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第十三話 白銀峡谷と六属性の魔法



 翌朝。


 私は《銀月亭》の食堂で朝食を済ませていた。


 焼きたてのパン。


 厚切りのベーコン。


 目玉焼き。


 野菜のスープ。


「おいしい」


 最後のパンをスープへ浸して食べる。


 食べ終えると部屋へ戻り、装備を整えた。


 黒い《魔鋼板戦闘服アーマード・コンバットウェア》。


 胸や肩、腕、腰、脚を守る銀灰色の魔鋼板。


 その上から《晶影隠密外套クリスタル・シャドウクローク》。


 黒い布マスク。


 腰には《黒鋼刃剣ブラック・ファング》。


 そして。


「今日もカッコいい」


━━━━━━━━━━


幻穿黒魔弓ファントム・ブラック・ムーン


装備ランク:A(ランク)


品質:逸話級(エピック)


━━━━━━━━━━


 黒銀色の大型魔導弓。


 月の弧を思わせる弓身に、銀白色の魔力光が静かに走っている。


「よし」


 目的地は昨日エレナさんから教えてもらった。


━━━━━━━━━━


《白銀峡谷》


━━━━━━━━━━


 ミスリル。


 月銀。


 属性晶石。


 高純度アルケリウム。


 そして新しい魔物。


「行こう」


◇◇◇


 王都西門を出る。


 《白銀峡谷》は《黒鋼岩地》よりさらに西北西。


 途中までは見慣れた草原と林が続く。


「……そういえば」


 歩きながらスキル一覧を開く。


━━━━━━━━━━


《火魔法》Lv10


《水魔法》Lv10


《風魔法》Lv10


《土魔法》Lv10


《光魔法》Lv10


《雷魔法》Lv10


《上級属性魔法》Lv10


━━━━━━━━━━


「私、これ全然使ってない」


 持っている。


 しかも全部最大まで上げている。


 それなのに最近は。


 弓。


 弓。


 弓。


「ファントム・ブラック・ムーンが楽しすぎた」


 仕方ないと思う。


 あれはカッコいい。


 しかも強い。


「でも魔法も使えるんだよね」


 せっかく覚えたのに使わないのはもったいない。


「今日から使おう」


 ちょうど新しい場所へ行く。


 試すにはいい。


◇◇◇


 しばらく進んだところで《上級索敵》へ反応が入った。


「上」


 空を見る。


 大型の鳥が六羽。


 翼の縁が青緑色に輝いている。


━━━━━━━━━━


風刃鷹(ゲイルブレードホーク)


Lv37~41


種族:飛行獣系魔物


風属性魔力を操る大型の猛禽。


高速飛行と風刃攻撃を得意とする。


━━━━━━━━━━


「もう白銀峡谷の生息圏かな」


 六羽が旋回する。


 こちらを見つけた。


「キィィィィッ!」


 翼を振る。


 風の刃が飛んできた。


「じゃあ魔法」


 右手を向ける。


「《上級風魔法》」


 意識した瞬間、周囲の風が変わった。


 飛んでくる風刃を、こちらの風で横から押す。


 軌道が逸れた。


「できる」


 次。


「《雷魔法》」


 空気が弾ける。


 青白い雷が走った。


 バチィッ!


「キィッ!?」


 一羽の翼が硬直する。


「雷なら飛んでる相手を止められる」


 落下しかけた個体へ。


 《ファントム・ブラック・ムーン》を構える。


「《魔力矢》」


 銀白色の矢。


 そして。


「《多重標的射撃マルチロック・シュート》」


━━━━━━━━━━


標的捕捉


6


━━━━━━━━━━


 六本の魔力矢が一斉に放たれる。


 そこへ。


「《風魔法》」


 背後から追い風。


 魔力矢の速度がさらに上がった。


 シュンッ!


 ほとんど見えない。


━━━━━━━━━━


風刃鷹(ゲイルブレードホーク)


×6


討伐


━━━━━━━━━━


「……魔法と弓、一緒に使えばいいんだ」


 今さら気づいた。


 どちらか一つにする必要はない。


━━━━━━━━━━


《自動収集》


《風刃鷹の風羽》×60


《風刃鷹の翼骨》×40


《風刃鷹の鉤爪》×50


《風刃鷹の魔石》×60


遺骸×6


━━━━━━━━━━


《宝箱ドロップ》


《木の宝箱》×2


《銅の宝箱》×2


━━━━━━━━━━


「また貯まる」


 昨日ゼロにしたばかりなのに。


◇◇◇


 昼前。


 景色が変わり始めた。


 緑が減る。


 地面には白灰色の岩。


 崖の一部には青銀色の光。


 さらに進むと、左右を巨大な岩壁に挟まれた峡谷が現れた。


━━━━━━━━━━


《白銀峡谷》


━━━━━━━━━━


「ここだ」


 遠くからでも分かる。


 岩壁のあちこちに銀色の筋が走っている。


「素材いっぱいありそう」


 《採掘幸運》。


 《レア素材発見》。


 《素材品質上昇》。


 全部が反応し始めた。


「……すごい」


━━━━━━━━━━


《自動収集》


《銀鉱石》×120


《高純度鉄鉱》×80


《白銀砂》×110


《風晶石》×55


《雷晶石》×42


《魔力石英》×90


《月光苔》×70


《銀葉草》×65


《晶露茸》×44


━━━━━━━━━━


「まだ入口なのに」


 そして。


 青銀色の鉱脈。


「これ!」


━━━━━━━━━━


《ミスリル銀鉱》


分類:希少魔力金属鉱石


品質:普通


━━━━━━━━━━


「自分で見つけた!」


━━━━━━━━━━


《採掘》


《ミスリル銀鉱》×86


━━━━━━━━━━


「八十六!」


 宝箱から手に入れるのも嬉しい。


 でも。


「やっぱり自分で採るの楽しい」


 さらに近く。


 淡く月光のような色を帯びる鉱石。


━━━━━━━━━━


《月銀鉱》


品質:普通


×32


━━━━━━━━━━


「月銀もある」


 《インベントリ》へ。


「いい場所」


◇◇◇


 岩陰。


 《上級索敵》へ四つの反応。


 現れたのは、銀色の鱗を持つ大型蜥蜴。


━━━━━━━━━━


銀甲蜥蜴シルバーアーマーリザード


Lv39~42


×4


━━━━━━━━━━


「硬そう」


 一体が突進してくる。


「せっかくだから」


 私は弓を構えない。


 地面へ手を向ける。


「《土魔法》」


 ドンッ!


 地面から石柱が突き出した。


 銀甲蜥蜴の進路を塞ぐ。


「グギャッ!?」


 横へ避ける。


「《雷魔法》」


 バチィィッ!


 一体の身体が硬直。


「《水魔法》」


 足元へ水を広げる。


 そこへ。


「《氷結》」


 上級属性魔法による冷気。


 水が一気に凍った。


 銀甲蜥蜴二体の脚が固定される。


「便利」


 残る一体には。


「《ファントム・ブラック・ムーン》」


 弓を構える。


「《穿甲矢》」


 ドンッ!


 銀色の鱗を貫く。


━━━━━━━━━━


銀甲蜥蜴シルバーアーマーリザード


×4


討伐


━━━━━━━━━━


「魔法、普通に強い」


 今まで使わなかったのがもったいなかった。


━━━━━━━━━━


《銀甲蜥蜴の硬鱗》×80


《銀甲蜥蜴の皮》×55


《銀甲蜥蜴の爪》×40


《銀甲蜥蜴の魔石》×40


━━━━━━━━━━


「この鱗も防具に使えそう」


 今すぐ更新はしない。


 《アーマード・コンバットウェア》は作ったばかり。


「素材として保管」


◇◇◇


 さらに奥。


 草地のようになった場所へ出た。


 そこに。


「鹿?」


━━━━━━━━━━


晶角鹿クリスタルホーンディア


Lv42


×8


━━━━━━━━━━


 白銀色の毛。


 頭には、半透明の水晶みたいな大きな角。


「綺麗」


 八体。


 でもこちらに気づいた瞬間、角が光った。


「何か来る」


 光弾。


「《光魔法》」


 こちらも光を展開。


 正面から相殺する。


 バシュッ!


「光属性同士でもできるんだ」


 次は。


「《土魔法》」


 鹿たちの左右へ岩壁を作る。


 逃げ道を狭める。


「《マルチロック・シュート》」


━━━━━━━━━━


標的捕捉


8


━━━━━━━━━━


 八本。


 無音。


 一斉射撃。


━━━━━━━━━━


晶角鹿クリスタルホーンディア


×8


討伐


━━━━━━━━━━


《晶角鹿の晶角》×80


《晶角鹿の毛皮》×90


《晶角鹿の腱》×60


《晶角鹿の魔石》×80


━━━━━━━━━━


「晶角、弓に使えそう」


 また素材候補。


 こうしていると、装備を作りたくなる。


「でも我慢」


 まだ入口付近。


 もっと良い物が出るかもしれない。


◇◇◇


 午後。


 白銀峡谷をさらに進む。


 途中で《銀牙狼》の群れにも遭遇した。


━━━━━━━━━━


銀牙狼シルバーファングウルフ


Lv41~46


×12


━━━━━━━━━━


「狼」


 鉄牙狼より一回り大きい。


 銀灰色の毛並み。


 金属質の牙。


 群れで囲んでくる。


「なら」


 右手。


「《火魔法》」


 火球ではない。


 地面を横へ走る炎。


 狼たちの進路を分断する。


「こっちは」


 反対側へ。


「《雷魔法》」


 雷撃。


 二体を麻痺させる。


「残り」


 《ファントム・ブラック・ムーン》。


「《マルチロック・シュート》」


 銀白色の魔力矢が散る。


━━━━━━━━━━


銀牙狼シルバーファングウルフ


×12


討伐


━━━━━━━━━━


「やっぱり魔法混ぜると楽」


 敵の動きを止める。


 分断する。


 弱点を突く。


 最後は弓。


「これが一番合ってるかも」


◇◇◇


 さらに歩く。


 採取も続く。


━━━━━━━━━━


《追加採取》


《ミスリル銀鉱》×140


《月銀鉱》×54


《高純度アルケリウム》×28


《風晶石》×80


《雷晶石》×61


《氷晶石》×43


《光晶石》×35


《銀月花》×72


《白晶茸》×50


《銀樹脂》×44


《魔力銀苔》×66


━━━━━━━━━━


「すごい増えた」


 特にミスリル。


 これなら、そのうち新しい装備も作れそう。


 でも。


「まだ奥がある」


 《上級索敵》を広げる。


 普通の魔物。


 小型。


 群れ。


 飛行。


 ゴーレムらしき反応。


 そして。


「……ん?」


 一瞬。


 遠く。


 ものすごく大きな反応が触れた。


「今の何?」


 消えた。


 《上級索敵》。


 《生命感知》。


 《魔力感知》。


 範囲を広げる。


 ない。


「また隠れた?」


 昨日の《ヴァーダント・セイバー》を思い出す。


 でも。


「昨日より大きかった」


 その時。


 風が吹いた。


 峡谷の高台。


 白い岩の上。


「……え」


 何かいる。


 四本の脚。


 巨大な身体。


 長い尾。


 狼。


 でも。


 あまりにも大きい。


 毛並みは、陽光を受けて銀色に輝く白銀色。


 肩までの高さだけで二メートルを少し超えている。


 頭はさらに高い。


 堂々と立つ姿は、普通の狼とは比べものにならない。


「カッコいい……」


 最初に出た感想がそれだった。


 白銀色の巨大狼が、峡谷の上からこちらを見下ろしている。


 風に長い毛が揺れる。


 鋭い目。


 巨大な牙。


 筋肉質な四肢。


「《上級鑑定》」


━━━━━━━━━━


銀嶺暴牙狼シルバー・レイジウルフ


Lv58


種族:大型魔獣


性別:雄


区分:


徘徊強敵ワンダリングモンスター


━━━━━━━━━━


白銀峡谷を単独で徘徊する

極めて強力な大型狼型魔獣。


白銀色の硬質毛と

巨大な金属牙を持つ。


高速移動、

高位索敵、

風属性攻撃、

強力な身体能力を有する。


━━━━━━━━━━


「シルバー・レイジウルフ……」


 昨日エレナさんが言っていた。


 白銀色の巨大狼。


「これが」


 向こうも私を見ている。


 逃げない。


 吠えない。


 ただ静かに。


「……すごい」


 《ヴァーダント・セイバー》を見た時とは、少し違った。


 あの虎を見た時は、強敵だと思った。


 素材が欲しいと思った。


 でも。


 この狼を見て。


 最初に思ったのは。


「倒すの、なんかもったいないな」


 だった。


 白銀の巨大狼が、ゆっくりと岩場を下り始める。


 一歩。


 また一歩。


 こちらへ。


 私は《ファントム・ブラック・ムーン》へ手を掛けた。


 でも。


 まだ構えなかった。


「どうしよう」


 巨大な狼と私の距離が、少しずつ縮まっていった。

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