39.
「あのっ、私、真面目に働きます!」
私の急な大声に、ヨンジュさんが目を瞠る。
「男だと嘘をついてしまったのは、申し訳ありませんでした。あの、でも、魔術については分からないんです。本当に分からなくて...嘘をついたわけでは」
言い訳をしながら、泣きそうになる。
情けなくて、恥ずかしくて。不安で。
それでも、ここで逃げ出す訳にはいない。
「騎士団に女性は居ないんでしょうか?私は小柄だし力はありませんけど、雑用ならこなせると思うんです。掃除や洗濯、料理もできます!字は...書けないかもしれないけど、計算なら出来ます...たぶん。とにかく、働きたいんです。どうか仕事をさせてください」
必死だった。
お金を手に入れなければ何も始まらない。安心できない。他の場所で仕事を探す手もあるけど、出会った人達がいい人過ぎて、できればここに居たい。
「...女性騎士はいますよ。事務官も。数は少ないですが、第1、第2、第3騎士団には女性も配属されています。ただ、この第4騎士団には存在しません。何故だと?」
「...その、皆さんが、容姿に恵まれていないから、ですか?」
私は全然、そうは思いませんけど。
「その通り。第4騎士団は周囲から、醜悪な姿の者たちが集まる魔窟だと言われています。時には魔獣よりも嫌悪される。わたし達に触れられるくらいなら、魔獣に襲われた方がマシだと言う人もいます。そこに所属したい女性など居るわけがない。平気でわたし達と接しているあなたは、相当な変わり者というわけです。頭がおかしいと疑われても仕方がない」
私から見たら、くらっとするような微笑みでヨンジュさんは言う。自嘲した笑みが色っぽいって、どういうこと。
「あなた程の容姿なら働かなくても暮らせますよ。というか、その容姿で働く選択をすることが非常識です。貴族に世話になればいい。多少身元が怪しくても、選び放題でしょう。紹介しましょうか?」
「そんなっ...それって、つまり、そういうことですよね」
なんていうか、アクセサリーというか、見世物というか、愛玩用というか...もしかしなくても愛人コース。
「まぁ、そうですね。けれど、ここで働くよりずっといい暮らしができますよ。綺麗に着飾ってにこにこしていれば一生遊んで暮らせます」
遊んで暮らす。なんて甘美な響きだろう。
でもダメだ。
私はキリギリスにはなれない。汗をかいて得たご褒美を甘く感じる、根っからの働きアリだ。
それに貴族様の相手なんて、教養や話術がなければ務まらない仕事だと思うんだけど。
「そういう仕事は私には向きません」
この顔にどれくらいの価値があるのかは知らないけど、若さはいつか失われる。容姿も衰える日が来る。
「...あなたは、本当に変わってますね」
ヨンジュさんの声は呆れてはいたけれど、続いた言葉は私の胸を温かくした。
「隠している他の場所も診せてください。女性の肌に傷痕が残ったとなったら一大事です。仲間なら、尚更」
こうして、私の性別詐称は小一時間で露見した。
とはいえ、身の安全のためにも男性だと周囲に誤認させておくのは得策だろうとのことで、レグラスさん、キースさん、ヨンジュさん以外にはこの事実は伏せられることとなった。
医療魔術で触れられたら他の人にも性別が露見してしまうのではと危惧したが、そんな器用なことができる人はそうそう居ないらしい。ヨンジュさんが特別で、変態的に医療魔術を極めている為だという。
なるほど。うん。




