第一話 王都で始める冒険者生活
聖ルミナス王国の王都は、人で溢れていた。
石造りの建物が並び、商人の呼び込みや馬車の音が聞こえる。
パンの焼ける香り。
肉を焼く匂い。
武器屋から聞こえてくる金属を叩く音。
「……本当に異世界なんだ」
ゲーム画面越しではない。
風も。
匂いも。
人の声も。
全部、本物だった。
気になるものは山ほどある。
でも、まず必要なのは装備だ。
◇◇◇
通りを歩きながら武具店を探し、大きな剣と盾が描かれた看板の店へ入った。
「いらっしゃい!」
壁一面に剣や槍、斧、盾、防具が並んでいる。
高そうな物もたくさんある。
でも、今持っているのは金貨二十枚。
最初から贅沢する必要はない。
「初心者向けの装備をお願いします」
「それなら、この辺だな」
店主に相談しながら選んでいく。
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《鉄の剣》
品質:普通
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最初の武器は、ごく普通の鉄の剣。
派手な装飾も特殊能力もない。
でも、今の私にはこれで十分だ。
次は盾。
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《鉄補強の木小盾》
品質:普通
木製の小型盾を
鉄製の縁と金具で補強した盾。
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完全な鉄盾より軽い。
片手剣と一緒に扱うなら、こっちの方が動きやすそうだ。
そして防具。
まずは鎧の下へ着るものから揃える。
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《厚布の鎧下》
品質:普通
上衣:暗灰色
下衣:黒
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丈夫な厚布で作られた長袖の上衣と長ズボン。
その上から、普通の革鎧一式を装着する。
革胸当て。
革肩当て。
革籠手。
革腰当て。
革脚甲。
革靴。
鏡で確認すると、暗灰色の袖と黒いズボンの上に焦げ茶色の革防具が重なり、いかにも新人冒険者らしい格好になった。
「悪くない」
白いニットと青いジーパン、それに白い靴は《インベントリ》へ収納する。
鉄の剣を腰へ。
小盾を左腕へ。
これで最低限の戦闘準備はできた。
◇◇◇
次は道具屋へ向かった。
「冒険者になりたいんですけど、一通り必要なものをください」
「なら《冒険者セット》だね」
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《冒険者セット》
背負い袋
ロープ
火打石
簡易毛布
携帯食器
小型ナイフ
採取用小道具
簡易雨具
予備布
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《インベントリ》があるから背負い袋は必要ない気もするけれど、何も持たずに冒険している方が不自然だ。
全部買っておく。
さらに追加。
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《初級ポーション》×5
《解毒薬》×3
《保存食》×10
《革の水筒》×2
《果実水》×2
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「これで大丈夫かな」
金貨はまだかなり残っている。
全部使う必要はない。
次は冒険者ギルドだ。
◇◇◇
王都の冒険者ギルドは、かなり大きな建物だった。
中へ入ると、装備を身につけた冒険者たちが行き交っている。
受付。
依頼掲示板。
酒場。
素材買取窓口。
ゲームで何度も見た光景に似ている。
でも、ここは本物だ。
「ご登録ですか?」
「はい」
声を掛けてくれたのは、二十代半ばくらいの女性だった。
明るい茶色の髪を後ろでまとめた、落ち着いた雰囲気の受付嬢。
「私はエレナ・リースです。こちらの用紙へお願いします」
「リリス・ルクスヴィアです」
名前。
年齢。
職業。
使用武器。
必要な項目を書いていく。
「錬金術師と勇者……珍しい組み合わせですね」
「そうみたいです」
王城で確認済みなので、そこまで隠す必要はない。
手続きを終えると、冒険者証が渡された。
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《冒険者登録完了》
リリス・ルクスヴィア
冒険者ランク:F
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「最初は簡単な常設依頼がおすすめですよ」
「常設依頼?」
「事前に受注する必要のない依頼です。対象の魔物を倒したり、指定された素材を採取したりして持ち込めば、その場で報酬を受け取れます」
「素材」
思わず反応してしまった。
エレナさんが少し笑う。
「例えば王都周辺なら、スライムや角兎ですね」
「どんな素材が売れます?」
「スライムなら《スライムゼリー》と《スライムオイル》です。ゼリーは加工すればデザートの材料になりますし、オイルは化粧品に使われます」
「食べられるんだ……」
「きちんと加工すれば美味しいですよ」
ちょっと気になる。
「角兎は?」
「毛皮と肉の需要が高いですね。角も薬の材料になります。特に風邪薬によく使われます」
「魔石は?」
「もちろん買い取ります」
エレナさんが見本を一つ出してくれた。
「これが小型魔物の魔石です」
「……大きい」
小型魔物の物だから小さいと言われたけれど、それでも私の拳くらいある。
LGOの感覚よりずっと大きい。
「魔道具や錬金術、魔法触媒など、用途は色々あります」
「分かりました」
最初の目的が決まった。
スライム。
角兎。
「狩ってきます」
「暗くなる前には戻ってきてくださいね」
「はい」
◇◇◇
王都の外へ向かう途中、公共井戸へ立ち寄った。
革の水筒を二つ取り出す。
「これでよし」
水筒へ井戸水をいっぱいに入れる。
飲み水は大事だ。
《インベントリ》へ入れておけば時間が止まるので、いつでも同じ状態で飲める。
そのまま王都の門を抜けた。
目の前には広大な草原が広がっている。
「……ここからだね」
王都を振り返る。
巨大な城壁。
その向こうに見える王城。
私はもう一度前を向いた。
まずは準備。
「ステータス」
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リリス・ルクスヴィア
Lv1
HP:100/100
MP:10000/10000
保有AP:100
保有SP:100
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王城の《鑑定板》では隠されていた本来の数値が表示されている。
「本当に一万ある」
次はAP。
今後は錬金術も弓も魔法も使いたい。
でも、今持っているのは鉄の剣と小盾。
最初は極端な振り方をしない方がいい。
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《AP振り分け》
STR +15
VIT +15
AGI +20
DEX +20
INT +15
MND +10
LUK +5
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消費AP:100
残りAP:0
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「次はスキル」
スキル一覧を開く。
取得に必要なSPは1。
レベルを一つ上げるためにもSP1。
一つの技能をLv10まで上げるなら、合計10SP。
十種類ならちょうど100SPだ。
「これかな」
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《自動収集》
Lv1
↓
Lv10
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《剣術》
Lv1
↓
Lv10
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《盾術》
Lv1
↓
Lv10
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《身体強化》
Lv1
↓
Lv10
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《気配察知》
Lv1
↓
Lv10
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《危険察知》
Lv1
↓
Lv10
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《採取》
Lv1
↓
Lv10
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《解体》
Lv1
↓
Lv10
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《回復魔法》
Lv1
↓
Lv10
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《生活魔法》
Lv1
↓
Lv10
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消費SP:100
残りSP:0
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「完成」
戦闘。
探索。
採取。
生活。
最初ならこれくらいでいい。
その直後だった。
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《自動収集Lv10》
範囲内の採取可能素材を確認
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薬草×20
魔力草×10
白花×10
食用野草×20
小石×30
丈夫な草茎×20
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「……もう集まった」
足元を見る。
さっきまで生えていた薬草の一部が消えている。
インベントリを確認すると、ちゃんと収納されていた。
「これは便利」
かなり便利。
歩くだけで素材が増えていく。
私の中で《自動収集》の評価が一気に上がった。
◇◇◇
草原を歩き始めて十分ほど。
《気配察知》に小さな反応が引っ掛かった。
「前」
草むらの向こう。
青い半透明の何かが、ぷるぷると揺れている。
「いた」
《鑑定》。
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《ブルースライム》
Lv1
種族:粘体種
危険度:低
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LGOでも序盤に何度も倒した魔物だ。
私は鉄の剣を抜く。
ブルースライムがこちらへ気づき、跳ねた。
「遅い」
《身体強化》。
一歩踏み込み、剣を振る。
ザシュッ。
柔らかな身体を斬り裂く。
ブルースライムは一度大きく震え、そのまま崩れた。
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《ブルースライム》
討伐
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《女神の加護》
獲得経験値10倍
適用
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《レベルアップ》
Lv1
↓
Lv2
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「一体で上がった」
さすが十倍。
続いて《自動収集》が反応した。
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《自動収集Lv10》
発動
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《スライムゼリー》
《スライムオイル》
《ブルースライムの魔石》
ブルースライムの遺骸
を収納しました。
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「死体まで入るんだ」
ドロップ品も、討伐した魔物そのものも自動で収納された。
これなら回収の手間がほとんどない。
しかも《女神の加護》には素材獲得量十倍がある。
インベントリを確認すると、一体しか倒していないとは思えない量の素材が追加されていた。
「……楽しい」
これはかなり危険かもしれない。
私が帰らなくなる方向で。
◇◇◇
その後もブルースライムを探した。
二体。
三体。
五体。
十体。
《気配察知Lv10》のおかげで探すのは簡単だった。
見つければ近づいて、鉄の剣で倒す。
反撃される前に終わることがほとんどだ。
そして《自動収集》。
倒す。
集まる。
倒す。
集まる。
「いいね」
インベントリの数字が増えていくのを見るだけでも楽しい。
しばらくしたところで、今までとは違う反応が入った。
「……小さいけど速い」
草の間に白い影が見えた。
長い耳。
丸い身体。
額から伸びる一本の角。
「角兎」
懐かしい。
ゲームを始めたばかりの頃、この可愛い見た目に油断したことがある。
『兎だし大丈夫でしょ』
そう思って真正面へ立ったら、全力で突進され、角の一撃をまともにもらった。
「……あれ、結構痛かったんだよね」
もちろん今回は油断しない。
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《角兎》
Lv2
種族:獣種
危険度:低
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ホーンラビットがこちらを見る。
後脚を強く踏み込んだ。
「来る」
一直線に突進してくる。
速い。
でも、見えている。
左へ身体をずらした。
横を通過した瞬間、鉄の剣を振り下ろす。
ザンッ。
ホーンラビットが地面へ倒れた。
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《角兎》
討伐
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《自動収集》
発動
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《ホーンラビットの毛皮》
《ホーンラビットの肉》
《ホーンラビットの角》
《ホーンラビットの魔石》
ホーンラビットの遺骸
を収納しました。
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「問題なし」
これなら続けられる。
◇◇◇
そこからは、ほとんど狩り続けた。
昼には保存食を食べ、革の水筒から水を飲み、短く休憩した。
それ以外は《気配察知》で魔物を探しながら草原を歩く。
ブルースライム。
ホーンラビット。
またブルースライム。
草原の奥へ行きすぎないよう《危険察知》にも気を配り、少しでも強そうな反応があれば近づかなかった。
今日は最初の日。
危険を冒す必要はない。
それでも低級魔物は十分すぎるほどいる。
戦闘にもどんどん慣れていった。
《剣術》と《身体強化》のおかげで、一体に掛かる時間も短くなっていく。
さらに移動中も《自動収集》は働き続けた。
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薬草
魔力草
止血草
白花
食用野草
野苺
香草
小型茸
丈夫な蔓
木の実
各種素材
大量取得
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気づけば太陽がかなり傾いていた。
「……そろそろ帰ろう」
朝から夕方まで、休憩を除けばおよそ九時間。
《気配察知》で探し、《身体強化》で移動し、一体ずつ短時間で倒し続けた。
最後に討伐記録を開く。
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《本日の討伐記録》
《ブルースライム》
×148
《角兎》
×92
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総討伐数
240体
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「……結構倒した」
自分でも少し驚いた。
そして。
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《リリス・ルクスヴィア》
Lv1
↓
Lv25
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「二十五……」
《女神の加護》による獲得経験値十倍の効果は、想像以上だった。
APもSPも大量に増えている。
技能熟練度や職業熟練度も、何度も上昇通知が出ていた。
でも、それ以上に気になるものがある。
「レアドロップ」
インベントリを確認する。
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《レアドロップ》
《スライムピアス》
×8セット
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《レアドロップ》
《素早さの小宝玉》
×12
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「いっぱい出た」
《スライムピアス》は、青い雫のような石を使った小さな耳飾りだった。
一セットは自分で装備する。
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《スライムピアス》
装備
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残り七セット。
そして《素早さの小宝玉》十二個。
宝玉を《鑑定》する。
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《素早さの小宝玉》
分類:能力強化アイテム
品質:希少
使用することで
AGI+1
永久上昇
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「これも売れるかな」
自分で使うのも悪くない。
でも、今はお金も欲しい。
市場価格を聞いてから考えよう。
◇◇◇
夕方。
王都へ戻り、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
「お帰りなさい」
受付にいたエレナさんがこちらに気づく。
「どうでした? 初めての依頼は」
「いっぱい取れました」
「いっぱい?」
「はい」
「……どのくらいです?」
私は討伐記録を見せた。
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《ブルースライム》×148
《角兎》×92
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「…………」
エレナさんが黙った。
「エレナさん?」
「朝、登録しましたよね?」
「はい」
「今日が初日ですよね?」
「はい」
「……そうですか」
なぜか少し疲れた顔をされた。
「素材もあります」
「どのくらいです?」
「いっぱい」
「その言葉が怖くなってきました」
素材買取用の倉庫へ案内される。
ホーンラビットの毛皮。
肉。
角。
魔石。
スライムゼリー。
スライムオイル。
スライムの魔石。
必要な分を次々と出していく。
担当職員まで、途中から数えるのを諦めたような顔になっていた。
「ホーンラビットの毛皮と肉は需要がありますから、これだけあると助かりますね」
「角も風邪薬になるんですよね?」
「はい。薬師ギルドが定期的に買い取っています」
「スライムゼリーはデザート」
「ええ。菓子工房や料理店から注文があります」
「オイルは化粧品」
「その通りです。保湿用のクリームや石鹸にも使われます」
「魔石も全部売れます?」
「もちろんです」
積まれた魔石を見る。
ブルースライムもホーンラビットも小型魔物だけれど、その魔石はどれも拳大ほどある。
これだけ並ぶと壮観だった。
◇◇◇
「それと、これなんですけど」
私は《スライムピアス》を七セット取り出した。
「……七セット?」
「八セット出ました。一つはもう装備してます」
「スライムから?」
「はい」
エレナさんが一つ手に取り、《鑑定》する。
「間違いなくレアドロップですね。これだけ一度に持ち込まれるのは珍しいです」
「売れます?」
「通常買取もできますが……」
エレナさんが少し考える。
「これならギルド主催のオークションへ出した方が高くなる可能性があります」
「オークション?」
「定期的に開催しているんです。希少素材や魔道具、珍しい装備などを冒険者や商人、貴族向けに競売します」
「それに出したいです」
「分かりました」
「あと、これも」
今度は《素早さの小宝玉》を並べる。
一個。
二個。
三個。
十二個。
「…………」
またエレナさんが黙った。
「どうしました?」
「今日一日で?」
「はい」
「十二個?」
「はい」
「……本当に?」
「本当に」
エレナさんは一つずつ確認していく。
「《素早さの小宝玉》。使用すればAGIが永久に一上昇……間違いありません」
「高いです?」
「高いですよ」
エレナさんが顔を上げた。
「これも通常買取よりオークション向きです。最低開始価格でも一個につき金貨一枚は付けられます」
「金貨一枚」
約一万円。
十二個なら最低でも金貨十二枚から。
「スライムピアスは?」
「一セット金貨二枚からでも問題ないでしょう」
七セットだから。
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《ギルド主催オークション》
出品予定
《スライムピアス》
×7セット
最低開始価格:
1セット 金貨2枚
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最低価格合計:
金貨14枚
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《素早さの小宝玉》
×12
最低開始価格:
1個 金貨1枚
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最低価格合計:
金貨12枚
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最低開始価格総額:
金貨26枚
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「二十六枚……」
まだ開始価格。
競り合えば、もっと高くなるかもしれない。
「出します」
「即答ですね」
「はい」
「では、こちらで出品手続きを進めておきます」
「お願いします」
初めて冒険者として草原へ出ただけだった。
スライムとホーンラビットを狩った。
素材を集めた。
ただそれだけなのに。
レベルはLv25まで上がり、大量の素材が集まり、レアドロップまでいくつも手に入った。
「……楽しい」
「リリスさん?」
「何でもないです」
私は少しだけ笑った。
まだ初日。
王都の外へほんの少し出ただけ。
それなのに、知らない素材も、知らない仕組みも、まだまだたくさんある。
この世界はLGOから五百年後。
私の知らない場所も、素材も、魔物も、きっと数え切れないほど存在する。
明日は何を見つけられるんだろう。
そう考えるだけで、もう次の冒険が楽しみになっていた。




