30.side キース
ころころと、よく動く表情。
正面から真っ直ぐに注がれる視線。
丁寧な言葉と、向けられる屈託のない笑顔。
嫌悪されないことへの戸惑いが大きくて、正直どう接していいのか分からない。
分からなすぎて、かなり挙動不審で失礼な態度をとってしまっている自覚はある。...情けない。
自分の容姿が、他人から受け入れられない事は承知している。醜いという自覚もある。これまでの人生で、嫌というほど自覚させられてきた。
だからこそ、目の前の少年の言動に心がかき乱された。
最初からそうだった。
最初から、俺を真っ直ぐに見た。
黒曜石のような瞳が驚いたように見開かれた時は叫ばれるのかと身構えたが、彼はただ、ぽかんとこちらを見るだけだった。
嫌悪や悪意や同情のない目を、正面から見るのは久しぶりだった。
騎士団の仲間たちはともかく、それ以外の者たちは俺を見て平静ではいられない。
顔を顰める、目を逸らす、居ないものとして扱われる、そんなのはかわいい方。叫ぶ、逃げる、罵詈雑言を撒き散らす、そんな態度にも慣れてしまった。
それくらい、俺は、醜い。
第4騎士団は、魔術に適正のない騎士たちの集まりだ。つまり、醜い者しかいない。
その代わり、剣術や体術に長けた者が多く、華やかさは無いものの騎士団としての実力と実績はある。しかし、容姿が劣るというだけで国の上層部や民からは認められない。
よって、人知れず雑用や汚れ仕事を担う便利な一団と化している。
しかし、それを嘆く者は第4騎士団にはいないだろう。自分たちの居場所や仕事に、皆が誇りとやり甲斐を持って働いている。
団長が毅然とした態度で盾となり、団員たちの尊厳を守ってくれているのも大きい。
副団長である俺も、団員たちを守る為の努力を惜しむつもりは無い。
望まれても望まれなくても、自分たちに与えられた仕事を誠実にこなすのが騎士団の使命だ。
とはいえ、危険な汚れ仕事は必ずといっていいほど第4騎士団におりてくる。
今日もそうだった。大型魔獣の討伐依頼。
別の騎士団が我々より先に到着していたはずだが、彼らは何やら理由をつけて早々に撤退した。
そこに現れたのが、この少年だ。
風のように現れて、事もなげに魔獣を討伐してしまった。
美貌と強さを兼ね備え、我々に少しも嫌悪を示さない不思議な少年。
差別には慣れている。
だからこそ、平然と向き合われると逆に戸惑った。
どうして、笑うんだろう。
なぜ、俺なんかに笑いかけてくれるのだろう。
...この子供は、頭が弱いのだろうか。
そんな失礼なことも考えた。
出自がはっきりせず、この上なく怪しい。それなのに、警戒心を解かせる柔らかな雰囲気がある。無防備で人懐っこくて、少しも邪気が無い。
戦闘時の気迫や殺気が、まるで嘘のようだ。
あまりに俺への反応が薄いので、試すように魔術で髪を乾かしてみたが普通に礼を言われてしまった。
「どこか、仕事を紹介してもらえる場所はありませんか?」
真っ先に、それは困る、と思った。
これで終わりにしたくなかった。
まだ繋がりを持っておきたかった。
この少年のことを、もっと知りたいと思った。
戸惑いと居心地の悪さ、それから、僅かな期待感。
渦巻く感情に目が回りそうだ。
どうにかしなければと焦った結果、
「...うちへ、来ますか?」
勢いで騎士団に誘ってしまっていた。
第4騎士団に所属するなんて、この秀麗な少年に相応しいはずがないのに。




