第三十話 ギルド長との面談
翌朝。
目を覚ます。
「……朝」
窓から光が差し込んでいる。
昨日は色々あった。
アルが仲間になって。
《剛魔鋼》を作って。
装備一式を作って。
《緋翼重竜》のヴァルカまで買った。
「一日で増えすぎた気がする」
でも。
楽しかった。
◇◇◇
着替えて一階へ。
食堂へ行くと。
「おはよう、リリス」
「おはよう」
アルがもう起きていた。
今は鎧じゃない。
簡素な黒いシャツとズボン。
長い赤髪は軽くまとめている。
「早いね」
「傭兵時代から朝は早かった」
「私は普通」
「それで十分だ」
席へ座る。
朝食は。
焼いた白パン。
厚切りベーコン。
目玉焼き。
野菜のスープ。
「いただきます」
パンをちぎる。
「アル、よく眠れた?」
「ああ」
少し間。
「……久しぶりにな」
「そっか」
「昨日までとは状況が変わりすぎて、寝付けないかと思ったが」
「寝れたならよかった」
「ああ」
アルがスープを飲む。
「それで今日は実戦だったな」
「その前に冒険者ギルド」
「何かあるのか?」
「ギルド長と面談」
「何をした?」
「昨日、Lv108のワンダリングモンスター倒したから」
「……そうだったな」
アルが額を押さえた。
「朝から思い出させないでくれ」
「聞いたのアルだけど」
「確かに」
◇◇◇
朝食後。
銀の月亭を出る。
ノルンは一緒。
「ウォン!」
アルの装備は《インベントリ》へ入れてある。
さすがに王都の中を完全武装で歩く必要はない。
ヴァルカは王都外縁の騎獣区画。
後で合流する。
そして。
冒険者ギルドへ。
◇◇◇
扉を開ける。
ざわざわ。
朝だから人が多い。
「おはようございます」
「おはようございます、リリスさん――」
受付のエレナさんが。
止まった。
私。
ノルン。
アル。
もう一度。
アル。
「……どなたですか?」
「仲間」
「昨日はいませんでしたよね?」
「昨日増えた」
「増えた?」
「アルドラ・ヴァルグレイヴだ」
アルが軽く頭を下げる。
「よろしく頼む」
「は、はい。冒険者ギルド受付のエレナ・リースです」
それから。
エレナさんが小声になる。
「リリスさん」
「はい」
「昨日の夕方から今日の朝までですよね?」
「そうです」
「どうして仲間が増えるんですか?」
「奴隷商館に行って」
「ちょっと待ってください」
止められた。
◇◇◇
一通り説明。
債務奴隷だったこと。
金貨三百八十枚で契約したこと。
仲間になったこと。
重騎士であること。
Lv85であること。
「……Lv85?」
「はい」
「アルドラさん、本当に?」
「ああ」
エレナさんがアルを見る。
「失礼ですが《鑑定》を?」
「構わない」
確認。
「……本当にLv85」
「強いよ」
「リリスさん基準で言わないでください」
「はい」
「そして?」
「そして?」
「その顔はまだ何かありますね?」
鋭い。
「専用装備作りました」
「どの程度の?」
「全部S級で《古代級》」
「…………」
「新しく《剛魔鋼》も作って」
「待ってください」
また止められた。
「新しく?」
「新しい合金」
「一晩で?」
「昨日の夕方」
「…………」
エレナさんが目を閉じる。
「もう先にギルド長へ会いましょう」
「分かりました」
◇◇◇
二階。
さらに奥。
大きな扉。
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《ギルド長室》
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エレナさんがノックする。
「ギルド長。リリスさんをお連れしました」
「入れ」
低い男性の声。
中へ。
広い部屋。
執務机。
地図。
武器棚。
壁には巨大な魔物の角。
机の向こうには。
大柄な男性。
五十歳くらい。
短い灰色の髪。
左頬に古い傷。
腕も太い。
普通の事務職には見えない。
「リリス・ルクスヴィアだな」
「はい」
「俺は王都冒険者ギルド長、グレン・バルディスだ」
「よろしくお願いします」
「ウォン」
「従魔も一緒か。構わん」
グレンさんの視線が。
今度はアルへ。
「そっちの龍人族は?」
「昨日仲間になったアルです」
「アルドラ・ヴァルグレイヴだ」
「……ヴァルグレイヴ?」
グレンさんが少し考える。
「赤竜傭兵団にいた重騎士か?」
「知っているのか?」
「名前だけな。西方街道の護衛戦で大型オーガを正面から止めた龍人族がいると聞いた」
「昔の話だ」
「Lv85なら納得だ」
アルが少し驚いている。
有名だったらしい。
◇◇◇
「さて」
グレンさんが私を見る。
「問題はお前だ」
「問題?」
「言い方が悪かったな」
机の上。
書類の束。
「これを見ろ」
討伐記録。
採取記録。
納品記録。
強敵討伐。
遺構。
ワンダリングモンスター。
かなりある。
「お前は現在Dランク」
「はい」
「だが実績がDランクの範囲を完全に越えている」
「そうなんですか?」
「越えすぎている」
即答された。
「特に昨日だ」
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討伐対象:
《蒼雷銀角飛竜》
Lv108
危険度:
S級
分類:
ワンダリングモンスター
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「これを単独で討伐」
「ノルンもいました」
「ウォン!」
「訂正。従魔と二人で討伐」
「はい」
「どちらにせよ異常だ」
アルが横で頷いている。
「アルまで?」
「そこは私も同意する」
「味方いない」
◇◇◇
グレンさんが椅子へ深く座る。
「本来、冒険者ランクは一つずつ上げる」
「はい」
「実力だけではない。依頼遂行能力、判断力、規則遵守、依頼人との対応。色々見る必要がある」
「なるほど」
「だが例外規定もある」
書類を一枚。
「リリス・ルクスヴィア」
「はい」
「DランクからBランクへの特別昇格を認める」
「B?」
いきなり二つ上がった。
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《冒険者ランク昇格》
D級
↓
B級
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「おお」
「反応が軽いな」
「嬉しいです」
「そうは見えん」
「結構嬉しいです」
本当に。
これで受けられる依頼も増える。
「Aランクではないんですか?」
エレナさんが聞いた。
グレンさんが頷く。
「戦闘能力だけを見るなら、すでにAどころかその上を疑う」
「……」
「だがAランクは単なる強者ではない。王国規模の緊急依頼や、都市防衛、複数パーティーの指揮まで求められる」
「指揮」
苦手そう。
「だからまずBだ」
「納得しました」
「ただし」
「はい」
「この調子なら長くは留まらんだろう」
それは。
どうだろう。
◇◇◇
「次にアルドラ」
「私か」
「冒険者登録は?」
「以前は傭兵一本だった」
「なら新規登録になる」
「Fからか?」
「原則ならな」
アルの顔が微妙になる。
Lv85でFランク。
ちょっと面白い。
「笑うなリリス」
「まだ笑ってない」
「顔が笑っている」
「少しだけ」
「だが」
グレンさんが続ける。
「実戦経験が確認できる者には戦闘査定制度がある」
「なら受けよう」
「今日でいいか?」
「ああ」
「ちょうどリリスも全員で実戦する予定でした」
「そうか」
グレンさんが笑う。
「なら話が早い」
◇◇◇
冒険者登録。
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《冒険者登録》
アルドラ・ヴァルグレイヴ
種族:龍人族
Lv85
職業:重騎士
暫定ランク:
F級
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「本当にFになった」
「言うな」
「Lv85のFランク」
「リリス」
「ごめん」
「絶対楽しんでいるだろ」
「ちょっとだけ」
エレナさんまで笑いを堪えている。
◇◇◇
それから。
「もう一つ」
「まだあるんですか?」
「昨日の《蒼雷銀角飛竜》の報奨金と素材査定だ」
「あ」
忘れていた。
「素材は売却するか?」
「一部だけ」
「分かった。希少素材は保管推奨だ」
「宝箱もあります」
「宝箱?」
「ワンダリングモンスターから出た白金宝箱」
「……まだ開けてないのか?」
「忘れてました」
「お前は本当に……」
グレンさんが額を押さえた。
アルも同じ動きをした。
「何で二人とも同じなの?」
「原因が同じだからだ」
◇◇◇
ギルドを出る。
新しいカード。
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リリス・ルクスヴィア
冒険者ランク:
B級
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「Bランク」
少し嬉しい。
「昇格おめでとう」
「ありがとう」
「私はFだがな」
「大丈夫。すぐ上がるよ」
「そう願う」
「Lv85だし」
「言うな」
◇◇◇
王都外縁。
騎獣区画。
「グオオオッ!」
「ヴァルカ」
私たちに気づいたヴァルカが立ち上がる。
深紅の鱗。
巨大な翼。
アルが装備を受け取る。
《インベントリ》から。
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《剛魔重騎鎧》
《剛魔重騎兜》
《剛魔破城斧》
《剛魔城塞大楯》
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装着。
ガシャン。
ガシャン。
最後。
カシャンッ。
剛銀色の重騎士。
「やっぱりカッコいい」
『朝からそれか』
「今日はまだ言ってなかった」
『数えるな』
アルがヴァルカへ跨がる。
私はノルンへ。
「行こう」
「ウォン!」
「グオオオッ!」
『任せろ』
◇◇◇
王都西方。
広い岩石平原。
人通りの少ない場所まで移動する。
今日の目的は二つ。
アルの戦闘査定。
そして。
新しいパーティーでの実戦。
「《上級索敵》」
範囲を広げる。
生命反応。
いくつか。
「いた」
『何だ?』
「大型が五体」
「ウォン」
さらに確認。
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《鉄殻巨角犀》
Lv79
危険度:
B級
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《|鉄殻巨角犀》
Lv81
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《|鉄殻巨角犀》
Lv83
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《|鉄殻巨角犀》
Lv86
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《|鉄殻巨角犀》
Lv90
危険度:
A級
特殊個体
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「ちょうどよさそう」
『何がいる?』
「鉄殻巨角犀。五体。最高Lv90」
『なるほど』
アルの声が。
少し変わった。
戦う時の声。
『私が前へ出る』
「任せる」
『本当に任せるぞ?』
「危なくなったら撃つ」
『それでいい』
◇◇◇
岩の向こう。
巨大な魔物。
一体だけでも大型馬車より大きい。
黒鉄色の外殻。
巨大な角。
「ブォォォォォッ!」
こちらに気づいた。
五体。
一斉。
「来る」
『ヴァルカ!』
「グオオオッ!」
アルが空へ。
低空飛行。
そして。
先頭。
Lv86の一体へ。
『降りる!』
ドンッ!
アルが地面へ着地。
ヴァルカはそのまま上空へ。
巨大な大楯。
地面へ。
ズガンッ!
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《大楯固定》
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『来い!』
「ブォォォォォォッ!」
Lv90特殊個体。
正面から突進。
速い。
「アル」
撃つ準備。
でも。
『必要ない!』
直後。
ドォォォォォンッ!
巨大な角。
《剛魔城塞大楯》。
激突。
地面が割れる。
土煙。
「……」
止まった。
Lv90の巨大犀が。
完全に。
『軽いな』
「すご」
アルが大楯を押す。
「ブォッ!?」
二メートルの龍人族。
その身体から。
信じられない力。
『ハァァッ!』
大楯で弾く。
巨大な犀の頭が横へ流れた。
右手。
《剛魔破城斧》。
振り上げる。
『《剛断》!』
ズガァァァンッ!
剛銀色の大戦斧。
鉄殻へ直撃。
外殻が。
砕けた。
「強い」
◇◇◇
残り四体。
左右へ分かれる。
「ウォン!」
ノルンが走る。
白銀の残像。
横から来た一体へ。
━━━━━━━━━━
《銀嵐刃》
━━━━━━━━━━
ズバァッ!
風刃。
脚部を切る。
一体が体勢を崩す。
上空。
「グオオオオッ!」
ヴァルカ。
口元に。
赤い炎。
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《緋炎竜息》
━━━━━━━━━━
ゴォォォォォッ!
炎が地面を走る。
二体の進路を強引に変えた。
「連携できてる」
初めてなのに。
かなりいい。
◇◇◇
私は弓を構える。
《聖蒼銀弓》。
「《魔力矢高速生成》」
魔力矢。
四本。
「《高速照準》」
「《多重標的射撃》」
放つ。
シュンッ!
四本。
それぞれ別方向。
脚。
肩。
角の付け根。
外殻の隙間。
ドドドドッ!
「ブォォッ!」
致命傷にはしない。
アルの査定だから。
「アル!」
『分かっている!』
アルが走る。
重鎧なのに。
速い。
剛魔鋼の補助。
龍人族の身体能力。
Lv85。
全部合わさっている。
『ハァッ!』
大戦斧。
横薙ぎ。
ドォンッ!
一体。
吹き飛ぶ。
さらに。
盾。
『《盾打撃》!』
ゴォンッ!
二体目。
顎を跳ね上げる。
ヴァルカが急降下。
━━━━━━━━━━
《急降下突撃》
━━━━━━━━━━
ズドォォォンッ!
三体目を横から弾き飛ばした。
「……ヴァルカもかなり強い」
「ウォン!」
「ノルンも強いよ」
「ウォン!」
満足そう。
◇◇◇
最後。
Lv90特殊個体。
砕かれた外殻から怒気を放つ。
「ブォォォォォォォッ!」
魔力。
角へ集中。
「大技来る」
アルも気づいた。
『ヴァルカ!』
「グオッ!」
ヴァルカが低空へ。
アルが大楯を背へ固定。
飛び乗る。
一気に上昇。
「お」
特殊個体が角から衝撃波を撃ち出す。
ドォォォォォン!
でも。
空。
当たらない。
そして。
ヴァルカが反転。
『行くぞ!』
「グオオオオオッ!」
急降下。
アルが大戦斧を両手で構える。
剛銀色の刃へ。
魔力。
銀白色。
『《魔力斬撃》』
さらに。
『《重斬撃》!』
ヴァルカ。
━━━━━━━━━━
《急降下突撃》
━━━━━━━━━━
二つ。
同時。
『ハァァァァァッ!』
ズドォォォォォォンッ!
衝撃。
特殊個体の巨体が。
地面へ沈む。
大戦斧が鉄殻を砕き。
そのまま深く食い込んだ。
「ブ……ォ……」
ドォンッ。
倒れる。
静か。
「……」
アルが斧を抜く。
兜越しにこちらを見る。
『どうだ?』
「すごく強い」
『そうではなく』
「カッコよかった」
『……もういい』
でも。
声が少し嬉しそうだった。
◇◇◇
━━━━━━━━━━
討伐完了
《鉄殻巨角犀》×5
━━━━━━━━━━
《自動収集》
発動
━━━━━━━━━━
《鉄殻巨角犀の硬殻》×180
《鉄殻巨角犀の大角》×50
《鉄殻巨角犀の強靭皮》×120
《鉄殻巨角犀の肉》×310
《鉄殻巨角犀の魔石》×50
━━━━━━━━━━
希少素材:
《鉄王犀の剛角》×10
品質:
希少級
━━━━━━━━━━
「いっぱい」
『これが例の収集能力か』
「うん」
『五体からこの量……』
「いつものこと」
『そうか』
少し間。
『それを普通だと思わない方がいいぞ』
「エレナさんにも言われそう」
◇◇◇
そして。
アルの冒険者カードが淡く光った。
━━━━━━━━━━
《戦闘査定記録》
対象:
アルドラ・ヴァルグレイヴ
Lv85
査定内容:
B級魔物複数討伐
A級特殊個体討伐
前衛防御能力:
極めて高い
重武器戦闘能力:
極めて高い
騎乗戦闘能力:
極めて高い
━━━━━━━━━━
『これならFのままではないだろう』
「たぶん一気に上がるね」
『お前ほどではない』
「私はB」
『昨日までDだっただろう』
「今日からB」
『そうだったな』
ノルンが横へ来る。
「ウォン」
ヴァルカも着地。
「グルル」
四人。
いや。
二人と二匹。
並ぶ。
「いい感じ」
『何が?』
「パーティー」
正面。
アル。
空中。
ヴァルカ。
高速戦。
ノルン。
遠距離。
私。
「かなりバランスいい」
『確かにな』
アルが兜を外す。
赤い髪が風に揺れた。
「次はもっと強い相手でもいいぞ」
「無茶しないって言ったのに」
「これは無茶ではない」
「Lv90倒した直後なんだけど」
「まだ余裕がある」
「……」
確かに。
息すら乱れていない。
「じゃあ」
私は周囲へ《上級索敵》を広げる。
「もう少し探してみようか」
「そうこなくては」
「ウォン!」
「グオオオッ!」
新しいパーティーでの冒険は。
まだ。
始まったばかりだった。




