第十四話 白銀の巨狼、ノルン
白銀色の巨大狼が、ゆっくりと岩場を下りてくる。
一歩。
また一歩。
肩までの高さだけで二メートルを少し超えている。
頭の位置はさらに高い。
白銀色の長い毛が峡谷を吹き抜ける風になびき、鋭い銀色の牙が口元から覗いていた。
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《銀嶺暴牙狼》
Lv58
種族:大型魔獣
性別:雄
区分:
《徘徊強敵》
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「……やっぱりカッコいい」
大きい。
強そう。
そして、ものすごく綺麗だった。
昨日戦った《ヴァーダント・セイバー》を見た時は、素材が欲しいと思った。
でも、この狼を見て浮かぶ感想は違う。
「倒したくないな」
だからといって、相手がどう思っているかは別だけど。
「グルルルル……」
低い唸り声。
白銀の巨狼が姿勢を落とした。
「……やる気?」
私は《幻穿黒魔弓》へ手を掛ける。
まだ矢は生成しない。
「できれば話し合いたいんだけど」
「グルァッ!」
「無理そう」
地面が弾けた。
巨狼の姿が消える。
「速っ!」
右。
いや、左!
「《疾風加速》!」
風属性の補助魔法。
身体を包んだ追い風が、私の動きを一気に加速させた。
横へ跳ぶ。
直後。
ズガンッ!
巨大な前脚が地面へ叩きつけられ、白銀色の岩盤が砕け散った。
「威力もすごい」
着地。
巨狼が振り返る。
「ガアアアッ!」
口元に風が集中した。
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《銀嵐刃》
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三日月状の銀白色の風刃が飛んでくる。
「《岩壁》!」
土属性魔法。
地面から厚い岩壁が隆起する。
ドンッ!
銀嵐刃が岩壁へ激突。
一枚目。
切断。
二枚目。
亀裂。
「うわ」
三発目が岩壁を突破した。
「《光盾》!」
半透明の光の盾を展開。
ガギンッ!
最後の風刃を受け止める。
「かなり強い」
さすがLv58の《徘徊強敵》。
普通の魔物とは違う。
でも。
「こっちも魔法あるんだから」
右手を向ける。
「《雷縛》!」
青白い雷が地面を走った。
雷光が何本もの帯へ変わり、巨狼の四肢へ絡みつく。
「グルッ!?」
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《雷縛》
命中
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巨体が一瞬止まった。
「よし」
これなら――。
「ガアアアアアアッ!」
バチンッ!
「え」
雷の拘束が千切れた。
「力ずく!?」
白銀の狼が突っ込んでくる。
「《氷鎖》!」
今度は水属性の上位魔法。
空中に生まれた氷の鎖が、四方から巨狼へ巻きつく。
前脚。
後脚。
胴。
尾。
「これなら!」
ミシッ。
「……あ」
バキンッ!
氷鎖が砕け散った。
「強すぎない?」
でも少しだけ動きは止まった。
その隙に距離を取る。
◇◇◇
「本気で倒すなら……」
私は《ファントム・ブラック・ムーン》を構えた。
《魔力照準》。
照準印が白銀の巨狼へ重なる。
《魔力収束》。
銀白色の魔力矢を生成。
さらに。
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《魔力充填射撃》
20%
40%
60%
80%
100%
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最大充填。
《狙撃強化》。
《貫通射撃強化》。
《鷹眼射》。
これなら。
頭部を狙えば、かなりのダメージを与えられる。
「……でも」
弓を少し下げる。
「殺したくない」
照準を頭から前脚へ変更。
「《追尾矢》」
放つ。
無音。
巨狼が横へ跳ぶ。
魔力矢も曲がる。
「グルッ!」
さらに避ける。
でも追尾する。
最後は巨狼が爪を振り上げた。
バンッ!
魔力矢を叩き落とす。
「……それもできるんだ」
ますます欲しくなってきた。
「いや、何考えてるんだろ私」
相手は《徘徊強敵》。
ペットショップの犬じゃない。
それでも。
「一緒に冒険できたら、絶対カッコいい」
白銀の巨大狼。
黒い装備の私。
想像する。
「……いい」
「ガウッ!」
「ごめん」
戦闘中だった。
◇◇◇
白銀の巨狼が大きく跳躍した。
真上。
「来る!」
私は左手を地面へ向ける。
「《岩槍》!」
地面から複数の岩槍が突き上がる。
でも狙ったのは巨狼じゃない。
着地点。
「グルッ!?」
巨狼が空中で身体を捻る。
着地点を変更。
「そっち」
「《雷槍》!」
右手から青白い雷槍を放つ。
バチィッ!
巨狼の肩を掠めた。
「ガアッ!」
身体が一瞬硬直。
「効いた」
雷属性は相性がいい。
もう一度。
「《雷縛》!」
雷の帯が四肢へ絡む。
今度は直前に《雷槍》を受けている。
巨狼の動きが止まった。
「グルルルル……!」
まだ抵抗している。
「やっぱり強いなあ」
私は弓を構える。
今なら当てられる。
《ファントム・ブラック・ムーン》へ魔力を流す。
銀白色の矢。
狙う。
額。
――じゃない。
私は照準を外した。
「撃たない」
巨狼の耳が動いた。
「別に殺しに来たわけじゃないし」
《雷縛》を解除する。
バチッ――。
青白い雷が消えた。
巨狼が自由になる。
「……」
「……」
白銀の狼と見つめ合う。
襲ってくると思った。
でも。
「グル……」
来ない。
「ん?」
巨狼がゆっくり立ち上がる。
こちらを見る。
そのエメラルドに近い銀緑色の瞳から、さっきまでの殺気が薄れていた。
「もう戦わない?」
答えはない。
代わりに。
巨狼が一歩近づく。
「お?」
また一歩。
「ちょっと待って、大きい」
近くで見ると本当に巨大だった。
肩が私の頭より高い。
頭まで含めれば、完全に見上げる高さ。
「……カッコいい」
巨狼が目の前まで来る。
鼻先が近づいた。
私の匂いを嗅ぐ。
「くすぐったい」
「フンッ」
「鼻息強い」
その時。
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特殊条件達成
《強大な魔獣との相互認識》
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「え?」
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新規技能が解放されました
《魔物調教》
《従魔契約》
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「……従魔?」
表示を開く。
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《魔物調教》
魔物との意思疎通、
友好関係構築、
従魔育成を補助する技能。
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《従魔契約》
互いに受諾した魔物と
従魔契約を結ぶ技能。
強制契約不可。
対象の意思が必要。
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「これ……」
目の前の巨大狼を見る。
「もしかして仲間になってくれる?」
巨狼が首を傾げる。
「……試してみようかな」
SPを使う。
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《魔物調教》
Lv1
↓
Lv10 MAX
《従魔契約》
Lv1
↓
Lv10 MAX
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私は巨狼へ手を伸ばした。
「嫌だったら断っていいからね」
手のひらを鼻先へ。
「《従魔契約》」
淡い魔力光が私と巨狼を包む。
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《従魔契約》
対象:
《銀嶺暴牙狼》
Lv58
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契約意思を確認中……
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「……」
少し緊張する。
拒否されるかもしれない。
当然だ。
さっきまで戦っていたんだから。
数秒。
巨狼が私の手へ鼻先を押しつけた。
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契約受諾
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「えっ」
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《従魔契約》
成立
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《銀嶺暴牙狼》
が従魔になりました
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「本当に!?」
「ウォン」
「やった!」
思わず巨狼の首へ抱きつく。
「うわ、ふわふわ」
白銀色の毛。
見た目は硬そうだったのに、奥の毛はかなり柔らかい。
「よろしくね」
「ウォンッ!」
さっきまでの低い威嚇声とは違う。
なんとなく。
返事をしてくれた気がした。
◇◇◇
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従魔情報
種族:
《銀嶺暴牙狼》
Lv58
性別:雄
個体名:未設定
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「名前」
考える。
白銀色。
巨大な狼。
カッコいい。
将来もっと強くなりそう。
「……ノルン」
巨狼の耳が動いた。
「ノルンってどう?」
「ウォン」
「気に入った?」
尻尾が一度だけ動いた。
「じゃあ決まり」
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個体名を設定
《ノルン》
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《ノルン》
Lv58
種族:
《銀嶺暴牙狼》
状態:従魔
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「よろしく、ノルン」
「ウォウッ!」
今度は明らかに返事だった。
「ふふっ」
大きな頭を撫でる。
私の手なんて、ノルンの額と比べたら小さい。
「本当に大きい」
肩まで二メートルちょっと。
頭はさらに高い。
「乗れそう」
口に出した瞬間。
ノルンが伏せた。
「え?」
こちらを見る。
「乗っていいの?」
「ウォン」
「……乗る」
私は外套を整え、ノルンの背中へ跨がった。
「高っ」
立ち上がる。
視界が一気に高くなる。
「おお……!」
白銀色の巨大狼。
その背中。
前には白銀峡谷。
「カッコよすぎる」
ノルンが嬉しそうに鼻を鳴らした。
◇◇◇
「じゃあ、少しだけ行ってみよう」
「ウォン!」
ノルンが走り出した。
「速――っ!?」
風景が流れる。
木じゃない。
岩壁が。
ものすごい勢いで後ろへ消えていく。
「ちょ、ちょっと待って!」
《疾風加速》を自分に使った時とはまた違う。
四本脚で大地を蹴るたびに、一気に距離が伸びる。
「これ移動もめちゃくちゃ便利!」
「ウォウッ!」
「もう少しゆっくり!」
少し速度が落ちた。
「言うこと分かるんだ」
賢い。
かなり賢い。
その時。
ノルンの耳が動いた。
「どうしたの?」
「グル……」
前方を見る。
《上級索敵》。
「魔物」
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《銀牙狼》
Lv42~46
×17
━━━━━━━━━━
「あ」
銀牙狼たちもノルンに気づいた。
そして。
「……逃げた」
全力で逃げ始めた。
「ノルン、怖がられてる」
「フンッ」
ちょっと誇らしそう。
「追わなくていいよ」
素材は少し欲しいけど。
今はノルンと一緒に行動する方が楽しい。
◇◇◇
さらに進むと、別の魔物が現れた。
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《魔晶ゴーレム》
Lv48
×3
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「ちょうどいい」
今度は逃げない。
ノルンと初めて一緒に戦える。
「やってみようか」
「ガウッ!」
一体の魔晶ゴーレムが腕を振り上げた。
青白い魔晶弾。
「《光盾》!」
光の障壁で防ぐ。
同時に。
「ノルン!」
「ガアアッ!」
白銀の巨体が加速。
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《白銀疾駆》
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「そんな技あるんだ!」
一直線。
魔晶ゴーレムへ激突。
ドゴンッ!
一体が吹き飛んだ。
「強っ!」
残り二体。
「じゃあ私も」
《ファントム・ブラック・ムーン》を構える。
「《疾風加速》」
今度は自分じゃない。
生成した魔力矢へ風を纏わせる。
《魔力照準》。
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標的捕捉
2
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「《多重標的射撃》!」
二本の魔力矢。
疾風が加わる。
シュンッ!
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《魔晶ゴーレム》
×2
討伐
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「ノルン、そっちは?」
振り返る。
ドンッ!
ノルンがゴーレムの胸部へ噛みついていた。
巨大な金属牙。
バキンッ!
魔晶核ごと砕く。
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《魔晶ゴーレム》
討伐
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「……すご」
ノルンがこちらへ戻ってくる。
「強いね」
「ウォン」
「私より前衛向きだ」
私は遠距離。
ノルンは高速前衛。
「相性いいかも」
敵をノルンが引きつける。
私は遠くから狙撃。
必要なら魔法で補助する。
「いい感じ」
大きな頭を撫でる。
◇◇◇
素材を回収した後。
私はノルンと一緒に峡谷の高台へ登った。
遠く。
さらに奥地。
青白い光を放つ巨大な岩山のようなものが見える。
「……あれ?」
《遠視》。
そして《上級索敵》。
反応。
かなり大きい。
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強大な魔力反応を感知
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「ノルン」
「グル……」
ノルンも警戒している。
遠くに見える巨大な影。
白銀色。
魔晶。
人型。
「もしかして……」
エレナさんが話していた。
白銀峡谷の奥にいる大型ゴーレム。
「フィールドボスかな」
今日はもう十分色々あった。
ミスリルも採れた。
新しい魔物も倒した。
そして何より。
ノルンが仲間になった。
「今日は帰ろうか」
「ウォン」
「ボスはまた今度」
私はノルンの背中へ乗る。
「王都までお願い」
「ウォウッ!」
ノルンが走り出す。
「だから速いって!」
◇◇◇
夕方。
王都の城壁が見えてきた。
「もう着いた」
速すぎる。
徒歩とは比べものにならない。
「ノルンがいたら遠出も楽になるなあ」
「ウォン」
そして。
王都西門。
門番がこちらを見た。
「…………」
もう一人も見る。
「…………」
私はノルンの背中に乗ったまま手を上げる。
「こんにちは」
「止まれええええええっ!!」
「え?」
鐘が鳴った。
門の上から兵士が一斉に顔を出す。
「大型魔獣だ!」
「シルバー・レイジウルフ!?」
「ワンダリングモンスターだぞ!」
「戦闘配置!」
「待ってください!」
私は慌ててノルンから降りる。
「違います!」
「何が違うんだ!?」
「この子、私の従魔です」
「…………」
門番が止まった。
「従魔?」
「はい」
ノルンの頭を撫でる。
「名前はノルンです」
「ウォン!」
白銀色の巨大狼が元気よく返事をした。
門番たちの顔が引きつった。
「……冒険者ギルドに連絡しろ」
「はい?」
「今すぐエレナさん呼んでくれ……」
「なんでです?」
「こっちが聞きたい!」
今日もまた。
王都へ帰ってきただけなのに、少し騒ぎになってしまった。




