38.
「ユーキさん」
「は、はい」
「わたしは、医療魔術の道を志して15年になります」
え、そんなに?ヨンジュさん、お幾つですか?
いや、今はそんな事はどうでもいいよ、私。
「医療魔術は単に魔術を扱えればいいという訳ではありません。人間の体について詳細に知らなければ危険を伴うからです」
「...はい」
「率直に申し上げますが、あなたの体は男性のものではありませんよね」
「!」
「なにか事情があってのことでしょうが、悪意あって性別を偽りこの第4騎士団にやって来たのなら、わたしはあなたを見逃すことは出来ませんよ」
愛らしい姿からは想像できない鋭い気配が向けられている。この人も騎士なのだと思い知らされる。
これは不味い。
対応を間違えたら、せっかく手にした職を失ってしまうに違いない。
「...すみません、つい出来心で」
素直に謝罪した。自白する犯人の気分だ。
深く頭を下げる。
「ふむ、出来心とは?」
「私は身寄りもなく常識にも疎くて...女1人だと危険なことも多いかと思ったんです。男だと勘違いされたのをいいことに、つい肯定してしまいました。...あまりにも疑われないので驚いたくらいです」
「まぁ...その髪の短かさでは、まず女性だとは思われないでしょうね」
「髪、ですか?」
ショートボブの髪に触れる。
髪質にはわりと自信があったのだが、過酷なサバイバル生活1週間ですっかりパサパサだ。
「女性は長く髪を伸ばすものです。幼い子供や罪人以外は」
「...罪人」
そんな風習があったとは。
これで女性だと言い張っていたら、それはそれで腫れ物扱いだったんじゃないだろうか...。
「なにか罪を?」
「まさかっ」
「でしょうね。あなたは馬鹿がつくほど善良そうだ」
ヨンジュさんの麗しい瞳には、もう鋭い光はなかった。
ふっと笑ってくれたことに、ほっとして肩の力が抜ける。
終わりましたよ、と言う声は柔らかい。
腕に残っている傷はひとつもなかった。
ただただ、胸に罪悪感だけが後味悪く残った。




