第9話 帰還
レベッカの町に来て3日後。
解体の終わるはずの日だったので解体屋へ向かった。
「これが解体済み素材のリストだ」
解体屋のオヤジはあいかわらず憮然とした髭で紙を一枚出して言う。
「ゴブリンは魔石くらいしか使える素材がねえが、オーク・メイジは肉や骨、睾丸なんかも取引される」
「はあ」
「解体費用を差っ引かせてもらうが、これは欲しいという素材はあるか?」
と言われても、肉、骨、睾丸だなんてどうすればいいのかわからない。
「……ええと、とにかく魔石はぜんぶください。あとはオジさんにあげます」
「ははっ、それはあんまりこちらがもらいすぎだ。オーク・メイジはここらじゃめったに出現しないからな。その素材もレアなんだぜ」
「そうなんですか?」
それを聞いてむしろショックだった。
オーク・メイジの魔石は1000だから、俺はコイツをたくさん狩って一気に領地開発を進めようと思ったのだけれど……
どうやら遭遇する時点でレアらしい。
「うーん、どうすれば強いモンスターとたくさん遭遇できるのかなぁ……」
と頭をひねっていると、オヤジが眉を上げて言った。
「そう言えば坊主。マイトをとっちめてやったらしいな」
瞬間、『誰?』と思ったが、そういえばあのモヒカンがそんな名前だったっけ。
「そうなると……やっぱりこのオーク・メイジもお前が倒したのか?」
「はあ、一応」
「アイテムBOXを持っているから只者じゃないとは思っていたが、戦いの方も相当な実力者らしいな……」
オヤジは髭をなでながら続ける。
「お前の求める『強い敵』がどのくらいのものを指すかはわからんが、ずっと東には強いモンスターがわんさか出るって聞くぜ」
「東ですか」
俺はその情報を心に深く刻んだ。
それから、オヤジは手のひら大の袋を取り出してカウンターの上にどすんッと置いた。
「これは?」
と袋を開くと、中にはコインがぎっしり詰まっていた。
「魔石の他は興味ないらしいからな。それ以外の素材の差額はこんなものだ。5万フレン入っている」
「そんなに!?」
薬草ひとつで10フレンだったから相当な額であろう。
「オーク・メイジの睾丸が4万フレン。肉と骨が5千フレンずつだ」
「ずいぶん睾丸が高いんですね」
「ああ、コイツからは強力な精力剤を生成できるからな」
精力剤?
現代日本のアラサーの、世を儚んで萎れた精力を思い出して一瞬ピクッとなるが、この3日間を思い出すと今の俺にはまったく必要のないものだと気づいた。
17歳の肉体には精神を凌駕した猿のごときパワーがあって、『17歳ってこんなんだっけ?』と自分で驚いているところなのである。
ただ、オーク・メイジの睾丸が高価な理由は非常によくわかったよ。
「……それから坊主、お前。ウワサじゃリリアをモノにしたらしいな」
「だ、誰がそんなことを!?」
「町中のウワサになってるぜ。なにせイイ尻してるからな。このへんの冒険者たちはみんなアイツを狙ってたんだ」
「……はあ」
「ふふ、やるじゃねえか坊主。ガキだとあなどって悪かったな」
妙なところで感心するんだな。
俺は苦笑いしながら、オヤジに礼を言うと解体屋を去った。
宿に戻ると、リリアは女戦士の鎧をまとっているところであった。
籠手や脛当ての金属音をカチャカチャと鳴らして、美しい肉体をメタリックに彩っている。
「解体は済んだのかい?」
「うん」
「じゃあ、もう行っちまうんだね」
「ごめんな……」
リリアには昨晩『一緒にパーティを組もう』と誘われていた。
でも、俺は領地を開発しなきゃいけないからそれはできない。
彼女とすっと一緒にいることはできないのである。
「でも、またすぐこの町にも来るよ」
「いいんだよ、坊やが責任なんか感じなくっても」
リリアは鎧を装着し終わると、赤い髪をかき上げてから背中で言った。
「……アタシが勝手に惚れたんだからさ」
「リリア……」
俺は近寄って、彼女の勇ましい乳房を両手でやさしく揉んでやった。
胸は受け入れるようにツンっと突き出され、パンツのような鎧のお尻が嬉しそうにぷりっとする。
俺はもう一度言った。
「また来るよ。すぐに会える」
「ふふっ……期待しないで待っとくよ」
寂しげに笑う女戦士の唇へ、俺は慈しむような角度で唇を重ねた。
2、3時間後……
リリアは冒険者ギルドへ、俺は領地への帰路へ着く。
川を渡り、レベッカの町を振り返ると、やはり異世界の町は美しかった。
名残惜しいけど、またすぐに来れる。
――そう。
この時は、本当にすぐまた来るつもりだったんだ。
◇ ◇ ◇
さて、ガチャの期限が1つ切れてしまうまであと三日。
大急ぎで領地に帰らなければならない。
シュンシュンシュン……
ちなみに、道しるべには『索アイテムスキル』を応用していた。
索アイテムスキルは、(体感で)おおよそ100メートル四方を元サイズとして、その縮小1/10倍、1/100まで範囲を広げることができる。
つまり、だいたい10キロメートル四方くらいの範囲を最大で索アイテムできるのだ。(※範囲については索敵スキルも同じである。)
しかし、『風の腕輪』のスピードで森をかけると、すぐに1/100(10キロメートル四方)の範囲を超えて行ってしまう。
そうなると領地への帰り方がわからなくなるので、来るときにマップの端と端にアイテムで目印をつけておいていたのだった。
具体的に言うと、
◇
◇ ◇
◇
こういうふうに、アイテムを並べておいたのである。
自然の状態でこのようなアイテムの配置になっていることはないので目印となる。
そして、この目印をマップの端と端に配置すれば、領地まで帰って来られるという算段だ。
略式だが図指すると以下である。
1
―――――――――――――――
町
※
―――――――――――――――
2
―――――――――――――――
※
※
―――――――――――――――
3
―――――――――――――――
※
領
―――――――――――――――
注)
※=目印
もちろん、目印はもっと多く配置して何面も何面もマップを切り換えるのだけど、要領はこんな感じ。
「ガチャを一つでも無駄にしたら女神さまに申しわけないからな。急がないと……」
俺はそうつぶやきつつ、森の中を走って行った。
――で、三日後。
34個の目印と、35面のマップ切り換えで『領地』に着いた。
距離的には東京~名古屋間くらいってとこかな。
「はーはー……やれやれ、やっと着いた」
と、俺は小屋へ入り、畳の上でごろんと寝転がった。
チュンチュン……
穏やかだな。
こうしていると、つい先日まで異世界の町で起こったことが夢のように思われる。
「さてと、それじゃさっそくやるか」
俺はしばらく体を休めると起き上がって、障子を開いた。
そう。
この冒険で1450の魔石を手に入れたのだ。
今までにない魔石の数。
俺は領地の開発を再開すべく、『建設スキル』を開いた。




