第二話 初めての錬金術
オークションへの出品手続きを終えると、エレナさんは大量に持ち込んだ通常素材の査定結果をまとめてくれた。
「お待たせしました。ブルースライムとホーンラビット、それから魔石の買い取り分です」
「はい」
差し出された明細を見る。
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《常設依頼・素材買取》
ブルースライム素材
《スライムゼリー》
《スライムオイル》
《ブルースライムの魔石》
角兎素材
《ホーンラビットの毛皮》
《ホーンラビットの肉》
《ホーンラビットの角》
《ホーンラビットの魔石》
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報酬・買取総額
金貨6枚
銀貨7枚
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「結構ある……」
日本円の感覚にすると六万円以上。
初日の低級魔物狩りでこれだけ稼げるとは思っていなかった。
「討伐数が討伐数ですからね」
エレナさんが苦笑する。
「普通の新人冒険者が一日に持ち込む量ではありません」
「そうなんですか?」
「スライムを百四十八体、ホーンラビットを九十二体ですから」
「見つけるのが簡単だったので」
「そこからもう普通じゃないんですよ」
「?」
《気配察知Lv10》のおかげだと思う。
ただ、それをわざわざ説明する必要もない。
私は受け取った硬貨を《インベントリ》へ収納した。
「ところで、全部売ってしまってよかったんですか?」
「全部?」
「ホーンラビットの肉などです。食用にもできますよ」
「あ」
忘れていた。
素材を見ると、つい集めることと売ることばかり考えてしまう。
「まだ遺骸が残っています」
「……遺骸?」
「はい」
ドロップ素材とは別に、《自動収集》で倒した魔物そのものも収納されている。
エレナさんが少し目を見開いた。
「討伐した魔物を全部収納できるんですか?」
「できます」
「収納系の能力をお持ちなんですね」
「そんな感じです」
《インベントリ》について細かく説明するのはやめておいた。
容量無制限。
内部時間停止。
死体まで収納可能。
普通に考えてかなり便利な能力だ。
「それなら、解体所へ持ち込めば追加で素材を取ってもらえますよ」
「解体……」
私は自分のスキル一覧を思い出す。
《解体Lv10》。
せっかく取得したのだから、自分で試したい。
「自分でやってみます」
「解体経験があるんですか?」
「一応」
LGOでは何度もやった。
ただし、あれはゲームのシステムとしてだった。
本物の魔物を自分の手で解体するとなると話は違う。
……でも《解体Lv10》がある。
たぶん何とかなる。
「無理そうなら持ってきます」
「そうしてください。衛生面には気をつけてくださいね」
「はい」
◇◇◇
冒険者ギルドを出ると、空はもう茜色に染まっていた。
王都の大通りには夕食時らしい賑わいが広がっている。
串焼きの肉。
焼きたてのパン。
香辛料の匂い。
「……お腹空いた」
不老不死になっても空腹は感じる。
女神様の説明通りだった。
むしろ安心する。
食事を楽しめなくなるのは嫌だ。
宿を探すついでに屋台を覗いていく。
「お嬢ちゃん、焼き鳥どうだい!」
「ください」
「一本?」
「三本」
「毎度!」
銅貨を渡し、焼きたての串焼きを受け取る。
一口。
「美味しい」
塩と香草だけの単純な味付けだけれど、肉そのものの味が濃い。
歩きながら三本とも食べてしまった。
そのまま宿屋が並ぶ通りへ向かう。
何軒か見比べ、清潔そうで値段も手頃な宿を選んだ。
木製の看板には銀色の月が描かれている。
《銀月亭》。
「いらっしゃい」
中へ入ると、四十代くらいの女性が受付にいた。
「一人です。部屋は空いてますか?」
「もちろん。夕食付きで一泊銀貨一枚と銅貨五枚だよ」
「じゃあ、とりあえず三泊お願いします」
「はいよ」
銀貨を支払い、部屋の鍵を受け取る。
二階の部屋は小さいけれど、綺麗だった。
ベッド。
机。
椅子。
小さな棚。
窓。
「十分」
革鎧を外す。
鉄の剣と盾も机の横へ置いた。
暗灰色の厚布上衣と黒いズボンだけになると、一気に身体が軽くなった。
「はぁ……」
ベッドへ腰を下ろす。
今日は色々ありすぎた。
ゲームのサービス終了。
女神様。
五百年後の異世界。
勇者召喚。
王様。
冒険者登録。
そして二百四十体の魔物。
「……私、元気だな」
自分でも思う。
普通ならもっと疲れているはずだ。
《身体強化》の影響もあるのかもしれない。
それに。
「ステータス」
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リリス・ルクスヴィア
種族:人族
Lv25
職業
《錬金術師》
《勇者》
HP:2500/2500
MP:250000/250000
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保有AP:24000
保有SP:24000
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「……増えすぎ」
一瞬、表示を見間違えたかと思った。
Lv1からLv25。
二十四回のレベルアップ。
一回のレベルアップで得られる基本報酬はAP100、SP100。
そこへ《女神の加護》の獲得AP十倍、獲得SP十倍が掛かっている。
つまり一レベルにつき、
AP1000。
SP1000。
二十四レベル分で、それぞれ二万四千。
「女神様、やっぱり手厚すぎる」
初期の百ポイントが急に可愛く見えてきた。
さらにステータスを確認する。
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STR:255
VIT:255
AGI:260
DEX:260
INT:255
MND:250
LUK:245
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レベルアップそのものでも能力値が上昇している。
初日にAPで振った分まで合わせると、Lv1の頃とは比較にならない。
「明日、戦ったらどうなるんだろう」
ブルースライムなら触れるだけで倒せそうな気がする。
でも、APを全部使うのはやめておこう。
必要になった時に振れるよう残しておく。
「SPも……」
二万四千。
スキルをLv10まで上げるのに十しか使わない。
単純計算なら、とんでもない数のスキルを取得できる。
でも、今の段階で何でもかんでも覚える必要はない。
「錬金術師なんだから、まずはそっちかな」
スキル一覧を開く。
ずらりと並ぶ候補。
その中から目についたものを選ぶ。
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《錬金術》
未取得
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「職業が錬金術師なのに別でスキルがあるんだ」
LGOでも似た仕組みだった。
職業は適性や成長に関わり、実際の技術はスキルとして扱われる。
「取得」
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《錬金術Lv1》
習得
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続けて上げる。
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《錬金術》
Lv1
↓
Lv10
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消費SP:10
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「十で終わった……」
保有SPは二万三千九百九十。
誤差みたいな数字だ。
ついでに錬金術に関係しそうなものも取得する。
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《素材鑑定》
Lv10
《調合》
Lv10
《素材精製》
Lv10
《品質向上》
Lv10
《魔力操作》
Lv10
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さらに五十SP。
「……これ、使い切ろうとしたら大変だな」
今日はここまでにする。
私はステータス画面を閉じた。
◇◇◇
夕食を済ませて部屋へ戻ったあと、机の上を片付ける。
「さて」
今日集めた素材を使ってみたい。
錬金術師なのだから、いつまでも剣を振っているだけでは意味がない。
まず取り出したのは薬草。
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《薬草》
分類:薬草
品質:普通
傷を癒やす成分を含む一般的な薬草。
ポーションなどの材料として使用される。
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「やっぱりポーション」
道具屋で買った《初級ポーション》を一本取り出す。
赤みを帯びた液体。
《鑑定》。
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《初級ポーション》
品質:普通
軽度の傷を癒やす回復薬。
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「作れるかな」
錬金術を発動する。
LGOでは専用の錬金設備を使うことも多かったけれど、簡単な調合なら携帯道具でもできた。
《冒険者セット》に入っていた小さな容器を取り出す。
薬草。
水。
そして魔力。
「《錬金術》」
手の中から淡い光が広がった。
「おお……」
薬草が光に包まれ、形を崩していく。
水と混ざり合い、徐々に赤みを帯びた液体へ変わる。
数秒後。
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《錬金成功》
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《初級ポーション》
×3
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「できた」
一回で三本。
しかも。
「《鑑定》」
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《初級ポーション》
品質:良質
通常品より高い回復効果を持つ。
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「良質」
道具屋で買った物より一段上。
材料は普通の薬草と水だけなのに。
《錬金術Lv10》。
《調合Lv10》。
《品質向上Lv10》。
それに《女神の加護》の職業熟練度補正。
色々重なっているのだろう。
「もう一回」
薬草を取り出す。
水を用意する。
魔力を流す。
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《錬金成功》
《初級ポーション》×3
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《錬金成功》
《初級ポーション》×3
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《錬金成功》
《初級ポーション》×3
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「楽しい」
気づけば十回以上作っていた。
全部へ収納する。
まだ薬草は大量に残っている。
今日草原を歩いただけで《自動収集》が延々と働き続けたからだ。
「これだけあれば……」
ポーションを百本。
二百本。
もっと作れる。
売ることもできる。
品質を上げれば値段も変わるだろう。
さらに別の薬草を取り出す。
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《止血草》
分類:薬草
品質:普通
止血作用を持つ薬草。
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「これと薬草を混ぜたら?」
試してみる。
薬草。
止血草。
水。
魔力。
「《錬金術》」
淡い光。
素材が混ざり合う。
先ほどより少し濃い赤色の液体が完成した。
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《錬金成功》
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《治療ポーション》
品質:良質
傷の回復と同時に
出血を抑える効果を持つ。
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「新しいのができた」
胸が高鳴る。
この感覚。
LGOで未知のレシピを試していた頃と同じだ。
でも、違う。
ここでは決められたゲームのレシピだけではない。
本物の素材。
本物の魔力。
本物の錬金術。
「……もしかして」
組み合わせ次第では、LGOに存在しなかった物だって作れるかもしれない。
私はインベントリを開いた。
今日集めた素材がずらりと並んでいる。
薬草。
魔力草。
止血草。
白花。
香草。
茸。
木の実。
スライムゼリー。
スライムオイル。
魔石。
ホーンラビットの角。
そしてまだ解体していない大量の魔物の遺骸。
「……いっぱいある」
少しだけ考える。
「今日は寝よう」
このまま始めたら朝までやる。
それは自分でも分かる。
片付けを済ませ、簡単に身体を洗ってからベッドへ入った。
◇◇◇
翌朝。
目を覚ますと、窓の外から朝の光が差し込んでいた。
「……よく寝た」
身体を起こす。
不老不死でも睡眠は気持ちいい。
着替えて革鎧を装備する。
鉄の剣。
小盾。
冒険者証。
準備完了。
一階へ降りると、朝食が用意されていた。
焼きたてのパン。
卵料理。
厚切りの燻製肉。
野菜のスープ。
「いただきます」
パンを千切ってスープへ浸す。
温かい。
卵も美味しい。
「朝ご飯付きの宿、正解だったな」
しっかり食べてから宿を出る。
今日は何をしよう。
また草原へ行く?
素材を探す?
錬金術師ギルドがあるなら登録してみたい。
魔道具屋も気になる。
市場も見たい。
「……時間が足りない」
不老不死なのに、やりたいことが多すぎる。
そんなことを考えながら大通りを歩いていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「リリスさん!」
「?」
振り返る。
冒険者ギルドの制服を着た職員が、こちらへ走ってくる。
「エレナさんから伝言です!」
「何でしょう?」
「昨日出品された《スライムピアス》と《素早さの小宝玉》についてです」
「あ」
オークション。
忘れていたわけではないけれど、錬金術に夢中になっていた。
「今朝の時点で複数の購入希望者から問い合わせが来ているそうです」
「もう?」
「特に《素早さの小宝玉》は、商人や冒険者からかなり注目されています」
「へえ……」
「次回のギルドオークションは三日後です。エレナさんから、時間があれば一度ギルドへ来てほしいとのことでした」
「分かりました。今から行きます」
「では、お伝えしましたので!」
職員が走って戻っていく。
三日後。
最低開始価格だけでも金貨二十六枚。
それがどこまで上がるのか。
「ちょっと楽しみ」
私は予定を変更して、冒険者ギルドへ向かった。
その途中。
道の端に並ぶ露店の一つが目に入った。
鉱石。
薬草。
魔物素材。
そして、見たことのない半透明の銀白色の小さな結晶。
「……あれ何だろう」
足が止まる。
オークションも気になる。
でも。
知らない素材はもっと気になる。
「《鑑定》」
視界に文字が浮かび始めた。




