのは?」


「私」


「はい」


「はい?」


「原因はリリスさんです」


「なるほど」


 アルが横で笑っていた。


「アル、笑ってる?」


「気のせいだ」


 絶対笑ってる。


◇◇◇


「ギルド長を呼んできます」


「また?」


「この査定結果を私だけでは処理できません」


 エレナさんが二階へ。


 少しして。


 グレンさんが降りてきた。


「朝登録したばかりだったな?」


「そうです」


 アルがカードを見せる。


━━━━━━━━━━


アルドラ・ヴァルグレイヴ


暫定冒険者ランク:


F(ランク)


━━━━━━━━━━


 グレンさんが戦闘記録を見る。


「……」


 沈黙。


「ギルド長?」


「一つ聞く」


「はい」


「これはFランクの戦闘査定か?」


「違うと思います」


「俺もそう思う」


 アルが腕を組む。


「私もそう思う」


「全員意見一致」


「リリスさんは少し反省してください」


「なんで?」


◇◇◇


 グレンさんが書類を確認する。


「アルドラ」


「ああ」


「戦闘能力だけならAランク査定でもおかしくない」


「そうか」


「だが冒険者としての依頼実績はまだない」


「当然だ。今朝登録した」


「だからAにはできん」


「納得している」


「ただし」


 カードへ手を置く。


「Fに置いておく方が問題だ」


 魔導具。


 光。


━━━━━━━━━━


《特別戦闘査定》


アルドラ・ヴァルグレイヴ


F(ランク)



B(ランク)


━━━━━━━━━━


「おお」


「……B?」


 アルが自分のカードを見る。


「今日登録したばかりだぞ」


「俺も知っている」


「Fランクだった時間、半日くらい?」


「言うなリリス」


「短命だったね」


「ランクを生き物みたいに言うな」


 エレナさんが横で口元を押さえている。


「エレナさん笑ってる」


「いえ」


「笑ってるよね?」


「受付として公平に対応しています」


「目が笑ってる」


「リリス」


「うん?」


「そっとしておけ」


◇◇◇


━━━━━━━━━━


リリス・ルクスヴィア


B(ランク)


━━━━━━━━━━


アルドラ・ヴァルグレイヴ


B(ランク)


━━━━━━━━━━


 二枚並べる。


「同じになった」


「冒険者歴では私の方が一日もないがな」


「アル、成長早い」


「お前にだけは言われたくない」


 グレンさんが咳払いする。


「アルドラは当面Bランクだ。Aランクへの昇格には依頼実績、判断能力、対人対応などを確認する」


「分かった」


「リリスも同じだからな」


「はい」


「特にお前は」


「私?」


「強い相手を見つけたからという理由だけで突っ込むな」


「今日はアルの査定だったから」


「次からの話をしている」


「分かりました」


 たぶん。


「今“たぶん”と思っただろ」


「何で分かるんですか?」


「顔だ」


 顔に出てるらしい。


◇◇◇


「それと」


 エレナさんが戦闘記録を確認する。


「リリスさん、レベルも上がっていますね」


「Lv107になりました」


「昨日は?」


「103」


「…………」


「四つだけ」


「だけ?」


「あ」


 失敗した。


 エレナさんの眉が少し上がる。


「リリスさん」


「はい」


「一般の冒険者の前で『一日で四レベルしか上がらなかった』みたいな言い方はしないでくださいね」


「してないです」


「今しました」


「ここで」


「ここも冒険者ギルドです」


「確かに」


 アルが小声で。


「勉強になるな」


「アルまで」


◇◇◇


「アルもLv88になった」


「何?」


 グレンさん。


 エレナさん。


 同時にこちらを見る。


「ヴァルカもLv91」


「待ってください」


 エレナさん。


 まただ。


「今朝、アルドラさんはLv85でしたよね?」


「はい」


「ヴァルカというのは?」


「アルの《緋翼重竜》」


「昨日買った騎獣ですね」


「はい」


「確かLv88」


「今91」


「…………」


 エレナさんが深呼吸。


「パーティー経験値共有?」


「そうです」


「なるほど……」


 納得した。


 と思ったら。


「でも早いです」


「ですよね」


「リリスさんが言うんですか?」


「はい」


「…………」


「何ですか?」


「今日はもうツッコミ疲れました」


「まだ昼過ぎですよ」


「誰のせいですか!」


 ちょっと声が大きかった。


 周囲の冒険者がこっちを見る。


「エレナさん」


「はい?」


「元気出して」


「原因から励まされたくありません!」


 アルがとうとう吹き出した。


◇◇◇


 査定が終わる。


 次。


 依頼報告。


 素材。


「売却する物は?」


「一部」


 《インベントリ》。


 今日集めた素材の一部を出す。


 全部出すと。


 受付が埋まりそうだから。


「硬殻とか魔石を少し」


「少し……?」


 エレナさんが警戒している。


「本当に少し」


「信用します」


 素材を出す。


 ドサッ。


「……」


「ほら少し」


「リリスさん基準ですね」


 査定員が呼ばれる。


 素材を確認。


 良質。


 高品質。


 希少素材。


 次々。


「《地脈王晶》は売却しません」


「それがいいでしょう。《逸話級(エピック)》素材です」


「何作ろうかな」


 アルが一歩離れた。


「何で離れるの?」


「嫌な予感がした」


「アルの装備はもう完成してるよ」


「安心した」


「盾をもっと――」


「完成している!」


 早かった。


◇◇◇


 報告終了。


 報奨金。


 素材売却金。


 まとめて受け取る。


 そして。


「そういえば宝箱」


 まだある。


「今日の?」


「はい」


「何個ですか?」


「七個」


 エレナさんが固まる。


「銀四、金二、白金一」


「……」


「エレナさん?」


「今日は宿で開けてください」


「どうして?」


「何か出るたびに報告されると、仕事が進みません」


「なるほど」


「それと、ギルド内で白金宝箱を開けたら騒ぎになります」


「確かに」


 前回。


 私も忘れてたくらいだったけど。


 普通は珍しい。


「じゃあ宿で開ける」


「お願いします」


◇◇◇


 夕方。


 銀の月亭。


 裏庭。


 ヴァルカも今日は王都外縁の騎獣区画へ戻す前に、広い訓練場へ寄っている。


「ウォン」


「グルル」


 ノルンとヴァルカ。


 何となく。


 距離が近くなっている。


「仲良くなった?」


「ウォン」


「グル」


「たぶん」


「お前まで“たぶん”を使い始めたな」


「アルのが移った」


「逆だ。最初はお前だ」


「そうだった?」


「そうだ」


◇◇◇


 アルは兜を外している。


 剛銀色の重鎧。


 背中には昨日の白金宝箱から出た《蒼雷竜翼外套》。


 赤い長髪。


「やっぱり似合う」


「今日何回目だ」


「えっと」


 本気で数える。


「数えなくていい!」


「三回くらい?」


「絶対もっと言っている」


「じゃあ五回」


「増やすな」


 ノルン。


「ウォン!」


 ヴァルカ。


「グオッ!」


「二人も似合うって」


「本当か?」


「たぶん」


「便利だな、その通訳」


◇◇◇


 私は《インベントリ》を開く。


━━━━━━━━━━


本日の未開封宝箱:


銀宝箱×4


金宝箱×2


白金宝箱×1


━━━━━━━━━━


「開けよう」


「全部か?」


「全部」


「一応聞くが、罠は?」


「《罠感知》」


━━━━━━━━━━


罠反応:


なし


━━━━━━━━━━


「大丈夫」


「ならいい」


 まず。


 銀宝箱。


 一個目。


 カチッ。


━━━━━━━━━━


《銀宝箱》


開封完了


━━━━━━━━━━


《上級回復薬》×10


《高純度魔晶石》×20


銀貨×500


━━━━━━━━━━


 二個目。


━━━━━━━━━━


《銀宝箱》


開封完了


━━━━━━━━━━


《岩守護の指輪》


B(ランク)


希少級(レア)


━━━━━━━━━━


 三個目。


━━━━━━━━━━


《銀宝箱》


開封完了


━━━━━━━━━━


《技能書:岩耐性》×1


《金剛晶》×20


━━━━━━━━━━


 四個目。


━━━━━━━━━━


《銀宝箱》


開封完了


━━━━━━━━━━


《大地魔晶》×30


《高級携帯食料》×20


銀貨×800


━━━━━━━━━━


「食べ物」


「そこに反応するのか?」


「冒険には大事」


「それは正しい」


◇◇◇


 次。


 金宝箱。


━━━━━━━━━━


《金宝箱》


開封完了


━━━━━━━━━━


地脈守護腕輪アース・ガーディアンブレス


A(ランク)


逸話級(エピック)


━━━━━━━━━━


《地属性耐性超強化》


《衝撃耐性強化》


《地脈感知》


《防御力強化》


━━━━━━━━━━


「防御系」


 アルを見る。


「見るな」


「まだ何も言ってない」


「昨日から何度目だと思っている」


「これアルに――」


「今の装備で十分だ!」


「アクセサリーだよ?」


「……」


「鎧じゃないよ?」


「……性能を見せろ」


「やっぱり欲しい?」


「違う。確認だ」


 たぶん欲しい。


◇◇◇


 二個目の金宝箱。


━━━━━━━━━━


《金宝箱》


開封完了


━━━━━━━━━━


《戦技書:震脚》


━━━━━━━━━━


《地晶鋼》×50


《高純度土属性魔晶核》×10


金貨×500


━━━━━━━━━━


「《震脚》」


「近接向けだな」


「アル使う?」


「内容次第だ」


 開いて確認。


━━━━━━━━━━


《震脚》


地面へ強烈な踏み込みを行い、

周囲へ衝撃波を発生させる戦技。


重装・高筋力使用者ほど

威力上昇。


━━━━━━━━━━


 私はアルを見る。


「……」


「……」


「アル用だね」


「否定できん」


「覚える?」


「ああ」


 《戦技書》を渡す。


 光。


━━━━━━━━━━


アルドラ・ヴァルグレイヴ


新規戦技習得


《震脚》


━━━━━━━━━━


「おお」


「使いやすそうだ」


「今やる?」


「宿の裏庭を壊す気か?」


「あ」


「エレナだけでなく宿にも怒られるぞ」


「それは困る」


「そこはちゃんと困るんだな」


◇◇◇


 最後。


 白金宝箱。


 アルも。


 ノルンも。


 ヴァルカも見る。


「開けるよ」


「ああ」


「ウォン」


「グルル」


 蓋へ手を掛ける。


 カチッ。


 白金色の光。


 中から。


 強い魔力反応。


━━━━━━━━━━


《白金宝箱》


開封完了


━━━━━━━━━━


 表示が。


 ゆっくり。


 浮かび始めた。

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