34.
じっとりと、手のひらに汗をかいている気がしてならない。緊張し過ぎて、精神的に疲れた。
連れてこられたのは、白を基調とした小部屋。
扉を開けて中に入ると、ツンと鼻を刺激する薬品の匂いがした。きっと医務室なんだろう。
キースさんに手を引かれたまま中に入ったはいいものの、室内の雰囲気が慌ただしい。
押し殺したような呻き声と、忙しなく動き回る白衣の人達。
「どうした。騒がしいな。重傷者の報告はなかったはずだが」
「ああ...副団長。ええ、軽傷者ですよ」
キースさんの問いに、白衣を着た男性の内の一人が答える。
「ただ...魔獣の体液に触れたせいで痛みが強いんです。あの痛みは、治癒魔術では取り除けませんから」
白衣のその人は、とても可愛らしい容姿をしていた。
20代半ばくらいだろうか。背はそれほど高くなく、華奢で細身の体型。大きなヘーゼル色の瞳と長いまつ毛。栗色の髪はサラサラで、ぷっくりとした唇はきれいな赤色だ。骨格で男の人だと一目で分かるけど、めちゃくちゃ可愛い。
なんだか全体的にキラキラしている。
「本当ならそんなドジをする奴に治療なんて必要ありませんが、今回は大目に見てやってください。街の人間を庇って血を浴びたので。軽率でドジなことに変わりはありませんけど」
可愛い見た目に反して、言葉遣いも表情も辛辣だった。
体液、痛み、血を浴びた、そう聞いて咄嗟に思い出す。
たしか、ここに...。
繋がれていない方の手でシャツのポケットを探り、目当てのものを握りしめた。
「あの...これ、よかったら」
キースさんの背中から顔を覗かせる。
私が差し出したのは、くったくたに萎れた草だ。
森の中でプチッと摘んで、パーカーのポケットに入れておいたものだ。何かの役に立つかなと、今着ているシャツのポケットに移し替えておいた。
キラキラした白衣の男性は、ぽかんと私の顔を見た。
次に私の手にある草を見て、さっと顔色を変える。
「...これは」
あ、もしかしてご存知ですか?
この草、実はただの草ではない。
薬草、とでもいうのだろうか。
あの森で過ごした数日。この草には何度もお世話になった。
けっこう深めの傷や捻挫や打ち身、その他もろもろ。葉を揉んで傷口に当てておけば、翌日には少しマシになるという優れものだ。
ちょっと萎れてるけど、効果は保証します。
「…うぅ」
ベットに横たわる男の人が、傷の痛みに呻いた。肩から腕にかけて、赤く爛れてしまっているのが見えた。
...痛いよね、その傷。分かる分かる。
あの牛みたいなやつの血液は、触れると火傷したみたいな痕になる。私も経験した。手の甲だったけど。
「どうぞ、使ってあげてください」
私は、白衣の男性にぐいぐいと草を押し付けた。
「少しですけど、傷の痛みが和らぎますよ」
ここで、多少の恩を売っておこう。
怪しいものではありません。
これは善意ですよ。
だから、暫くは騎士団に居させてくださいね。
引きつった表情で葉っぱと私を交互に見比べたその人は、さらに斜め上へと視線を巡らせた。キースさんだ。
「副団長...」
「...有難く、使わせてもらおう」
「しかし、これは...」
「あとで、団長に報告書を上げてくれ」
そんな短いやり取りの後、可愛らしい男性は神妙に頷いた。
葉っぱを両手の平に乗せ、丁寧にテーブルに置く。
え、使わないの?
効果抜群なのに。
というかキースさん。
そろそろ手を離して欲しいです。
周囲の視線が痛いです。




