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36.

 

「そこの君、これを何処で?」


 せっかく隠れているのに、キースさんを通り越して話しかけられた。

 ちらりと覗いて、ヨンジュさんの鋭い視線にたじろぐ。


「も、森で...」


「森...?」


 目が泳ぐのが自分でも分かる。

 嘘はついていないけど、美人さんの強い視線に耐えられるメンタルはない。


「他にも持っているのなら、出しなさい」


 有無を言わせない口調に、そそくさと胸のポケットを探る。小心者なのだ、私は。


 ...しおしおの草が2枚出てきた。

 そっと差し出すと、さらに冷たい目で見下ろされた。怖い。


 ヨンジュさんは深くひとつ、ため息をついた。



「...副団長。この子どもは頭が弱いのですか?」



 ものすごく失礼な確認が、目の前で行われている。


「こんな貴重な物を、ホイホイと渡す馬鹿は見たことがありません。子どもとはいえ、知識と判断力に欠けています。わたし達に対する態度が常軌を逸しているのも、頭が弱いせいなのでしょう」


 一転して、憐れむような視線を注がれた。

 可愛いお顔でグサグサと刺す人だ。容赦がない。


「それに、彼は美しすぎます。至宝のごとき美貌ですね。...頭が弱いのに」


 下げて上げて、さらに落とす。

 丁寧な口調で失礼な人だ。

 感情も理解も追いつかないです、ヨンジュさん。

 さすがに笑顔が引きつった。



「はぁ、そんな風に笑って...なんて無防備な。妙な輩に目をつけられたら大変です。それに、体は大丈夫なんですか?その細さはあなたの魅力ですけど、きちんとご飯を食べていますか?そうだ、わたしが面倒を見ましょうか。雑用などさせて怪我でもしたらどうします。副団長、この子どもは医療班で預からせてください。ほら、こっちに来なさい。お菓子をあげますから」




 オカンだった。心配性のオカン属性。


 呆れたようにため息をつきながらも、なんとも情け深い目で私を見ている。悪態をつく割に、世話焼きのようだ。ぎこちなく差し伸べられた手が彼の人となりを現している気がした。


 ...絶妙に口が悪いだけで、たぶんいい人なんだろうな。



「班長、過保護だからなー」

「すぐに捨て犬、拾うしなぁ」

「でも懐かないんだよなー」

「愛情が空回りするタイプな」



 おそらくヨンジュさんの部下の方々なのだろう。白衣の人達は好き勝手言っているが、その表情には親愛が浮かんでいる。



「ヨンジュ。心配には及ばない。彼はまだ幼いが、確固たる強さを示した。遠方から来た為に知らないことが多いようだが、判断力も思考力も正常だと団長が判断した」


 可哀想な子どもを保護したいヨンジュさんに、キースさんがゆっくりと説明をする。


「しかし副団長、」


「今回、あの魔獣を討伐したのは彼なんだ」


「...は?」


「彼の希望で庶務での採用になりそうだが、実力は俺が保証する。とはいえ、お前が気にかけてくれるなら安心だ。早速だが、軽い怪我をしているようなので診てやってほしい。よろしく頼む」


「.........はい。承知しました」


 キースさんは、おそらくヨンジュさんの扱いが上手いのだろう。

 決して強い口調ではないけれど、上に立つ者として諭して聞かせた。

 ヨンジュさんが、続けようとしていた言葉の一切を飲み込んだのは、キースさんを信頼しているからのような気がした。

 素晴らしき上下関係。



 感心していたら、ぱっとヨンジュさんと視線が合った。


 ああ、はい、診察ですね。

 よろしくお願いしま.....って、あれ?


 まずくない?

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