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第十五話 従魔ノルンとDランク昇格



 王都西門。


 私の目の前では、完全武装した門兵たちがノルンを囲んでいた。


「だから、この子は私の従魔です」


「ウォン」


 ノルンが返事をする。


 白銀色の巨大な頭が動いただけで、門兵たちが一斉に半歩下がった。


「ほ、本当に襲わないんだろうな?」


「襲いません」


「グルル……」


「ノルン、唸らない」


「……ウォン」


「今の絶対不満だったよな!?」


 そうかな。


 私には少し拗ねただけに見えた。


 ノルンは肩までの高さだけで二メートルを少し超える。


 頭はさらに高い。


 白銀色の長い毛。


 巨大な牙。


 鋭い爪。


 どう見ても、街へ普通に連れて入る大きさではなかった。


「でもカッコいい」


「感想を言ってる場合じゃない!」


 門兵の叫びとほぼ同時。


「リリスさーん!」


 聞き覚えのある声。


「あ」


 門の向こうから、エレナさんが走ってきた。


 いつもの落ち着いた受付嬢という感じではない。


 かなり急いできたらしい。


「エレナさん」


「……」


 私を見る。


 ノルンを見る。


 また私を見る。


「リリスさん」


「はい」


「昨日、私は何と言いました?」


「白銀峡谷にはワンダリングモンスターがいるって」


「その後です!」


「無理に戦わないでください?」


「そうです!」


「戦ってないです」


「じゃあ、なぜ連れて帰ってきたんですか!?」


「仲間になったので」


「そこを聞いてるんです!」


 エレナさんが頭を抱えた。


◇◇◇


 結局。


 ノルンをそのまま王都へ入れる前に、門の外で正式な確認を受けることになった。


 冒険者ギルドから従魔関連を扱える職員まで呼ばれてくる。


 中年の男性職員が、ノルンを遠巻きに見た。


「……本当に《銀嶺暴牙狼シルバー・レイジウルフ》ですね」


「はい」


「しかも成体」


「たぶん」


「Lvは?」


「五十八です」


「五十八」


 職員が黙る。


 エレナさんも黙る。


 門兵も黙った。


「何か問題あります?」


「問題しかない気がしますが……まず契約確認をします」


 魔道具が用意された。


 丸い水晶板。


「リリスさん、手を」


「はい」


 私が手を置く。


 続いてノルン。


「ノルン、ここ」


「ウォン」


 巨大な前脚が水晶板へ置かれる。


 壊れそう。


 でも大丈夫だった。


━━━━━━━━━━


《従魔契約確認》


契約者:


リリス・ルクスヴィア


従魔:


《銀嶺暴牙狼》


個体名:


《ノルン》


契約状態:


正常


従魔意思:


良好


敵対状態:


なし


━━━━━━━━━━


「正式な従魔契約です」


「よかった」


「よかった、ではないんですよね……」


 エレナさんが遠い目をしている。


「ワンダリングモンスターとの従魔契約なんて、そうそう聞きません」


「珍しいんですか?」


「珍しいです」


「どれくらい?」


「受付嬢人生で初めて見る程度には」


「そうなんだ」


「リリスさん、本当に驚かないですね」


◇◇◇


 次は従魔登録。


 冒険者ギルドへ所属する冒険者が大型従魔を街へ連れて入る場合、登録証が必要らしい。


━━━━━━━━━━


《従魔登録》


個体名:ノルン


種族:《銀嶺暴牙狼》


性別:雄


契約者:リリス・ルクスヴィア


登録状態:完了


━━━━━━━━━━


 ノルンの首元へ、銀色の小さな登録札が取り付けられた。


「似合う」


「ウォン」


 ノルンが少し得意そうに胸を張る。


「ただし」


 エレナさんが指を立てる。


「街中では必ずリリスさんの管理下に置いてください」


「はい」


「人を驚かせない」


「はい」


「勝手に走らせない」


「はい」


「露店の肉を食べさせない」


「……」


 ノルンを見る。


「ウォン?」


「食べそう」


「そこはちゃんと止めてください!」


「分かりました」


 それから大型従魔用の待機場所も教えてもらった。


 冒険者ギルドの裏手に、大型馬や従魔を預けられる広い厩舎があるらしい。


「でもノルン、厩舎入るかな」


「ウォン」


「嫌そうですね」


「一緒にいたい?」


 ノルンが大きな頭を私の肩へ押しつける。


「重い重い」


「……かなり懐いてません?」


「さっき仲間になったばかりです」


「それでこれですか」


 エレナさんがまた黙った。


◇◇◇


 従魔登録が終わり、ようやく王都へ入る。


 そして。


「……」


「……」


「……」


 すごく見られる。


 当然だった。


 白銀色の巨大狼が街中を歩いている。


 しかも肩まで二メートル以上。


 その隣を、黒い戦闘服と黒い外套、黒い布マスク姿の私が歩いている。


「魔獣だ……」


「いや、首に従魔札があるぞ」


「あれ従魔なのか?」


「デカすぎるだろ……」


「何の種族だ?」


 声が聞こえる。


 子供たちは少し違った。


「でっかい狼!」


「白い!」


「カッコいい!」


「触っていい!?」


 ノルンの耳がぴくぴく動く。


「ノルン、子供は大丈夫?」


「ウォン」


 座った。


「触っていいって」


「やった!」


 子供たちが集まる。


 白銀色の毛へ手を伸ばす。


「ふわふわ!」


「すごい!」


 ノルンは大人しくしていた。


「優しいね」


「ウォフ」


 ちょっと嬉しそう。


 怖そうな見た目なのに、思っていたより子供好きなのかもしれない。


◇◇◇


 冒険者ギルドへ着く。


 ノルンは入り口を通れた。


 かなりぎりぎりだったけど。


 そして内部。


 静かになった。


「……」


 視線が全部こっちに集まった。


「気にしないで」


「ウォン」


 受付へ。


「改めまして、お帰りなさい」


「ただいまです」


「では白銀峡谷の報告をお願いします」


「いっぱいあります」


「でしょうね」


 素材採取。


 魔物。


 鉱脈。


 地形。


 全部まとめて報告する。


━━━━━━━━━━


《白銀峡谷・第一次調査》


確認魔物


《風刃鷹》


《銀甲蜥蜴》


《晶角鹿》


《銀牙狼》


《魔晶ゴーレム》


《銀嶺暴牙狼》


━━━━━━━━━━


確認資源


《ミスリル銀鉱》


《月銀鉱》


《風晶石》


《雷晶石》


《氷晶石》


《光晶石》


《高純度アルケリウム》


《銀月花》


《白晶茸》


《銀樹脂》


ほか


━━━━━━━━━━


「ミスリル鉱脈まで見つけたんですね」


「いっぱい採れました」


「どれくらいです?」


「二百個以上」


「……聞かなかったことにしたいです」


「なんでです?」


「普通の採掘依頼なら、それだけで何日分だと思ってるんですか」


 《自動収集》便利。


 さらに。


「奥に大きなゴーレムみたいなのもいました」


 エレナさんの表情が変わる。


「どの辺りです?」


 地図へ位置を記す。


「ここです」


「……やはり」


「知ってるんですか?」


「確認報告があります」


 エレナさんが別の資料を取り出す。


━━━━━━━━━━


白銀魔晶巨像ミスリル・クリスタルゴーレム


推定Lv55~60


区分:フィールドボス


━━━━━━━━━━


「これ」


「やっぱりボス」


「白銀峡谷の奥部を縄張りにしている大型ゴーレムです。通常の魔晶ゴーレムとは比較になりません」


「ミスリルでできてる?」


「全身ではありませんが、相当量のミスリル鉱石を取り込んでいるとされています」


「……」


「その顔」


「素材」


「言うと思いました」


「倒したらいっぱい取れそう」


「まず危険性を考えてください」


「考えてます」


「本当に?」


「たぶん」


◇◇◇


 報告が終わる。


 その時。


「リリスさん、少し待ってください」


「はい?」


 エレナさんが奥へ。


 しばらくすると、別の職員と一緒に戻ってきた。


 手には冒険者証。


「現在のリリスさんの実績を再確認しました」


「実績?」


 エレナさんが読み上げる。


「Eランク昇格直後から、黒鋼岩地の調査を完了」


 指を一本。


「多数の魔物を単独討伐」


 二本目。


「《鉱石ゴーレム》討伐」


 三本目。


「《徘徊強敵ワンダリングモンスター》である《深緑剣牙虎ヴァーダント・セイバー》を単独討伐」


 四本目。


「白銀峡谷へ進出し、広範囲の資源・魔物分布を報告」


 五本目。


「そして《銀嶺暴牙狼》との従魔契約」


「最後も実績になるんですか?」


「なります」


「そうなんだ」


「総合的に判断した結果」


 私の冒険者証が光った。


━━━━━━━━━━


冒険者ランク更新


E



D


━━━━━━━━━━


「お」


━━━━━━━━━━


《D(ランク)冒険者》


昇格


━━━━━━━━━━


「Dランクになった」


「おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「Eランク、短かったですね……」


「何日だっけ」


「数えたくありません」


「そんなに?」


「普通はもう少しかかります」


 新しい冒険者証を受け取る。


 表示は確かにD。


「これで依頼増える?」


「増えます。討伐対象も危険地域も広がります」


「いいですね」


「嬉しそうですね」


「新しい場所行けるので」


 エレナさんは苦笑した。


◇◇◇


「Dランクなら」


 依頼掲示板を見る。


 今まで見られなかった欄が開放されている。


━━━━━━━━━━


《Dランク依頼》


《白銀峡谷・魔晶ゴーレム討伐》


《晶角鹿の晶角納品》


《ミスリル銀鉱採取》


《銀牙狼群れ討伐》


《風刃鷹討伐》


《白銀峡谷奥部調査》


ほか


━━━━━━━━━━


「増えた」


 さらに、その上。


━━━━━━━━━━


《特別調査》


《白銀魔晶巨像》


目撃情報更新


討伐推奨:


C(ランク)以上


━━━━━━━━━━


「Cランク推奨」


「なので今すぐ行かないでくださいね」


「Dになったばっかりだし?」


「そういう問題でもあります」


 でも。


 レベルだけなら。


 装備だけなら。


 そしてノルンもいる。


「……」


「考えてますね?」


「何も」


「絶対考えてました」


「まだ行きません」


「“まだ”って言いましたね」


 聞こえてた。


◇◇◇


 ギルドを出る前に、ノルンのステータスも少し確認してみる。


「《上級鑑定》」


━━━━━━━━━━


《ノルン》


種族:


銀嶺暴牙狼シルバー・レイジウルフ


Lv58


性別:雄


状態:従魔


━━━━━━━━━━


固有能力


《白銀疾駆》


《銀嵐刃》


《銀狼咆哮》


《風纏》


《高位嗅覚》


《危険察知》


《群狼威圧》


━━━━━━━━━━


「結構ある」


 さらに下。


━━━━━━━━━━


《進化可能性》


あり


━━━━━━━━━━


「え?」


 そこだけ目に留まった。


「ノルン」


「ウォン?」


「進化できるみたい」


 ノルンが首を傾げる。


━━━━━━━━━━


進化条件


未達成


進化先


未解放


━━━━━━━━━━


「まだ分からないか」


 でも。


 今でも十分カッコいい。


 これが進化したら。


「もっとカッコよくなる?」


「ウォンッ!」


「自信ありそう」


 楽しみが増えた。


◇◇◇


 夕方。


 ノルンを連れて《銀月亭》へ戻る。


 そこで新しい問題が発生した。


「……入れない」


 ノルンを見る。


 宿の入口を見る。


 もう一度ノルン。


「大きすぎる」


「ウォン……」


 ちょっと悲しそう。


 宿の女将さんも困っている。


「さすがにこの子は部屋へは……」


「ですよね」


 結局、宿の裏庭を借りることになった。


 そこならノルンが伏せても十分な広さがある。


「ごめんね。今日はここ」


「ウォン」


「後でご飯持ってくるから」


 耳が立った。


「お肉」


 尻尾が動いた。


「分かりやすい」


◇◇◇


 夕食。


 私は自分の分を食べた後、厨房でノルン用に肉を分けてもらった。


 大きな塊を何個も。


「これくらい?」


「ウォン!」


 足りそう。


 ノルンが豪快に食べる。


 私は隣に座り、《インベントリ》を開いた。


 今日手に入れたミスリル。


 月銀。


 属性晶石。


 新しい魔物素材。


 そして地図。


 白銀峡谷のさらに奥。


━━━━━━━━━━


《白銀魔晶巨像》


推定Lv55~60


━━━━━━━━━━


 ノルンはLv58。


「同じくらい」


 私も昨日までよりさらに戦い方が増えた。


 《火炎槍フレイム・ランス》。


 《爆炎球バースト・フレア》。


 《水刃アクア・カッター》。


 《氷鎖アイス・チェイン》。


 《風刃ウインド・ブレード》。


 《疾風加速ゲイル・アクセル》。


 《岩壁ロック・ウォール》。


 《岩槍ストーン・ランス》。


 《雷槍ライトニング・ランス》。


 《雷縛サンダー・バインド》。


 《光盾ライト・シールド》。


 《光槍ルミナス・ランス》。


 そこに。


 《ファントム・ブラック・ムーン》。


 《マルチロック・シュート》。


 そしてノルン。


「……戦ってみたい」


「ウォン?」


「なんでもない」


 今すぐじゃない。


 でも近いうちに。


 白銀峡谷の奥へ。


「次はボスかな」


 ノルンが肉を食べ終え、大きな頭を私の横へ置いた。


 その白銀色の毛を撫でる。


「その前に、もう少し準備しようか」


「ウォン」


 ミスリルを使って何か作るのもいい。


 ノルン用の装備だって作れるかもしれない。


「従魔用装備……」


 新しい発想。


 私は《インベントリ》の素材一覧を見ながら。


 気づけば、また作りたい物を増やしていた。

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