29.
『魔力と引き換えに、こちらに帰ってきたのですか?』
「...」
「...」
見つめ合う、アンドロイドと、こけし。
...どうしよう。
私にはもともと魔力なんてものは、無いのです。
引き換えどころか、むしろ謎の戦闘能力とサバイバル能力を身につけて森から帰還しましたが。
真剣なキースさんには申し訳ないけど、その仮説は検討違いだと思う。
しかし。
アーモンド型の双眸が理想的すぎて目が逸らせない。
大きな目だな。くっきり二重で、きりりと美しい弧を描いている。鼻が高くて羨ましい限り。全体的にはクールな印象なのに唇がぽてっと肉厚なのがズルいと思う。色気が...すごいです。なにより顔が小さい。
この人、いわゆる黄金比ってやつなんじゃないだろうか。顔面のバランスに非の打ち所がない。
「キース、やめとけ」
現実逃避してキースさんの顔面鑑賞をしていたが、レグラスさんの言葉に引き戻される。
同時に、ふいっとキースさんの視線もそれた。
「...無理に聞き出そうとは、思っていません」
なにその、少し拗ねたような声。
ギャップ、ずるい。
「...すみません。まだ少し混乱していて」
目を伏せ、困ったように笑う。
意味ありげに、やや含みをもたせておく。
正直、自分に起きた出来事をうまく説明できそうにないし、事実を話したところで受け入れられるとも思えない。
2人にはとても感謝しているが、何もかも話して頼ろうと思えるほど、私だって彼らを信用できていない。
異世界...か。
この先、どうすればいいのやら。
お腹が満たされたことで、改めて途方に暮れる。
「...この先、行く宛てはあるのですか?」
頭の中を読まれたのかと思うタイミングに面食らう。
「へ?」
「さっき、身寄りがないと...。この先、どこへ?」
...行く宛て?
私は世界を飛び越えた迷子だ。
そんなものがあるはずも無い。
「いやぁ、その...」
困った時は笑っとけ。
へらっと笑うと、目の前の美丈夫の眉間に皺が寄る。
どうやら一瞬でキースさんを不快にさせたらしい。
そっと、笑みを引っ込める。
「あの...どこか、仕事を紹介してもらえる場所はありませんか?」
気を取り直して質問する。
「仕事...」
「ええ、所持金がなくて」
失くしたリュックの中に日本円は多少あったけど、この世界で使えるとは思えない。食事にありついて元気な今こそ、働かなければ。お金を手に入れるまでは、うん、野宿かな...。
きょろきょろと窓から周辺を見回す。
あの辺の軒先とか良さそう。
ああ、あっちの木の根元も魅力的。
「...まさか、野宿する場所を探していますか?」
怪訝そうな声に、視線を戻す。
「あ、その、あの辺りをお借りできたらなぁ、なんて」
またヘラヘラしそうになって、直前で顔を引き締めた。
「...仕事も寝泊まりする場所も、提供できないことはありません」
「えっ...ぜひ!!」
ぐいっとテーブルに前のめりになると、眉間の皺を深めたキースさんが仰け反るように体を引いた。
「...すみません」
「...いえ」
気まずい沈黙。反省。
「あの、仕事と寝る場所というのは...?」
黙り込むキースさん。
とんでもない美形を拝みながらだから待てるけど、なかなかにもったいぶる。
そしてようやく、口を開いた。
「...うちへ、来ますか?」
「え?」
「君は、強い。行くあてがないのなら、騎士団に推薦します」
あー、なるほど。騎士団ね。
自宅に誘われたのかと思った。
そんな訳ありませんよね。
騎士団。
男たちの園。筋肉の楽園。
訓練と、鍛錬の日々。
...なかなかハードそうですね。




