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永久の伴走者、あるいは雪の降る演算

空から落ちてくる雪は、すべての色彩を等しく拒絶している。

金沢へと続く道筋は、情報の海を泳ぐ魚たちにとっての死線のようにも見えた。

志摩巧は、理花さんの傍らで、自分の吐き出した呼吸が白く形を成すのを静かに眺めていた。

それは、デジタルアーカイブの中には存在しない、不確かな熱の証明だ。


理花さんは、柳さんの遺した影を、左半身に残る不自由さという名の聖域として抱え続けている。

彼女が最新の義肢を拒むのは、欠損こそが彼との唯一の繋がりであるという、静謐な論理に基づいた結論だった。

志摩さんはその論理を侵食せず、むしろ補完することを選んだ。

柳さんが遺した壊れたデータを修復し、捏造された過去を彼女の日常に浸食させる。

それが、彼という男の、執拗な支配の形だった。


「理花さん。寒くはありませんか。車内の温度は24.5度に設定してあります」


志摩さんの言葉は、感情を排した標準語だった。

彼は理花さんの足になることを、誓いというよりは決定事項として提示した。

それは献身という名の檻だ。

彼が理花さんの世話を焼くたびに、彼女の世界から外部へ通じるドアは一枚ずつ閉ざされていく。


「ありがとう、志摩くん。あなたはいつも、私が何を望んでいるのかを正しく演算してくれるのね。……まるで、機械みたいに」


理花さんの微笑みは、雪の結晶のように冷たく、脆い。

彼女は志摩さんの献身が、自分を柳さんの影の中に閉じ込めるための儀式であることを、おそらく理解している。

けれど、彼女はその檻の心地よさに身を委ねていた。

一人の人間として自立することよりも、美しく壊れたまま、誰かの管理下に置かれることを選んだのだ。


リミニス・ベースの地下室では、今頃律さんが無音の打鍵を繰り返しているだろう。

海くんがメイプルシロップを隠し味にした料理を作り、守屋さんがダークウェブのノイズに塗れて笑っている。

そんな喧騒が、今は遠い惑星の出来事のように思えた。

志摩さんは、眼鏡のブリッジを指で押し上げ、ナビゲーションシステムの青い光を瞳に映す。


「機械で構いません。理花さんが不自由であることを許容し、それを最適化できるのは僕だけですから。……柳さんにも、それはできなかったはずだ」


最後の言葉は、静かな宣戦布告だった。

志摩さんは、死者である柳さんから、理花さんの現在を奪い取ろうとしている。

過去という名のアーカイブをハッキングし、その記憶を自分の都合の良いように書き換えていく。

理花さんの隣に座る志摩巧という実像は、鏡の中に映らない幽霊のような存在でありながら、彼女の生を誰よりも強く規定していた。


窓の外を流れる雪景色は、すべてを均一な空白へと塗りつぶしていく。

志摩さんは、理花さんの生涯の伴走者として、社会的な死を受け入れた。

彼にとって、理花さんという動かない過去に縛られ続けることは、何よりも甘美な服従だった。


日常の足元が崩れるような違和感は、もうここにはない。

なぜなら、彼の足元は最初から、理花さんという名の深い奈落の上に構築されていたからだ。

彼はアクセルを静かに踏み込み、情報の真空地帯へと車を走らせる。


「志摩くん。私たちは、どこへ向かっているのかしら」


「どこへも向かいません。ただ、理花さんの時間が柳さんのところで止まり続けるように、僕が世界を調律し続けるだけです」


志摩さんの答えに、理花さんは満足そうに目を閉じた。

彼女の不自由な左手が、志摩さんの指先に微かに触れる。

その物理的な接触さえも、志摩さんにとっては柳さんの残像を消去するための演算の一部に過ぎなかった。

雪は降り止まず、二人の歩幅を永久に同一化させていく。

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