34.死季
34. Suicide Season
神様にもいろいろいる。
普段は人間のようにしていて、それに神様と呼ばれる所以である力を上乗せされていると思ってくれたなら誤解ない。
そしてその力によって、俺たちにもいろいろな名前がつくんだ。
例えば、狩猟の神とか、豊穣の神とかね。
もちろんそんな、思い上がるのに十分な力を手にしている神様はほんの一握りだ。
その中の一人に、戦争の神様というのがいる。
人間が戦う火種をつくっては、それを消し去るのが役目だ。
趨勢は、彼の一存。彼を崇めることが、その戦争で勝利を収めることに繋がる、当然のように持て囃されたと言って良い。
それが、最高神である天空神の地位を奪うまでになったのは、全ては人間が決めたことだ。
最も信仰を集める者こそが、神を束ねるに相応しい。
まあ、空を仰いで拝んだところで、実利はないか。済まないね、何もしてやれなくて。
天空からすべてを見降ろしていたあの神は地に堕ちた。
地に堕ちて、一介の軍神へと成り下がったんだ。
言うなれば、戦争の神様に仕える下働きのようなものかな。
彼が引き起こした戦争の行く末が、彼の意志によって定められた結末を迎えるために、
軍神は、言うなれば戦争の趨勢を変える。
王や将軍が勇ましく先陣を切り、華々しい戦果を挙げることで、崩れかけた戦場の流れが変わるような。
軍神は、その風になるんだ。
俺にはこれ以上ない適任だったと思う。
つまりは、自分がちょっと応援してやるだけで、そちら側にゲームが傾いてしまうような存在だったのだ。
贔屓目に見てやるだけで、そちらが自然と、それも圧倒的に勝ってしまう。
突然、振られる賽の出目が狂ったように上振れる感じかな。投げられた硬貨は、決して裏面を見せない。
もともと俺が最高神として君臨出来ていたのだって、よほど運が良かったからに過ぎない。
自分があの地位に居座っているだけで、なんだか物事がうまくいっていたから、咎められなかっただけなのだ。そんな奴が人間に必要とされていたかは別として。
ともあれ、そんな才能の持ち主は、戦争を好きな決着で終わらせるのに必要とされたのだ。
光栄なことだった。最高神である彼の名のもとに働けるのだから。
実際に戦地に赴いて、神が導くべき軍のため、自分自身が道を切り開いたこともあった。
勇猛果敢な軍神として、その名を人間界に轟かせたのだ。
その姿を見て、崇める者もちらほら現れた。俺は戦場に身を埋める覚悟をした人間たちの、心の支えぐらいにはなれたのだ。
失われたかに思えた信仰は、僅かながらに光を取り戻し、温い戦いに身を置く日々にも、それなりに充足していたんだ。
けれど、それは必要ではないとすぐにわかった。
そんなことをしなくても勝てるから。もっと簡単な肩入れで良いのだ。
そもそも、人間の世界に降り立って悪目立ちをすること自体、神様として憚られることではあった。
神とは人の上に立つもの、降臨など聞こえは良いが、その実あまり良いものと思われていない。
大通りを闊歩すると言うよりかは、国王がお忍びで城下町に顔を出すようなものなのだ。
それに、心の底では今の自分の姿を崇められることが、堪らなく嫌だったというのもある。
最も輝ける場所であったにも拘らず、俺には戦場へ赴く意味が無かった。
…ではどうしたかと言うと、それは簡単な話だ。
自分が、この国を滅ぼそうとしているという意思を、誰かに向かって示せば良いのだ。
二人の間の口論に、直接割って入るでも、横槍を入れて加勢するでもなく。
それは、陰口に近い。
できるだけ小さな作用で、期待された効果を得たいのだ。
戦場で敵兵を槍で射殺す代わりに、
俺は誰の命を奪えば許される?




