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第二十九話 龍人族の重騎士アルドラ



 《王都公認奴隷商館》。


 入口の前で少しだけ立ち止まる。


「……入ってみよう」


 扉を開けた。


 思っていたより静かだった。


 広い石造りの店内には受付台と長椅子が置かれ、奥には何本かの廊下が伸びている。


 鉄格子だらけの暗い場所を想像していたけど、少なくとも表側は普通の商会に近い。


「いらっしゃいませ」


 受付にいた中年男性がこちらを見る。


 そして、私の白銀装備で視線が止まった。


「……失礼。ご用件を伺っても?」


「少し見たいんですけど」


「購入希望でしょうか?」


「まだ分からないです」


「承知しました」


 男性は丁寧に頭を下げる。


「当商館は王国認可を受けております。犯罪奴隷、債務奴隷、戦争奴隷などで区分が異なります。購入時には身元、契約内容、禁止事項について説明いたします」


「分かりました」


「何かご希望はございますか?」


「さっき、赤い髪の大きな女の人が入っていったんですけど」


「赤髪……ああ」


 男性の表情が少し変わった。


「龍人族のアルドラですね」


「アルドラ」


「はい。今日こちらへ移送されたばかりです」


「会えますか?」


「もちろんです。ただ……購入希望者が少ない方でして」


「どうして?」


「戦闘能力が高すぎるのです」


「それが駄目なんですか?」


「武器を持たせる側にも相応の力量が求められます。加えて、本人が重騎士として使用する装備が特殊です。一般的な人族用装備では寸法も耐久性も足りません」


「装備代が高い」


「その通りです」


 それなら。


 私は困らない。


 素材ならいっぱいある。


「会わせてください」


「こちらへ」


◇◇◇


 案内されたのは建物奥の面談室だった。


 机。


 椅子。


 壁際には護衛が二人。


「少々お待ちください」


 しばらくすると扉が開いた。


「入れ」


「……分かった」


 落ち着いた女性の声。


 入ってきたのは、さっき見た女性。


 身長は二メートルくらい。


 長い赤髪には緩いウェーブがかかっている。


 青い瞳。


 こめかみの少し上には、龍人族らしい小さな角。


 今は簡素な服だけ。


 それでも鍛えられているのが分かる。


 長身で均整の取れた体型。


 かなり美人。


「《上級鑑定》」


━━━━━━━━━━


アルドラ・ヴァルグレイヴ


種族:


龍人族


Lv85


職業(ジョブ)


重騎士


━━━━━━━━━━


「Lv85……」


 かなり強い。


 私よりレベルは低いけど、普通の傭兵という感じじゃない。


「座って構わない」


「……ああ」


 アルドラが椅子へ座る。


 私を見る。


 特に腰の二振りの聖剣と、背中の白銀の聖弓を。


「冒険者か?」


「一応」


「一応……?」


「Dランク」


 アルドラの眉が動いた。


「その装備で?」


「うん」


「いや、おかしいだろ」


「よく言われます」


「そうなのか……」


 ちょっと話しやすそう。


「私はリリス。リリス・ルクスヴィア」


「アルドラ・ヴァルグレイヴだ」


「アルって呼んでもいい?」


「……いきなりだな」


「嫌?」


「いや。昔からそう呼ばれていた」


「じゃあアル」


「好きにしろ」


 ほんの少し。


 アルの口元が緩んだ。


◇◇◇


「アルは重騎士なんだよね?」


「ああ」


「武器は?」


「大戦斧」


「盾は?」


「大楯」


「防具は?」


「全身鎧だ」


「戦う時は兜も?」


「当然だ。頭まで完全に覆う」


「いいね」


「何がだ?」


「カッコいい」


「……そう言われたのは久しぶりだ」


 大戦斧。


 大楯。


 全身鎧。


 フルフェイス。


 かなり好み。


「絶対似合う」


「まだ見てもいないだろう」


「分かる」


「変な奴だな」


 アルが少し笑った。


◇◇◇


「どうしてここに?」


 聞くと。


 アルの表情が少し曇った。


「債務だ」


「借金?」


「ああ」


 商館職員が補足する。


「アルドラ本人が作った借金ではありません。所属していた傭兵団が壊滅し、団の共同債務と装備代金が残った形です」


「装備代まで?」


「重騎士装備は非常に高価ですから」


 アルが腕を組む。


「団長が死んだ。仲間も散った。残った借金を払える奴がいなかった」


「それで債務奴隷」


「ああ」


「期間は?」


「通常労働で返済する場合、十五年前後が見込まれます」


「長い」


「龍人族は寿命が長い。私なら払える」


 そう言うけど。


 十五年は普通に長い。


「購入額は?」


「金貨三百八十枚です」


「それだけ?」


「……それだけ、と言われる額ではないのですが」


「払えます」


「待て」


 アルが口を挟んだ。


「本気か?」


「うん」


「なぜだ」


「前衛が欲しかったから」


「……」


「私は弓と魔法が多いし、ノルンは高速戦闘型だから。正面で敵を受け止めてくれる人がいると助かる」


「それだけか?」


「あと、アルの装備を作りたい」


「は?」


◇◇◇


「私、錬金術師だから」


「錬金術師?」


「うん」


「その勇者みたいな格好で?」


「勇者でもあるよ」


「…………」


「アル?」


「ちょっと待て」


 額を押さえられた。


「Dランク冒険者で、錬金術師で、勇者?」


「そう」


「意味が分からない」


「私も最近そう言われる」


「そうだろうな」


 商館職員まで微妙な顔をしている。


「それで」


 私はアルを見る。


「一緒に冒険してほしい」


「奴隷として命令するのか?」


「命令はあんまりしたくない」


「なら何のために買う」


「ここから出すためと」


 少し考える。


「仲間になってほしいから」


「……仲間?」


「うん」


 アルが黙る。


「私は危ない場所にも行くよ」


「構わない」


「むしろ?」


「戦えるなら、その方がいい。戦場に立てない方が苦痛だ」


「じゃあ合いそう」


「ただし」


「うん」


「私は守ると決めた相手は守る。必要なら最後まで残る」


「それは困る」


「何?」


「一緒に逃げて」


「……」


「死なれる方が困るから」


 アルが目を丸くする。


 少しして。


「分かった」


 短く答えた。


◇◇◇


 契約内容を確認する。


 債務。


 所有権。


 解放条件。


 禁止事項。


 譲渡。


 契約解除。


「問題ありません」


━━━━━━━━━━


金貨×380


支払い


━━━━━━━━━━


《債務奴隷契約》


所有者変更


━━━━━━━━━━


所有者:


リリス・ルクスヴィア


対象:


アルドラ・ヴァルグレイヴ


━━━━━━━━━━


契約成立


━━━━━━━━━━


 商館職員がアルの拘束具を外す。


 カチッ。


「……軽いな」


「手?」


「違う」


 アルが静かに息を吐いた。


「気分が」


「そっか」


 私は立ち上がる。


「じゃあ行こう、アル」


「どこへ?」


「装備作る」


「今から?」


「今から」


「……本当に作るつもりだったのか」


「もちろん」


◇◇◇


 商館を出る。


「武器は残ってないの?」


「全部売却された」


「鎧も?」


「ああ」


「じゃあ全部必要」


「安物で構わない」


「嫌」


「即答するな」


「どうせ作るなら強い方がいい」


「鉄か鋼でも厚ければ使える」


「もっと丈夫なの作れると思う」


「何を使うつもりだ?」


「まだ決めてない」


 考える。


 アルは前衛。


 攻撃を避け続けるより。


 真正面から受け止める。


 だったら。


 まず必要なのは硬さ。


 耐久力。


 衝撃耐性。


 それから魔法防御。


「……そうだ」


「何か思いついたのか?」


「新しい合金作る」


「そんな気軽に言うものなのか?」


「たぶん大丈夫」


「たぶんで新素材を作るな」


◇◇◇


 銀の月亭。


 裏庭。


「ウォン?」


「ノルン、ただいま」


 ノルンが近づいてくる。


 アルが反射的に身構えた。


「……銀嶺暴牙狼?」


「大丈夫。ノルンは仲間」


「仲間?」


「ウォン」


 ノルンがアルの匂いを嗅ぐ。


 しばらくして。


「ウォフ」


「大丈夫みたい」


「判断が早いな」


「ノルン賢いから」


 アルが白銀の毛を見つめる。


「綺麗な狼だ」


「ウォン!」


「喜んでる」


◇◇◇


「じゃあ素材作ろう」


「装備ではなく?」


「まず金属から」


 《インベントリ》を開く。


━━━━━━━━━━


《高純度魔鋼》


《高純度アダマンタイト》


《高純度魔晶石》


創晶石(アルケリウム)


━━━━━━━━━━


 アルが並べた素材を見る。


「アダマンタイトまで使うのか?」


「硬くしたいから」


「その一言で投入する金属ではないと思うが」


「いっぱいあるし」


「……その言葉は危険な気がする」


 気にせず続ける。


 アダマンタイトの圧倒的な硬度。


 魔鋼の魔力伝導性。


 魔晶石の魔力保持力。


 アルケリウムの高い素材親和性。


 全部まとめる。


「《高位金属精錬》」


「《複合素材加工》」


「《素材特性融合》」


「《超高温精錬》」


「《超硬金属加工》」


 四種類の素材が光へ包まれた。


 銀色。


 灰色。


 青白い魔力光。


 それぞれが混ざっていく。


 そして。


 次の瞬間。


━━━━━━━━━━


《新規素材錬成成功》


━━━━━━━━━━


剛魔鋼アダマント・マナスティール


分類:


超高硬度魔導合金


━━━━━━━━━━


主特性:


《超高硬度》


《超耐久》


《衝撃吸収》


《高魔法耐性》


《魔力伝導》


《重量軽減》


《高熱耐性》


《自己修復適性》


━━━━━━━━━━


「できた」


「……本当に作ったな」


「うん」


 完成した金属を手に取る。


 色は。


 剛銀色。


 白銀ほど明るくない。


 普通の鉄より遥かに澄んでいる。


 鈍い銀灰色。


 重厚な鋼銀色。


 光が当たると冷たい銀色の輝きが浮かぶ。


 魔力を流す。


 すると。


 表面に刻まれた細かな魔導紋へ、淡い銀白色の光が走った。


「……いい」


 アルが呟いた。


「気に入った?」


「ああ。重騎士の装備には、この色がいい」


「私もそう思う」


 派手すぎない。


 でも。


 凄く強そう。


◇◇◇


「採寸するね」


「頼む」


 腕。


 脚。


 肩。


 胸。


 腰。


 龍人族特有の骨格。


 可動域。


 全部確認する。


「大戦斧は?」


「巨大な両刃型がいい。右手で使う。必要なら両手持ちにも切り替える」


「大楯は?」


「私の身体をほぼ隠せる大きさが欲しい」


「本当に大きいやつだね」


「重騎士だからな」


「騎乗戦は?」


「経験はある」


「じゃあ騎乗中でも扱いやすくする」


 《剛魔鋼》を並べる。


 高純度魔晶石。


 金剛晶。


 虹霊晶。


 アルケリウム。


 補助素材も追加。


「《古代装備錬成》」


「《装備性能限界突破》」


「《製作品質超向上》」


「《魔導回路構築》」


「《高等装備強化》」


 剛銀色の光が広がった。


◇◇◇


 最初。


 大戦斧。


━━━━━━━━━━


《製作成功》


━━━━━━━━━━


剛魔破城斧アダマント・マナグレイヴ


S(ランク)


古代級(エンシェント)


分類:


超重量大戦斧


━━━━━━━━━━


 巨大な両刃戦斧。


 刃は重厚な剛銀色。


 中央部は暗い銀灰色。


 内部の魔導回路が淡い銀白色に輝いている。


━━━━━━━━━━


主性能:


《斬撃威力超強化》


《破砕威力超強化》


《装甲破壊超強化》


《硬質敵特効》


《衝撃波超強化》


《魔力斬撃増幅》


《魔力伝導超強化》


《超耐久》


《重量最適化》


《騎乗戦闘補助》


《自己修復》


━━━━━━━━━━


「次」


━━━━━━━━━━


《製作成功》


━━━━━━━━━━


剛魔城塞大楯アダマント・マナフォートレス


S(ランク)


古代級(エンシェント)


分類:


超重装大楯


━━━━━━━━━━


 大きい。


 アルの身体をほとんど隠せる。


 表面には幾重にも重なった剛銀色の多層装甲。


 中央には高純度魔晶石を埋め込んである。


━━━━━━━━━━


主性能:


《物理防御超強化》


《魔法防御超強化》


《衝撃完全分散補助》


《超貫通耐性》


《魔力障壁超強化》


《突進防御》


《大楯固定》


《防御時身体安定》


《高熱耐性》


《重量大幅軽減》


《自己修復》


━━━━━━━━━━


「最後、鎧」


「頭も含めて完全に覆ってくれ」


「もちろん」


 剛銀色の光。


 銀白色の魔力。


 アルの体格に合わせ。


 一気に形を作っていく。


━━━━━━━━━━


《製作成功》


━━━━━━━━━━


剛魔重騎鎧アダマント・ヘヴィアーマー


S(ランク)


古代級(エンシェント)


分類:


龍人重騎士専用全身鎧


━━━━━━━━━━


剛魔重騎兜アダマント・ヘヴィヘルム


S(ランク)


古代級(エンシェント)


━━━━━━━━━━


「おお……」


 思っていた以上にいい。


 剛銀色の重装甲。


 巨大な肩甲。


 幾重にも重なった胸部装甲。


 腕。


 腰。


 脚。


 全部が分厚い。


 なのに。


 《重量大幅軽減》のおかげで、見た目ほど動きを邪魔しない。


 装甲の縁は濃い銀灰色。


 魔導回路には淡い銀白色から青白色の光。


 そして兜。


 頭を完全に覆うフルフェイス。


 龍の牙を思わせる鋭い形状。


 視界部分だけが銀青色に輝いている。


━━━━━━━━━━


防具共通性能:


《超物理防御》


《超魔法防御》


《全属性耐性強化》


《超衝撃耐性》


《斬撃耐性超強化》


《刺突耐性超強化》


《打撃耐性超強化》


《高熱耐性》


《魔力伝導強化》


《身体能力大幅補助》


《重騎士技能超強化》


《大楯技能強化》


《大戦斧技能強化》


《重量大幅軽減》


《防御姿勢安定》


《魔力循環最適化》


《自己修復》


《緊急高位障壁》


━━━━━━━━━━


「できた」


 静か。


「アル?」


「……」


 アルが。


 完成した装備を見つめていた。


 大戦斧。


 大楯。


 全身鎧。


 フルフェイス兜。


「全部……私のか?」


「そうだよ」


「今、お前が作った新しい合金で?」


「うん」


「全てS(ランク)


「うん」


「そして全部《古代級(エンシェント)》……」


「上手くできた」


「お前はその一言で済ませすぎだ」


「そう?」


「そうだ」


 アルが苦笑する。


 それから。


 《剛魔破城斧》へ手を伸ばした。


 指先が剛銀色の刃へ触れる。


「私は今日、お前に買われたばかりだ」


「うん」


「それなのに、どうしてここまで」


「仲間だから」


「……」


「前で戦ってもらうなら、丈夫な装備の方が安心だし」


「リリス」


「うん?」


 アルが少し俯く。


 赤い髪が頬へ掛かった。


「ありがとう」


「どういたしまして」


「……本当に、ありがとう」


◇◇◇


 少しして。


 アルが装備を身につける。


 ガシャン。


 ガシャン。


 剛銀色の装甲が全身を覆っていく。


 最後。


 兜。


 カシャンッ。


「……すごい」


 完全に。


 重騎士。


 いや。


 要塞みたい。


『どうだ?』


「すごくカッコいい」


『やはり最初にそれか』


「だって似合う」


 赤い髪は兜の中だけど。


 兜を外した時の赤髪と剛銀色の装甲は絶対に合う。


 アルが《剛魔破城斧》を握る。


 片手で。


 持ち上げる。


『……軽い』


「重量最適化入れたから」


 ブォンッ!


 巨大な戦斧が風を裂く。


 続けて。


 《剛魔城塞大楯》。


 ドンッ!


━━━━━━━━━━


《大楯固定》


発動


━━━━━━━━━━


 大楯が地面へ固定され。


 銀白色の魔力障壁が正面へ展開した。


『これは……』


「どう?」


『以前使っていた重騎士装備とは比較にならない』


 アルが大楯を解除する。


『硬い。それなのに身体が動く。魔力の流れも滑らかだ』


「成功」


『成功どころではない』


 兜を外す。


 赤い長髪が広がった。


 青い瞳。


 少しだけ潤んでいる。


「アル?」


「見るな」


「分かった」


「……本当に見るのをやめる奴があるか」


「どっち?」


「もういい」


 アルが笑った。


◇◇◇


 装備を一通り試したところで。


 アルが自分の全身を見下ろす。


「一つ問題がある」


「何?」


「騎獣だ」


「あ」


 二メートルの龍人族。


 《剛魔鋼》の全身重鎧。


 巨大な大戦斧。


 巨大な大楯。


「普通の馬は厳しい?」


「移動だけなら何とかなるかもしれん。だが戦闘用には使いたくない」


「じゃあ強い騎獣」


「そうなる」


「普通に戦えて」


「分かる」


「空も飛べて」


「注文が増えたな」


「赤いの」


「色まで指定するのか?」


「剛銀色のアルに赤い騎獣、絶対カッコいい」


「……」


「どう?」


「否定はしない」


「じゃあ行こう」


「今からか?」


「今から」


「……もう慣れてきた」


◇◇◇


 王都南部。


━━━━━━━━━━


《王都高位騎獣商・竜蹄舎》


━━━━━━━━━━


 中には。


 大型軍馬。


 地竜。


 巨大鳥。


 翼獣。


 飛竜。


 いろんな騎獣がいた。


「いらっしゃいませ!」


 大柄な店主が近づいてくる。


「騎獣をお探しですか?」


「この人が完全装備で乗れるの」


 アルを指す。


「……」


 店主が固まる。


 剛銀色の全身鎧。


 巨大戦斧。


 大楯。


「とんでもなく重そうですね」


「見た目より軽いぞ」


「そうなんですか?」


「魔導合金で作ってるから」


「なるほど……それでも相当な重騎士ですね」


「戦える騎獣がいいです」


「でしたら」


 店主が少し考える。


「一頭だけ、条件に合いそうな個体がいます」


「強い?」


「ええ」


「見たい」


「やっぱりそこから聞くんだな」


 アルが呆れていた。


◇◇◇


 竜舎の最奥。


 巨大な石壁。


 分厚い鉄柵。


 上空は完全に開いている。


「飛ぶ?」


「飛びます」


 暗い岩陰。


 何かが動く。


 ザッ。


 巨大な爪。


 次に。


 深紅の鱗。


 金色の瞳。


「……カッコいい」


 姿を現したのは。


 巨大な赤い飛竜。


 普通のワイバーンより明らかに重厚。


 厚い胸部。


 太い四肢。


 巨大な翼。


 深紅から赤黒色の硬質な竜鱗。


 黒色の角質装甲。


 太い尾。


 大きな爪。


 後方へ伸びる黒赤色の角。


「《上級鑑定》」


━━━━━━━━━━


緋翼重竜クリムゾン・ヘヴィワイバーン


Lv88


危険度:


A(ランク)


区分:


高位戦闘騎獣


性別:



━━━━━━━━━━


通常の飛竜種より

遥かに強靭な骨格と筋力を持つ

重量騎乗特化型飛竜。


完全武装した重騎士を乗せても

高速飛行が可能。


地上戦・空中戦の双方に

高い適性を持つ。


━━━━━━━━━━


主能力:


《緋竜鱗》


《重騎搭載》


《剛翼飛翔》


《急降下突撃》


《重竜突進》


《竜爪撃》


《豪尾撃》


《強靭体躯》


《緋炎竜息》


《戦闘騎獣》


━━━━━━━━━━


「これ」


 アルを見る。


「絶対似合う」


「ああ」


「即答」


「文句あるか?」


「ない」


 深紅の巨大飛竜。


 剛銀色の重騎士。


 かなりいい。


◇◇◇


「ただし」


 店主が言う。


「この個体は非常に気性が激しいです。これまで騎士や竜騎兵が十三名挑戦しましたが、一人も背に乗せていません」


「なら試せばいい」


 アルが前へ出る。


 カシャンッ。


 剛銀色のフルフェイス。


「グルルルル……」


 飛竜が低く唸る。


 アルは動かない。


『私はアルドラ・ヴァルグレイヴ』


「グル……」


『お前が強いのは分かる』


 大戦斧と大楯を地面へ置く。


『だが、私も弱くはない』


 金色の瞳。


 銀青色に輝く兜。


 しばらく。


 見つめ合う。


 次の瞬間。


 バサァッ!


 巨大な翼。


 風圧。


「アル!」


『大丈夫だ』


 一歩も下がらない。


 飛竜が近づく。


 兜。


 胸甲。


 大戦斧。


 大楯。


 一つずつ確かめるように匂いを嗅ぐ。


「グル……」


 そして。


 身体を低くした。


「……騎乗を許しました」


「やった」


◇◇◇


 アルが背へ跨がる。


 《剛魔鋼》の全身重鎧。


 大戦斧。


 大楯。


 完全武装。


 それでも。


「グルル?」


 飛竜は平然。


「余裕そう」


『まったく問題ない』


 アルが首筋を軽く叩く。


『飛べるか?』


「グオオオオオッ!」


 バサァァァッ!


 一気に空へ。


「速い!」


 完全武装したアルを乗せたまま。


 巨大な飛竜が上空を高速で旋回する。


『リリス!』


「聞こえる!」


『少し試すぞ!』


「何を?」


 急上昇。


 反転。


「あ」


━━━━━━━━━━


《急降下突撃》


━━━━━━━━━━


 ゴォォォォォッ!


 深紅の飛竜。


 剛銀色の重騎士。


 巨大な大楯を正面へ構える。


「カッコいい!」


 地上すれすれ。


 翼を開く。


 そのまま試験用の強化岩柱へ。


『ハァッ!』


 ドゴォォォォンッ!


 大楯。


 飛竜の巨体。


 同時に激突。


 強化岩柱が根元から折れた。


「強い」


「……あれ、かなり頑丈なんですが」


 店主が呆然としている。


「弁償します」


「ありがとうございます……」


◇◇◇


 飛竜が着地する。


 ドンッ。


 アルが兜を外した。


 赤い長髪が風に揺れる。


「リリス」


「うん」


「私はこいつが欲しい」


「買おう」


「値段を聞け」


「あ」


「そこからか」


 店主から価格を聞く。


「高い」


「高位戦闘飛竜ですから」


「買います」


「だから早い!」


「アルも欲しいんでしょ?」


「欲しい」


「じゃあいいじゃん」


「……お前の金銭感覚については、そのうち本気で話し合おう」


◇◇◇


 契約。


 騎獣登録。


 一通りの手続きを済ませる。


━━━━━━━━━━


緋翼重竜クリムゾン・ヘヴィワイバーン


購入完了


━━━━━━━━━━


所有者:


リリス・ルクスヴィア


専属騎手:


アルドラ・ヴァルグレイヴ


━━━━━━━━━━


「名前は?」


「登録名はありません」


「じゃあ……」


 赤い。


 強い。


 大きい。


 アルに似合う。


「ヴァルカ」


「ヴァルカか」


「どう?」


「グルル……」


 一瞬。


「グオオッ!」


「気に入ったみたい」


「たぶんな」


 アルがヴァルカの首を撫でる。


「ヴァルカ」


「グル」


「これからよろしく頼む」


 ヴァルカが大きな頭を下げ。


 アルの剛銀色の胸甲へ額を軽く当てた。


「気に入られたね」


「ああ」


 アルが嬉しそうに笑った。


◇◇◇


 夕方。


 王都外縁の広い訓練場。


「ウォン!」


「グルル」


 白銀のノルン。


 深紅のヴァルカ。


 二匹が向き合う。


「喧嘩しないでね」


「ウォフ」


「グル」


「大丈夫そう」


 その横。


 アルが兜を被る。


 カシャンッ。


 剛銀色の《剛魔鋼》重鎧。


 装甲の隙間を走る銀白色の魔力線。


 巨大な大楯。


 大戦斧。


 そのままヴァルカへ騎乗する。


「……すごい」


『何だ?』


「カッコいい」


『またそれか』


「だって本当に」


 深紅のヴァルカ。


 剛銀のアル。


 赤い髪。


 銀白色の魔力光。


 色が対照的だから。


 逆にすごく合っている。


「剛魔鋼にしてよかった」


『私も気に入った』


「ほんと?」


『ああ。この重量感がいい。それなのに動きやすい』


 アルが《剛魔破城斧アダマント・マナグレイヴ》を肩へ担ぐ。


『地上では私が受ける』


 ヴァルカが巨大な翼を広げる。


『空ではヴァルカと叩き落とす』


「頼もしい」


『任せろ』


「無茶だけはしないでね」


『分かっている』


 少し間。


『たぶん』


「アル?」


『冗談だ』


「本当に?」


『……たぶん』


「また言った」


 兜の奥から笑い声が聞こえる。


◇◇◇


 私はみんなを見る。


 白銀のノルン。


 深紅のヴァルカ。


 剛銀色の《剛魔鋼》を纏った重騎士アル。


 そして私。


「仲間増えたなぁ」


 少し前まで。


 ノルンと二人だった。


 今は。


 正面から敵を受け止めるLv85の重騎士。


 地上でも空中でも戦えるLv88の高位戦闘飛竜。


 かなり頼もしい。


「明日は全員で実戦しよう」


『任せろ』


「ウォン!」


「グオオオオッ!」


 三つの返事。


 私は白銀の《聖蒼銀弓ルミナス・ミスリルアーク》へ手を添える。


「アルの本気も見たい」


『期待には応えよう』


 深紅の翼が大きく広がる。


 その上で。


 剛銀色の重騎士が巨大な戦斧を肩へ担いだ。


「……やっぱりカッコいい」


『もう好きに言え』


 アルの声には。


 少しだけ嬉しそうな響きが混じっていた。

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