↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/40

34.

 

 じっとりと、手のひらに汗をかいている気がしてならない。緊張し過ぎて、精神的に疲れた。


 連れてこられたのは、白を基調とした小部屋。

 扉を開けて中に入ると、ツンと鼻を刺激する薬品の匂いがした。きっと医務室なんだろう。


 キースさんに手を引かれたまま中に入ったはいいものの、室内の雰囲気が慌ただしい。


 押し殺したような呻き声と、忙しなく動き回る白衣の人達。


「どうした。騒がしいな。重傷者の報告はなかったはずだが」


「ああ...副団長。ええ、軽傷者ですよ」


 キースさんの問いに、白衣を着た男性の内の一人が答える。


「ただ...魔獣の体液に触れたせいで痛みが強いんです。あの痛みは、治癒魔術では取り除けませんから」


 白衣のその人は、とても可愛らしい容姿をしていた。


 20代半ばくらいだろうか。背はそれほど高くなく、華奢で細身の体型。大きなヘーゼル色の瞳と長いまつ毛。栗色の髪はサラサラで、ぷっくりとした唇はきれいな赤色だ。骨格で男の人だと一目で分かるけど、めちゃくちゃ可愛い。


 なんだか全体的にキラキラしている。


「本当ならそんなドジをする奴に治療なんて必要ありませんが、今回は大目に見てやってください。街の人間を庇って血を浴びたので。軽率でドジなことに変わりはありませんけど」


 可愛い見た目に反して、言葉遣いも表情も辛辣だった。


 体液、痛み、血を浴びた、そう聞いて咄嗟に思い出す。

 たしか、ここに...。

 繋がれていない方の手でシャツのポケットを探り、目当てのものを握りしめた。


「あの...これ、よかったら」


 キースさんの背中から顔を覗かせる。


 私が差し出したのは、くったくたに萎れた草だ。

 森の中でプチッと摘んで、パーカーのポケットに入れておいたものだ。何かの役に立つかなと、今着ているシャツのポケットに移し替えておいた。


 キラキラした白衣の男性は、ぽかんと私の顔を見た。

 次に私の手にある草を見て、さっと顔色を変える。


「...これは」


 あ、もしかしてご存知ですか?


 この草、実はただの草ではない。

 薬草、とでもいうのだろうか。


 あの森で過ごした数日。この草には何度もお世話になった。

 けっこう深めの傷や捻挫や打ち身、その他もろもろ。葉を揉んで傷口に当てておけば、翌日には少しマシになるという優れものだ。


 ちょっと萎れてるけど、効果は保証します。


「…うぅ」


 ベットに横たわる男の人が、傷の痛みに呻いた。肩から腕にかけて、赤く爛れてしまっているのが見えた。

 ...痛いよね、その傷。分かる分かる。

 あの牛みたいなやつの血液は、触れると火傷したみたいな痕になる。私も経験した。手の甲だったけど。



「どうぞ、使ってあげてください」


 私は、白衣の男性にぐいぐいと草を押し付けた。


「少しですけど、傷の痛みが和らぎますよ」


 ここで、多少の恩を売っておこう。

 怪しいものではありません。

 これは善意ですよ。

 だから、暫くは騎士団に居させてくださいね。


 引きつった表情で葉っぱと私を交互に見比べたその人は、さらに斜め上へと視線を巡らせた。キースさんだ。


「副団長...」


「...有難く、使わせてもらおう」


「しかし、これは...」


「あとで、団長に報告書を上げてくれ」


 そんな短いやり取りの後、可愛らしい男性は神妙に頷いた。

 葉っぱを両手の平に乗せ、丁寧にテーブルに置く。


 え、使わないの?

 効果抜群なのに。


 というかキースさん。

 そろそろ手を離して欲しいです。

 周囲の視線が痛いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。