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第百六話 異界より来たる幻魔機



『侵攻座標――固定』


 遺跡の地下から響いた声に。


 感情はなかった。


 生き物の声でも。


 人間の声でもない。


 古い魔導機構が。


 与えられた命令を読み上げているだけだった。


 だが。


 その内容は。


 あまりにも明確だった。


「侵攻……」


 フィオナが。


 上空の黒い円環を見上げる。


「あれは、偶然こちらへ呼び出されたのではないのですね」


『向こう側から意図的に侵入しようとしている』


 クロの周囲へ。


 黒い冥炎が揺らめく。


 円環を掴んでいた。


 黒紫色の巨大な手が。


 さらに前へ出てきた。


 手首。


 前腕。


 幾重にも重なった装甲。


 その隙間から。


 赤黒い魔力が血管のように脈動している。


 腕の表面には。


 王国の幻想機には存在しない。


 禍々しい紋章が刻まれていた。


━━━━━━━━━━


召喚対象


追加解析


分類


異界製大型機装兵器


推定全高


二十八・九メートル


構成


・魔導金属


・高位魔獣組織


・死霊術式


・瘴気循環回路


搭乗者反応


あり


生体反応


複数重複


推定状態


機体と搭乗者が融合


━━━━━━━━━━


「人が乗ってる」


 リリスが言った。


「でも、一人じゃない」


「複数人乗り?」


 リゼットが尋ねる。


「違う」


 リリスの瞳が。


 僅かに細くなる。


「一つの操縦席に、いくつもの生命反応が重なってる」


 人。


 魔族。


 魔獣。


 そして。


 既に死んでいる何者かの魂。


 それらが。


 一つの機体へ。


 無理やり縫い合わされていた。


「趣味が悪い」


 シグレが。


 刀の鍔を押し上げる。


『同感だ』


 黒い円環が。


 再び脈動した。


━━━━━━━━━━


召喚完了率


七十九・三パーセント


異界接続安定度


上昇中


推定完全召喚まで


十一分四十二秒


━━━━━━━━━━


「地下の動力源を止める」


 リリスが。


 山肌の巨大門へ向き直る。


「フィオナは円環を封じて。完全には止められなくても、進行を遅らせてほしい」


「分かりました」


「リゼットは召喚装置を外から解析。危険だと思ったら、すぐクロの後ろへ」


「うん!」


「シグレとクロは、出てきた腕を押さえて」


「斬ってもいい?」


「機体だけなら」


「分かった」


『お前は地下へ行くのだな』


「うん」


『単独行動は認めぬ』


 クロの言葉に。


 リリスは。


 少し考えた。


「じゃあ、クロも一緒」


『シグレ一人を残すつもりか』


「私は大丈夫」


 シグレは。


 上空の巨大な腕を見上げた。


「全部出てくる前なら、斬れる」


「フィオナの結界から離れないでね」


「うん」


 役割が決まる。


━━━━━━━━━━


《黒月》緊急行動


地上班


フィオナ


・召喚円環進行阻害


・防御結界維持


シグレ


・召喚対象迎撃


・円環接触部切断


リゼット


・外部召喚装置解析


・停止経路特定


地下班


リリス


クロ


・地下動力源停止


・制御中枢制圧


━━━━━━━━━━


「始めるよ」


◇◇◇


 フィオナが。


 《星月神杖ルナ・セレスティア》を掲げた。


「《星月大封界》!」


 杖の先端から。


 七つの光が放たれる。


 白。


 蒼。


 金。


 緑。


 紫。


 赤。


 銀。


 七色の光は。


 上空で巨大な星月紋を描き。


 黒い召喚円環へ重なった。


 光の鎖が。


 円環の外周へ巻きつく。


━━━━━━━━━━


召喚円環進行阻害


成功


召喚速度


三十八パーセント低下


術式反発


上昇


━━━━━━━━━━


「維持できます!」


 フィオナの狐尾が。


 魔力の風を受けて大きく揺れる。


 直後。


 異界側から。


 低い咆哮が響いた。


『妨害個体――排除』


 黒紫色の腕が。


 円環の縁から離れる。


 巨大な掌が。


 フィオナへ向けられた。


 五本の指先へ。


 赤黒い魔力が集まる。


「撃たせない」


 シグレが。


 大地を蹴った。


 白銀の髪が。


 空へ流れる。


「《天地歩法》」


 一歩。


 二歩。


 何もない空中を駆け上がる。


 腰を落とし。


 《天月神刀アマツ・ミカヅキ》へ手を掛けた。


「《纏刀・天月》」


 刀身へ。


 白銀の月光が纏われる。


「《天月抜刀・白雨一閃》!」


 抜刀。


 白い斬撃が。


 空を横切った。


 巨大な機械腕の。


 人差し指と中指が切断される。


 赤黒い魔力液が。


 血のように噴き出した。


「機械なのに、血が出た」


 リゼットが。


 僅かに顔をしかめる。


「魔獣組織が使われてる!」


 切断された二本の指が。


 地上へ落下する。


 リリスは。


 それを見届ける前に。


 クロと共に巨大門へ走っていた。


◇◇◇


 山肌へ埋め込まれた門は。


 近くで見ると。


 さらに巨大だった。


 高さ五十メートル。


 幅三十メートル。


 表面には。


 黒い星形紋章。


 その中央へ。


 赤い文字が浮かび上がる。


━━━━━━━━━━


古代召喚管理施設


侵入者確認


管理権限


なし


防衛処理


開始


━━━━━━━━━━


「開けて」


『普通に頼んでも開かぬだろう』


「うん」


 リリスは。


 門へ片手を触れた。


「《完全分解》」


 音もなく。


 巨大門の中央部分だけが。


 細かな光の粒へ変わった。


 通路が開く。


『それを開けたとは言わぬ』


「通れれば同じ」


 二人は。


 暗い地下通路へ入った。


◇◇◇


 内部は。


 幅二十メートルを超える。


 巨大な傾斜路になっていた。


 壁には。


 古代文字。


 星図。


 異界座標。


 そして。


 人型の機装兵器を描いた壁画が残されている。


「幻想機の施設だったのかな」


『召喚装置だけではないようだ』


 壁画には。


 人間に似た騎士型の機体。


 四本腕の重装機。


 翼を持つ飛行機。


 獣型の機装兵器。


 それらが。


 黒い門から現れた怪物と戦っていた。


「昔も、異界から侵攻されてた」


 リリスが。


 壁画を解析する。


━━━━━━━━━━


古代記録壁画


年代


推定四千七百年以上前


記録内容


・異界門の発生


・異界機装軍の侵攻


・古代幻想機による迎撃


・召喚施設の制圧


・異界接続の封印


追加情報


当施設は本来


召喚装置ではなく


異界侵攻門の封印管理施設


━━━━━━━━━━


「召喚するための施設じゃなかった」


『侵入を防ぐための施設だったか』


「誰かが逆に使えるように書き換えた」


 封印装置を。


 召喚装置へ。


 守るための門を。


 侵略を招く門へ。


 十五年前の異常は。


 書き換えた術式の試験。


 そして。


 ベモの召喚は。


 異界対象を強制的に引き寄せる。


 実用試験だった可能性が高い。


『今回が本番ということか』


「たぶん」


『その言葉を使っている場合ではないな』


 通路の奥。


 赤い光が。


 次々と灯る。


━━━━━━━━━━


地下防衛兵器


起動


個体数


三十二


━━━━━━━━━━


 壁の一部が開き。


 四本腕の機装兵が姿を現した。


 上半身は人型。


 下半身は六本脚。


 四本の腕には。


 剣。


 槍。


 盾。


 魔導砲。


 それぞれ異なる武装を持っている。


「止まって」


 リリスが。


 右手を向ける。


「《絶対機装停止》」


 無色の魔力波が。


 地下通路を走った。


 だが。


 古代機装兵たちは止まらない。


━━━━━━━━━━


停止干渉


失敗


原因


外部制御権限による命令上書き


制御元


異界側


━━━━━━━━━━


『既に施設の制御を奪われているか』


「壊さないと駄目かな」


『急げ』


「分かった」


 リリスが。


 一歩前へ出る。


 三十二体の機装兵が。


 同時に武器を構えた。


「《空間隔離収納》」


 次の瞬間。


 すべての古代機装兵が。


 通路から消えた。


『倒さぬのか』


「あとで直せるかもしれないから」


『リゼットと同じことを言い始めたな』


「元からだよ」


 二人は。


 再び地下へ走った。


◇◇◇


 地下一千二百メートル。


 巨大な制御空間へ。


 リリスとクロが到達する。


 直径。


 八百メートル。


 中央には。


 三本の巨大な魔力柱。


 その下へ。


 黒い球体が浮かんでいた。


 地脈。


 異界。


 遺跡内部。


 三つの魔力が。


 球体へ集められ。


 上空の召喚円環へ送られている。


━━━━━━━━━━


《異界門中央制御核》


本来機能


・異界接続監視


・侵入座標遮断


・門封印維持


現在機能


・異界座標固定


・侵攻経路形成


・召喚対象誘導


・魔力供給


改変時期


推定十五年前


改変者情報


削除済み


遠隔接続


継続中


━━━━━━━━━━


「見つけた」


『壊せるか』


「壊すだけなら簡単」


 だが。


 制御核は。


 地脈と直接繋がっている。


 無理に破壊すれば。


 蓄積された魔力が暴発し。


 山岳森林地帯ごと吹き飛ぶ可能性がある。


「止めてから、元に戻す」


『時間は』


 クロの問いに。


 リリスは。


 上空の状況を確認した。


━━━━━━━━━━


召喚完了率


八十六・一パーセント


フィオナ封印結界


維持中


召喚対象突出部


右腕


右肩


頭部一部


━━━━━━━━━━


「まだ間に合う」


 リリスは。


 制御核へ手を伸ばした。


「《神域完全解析》」


 何億本もの。


 魔導回路。


 命令式。


 異界座標。


 封印術式。


 そのすべてが。


 リリスの意識へ流れ込む。


 書き換えられた場所は。


 一つではなかった。


 外部から。


 何度も。


 少しずつ。


 侵食されている。


 十五年前。


 十年前。


 七年前。


 三年前。


 そして。


 今回。


「ずっと準備してた」


『誰がだ』


「異界側だけじゃない」


 制御核に残された。


 微かな魔力波長。


 それは。


 遺跡のものではない。


 異界のものでもない。


 この世界に存在する。


 人間に近い種族の魔力だった。


━━━━━━━━━━


改変関与者


最低二系統


第一系統


異界側侵攻存在


第二系統


リリンズ・ワールド側協力者


詳細


不明


━━━━━━━━━━


『内通者がいるのか』


「うん」


 この世界の誰かが。


 異界の侵略者へ。


 門を開こうとしている。


◇◇◇


 地上。


 黒い円環から。


 巨大な頭部が現れた。


 山羊の角に似た。


 二本の機械角。


 六つの赤い眼。


 縦に裂けた口部装甲。


 肩からは。


 骨のような突起が伸びている。


 切断された二本の指は。


 既に再生を始めていた。


━━━━━━━━━━


対象識別


魔獣融合機キメラ・ギガス


所属体系


幻魔機デモニア・ギア


全高


二十八・九メートル


動力炉


《魔核侵蝕炉


《デモン・コア・リアクター》》


機体構成


魔導機械/魔獣/死霊融合型


危険度


SS級相当


役割


異界門制圧


侵攻経路固定


後続部隊召喚


━━━━━━━━━━


「《幻魔機》……」


 リゼットが。


 初めて見る名称を読み上げる。


「幻想機に似てる。でも、全然違う」


 人が機械を操るのではない。


 搭乗者。


 魔獣。


 死者。


 機体。


 それらすべてを融合させた。


 魔王軍の機装兵器。


『門を確保する』


 《キメラ・ギガス》の六つの目が。


 地上を見下ろす。


『後続幻魔機――召喚開始』


 黒い円環の奥。


 新たな赤い光が。


 十。


 二十。


 五十。


 次々と灯り始めた。


 異界側には。


 一機だけではない。


 軍勢が待機している。


「させません!」


 フィオナが。


 杖を両手で握る。


「《星月神狐大封印》!」


 巨大な狐の紋章が。


 円環の中央へ重なった。


 召喚速度が。


 再び低下する。


 だが。


 《キメラ・ギガス》は。


 突出した右腕を振り下ろした。


 狙いは。


 フィオナではない。


 地上の召喚装置。


「自分で装置を壊すつもり?」


 リゼットが叫ぶ。


 違う。


 その爪は。


 装置へ新しい術式を刻もうとしていた。


 異界側だけで。


 門を完全支配するために。


「斬る」


 シグレが。


 空中へ踏み込む。


「《白雨奥義・天断》!」


 月白の斬撃が。


 《キメラ・ギガス》の右腕を。


 肩から切断した。


 巨大な腕が。


 円形施設の外へ落下する。


 大地が。


 激しく揺れた。


 しかし。


 切断面から。


 肉の繊維と金属線が伸び始める。


━━━━━━━━━━


《キメラ・ギガス》


損傷率


十二パーセント


再生能力


作動中


右腕再生予測


二十六秒


━━━━━━━━━━


「再生が速い」


 シグレは。


 空中で刀を構え直す。


「何度でも斬る」


◇◇◇


「制御権を取り戻す」


 地下で。


 リリスが告げた。


 異界側の命令。


 この世界の協力者が残した術式。


 侵食された管理機構。


 そのすべてを。


 一度。


 完全に切り離す。


「《神域術式剥離》」


 黒い制御核から。


 赤黒い文字列が。


 無数の鎖となって引き剥がされる。


 警告音が。


 制御空間へ鳴り響いた。


━━━━━━━━━━


外部侵食術式


剥離開始


十一パーセント


二十八パーセント


四十七パーセント


六十九パーセント


警告


異界側から抵抗干渉


━━━━━━━━━━


 制御核の表面へ。


 巨大な赤い眼が現れた。


『管理権限への接触を確認』


「見つかった」


『排除対象――認定』


 赤い眼から。


 精神汚染波が放たれる。


 クロが。


 リリスの前へ立った。


『《冥獄神狼王威》』


 神狼の咆哮が。


 地下空間を震わせる。


 精神汚染波が。


 黒い炎に呑まれ。


 消滅した。


『続けろ』


「ありがとう」


 剥離率。


 八十二。


 九十一。


 九十九。


「《完全分離》」


 最後の赤黒い術式が。


 制御核から引き剥がされた。


━━━━━━━━━━


外部侵食術式


完全剥離


異界側遠隔制御


切断


世界側不正権限


削除


管理権限


未登録状態


━━━━━━━━━━


「次は、私が登録する」


 リリスが。


 制御核へ魔力を流す。


━━━━━━━━━━


新規管理者登録


候補


リリス・ルクスヴィア


権限適合率


測定不能


登録可能


実行しますか?


━━━━━━━━━━


「実行」


 黒かった制御核が。


 白銀色へ変わる。


━━━━━━━━━━


管理者登録


完了


施設機能


正常化開始


本来機能


《異界侵攻門封印》


復元


━━━━━━━━━━


 上空の黒い円環が。


 大きく揺れた。


 召喚完了率。


 九十二・七パーセント。


 そこで。


 数字が止まる。


「間に合った」


 リリスは。


 制御核へ命令を送る。


「異界接続を閉鎖」


━━━━━━━━━━


《異界侵攻門》


閉鎖処理


開始


召喚対象


強制排出


━━━━━━━━━━


◇◇◇


『何――』


 地上。


 《キメラ・ギガス》の声が。


 初めて揺れた。


 黒い円環が。


 急速に縮み始める。


 突出していた。


 頭部。


 肩。


 胴体の一部が。


 異界側へ引き戻されていく。


 《キメラ・ギガス》は。


 再生途中の腕を伸ばし。


 円環の縁へ爪を立てた。


『閉鎖――拒否』


 機体各部が開き。


 内部の《魔核侵蝕炉》が露出する。


 赤黒い光が。


 爆発的に増大した。


━━━━━━━━━━


《キメラ・ギガス》


緊急機能


《魔核侵蝕炉》過負荷運転


門固定出力


上昇


自己崩壊率


増加


━━━━━━━━━━


「自分が壊れても残るつもり」


 リゼットが。


 計測器を握り締める。


「門を開いたままにするために!」


「なら」


 シグレが。


 刀を鞘へ納めた。


 空中で。


 深く腰を落とす。


「炉を斬る」


 白銀の髪が。


 静かに揺れる。


 呼吸が止まり。


 周囲の音が消える。


「《天月抜刀・白雨一閃》」


 一筋の月光が。


 空を貫いた。


 斬撃は。


 《キメラ・ギガス》の胸部装甲。


 魔獣組織。


 多重魔導障壁。


 そのすべてを通過し。


 露出した《魔核侵蝕炉》だけを。


 正確に切断した。


━━━━━━━━━━


《魔核侵蝕炉》


機能停止


門固定出力


消失


━━━━━━━━━━


『侵攻――継続――』


 六つの赤い眼から。


 光が消える。


 巨大な機体は。


 黒い円環の向こう側へ。


 引き戻されていった。


 最後に。


 切断された右腕と。


 胸部装甲の一部だけが。


 こちら側へ残る。


 黒い円環が。


 一点まで縮み。


 空から完全に消滅した。


 静寂。


 遺跡を覆っていた。


 濃密な空間魔力も。


 ゆっくりと薄れていく。


━━━━━━━━━━


《異界侵攻門》


閉鎖完了


異界接続


遮断


後続侵攻


阻止


周辺空間


安定化開始


━━━━━━━━━━


「止まった……」


 リゼットが。


 大きく息を吐いた。


 フィオナも。


 維持していた杖を下ろす。


「師匠とクロは?」


「無事」


 シグレが。


 地下から近づく二つの気配を感じ取る。


 数秒後。


 リリスとクロが。


 転移で地上へ戻ってきた。


「終わったよ」


「お疲れさまでした」


 フィオナの狐耳が。


 安心したように立ち上がる。


『だが、根本は終わっていない』


 クロが。


 地面に落ちている。


 《キメラ・ギガス》の腕を見る。


『異界側には、まだ軍勢がいる』


「この世界にも協力者がいる」


 リリスが答えた。


 誰が。


 何のために。


 異界の軍勢を招こうとしているのか。


 まだ分からない。


 だが。


 今回。


 初めて明確になった。


 ベヘモス召喚事件は。


 単独の事故ではない。


 長い年月を掛けて進められてきた。


 侵略計画の一部だった。


◇◇◇


「師匠!」


 リゼットが。


 落下した巨大腕へ駆け寄る。


「これ、調べてもいい!?」


「危険がないか確認してから」


 リリスが。


 切断された装甲へ触れる。


━━━━━━━━━━


新規素材確認


素材番号


170


魔蝕機鋼デモナイト


分類


幻魔機用生体魔導金属


希少度


古代級相当


性質


・瘴気伝導


・魔獣組織融合


・自己増殖修復


・死霊魔力保持


・外部魔力侵食


危険性



注意


未処理状態での長時間接触禁止


浄化および封印処理必須


━━━━━━━━━━


「新しい金属」


 リリスの目が。


 僅かに輝く。


『その反応をすると思った』


「危険だけど、ちゃんと処理すれば研究できる」


「幻想機の技術にも使える?」


 リゼットが尋ねる。


「そのまま使うのは駄目」


「浄化したら?」


「調べてから」


「分かった!」


『返事だけはよいな』


 リリスは。


 《キメラ・ギガス》の腕と装甲片を。


 何重もの封印を施した。


 隔離収納区画へ回収した。


━━━━━━━━━━


回収物


《キメラ・ギガス》右腕


胸部装甲片


《魔核侵蝕炉》破片


素材


魔蝕機鋼デモナイト


保管状態


神域隔離封印


危険反応


遮断


━━━━━━━━━━


 フィオナが。


 空を見上げる。


 先ほどまで。


 巨大な黒い円環が存在した場所。


 そこには。


 青い空が戻っていた。


「魔物たちも、いずれ森へ戻ってくるでしょうか」


「空間が安定すれば」


 リリスが答える。


「でも、その前に遺跡全体を調べる」


「内通者の記録も?」


「うん」


 十五年前から。


 施設を書き換えていた者。


 ベモを強制召喚した者。


 異界の《幻魔機》を。


 この世界へ招こうとした者。


 その痕跡は。


 まだ遺跡のどこかに残っている。


 リリスは。


 管理権限を得た施設へ。


 新たな命令を送った。


━━━━━━━━━━


《古代異界門封印管理施設》


新規管理者


リリス・ルクスヴィア


施設状態


封印機能復旧中


全区域調査


開始


不正アクセス記録


復元処理中


推定完了時間


六時間十九分


━━━━━━━━━━


「六時間」


『待つしかないな』


「その間に、守護兵を直す」


「幻魔機の素材も調べたい!」


 リゼットが。


 すぐに手を上げる。


「休憩が先です」


 フィオナが。


 きっぱりと言った。


「昼食もまだです」


「もうそんな時間?」


『空を見ろ』


 太陽は。


 既に空の高い位置まで昇っている。


 シグレが。


 遺跡の崩れた石段へ腰を下ろす。


「ご飯にしよう」


「うん」


 世界への侵攻を防いだ直後でも。


 まずは食事。


 リリスは。


 インベントリから。


 炊きたての白米。


 肉と野菜の弁当。


 温かいスープを取り出した。


 そして。


 最後に。


 甘露南瓜の蒸し菓子を並べる。


『なぜ南瓜まである』


「おやつ」


 秘密の神獣へ持っていく予定だった分とは。


 別に用意してある。


 そこは。


 きちんと分けていた。


 空には。


 青さが戻っている。


 だが。


 その遥か向こう。


 閉じられた異界では。


 無数の《幻魔機》が。


 再び門が開く時を。


 待ち続けていた。

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