第百二話 五面魔導モニターと機装魔法
昼食を終えた後。
リリスたちは。
屋敷の書斎へ集まっていた。
大机の上には。
王国へ提出する書類が。
綺麗に積み重ねられている。
━━━━━━━━━━
退役幻想機管理報告書
対象機体
《汎用幻想機》
管理責任者
ノクス
運用責任者
リゼット・ヴァルカン
本日の作業
・受領時点検
・損傷箇所補修
・主動力炉起動試験
・姿勢制御試験
・操縦系統確認
結果
異常なし
━━━━━━━━━━
「異常なし」
リゼットが。
最後の欄へ文字を書き込む。
「これで終わり!」
「まだ署名が必要です」
フィオナが。
別の書類を差し出した。
「あと何枚?」
「十一枚です」
「幻想機を動かすより大変かもしれない……」
『軍用技術を扱う以上、当然だ』
クロは。
窓際の絨毯へ伏せている。
「壊してないし、持ち出してもないよ」
『今後もそうである保証はない』
「信用がない」
「普段の行動によるものだと思う」
シグレが。
茶を飲みながら答えた。
リリスは。
書類へ署名しつつ。
机の端へ置かれた設計紙を見る。
午前中。
《アルカディア・トレーナー》を動かした際に確認した。
操縦席の狭さ。
表示盤の小ささ。
外部映像の見づらさ。
そして。
操縦桿を動かしてから。
機体が反応するまでの僅かな遅れ。
古い訓練機である以上。
仕方のない部分は多い。
だが。
改善する方法は。
既に思い浮かんでいた。
「終わった」
リリスが。
最後の書類へ署名する。
「これで格納庫へ戻れる?」
「午後六時までです」
フィオナが答える。
「夕食前には、必ず戻ってきてください」
「分かった」
「昨日も、その前も同じ返事を聞きました」
「今日は時計を見るよ」
『時計そのものを忘れるのではないか』
「持っていく」
リリスは。
懐中時計を手に立ち上がった。
◇◇◇
午後二時。
仮設格納庫。
《アルカディア・トレーナー》は。
整備架台の中央へ立っている。
王立幻想機兵団から派遣された技師たちは。
管理書類を受け取り。
既に屋敷を出発していた。
格納庫に残っているのは。
リリスたちだけ。
「まず、操縦席」
リゼットが。
機体胸部の装甲を開く。
内部へ収められているのは。
一人が座れる程度の操縦区画。
正面には。
三枚の四角い魔導表示板。
左右には操縦桿。
足元には。
歩行や推進器を操作する踏板が並んでいる。
「正面の表示板が小さい」
リリスが言う。
「訓練用だからね」
リゼットが。
操縦席へ上半身を入れながら答えた。
「中央が主映像。右が機体状態。左が魔力残量と簡易索敵。でも、一度に表示できる情報が少ないんだ」
「戦闘中に切り替えるのですか?」
フィオナが尋ねる。
「うん。右側の切替器を使う」
「忙しそう」
シグレが。
操縦席の横から内部を覗き込む。
「敵を見ながら、損傷や魔力も確認する必要がある」
「正面を大きくするだけでは足りないね」
リリスが。
操縦席の前へ手を伸ばした。
「横も見えるようにする」
「横も?」
「正面の大きな画面を中心にして、左右へ少し角度を付けた画面を繋げる」
真正面。
右前方。
左前方。
そして。
機体の真横に近い範囲まで。
操縦者が首を少し動かすだけで確認できるようにする。
「全部を丸く囲むわけじゃないんだね」
リゼットが尋ねる。
「うん。後ろまでは囲まない」
必要なのは。
正面を中心とした。
広く自然な視界。
その時。
リリスは。
操縦席の天井を見上げた。
「でも、上も見えた方がいい」
「上?」
フィオナが。
同じように天井を見る。
「空を飛ぶ魔物や、上空から落ちてくる攻撃がありますからね」
「幻想機も飛ぶなら、上は重要」
シグレが言った。
「大きな敵の足元へ入った時も、頭上が見えないと危ない」
「正面と左右に加えて、上方表示盤も付ける」
リリスは。
操縦席上部へ手を伸ばした。
「頭上全部を覆うほど大きくはしない。少し視線を上げれば、上空を確認できるくらい」
「四面式だね」
リゼットが。
そう言ってから。
足元の踏板を見る。
「でも、下は?」
「下?」
「幻想機は大きいから、小さな人や魔物が足元へ来たら見えないよ」
確かに。
十八メートルを超える巨体から見れば。
地上の人間は。
とても小さい。
瓦礫。
落とし穴。
崖の端。
倒れた味方。
救助を待つ負傷者。
それらを確認できなければ。
巨大な機体であること自体が危険になる。
「足元も必要ですね」
フィオナが。
真剣な表情で頷く。
「救援活動をするなら、特に重要です」
「着地する時にも使える」
シグレも言う。
「地面の状態が分からなければ、転ぶかもしれない」
『幻想機が転倒すれば、それだけで周囲へ大きな被害が出る』
クロの言葉に。
リリスは頷いた。
「じゃあ、下方表示盤も付ける」
「五面式!」
リゼットの顔が。
さらに明るくなる。
「正面主画面。左右の大型補助画面。上方画面。それに足元を見る下方画面!」
「後ろは?」
「必要な時だけ正面へ小窓を出す」
常に。
すべての方向を映す必要はない。
後方だけは。
索敵情報。
警告灯。
音声警告。
確認用の小窓表示で補う。
「それなら、視界は広いけど混乱しにくい」
リゼットが。
操縦席から顔を出した。
「名前は?」
「《前方五面統合魔導表示盤》」
━━━━━━━━━━
新規操縦設備
《前方五面統合魔導表示盤
《アストラル・ペンタビューモニター》》
表示構成
・正面大型主画面
・左側大型補助画面
・右側大型補助画面
・上方大型補助画面
・下方大型補助画面
主要機能
・前方広域映像表示
・左右側方映像表示
・上空映像表示
・足元および機体直下映像表示
・照準情報統合
・敵味方識別
・地形情報表示
・機体損傷表示
・魔力残量表示
・生命反応表示
・魔力反応表示
・接近対象の常時表示
・後方接近警告
補助設備
・後方確認小窓表示
・簡易索敵図
・警告灯
・音声警告
・実体式予備計器
・手動操縦系統
━━━━━━━━━━
「作ろう!」
「もう作るのですか?」
フィオナが尋ねる。
「試作品だけ」
リリスが答えた。
「既存の表示板を外して、五面式の大型投影板へ交換する。外部観測器は今のものも使えるよ」
「左右用と上方用と下方用を増やしたい」
リゼットが言う。
「頭部だけだと、肩の装甲と背中の部品が邪魔になるから」
「両肩と腰に二つずつ」
「頭部上面と胸部上側にも追加」
「足元用は腰の下と両膝、それに胸部下側」
「後方にも二つ」
「分かった」
『始まったな』
クロは。
格納庫の入口へ伏せる。
『夕食までに終わるのだろうな』
「たぶん」
『その言葉を禁止したくなってきた』
◇◇◇
一時間後。
《アルカディア・トレーナー》の操縦席は。
見た目からして変わっていた。
正面に並んでいた。
三枚の小さな表示板は取り外され。
代わりに。
操縦席の前方を広く覆う。
横長の大型魔導投影板が設置されている。
その左右には。
操縦席を包み込まない程度に。
内側へ角度を付けた。
二枚の大型補助表示盤。
さらに。
正面主画面の上側。
操縦者が少し顔を上げれば見える位置へ。
横長の上方表示盤。
正面主画面の下側。
操縦桿や踏板の動作を邪魔しない位置には。
斜め上へ向けられた。
下方表示盤が設置されていた。
操縦者から見れば。
正面。
左右。
上空。
足元へ。
五つの大きな窓が開いたような配置である。
操縦桿。
踏板。
緊急停止器。
実体式の予備計器は。
元の位置へ残している。
「接続完了!」
リゼットが。
操縦席へ乗り込む。
胸部装甲が閉じる。
「中、暗いよ」
「今から起動する」
リリスが。
外部制御盤へ手を置いた。
━━━━━━━━━━
《前方五面統合魔導表示盤》
試験起動
正面主画面
正常
左側補助画面
正常
右側補助画面
正常
上方補助画面
正常
下方補助画面
正常
機体情報接続
正常
索敵術式接続
正常
━━━━━━━━━━
五枚の大型表示盤へ。
格納庫の景色が映し出された。
「おお……!」
通信機から。
リゼットの声が響く。
「広い!」
中央には。
機体頭部が向いている正面の景色。
左側には。
左肩から左方へ広がる視界。
右側には。
右肩から右方へ広がる視界。
上方には。
格納庫の高い天井。
天井走行式搬送装置。
吊り下げられた整備器具。
下方には。
機体の胸部下側。
腰。
両脚。
足元の整備架台。
機体直下の床が映し出されていた。
五枚の映像は。
それぞれの方向が分かりやすいよう。
僅かに境界線を残しながら。
自然に繋げられている。
「フィオナもシグレも見える!」
正面にリリス。
左画面にフィオナ。
右画面にシグレ。
下方画面には。
機体の足元へ伏せているクロが映っていた。
「クロが下にいる!」
『私は最初からここにいる』
「足の位置も全部見えるよ!」
下方表示盤には。
左右の爪先。
整備架台の端。
床へ引かれた安全線まで。
はっきりと表示されている。
「これなら歩く時も安心だね」
「踏み外しや、地面の崩落も確認できます」
フィオナが。
下方観測器の映像を確認する。
「救助活動では、人が機体の足元へ入ることもありますから」
「見づらくない?」
リリスが尋ねる。
「大丈夫!」
リゼットが答える。
「前を見る時は正面。横は左右。上と下は必要な時だけ少し視線を動かせばいい。全部の方向が分かれてるから、混乱もしない!」
右上には。
動力炉の出力。
左上には。
簡易索敵図。
下方表示盤の端には。
両脚の接地状態と。
地面へ掛かっている重量が表示されていた。
━━━━━━━━━━
接地状態
右脚
正常
左脚
正常
地面耐荷重
問題なし
転倒危険度
なし
━━━━━━━━━━
「地面の強さまで分かる」
「大地属性の探査術式を接続した」
リリスが答える。
「柔らかい地面や空洞があったら、先に警告が出るよ」
「これなら重い機体でも動きやすい!」
◇◇◇
「上方表示の試験をします」
フィオナが。
小さな光球を作り出した。
淡い月色の光が。
ゆっくりと浮かび上がる。
機体の頭上を越えた瞬間。
正面画面から光球が消え。
上方補助画面へ移った。
━━━━━━━━━━
上空接近反応
識別
フィオナ・ルーヴェル
生成魔法
照明用光球
危険度
なし
━━━━━━━━━━
「映った!」
リゼットが。
上方表示盤を見上げる。
「正面から上へ、ちゃんと追従してる」
「敵なら照準も一緒に移動する」
リリスは。
表示術式へ。
追跡機能を加える。
光球の周囲へ。
青い円形表示が現れた。
「これなら、飛行型の魔物も見失わないね」
「次は足元」
リリスが。
機体の左足近くへ移動する。
正面画面から姿が消え。
下方表示盤へ映し出された。
━━━━━━━━━━
足元接近反応
識別
ノクス
味方登録
距離
三・二メートル
踏圧危険範囲
侵入中
━━━━━━━━━━
下方画面の中で。
リリスの周囲へ。
黄色い警告枠が表示される。
「師匠、そこ危険範囲だって!」
「試験だから」
「分かっていても怖いよ!」
リリスが。
一歩だけ後ろへ下がる。
警告枠が消えた。
━━━━━━━━━━
踏圧危険範囲
対象離脱
安全確認
━━━━━━━━━━
「ちゃんと消えた」
『試験のために自ら足元へ入るな』
「安全機能の確認だよ」
『別の物を置け』
「次からそうする」
今度は。
クロが立ち上がった。
下方表示盤の中央へ。
大きな神狼の姿が映る。
━━━━━━━━━━
足元接近反応
識別
《冥獄神狼クロ》
味方登録
危険度
なし
戦力評価
測定不能
推奨行動
機体停止
━━━━━━━━━━
「クロがいるから、機体停止って出た」
『当然だ』
「クロなら避けられるでしょ?」
『避けられることと、踏もうとすることは別だ』
「踏まないよ」
クロが。
機体の右側へ移動する。
下方表示盤から姿が消え。
右側の大型補助画面へ。
その全身が映し出された。
さらに。
軽く跳び。
整備架台の高い足場へ移る。
今度は。
右側画面から。
上方補助画面の端へ姿が移った。
「クロが上に来た」
『私を動作確認へ使うな』
「でも、すごく分かりやすい」
『降りるぞ』
少し離れた場所で。
フィオナが笑っていた。
◇◇◇
表示試験を終えると。
リゼットは。
《アルカディア・トレーナー》を最低出力で起動した。
今日は。
格納庫内での動作確認だけ。
歩行は行わない。
「右腕を動かすよ」
操縦桿が倒される。
少し遅れて。
巨大な右腕が持ち上がった。
機体の腕は。
右側の大型補助画面にも映っている。
さらに。
腕を頭上まで持ち上げると。
その先端が。
上方表示盤へ映し出された。
「腕を上げても見失わない」
リゼットが言う。
「大きな武器を振り上げた時も、上の画面で確認できる!」
「脚も動かしてみる?」
リリスが尋ねる。
「歩かない範囲で、少しだけ」
右膝が。
ゆっくりと曲がる。
下方表示盤へ。
機体の脚部と。
爪先の位置が詳しく映し出された。
接地圧。
関節角度。
重心位置。
転倒予測線。
それらが。
半透明の表示として重ねられている。
━━━━━━━━━━
姿勢変化
右膝関節
屈曲角度五度
重心位置
正常範囲
転倒危険度
なし
━━━━━━━━━━
「足元が見えると、脚を動かすのも怖くない」
リゼットが言う。
「今までは、感覚と簡易表示だけで足の位置を判断してたから」
「跳躍や着地にも使えそう」
シグレが。
下方表示盤の映像を見る。
「着地地点へ敵や味方がいないか確認できる」
「空を飛ぶ専用機には必須ですね」
フィオナも頷いた。
「照準表示」
正面主画面へ。
小さな円形照準が現れる。
リゼットが。
視線の先へ機体の手を向ける。
古い機体だけに。
動きはまだ遅い。
けれど。
正面。
左右。
上空。
足元。
腕や脚を動かす方向を確認できるため。
午前中より遥かに。
機体全体の姿勢を把握しやすくなっていた。
「視界はよくなった」
「でも、反応速度は同じ」
リリスが言う。
「操縦桿から命令を送って、回路が読み取って、それから機体が動く」
「《魂装操縦機構》が完成すれば短くできる」
「うん」
その前に。
リリスは。
別の部分へ注目していた。
幻想機の動力は。
魔導炉から。
魔導筋繊維と関節へ送られている。
人間で言えば。
骨。
筋肉。
神経。
幻想機も。
一つの巨大な身体として考えられる。
「機体そのものを強化できそう」
「強化?」
フィオナが尋ねる。
「身体強化魔法を、幻想機用に作り直す」
人間へ使う。
身体強化。
筋力。
速度。
耐久力。
反応速度。
それを。
幻想機の骨格。
魔導筋繊維。
関節。
装甲。
推進器へ適用する。
「幻想機も身体として認識するのですね」
「うん」
リリスは。
《アルカディア・トレーナー》へ。
新しい魔法陣を展開した。
機体を包み込む。
淡い星色の術式。
「《機装身体強化魔法》」
━━━━━━━━━━
《機装身体強化魔法
《アストラル・ブースト》》
試験出力
五パーセント
強化対象
・機体骨格
・魔導筋繊維
・関節駆動
・装甲強度
・動力伝達
・反応速度
安全制限
作動中
━━━━━━━━━━
機体の駆動音が。
僅かに変化する。
「右手を閉じてみて」
「分かった」
巨大な手が。
一度だけ握られた。
先ほどまでとは違う。
速く。
滑らかだった。
「動きやすい!」
リゼットの声が。
通信機から響く。
「同じように操縦したのに、機体が軽くなったみたい!」
「出力は五パーセントだけです」
フィオナが。
表示された数値を見る。
「これ以上にすると?」
「今の機体では壊れる」
リリスは。
即答した。
旧式の骨格。
摩耗した関節。
訓練用の魔導筋繊維。
強化魔法を前提としていない。
「新型機は、最初から強化状態へ耐えられるように作る」
「通常性能だけじゃなくて、魔法を使用した時の負荷まで計算するんだね」
「うん」
リゼットが。
興奮した声を上げる。
「同じ大きさでも、今の幻想機とは全然違う機体になる!」
『力を増すなら、安全装置も必要だ』
クロが言う。
「過剰出力になったら自動停止させる」
「操縦者への魔力逆流も遮断しましょう」
フィオナが続ける。
「味方が近くにいる時は、急加速や大きな動作へ警告を出す」
シグレも提案した。
「正面と左右と上と下の画面へ、味方との距離を表示すればいい」
「分かった」
リリスは。
術式へ。
新たな安全項目を書き加えた。
◇◇◇
《アストラル・ブースト》の試験を終え。
機体を通常状態へ戻す。
だが。
リゼットは。
まだ操縦席から降りてこなかった。
「どうしたの?」
「考えてた」
「何を?」
「幻想機へ身体強化魔法を使えるなら、他の魔法も幻想機から使えるんじゃない?」
リリスは。
少し考えた。
搭乗者が。
火球を使う。
その術式を。
幻想機の全身魔導回路へ繋ぐ。
動力炉の魔力を。
魔法陣へ供給する。
腕。
杖。
剣。
砲口。
翼。
それらを発動媒体として利用する。
人が使う魔法を。
幻想機の大きさと出力へ合わせて。
巨大化する。
「できる」
リリスが答えた。
「普通の火球でも、幻想機で増幅したら大型魔導砲くらいになる」
「私の結界も?」
フィオナが尋ねる。
「都市の一部を覆えるくらいに広げられると思う」
「私の斬撃は?」
シグレが。
腰の刀へ触れる。
「剣技と魔法を、一つの術式として登録できる」
幻想機のみが使用できる。
機装兵器規模の超大型魔法。
搭乗者の能力を。
機体の動力炉と魔導回路で増幅する。
新しい魔法体系。
「《機装超越魔法》」
━━━━━━━━━━
新規魔法体系
《機装超越魔法
《オーバード・スペル》》
概要
搭乗者の魔法・技能・属性を
幻想機の動力炉、全身魔導回路、
武装、翼、外部増幅器によって
機装兵器規模へ拡大する。
主な用途
・対巨大魔物
・対幻想機
・対要塞
・広域防御
・大規模救援
量産機
登録済み標準術式のみ使用可能
専用機
搭乗者固有術式へ対応
現在の開発段階
基本理論
━━━━━━━━━━
「試してみる?」
リゼットが尋ねる。
「今日は駄目」
リリスは。
すぐに答えた。
「格納庫の中だから」
『珍しく正しい判断だ』
「火球くらいなら?」
「幻想機で増幅した時点で、小さな火球じゃなくなる」
フィオナも。
リリスの判断に頷く。
「試験する場合は、王国へ申請して演習場を借りましょう」
「周辺に誰もいない場所がいい」
シグレが言う。
「山を斬っても問題ない場所」
「山を斬る予定なの?」
「念のため」
『その念のためが一番危険だ』
リリスは。
新世代幻想機の開発項目へ。
新たな術式を書き加えた。
━━━━━━━━━━
《新世代幻想機開発計画》
追加開発項目
・《前方五面統合魔導表示盤》
・《機装身体強化魔法》
・《機装超越魔法》
将来的な研究候補
《星装極限解放
《アストラル・オーバードライブ》》
注意事項
・現行訓練機での高出力試験禁止
・専用演習場の確保必須
・王国への事前申請必須
・周辺被害自動判定必須
━━━━━━━━━━
「《アストラル・オーバードライブ》って何?」
リゼットが尋ねる。
「《アストラル・ブースト》の限界強化版」
「作る?」
「新型機が完成してから」
『今すぐ試さぬだけ、まだ理性的だな』
その時。
格納庫の時計が。
午後五時五十分を示した。
「あと十分」
リリスが言う。
「もう一つだけ確認を――」
「時間です」
フィオナの声が。
すぐに飛んできた。
「まだ十分あるよ」
「片付けに十分必要です」
「……分かった」
リゼットが。
名残惜しそうに主動力炉を停止させる。
胸部装甲が開き。
昇降機で地上へ降りてきた。
リリスも。
工具と設計紙をインベントリへ収納する。
『今日は時間を守れたな』
「時計を持ってきたから」
『今後も毎回持て』
◇◇◇
夕食後。
屋敷の応接室へ。
王立幻想機兵団から。
一通の魔導通信が届いた。
━━━━━━━━━━
王立幻想機兵団
宛先
ノクス侯爵
リゼット・ヴァルカン特別研究員
受領機体の管理報告書を確認。
新型動力炉および操縦方式に関する
技術概要の提出要請を受理。
王立機装演習場の使用を許可する。
使用可能日時
三日後
使用条件
・幻想機兵団技術官の立ち会い
・危険術式の事前申告
・演習場外への攻撃禁止
追加情報
退役予定の超大型魔導巡航艦一隻について、
王国払い下げ審査が開始された。
━━━━━━━━━━
「超大型魔導巡航艦」
リゼットが。
最後の一文を読む。
リリスも。
同じ場所を見つめた。
「大きさは?」
添付された資料を開く。
━━━━━━━━━━
退役予定艦
《王国第三魔導巡航艦エルディオン》
全長
四百八十二メートル
現状
航行可能
武装
撤去予定
主動力炉
旧式
艦体損耗
中程度
払い下げ条件
購入者による修復および管理能力の証明
━━━━━━━━━━
「買えるかな」
「四百八十二メートルですよ?」
フィオナが驚く。
「《アストラル・ノア》の土台にできる」
「予定している大きさより小さい」
シグレが言う。
「後から大きくすればいいよ」
『船を後から大きくするという発想を、当然のように口にするな』
リリスとリゼットは。
顔を見合わせた。
「見に行こう」
「うん!」
新型幻想機。
正面と左右。
上空と足元を広く映す。
五面式の大型魔導モニター。
機体を強化する魔法。
幻想機専用の《オーバード・スペル》。
そして。
世界を旅する戦艦の基礎となる。
一隻の古い魔導巡航艦。
まだ。
何一つ完成していない。
それでも。
新たな時代は。
一機の退役訓練用幻想機から。
確かに動き始めていた。




