第二十九話 龍人族の重騎士アルドラ
《王都公認奴隷商館》。
入口の前で少しだけ立ち止まる。
「……入ってみよう」
扉を開けた。
思っていたより静かだった。
広い石造りの店内には受付台と長椅子が置かれ、奥には何本かの廊下が伸びている。
鉄格子だらけの暗い場所を想像していたけど、少なくとも表側は普通の商会に近い。
「いらっしゃいませ」
受付にいた中年男性がこちらを見る。
そして、私の白銀装備で視線が止まった。
「……失礼。ご用件を伺っても?」
「少し見たいんですけど」
「購入希望でしょうか?」
「まだ分からないです」
「承知しました」
男性は丁寧に頭を下げる。
「当商館は王国認可を受けております。犯罪奴隷、債務奴隷、戦争奴隷などで区分が異なります。購入時には身元、契約内容、禁止事項について説明いたします」
「分かりました」
「何かご希望はございますか?」
「さっき、赤い髪の大きな女の人が入っていったんですけど」
「赤髪……ああ」
男性の表情が少し変わった。
「龍人族のアルドラですね」
「アルドラ」
「はい。今日こちらへ移送されたばかりです」
「会えますか?」
「もちろんです。ただ……購入希望者が少ない方でして」
「どうして?」
「戦闘能力が高すぎるのです」
「それが駄目なんですか?」
「武器を持たせる側にも相応の力量が求められます。加えて、本人が重騎士として使用する装備が特殊です。一般的な人族用装備では寸法も耐久性も足りません」
「装備代が高い」
「その通りです」
それなら。
私は困らない。
素材ならいっぱいある。
「会わせてください」
「こちらへ」
◇◇◇
案内されたのは建物奥の面談室だった。
机。
椅子。
壁際には護衛が二人。
「少々お待ちください」
しばらくすると扉が開いた。
「入れ」
「……分かった」
落ち着いた女性の声。
入ってきたのは、さっき見た女性。
身長は二メートルくらい。
長い赤髪には緩いウェーブがかかっている。
青い瞳。
こめかみの少し上には、龍人族らしい小さな角。
今は簡素な服だけ。
それでも鍛えられているのが分かる。
長身で均整の取れた体型。
かなり美人。
「《上級鑑定》」
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アルドラ・ヴァルグレイヴ
種族:
龍人族
Lv85
職業:
重騎士
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「Lv85……」
かなり強い。
私よりレベルは低いけど、普通の傭兵という感じじゃない。
「座って構わない」
「……ああ」
アルドラが椅子へ座る。
私を見る。
特に腰の二振りの聖剣と、背中の白銀の聖弓を。
「冒険者か?」
「一応」
「一応……?」
「Dランク」
アルドラの眉が動いた。
「その装備で?」
「うん」
「いや、おかしいだろ」
「よく言われます」
「そうなのか……」
ちょっと話しやすそう。
「私はリリス。リリス・ルクスヴィア」
「アルドラ・ヴァルグレイヴだ」
「アルって呼んでもいい?」
「……いきなりだな」
「嫌?」
「いや。昔からそう呼ばれていた」
「じゃあアル」
「好きにしろ」
ほんの少し。
アルの口元が緩んだ。
◇◇◇
「アルは重騎士なんだよね?」
「ああ」
「武器は?」
「大戦斧」
「盾は?」
「大楯」
「防具は?」
「全身鎧だ」
「戦う時は兜も?」
「当然だ。頭まで完全に覆う」
「いいね」
「何がだ?」
「カッコいい」
「……そう言われたのは久しぶりだ」
大戦斧。
大楯。
全身鎧。
フルフェイス。
かなり好み。
「絶対似合う」
「まだ見てもいないだろう」
「分かる」
「変な奴だな」
アルが少し笑った。
◇◇◇
「どうしてここに?」
聞くと。
アルの表情が少し曇った。
「債務だ」
「借金?」
「ああ」
商館職員が補足する。
「アルドラ本人が作った借金ではありません。所属していた傭兵団が壊滅し、団の共同債務と装備代金が残った形です」
「装備代まで?」
「重騎士装備は非常に高価ですから」
アルが腕を組む。
「団長が死んだ。仲間も散った。残った借金を払える奴がいなかった」
「それで債務奴隷」
「ああ」
「期間は?」
「通常労働で返済する場合、十五年前後が見込まれます」
「長い」
「龍人族は寿命が長い。私なら払える」
そう言うけど。
十五年は普通に長い。
「購入額は?」
「金貨三百八十枚です」
「それだけ?」
「……それだけ、と言われる額ではないのですが」
「払えます」
「待て」
アルが口を挟んだ。
「本気か?」
「うん」
「なぜだ」
「前衛が欲しかったから」
「……」
「私は弓と魔法が多いし、ノルンは高速戦闘型だから。正面で敵を受け止めてくれる人がいると助かる」
「それだけか?」
「あと、アルの装備を作りたい」
「は?」
◇◇◇
「私、錬金術師だから」
「錬金術師?」
「うん」
「その勇者みたいな格好で?」
「勇者でもあるよ」
「…………」
「アル?」
「ちょっと待て」
額を押さえられた。
「Dランク冒険者で、錬金術師で、勇者?」
「そう」
「意味が分からない」
「私も最近そう言われる」
「そうだろうな」
商館職員まで微妙な顔をしている。
「それで」
私はアルを見る。
「一緒に冒険してほしい」
「奴隷として命令するのか?」
「命令はあんまりしたくない」
「なら何のために買う」
「ここから出すためと」
少し考える。
「仲間になってほしいから」
「……仲間?」
「うん」
アルが黙る。
「私は危ない場所にも行くよ」
「構わない」
「むしろ?」
「戦えるなら、その方がいい。戦場に立てない方が苦痛だ」
「じゃあ合いそう」
「ただし」
「うん」
「私は守ると決めた相手は守る。必要なら最後まで残る」
「それは困る」
「何?」
「一緒に逃げて」
「……」
「死なれる方が困るから」
アルが目を丸くする。
少しして。
「分かった」
短く答えた。
◇◇◇
契約内容を確認する。
債務。
所有権。
解放条件。
禁止事項。
譲渡。
契約解除。
「問題ありません」
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金貨×380
支払い
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《債務奴隷契約》
所有者変更
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所有者:
リリス・ルクスヴィア
対象:
アルドラ・ヴァルグレイヴ
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契約成立
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商館職員がアルの拘束具を外す。
カチッ。
「……軽いな」
「手?」
「違う」
アルが静かに息を吐いた。
「気分が」
「そっか」
私は立ち上がる。
「じゃあ行こう、アル」
「どこへ?」
「装備作る」
「今から?」
「今から」
「……本当に作るつもりだったのか」
「もちろん」
◇◇◇
商館を出る。
「武器は残ってないの?」
「全部売却された」
「鎧も?」
「ああ」
「じゃあ全部必要」
「安物で構わない」
「嫌」
「即答するな」
「どうせ作るなら強い方がいい」
「鉄か鋼でも厚ければ使える」
「もっと丈夫なの作れると思う」
「何を使うつもりだ?」
「まだ決めてない」
考える。
アルは前衛。
攻撃を避け続けるより。
真正面から受け止める。
だったら。
まず必要なのは硬さ。
耐久力。
衝撃耐性。
それから魔法防御。
「……そうだ」
「何か思いついたのか?」
「新しい合金作る」
「そんな気軽に言うものなのか?」
「たぶん大丈夫」
「たぶんで新素材を作るな」
◇◇◇
銀の月亭。
裏庭。
「ウォン?」
「ノルン、ただいま」
ノルンが近づいてくる。
アルが反射的に身構えた。
「……銀嶺暴牙狼?」
「大丈夫。ノルンは仲間」
「仲間?」
「ウォン」
ノルンがアルの匂いを嗅ぐ。
しばらくして。
「ウォフ」
「大丈夫みたい」
「判断が早いな」
「ノルン賢いから」
アルが白銀の毛を見つめる。
「綺麗な狼だ」
「ウォン!」
「喜んでる」
◇◇◇
「じゃあ素材作ろう」
「装備ではなく?」
「まず金属から」
《インベントリ》を開く。
━━━━━━━━━━
《高純度魔鋼》
《高純度アダマンタイト》
《高純度魔晶石》
《創晶石》
━━━━━━━━━━
アルが並べた素材を見る。
「アダマンタイトまで使うのか?」
「硬くしたいから」
「その一言で投入する金属ではないと思うが」
「いっぱいあるし」
「……その言葉は危険な気がする」
気にせず続ける。
アダマンタイトの圧倒的な硬度。
魔鋼の魔力伝導性。
魔晶石の魔力保持力。
アルケリウムの高い素材親和性。
全部まとめる。
「《高位金属精錬》」
「《複合素材加工》」
「《素材特性融合》」
「《超高温精錬》」
「《超硬金属加工》」
四種類の素材が光へ包まれた。
銀色。
灰色。
青白い魔力光。
それぞれが混ざっていく。
そして。
次の瞬間。
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《新規素材錬成成功》
━━━━━━━━━━
《剛魔鋼》
分類:
超高硬度魔導合金
━━━━━━━━━━
主特性:
《超高硬度》
《超耐久》
《衝撃吸収》
《高魔法耐性》
《魔力伝導》
《重量軽減》
《高熱耐性》
《自己修復適性》
━━━━━━━━━━
「できた」
「……本当に作ったな」
「うん」
完成した金属を手に取る。
色は。
剛銀色。
白銀ほど明るくない。
普通の鉄より遥かに澄んでいる。
鈍い銀灰色。
重厚な鋼銀色。
光が当たると冷たい銀色の輝きが浮かぶ。
魔力を流す。
すると。
表面に刻まれた細かな魔導紋へ、淡い銀白色の光が走った。
「……いい」
アルが呟いた。
「気に入った?」
「ああ。重騎士の装備には、この色がいい」
「私もそう思う」
派手すぎない。
でも。
凄く強そう。
◇◇◇
「採寸するね」
「頼む」
腕。
脚。
肩。
胸。
腰。
龍人族特有の骨格。
可動域。
全部確認する。
「大戦斧は?」
「巨大な両刃型がいい。右手で使う。必要なら両手持ちにも切り替える」
「大楯は?」
「私の身体をほぼ隠せる大きさが欲しい」
「本当に大きいやつだね」
「重騎士だからな」
「騎乗戦は?」
「経験はある」
「じゃあ騎乗中でも扱いやすくする」
《剛魔鋼》を並べる。
高純度魔晶石。
金剛晶。
虹霊晶。
アルケリウム。
補助素材も追加。
「《古代装備錬成》」
「《装備性能限界突破》」
「《製作品質超向上》」
「《魔導回路構築》」
「《高等装備強化》」
剛銀色の光が広がった。
◇◇◇
最初。
大戦斧。
━━━━━━━━━━
《製作成功》
━━━━━━━━━━
《剛魔破城斧》
S級
古代級
分類:
超重量大戦斧
━━━━━━━━━━
巨大な両刃戦斧。
刃は重厚な剛銀色。
中央部は暗い銀灰色。
内部の魔導回路が淡い銀白色に輝いている。
━━━━━━━━━━
主性能:
《斬撃威力超強化》
《破砕威力超強化》
《装甲破壊超強化》
《硬質敵特効》
《衝撃波超強化》
《魔力斬撃増幅》
《魔力伝導超強化》
《超耐久》
《重量最適化》
《騎乗戦闘補助》
《自己修復》
━━━━━━━━━━
「次」
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《製作成功》
━━━━━━━━━━
《剛魔城塞大楯》
S級
古代級
分類:
超重装大楯
━━━━━━━━━━
大きい。
アルの身体をほとんど隠せる。
表面には幾重にも重なった剛銀色の多層装甲。
中央には高純度魔晶石を埋め込んである。
━━━━━━━━━━
主性能:
《物理防御超強化》
《魔法防御超強化》
《衝撃完全分散補助》
《超貫通耐性》
《魔力障壁超強化》
《突進防御》
《大楯固定》
《防御時身体安定》
《高熱耐性》
《重量大幅軽減》
《自己修復》
━━━━━━━━━━
「最後、鎧」
「頭も含めて完全に覆ってくれ」
「もちろん」
剛銀色の光。
銀白色の魔力。
アルの体格に合わせ。
一気に形を作っていく。
━━━━━━━━━━
《製作成功》
━━━━━━━━━━
《剛魔重騎鎧》
S級
古代級
分類:
龍人重騎士専用全身鎧
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《剛魔重騎兜》
S級
古代級
━━━━━━━━━━
「おお……」
思っていた以上にいい。
剛銀色の重装甲。
巨大な肩甲。
幾重にも重なった胸部装甲。
腕。
腰。
脚。
全部が分厚い。
なのに。
《重量大幅軽減》のおかげで、見た目ほど動きを邪魔しない。
装甲の縁は濃い銀灰色。
魔導回路には淡い銀白色から青白色の光。
そして兜。
頭を完全に覆うフルフェイス。
龍の牙を思わせる鋭い形状。
視界部分だけが銀青色に輝いている。
━━━━━━━━━━
防具共通性能:
《超物理防御》
《超魔法防御》
《全属性耐性強化》
《超衝撃耐性》
《斬撃耐性超強化》
《刺突耐性超強化》
《打撃耐性超強化》
《高熱耐性》
《魔力伝導強化》
《身体能力大幅補助》
《重騎士技能超強化》
《大楯技能強化》
《大戦斧技能強化》
《重量大幅軽減》
《防御姿勢安定》
《魔力循環最適化》
《自己修復》
《緊急高位障壁》
━━━━━━━━━━
「できた」
静か。
「アル?」
「……」
アルが。
完成した装備を見つめていた。
大戦斧。
大楯。
全身鎧。
フルフェイス兜。
「全部……私のか?」
「そうだよ」
「今、お前が作った新しい合金で?」
「うん」
「全てS級」
「うん」
「そして全部《古代級》……」
「上手くできた」
「お前はその一言で済ませすぎだ」
「そう?」
「そうだ」
アルが苦笑する。
それから。
《剛魔破城斧》へ手を伸ばした。
指先が剛銀色の刃へ触れる。
「私は今日、お前に買われたばかりだ」
「うん」
「それなのに、どうしてここまで」
「仲間だから」
「……」
「前で戦ってもらうなら、丈夫な装備の方が安心だし」
「リリス」
「うん?」
アルが少し俯く。
赤い髪が頬へ掛かった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「……本当に、ありがとう」
◇◇◇
少しして。
アルが装備を身につける。
ガシャン。
ガシャン。
剛銀色の装甲が全身を覆っていく。
最後。
兜。
カシャンッ。
「……すごい」
完全に。
重騎士。
いや。
要塞みたい。
『どうだ?』
「すごくカッコいい」
『やはり最初にそれか』
「だって似合う」
赤い髪は兜の中だけど。
兜を外した時の赤髪と剛銀色の装甲は絶対に合う。
アルが《剛魔破城斧》を握る。
片手で。
持ち上げる。
『……軽い』
「重量最適化入れたから」
ブォンッ!
巨大な戦斧が風を裂く。
続けて。
《剛魔城塞大楯》。
ドンッ!
━━━━━━━━━━
《大楯固定》
発動
━━━━━━━━━━
大楯が地面へ固定され。
銀白色の魔力障壁が正面へ展開した。
『これは……』
「どう?」
『以前使っていた重騎士装備とは比較にならない』
アルが大楯を解除する。
『硬い。それなのに身体が動く。魔力の流れも滑らかだ』
「成功」
『成功どころではない』
兜を外す。
赤い長髪が広がった。
青い瞳。
少しだけ潤んでいる。
「アル?」
「見るな」
「分かった」
「……本当に見るのをやめる奴があるか」
「どっち?」
「もういい」
アルが笑った。
◇◇◇
装備を一通り試したところで。
アルが自分の全身を見下ろす。
「一つ問題がある」
「何?」
「騎獣だ」
「あ」
二メートルの龍人族。
《剛魔鋼》の全身重鎧。
巨大な大戦斧。
巨大な大楯。
「普通の馬は厳しい?」
「移動だけなら何とかなるかもしれん。だが戦闘用には使いたくない」
「じゃあ強い騎獣」
「そうなる」
「普通に戦えて」
「分かる」
「空も飛べて」
「注文が増えたな」
「赤いの」
「色まで指定するのか?」
「剛銀色のアルに赤い騎獣、絶対カッコいい」
「……」
「どう?」
「否定はしない」
「じゃあ行こう」
「今からか?」
「今から」
「……もう慣れてきた」
◇◇◇
王都南部。
━━━━━━━━━━
《王都高位騎獣商・竜蹄舎》
━━━━━━━━━━
中には。
大型軍馬。
地竜。
巨大鳥。
翼獣。
飛竜。
いろんな騎獣がいた。
「いらっしゃいませ!」
大柄な店主が近づいてくる。
「騎獣をお探しですか?」
「この人が完全装備で乗れるの」
アルを指す。
「……」
店主が固まる。
剛銀色の全身鎧。
巨大戦斧。
大楯。
「とんでもなく重そうですね」
「見た目より軽いぞ」
「そうなんですか?」
「魔導合金で作ってるから」
「なるほど……それでも相当な重騎士ですね」
「戦える騎獣がいいです」
「でしたら」
店主が少し考える。
「一頭だけ、条件に合いそうな個体がいます」
「強い?」
「ええ」
「見たい」
「やっぱりそこから聞くんだな」
アルが呆れていた。
◇◇◇
竜舎の最奥。
巨大な石壁。
分厚い鉄柵。
上空は完全に開いている。
「飛ぶ?」
「飛びます」
暗い岩陰。
何かが動く。
ザッ。
巨大な爪。
次に。
深紅の鱗。
金色の瞳。
「……カッコいい」
姿を現したのは。
巨大な赤い飛竜。
普通のワイバーンより明らかに重厚。
厚い胸部。
太い四肢。
巨大な翼。
深紅から赤黒色の硬質な竜鱗。
黒色の角質装甲。
太い尾。
大きな爪。
後方へ伸びる黒赤色の角。
「《上級鑑定》」
━━━━━━━━━━
《緋翼重竜》
Lv88
危険度:
A級
区分:
高位戦闘騎獣
性別:
雄
━━━━━━━━━━
通常の飛竜種より
遥かに強靭な骨格と筋力を持つ
重量騎乗特化型飛竜。
完全武装した重騎士を乗せても
高速飛行が可能。
地上戦・空中戦の双方に
高い適性を持つ。
━━━━━━━━━━
主能力:
《緋竜鱗》
《重騎搭載》
《剛翼飛翔》
《急降下突撃》
《重竜突進》
《竜爪撃》
《豪尾撃》
《強靭体躯》
《緋炎竜息》
《戦闘騎獣》
━━━━━━━━━━
「これ」
アルを見る。
「絶対似合う」
「ああ」
「即答」
「文句あるか?」
「ない」
深紅の巨大飛竜。
剛銀色の重騎士。
かなりいい。
◇◇◇
「ただし」
店主が言う。
「この個体は非常に気性が激しいです。これまで騎士や竜騎兵が十三名挑戦しましたが、一人も背に乗せていません」
「なら試せばいい」
アルが前へ出る。
カシャンッ。
剛銀色のフルフェイス。
「グルルルル……」
飛竜が低く唸る。
アルは動かない。
『私はアルドラ・ヴァルグレイヴ』
「グル……」
『お前が強いのは分かる』
大戦斧と大楯を地面へ置く。
『だが、私も弱くはない』
金色の瞳。
銀青色に輝く兜。
しばらく。
見つめ合う。
次の瞬間。
バサァッ!
巨大な翼。
風圧。
「アル!」
『大丈夫だ』
一歩も下がらない。
飛竜が近づく。
兜。
胸甲。
大戦斧。
大楯。
一つずつ確かめるように匂いを嗅ぐ。
「グル……」
そして。
身体を低くした。
「……騎乗を許しました」
「やった」
◇◇◇
アルが背へ跨がる。
《剛魔鋼》の全身重鎧。
大戦斧。
大楯。
完全武装。
それでも。
「グルル?」
飛竜は平然。
「余裕そう」
『まったく問題ない』
アルが首筋を軽く叩く。
『飛べるか?』
「グオオオオオッ!」
バサァァァッ!
一気に空へ。
「速い!」
完全武装したアルを乗せたまま。
巨大な飛竜が上空を高速で旋回する。
『リリス!』
「聞こえる!」
『少し試すぞ!』
「何を?」
急上昇。
反転。
「あ」
━━━━━━━━━━
《急降下突撃》
━━━━━━━━━━
ゴォォォォォッ!
深紅の飛竜。
剛銀色の重騎士。
巨大な大楯を正面へ構える。
「カッコいい!」
地上すれすれ。
翼を開く。
そのまま試験用の強化岩柱へ。
『ハァッ!』
ドゴォォォォンッ!
大楯。
飛竜の巨体。
同時に激突。
強化岩柱が根元から折れた。
「強い」
「……あれ、かなり頑丈なんですが」
店主が呆然としている。
「弁償します」
「ありがとうございます……」
◇◇◇
飛竜が着地する。
ドンッ。
アルが兜を外した。
赤い長髪が風に揺れる。
「リリス」
「うん」
「私はこいつが欲しい」
「買おう」
「値段を聞け」
「あ」
「そこからか」
店主から価格を聞く。
「高い」
「高位戦闘飛竜ですから」
「買います」
「だから早い!」
「アルも欲しいんでしょ?」
「欲しい」
「じゃあいいじゃん」
「……お前の金銭感覚については、そのうち本気で話し合おう」
◇◇◇
契約。
騎獣登録。
一通りの手続きを済ませる。
━━━━━━━━━━
《緋翼重竜》
購入完了
━━━━━━━━━━
所有者:
リリス・ルクスヴィア
専属騎手:
アルドラ・ヴァルグレイヴ
━━━━━━━━━━
「名前は?」
「登録名はありません」
「じゃあ……」
赤い。
強い。
大きい。
アルに似合う。
「ヴァルカ」
「ヴァルカか」
「どう?」
「グルル……」
一瞬。
「グオオッ!」
「気に入ったみたい」
「たぶんな」
アルがヴァルカの首を撫でる。
「ヴァルカ」
「グル」
「これからよろしく頼む」
ヴァルカが大きな頭を下げ。
アルの剛銀色の胸甲へ額を軽く当てた。
「気に入られたね」
「ああ」
アルが嬉しそうに笑った。
◇◇◇
夕方。
王都外縁の広い訓練場。
「ウォン!」
「グルル」
白銀のノルン。
深紅のヴァルカ。
二匹が向き合う。
「喧嘩しないでね」
「ウォフ」
「グル」
「大丈夫そう」
その横。
アルが兜を被る。
カシャンッ。
剛銀色の《剛魔鋼》重鎧。
装甲の隙間を走る銀白色の魔力線。
巨大な大楯。
大戦斧。
そのままヴァルカへ騎乗する。
「……すごい」
『何だ?』
「カッコいい」
『またそれか』
「だって本当に」
深紅のヴァルカ。
剛銀のアル。
赤い髪。
銀白色の魔力光。
色が対照的だから。
逆にすごく合っている。
「剛魔鋼にしてよかった」
『私も気に入った』
「ほんと?」
『ああ。この重量感がいい。それなのに動きやすい』
アルが《剛魔破城斧》を肩へ担ぐ。
『地上では私が受ける』
ヴァルカが巨大な翼を広げる。
『空ではヴァルカと叩き落とす』
「頼もしい」
『任せろ』
「無茶だけはしないでね」
『分かっている』
少し間。
『たぶん』
「アル?」
『冗談だ』
「本当に?」
『……たぶん』
「また言った」
兜の奥から笑い声が聞こえる。
◇◇◇
私はみんなを見る。
白銀のノルン。
深紅のヴァルカ。
剛銀色の《剛魔鋼》を纏った重騎士アル。
そして私。
「仲間増えたなぁ」
少し前まで。
ノルンと二人だった。
今は。
正面から敵を受け止めるLv85の重騎士。
地上でも空中でも戦えるLv88の高位戦闘飛竜。
かなり頼もしい。
「明日は全員で実戦しよう」
『任せろ』
「ウォン!」
「グオオオオッ!」
三つの返事。
私は白銀の《聖蒼銀弓》へ手を添える。
「アルの本気も見たい」
『期待には応えよう』
深紅の翼が大きく広がる。
その上で。
剛銀色の重騎士が巨大な戦斧を肩へ担いだ。
「……やっぱりカッコいい」
『もう好きに言え』
アルの声には。
少しだけ嬉しそうな響きが混じっていた。




