第7話 レベッカの町
ザッザッザッザ……
女戦士リリアのパーティについて行き、森を北西へ丸一日行くと大きな川が出て景色が開けた。
そろそろ日も落ちようという頃で、川の水面は西日の黄金を無数にきらめかせており、少し目が痛い。
俺は、その川の向こうに町らしきもののあるのを見るとリリアに尋ねた。
「あれが言っていた町ですか?」
「ああ」
「大きいんですね。建物がたくさんある……」
「ふふーん、そうだろ? あれがレベッカの町、アタシたちが拠点にしている町さ」
リリアはまた親しげにガシっと肩を組んで来てそう言った。
【鑑定】
≪名前:リリア 女戦士 24歳 Eカップ ▽≫
脇の下に彼女の胸がヒタっとくっついてぷりんぷりん揺れるので思わずまた鑑定を開いてしまった。
本当に便利なスキルである。
「おや。どうしたんだい?」
「いや……別に(汗)」
「そう? じゃあ行こ!」
「は、はい」
俺がうなずくと、リリアはうししと笑って肩を組んだまま足を進めた。
鼻歌など口ずさみごきげんな様子である。
女らしい体つきの一方でそんな快活な性格だから男友達と絡んでいる感じもあるのが好ましい。
俺も肩を抱き返し、真似をして鼻歌に調子を合わせると、彼女はとても嬉しそうだった。
「くっ……」
「……チッ」
「……ペッ」
男三人はあいかわらず面白くなさそうにしている。
リリアと仲良くするのは楽しいけれど、なんだかちょっと申しわけない。
ちゃぷん……
川は舟渡しがおり、これを渡るともう町である。
渡った側の岸にはいくつもの船が着き、ゴチャゴチャと荷を積んだり降ろしたりしているので、ここはこの川の水運で発展した町なんじゃないだろうかと思った。
ガヤガヤガヤ……
町に入るとすぐ、市場だった。
くすんだ白壁に赤い屋根の建物がいくつも並び、その間の道ではあまたの人々が無数の取引を交わしている。
こんなふうに人々が表情と表情を交わす『町の姿』はもう異世界でしか見えない光景であろう。
それで夕日が人々の露出した頬をことごとく朱色に染めるから、なつかしいような、もの悲しいような気持にさせられた。
「さてと、解体屋だけど。キース。あんたが案内してやんな」
そこでリリアがそう言うと、僧侶風の男はたいそう不満げに返した。
「はぁ? なんでオレが?」
「アタシは冒険者ギルドへ行かなきゃならないのさ。アンタも助けられたんだから恩を返さなくっちゃいけないよ」
「……チッ、わかったよ」
「終わったらいつもの店で合流だからね!」
リリアはそう言ってから俺の方へ向いて、
「じゃあアンタ。また後でね!」
と、俺の手を少し握ってから、ぷりっとしたお尻を向けて去っていった。
「ふんっ」
「ひひひっ」
魔法使いの男と小太りの武闘家は何故かニヤニヤして彼女の後ろをついて行く。
そして、残された僧侶風の男は俺を一瞥すると、
「こっちだ」
とだけつぶやいてツカツカ道を行った。
◇ ◇ ◇
「ここだ」
僧侶風の男キースは一つの倉庫のような店の前で立ち止まり、吐き捨てるように言った。
「ここが解体屋ですか?」
「そうだ。さっさと行って来い」
できれば店の中までついて来てもらえるとありがたかったが、すげー不機嫌そうで頼み難い。
やむを得ず、俺はひとりで解体屋の扉を開いた。
ガラガラガラ……
「いらっしゃいませ!……って、んだよガキか」
解体屋は、これもまた不愛想な髭のオヤジだった。
「帰れ帰れ。ガキには用はねえんだよ」
「はあ、しかしここは解体屋さんですよね?」
「そうだ。倒したモンスターを解体して、その素材を取り出す店だ。お前も乳離れしてモンスターを倒せるようになってから来るんだな」
「いや、だからその……」
話しているより実物を見せた方が早いと思って、俺はアイテムBOXからオーク・メイジを取り出した。
「わっ! なんだ? どこから出した?」
「はあ。アイテムBOXですが」
「アイテムBOXってそんな上級スキルを……初めて見たぞ!」
解体屋のオヤジは髭をひくひくさせて驚いている。
やはりアイテムBOXはめったに持てるスキルじゃないらしい。
まあ、ガチャ銀玉だったしね。
「それにこれはオーク・メイジじゃないか!? まさかこれをお前が倒したのか?」
オヤジは目を丸々とさせてつぶやくが、
「……いや、さすがにこんなガキに倒せるわけはないか。アイテムBOX係のお使いってところだな? それにしたってすごい才能だ」
と、勝手に得心していたので、面倒だしそういうことにしておいた。
「それで、ここで解体はお願いできるんでしょうか?」
「もちろんだ。そういう店だからな」
というので、この際たまっていたゴブリンもお願いしようと思い、これもアイテムBOXから取り出した。
全部で30匹のゴブリンである。
「す、すげえ量だな。これも解体して欲しいのか?」
「ええ。魔石が欲しいので」
「わかった。任せておけ」
と言ってくれた。
このオヤジは不愛想だがイヤな感じはしない
俺はお願いしますと言って振り返ったが、ハッとして
「あ、それからどれくらいでできそうですか?」
「オーク・メイジ1匹なら明日にでもというところだが、解体の容易なゴブリンとは言え30匹はなかなかキツイ。急ぎなのか?」
「ええ」
それでオヤジは持っていたペンで自分の頭を二三つつくと計算が出たようで答えた。
「3日後までには仕上げておく。それでいいか?」
「3日後ですか……」
1日目のガチャの期限の切れる10日後まではあと6日。
それまでに領地へ帰らないと、1日一つずつガチャを無駄にしてしまう。
「……ええと」
この町から領地まで3日+1日かかった。
それで解体の仕上がるのに3日使うとガチャの期限までに領地へ戻れない計算になる。
でも最後の+1日は、リリアたちの歩速にあわせたのだから、『風の腕輪』のある俺が急げばなんとか間に合うんじゃないだろうか。
「大丈夫です。それじゃあ3日後に」
「ああ。任せとけ」
よし、解体はなんとかうまくいきそうだ。
それでホッとして店を出たのだけれど、
「……あれ? いない!?」
そう。
あの僧侶風の男がいなくなっているのである。
「ああ、しまった! そりゃそうだ……」
と俺は頭を抱えた。
そう。
アイツにとっては俺は邪魔者でしかないもんな。
置き去りにするチャンスがあれば、そうするだろう。
でも、俺にとっては異世界の知らない町でリリアだけが頼りなのである。
彼女らとはぐれてしまったら右も左もわからない。
辺りはもう暗く、方々でランプが灯っている。
「あっ、そう言えば『冒険者ギルド』へ行くと言っていたっけ」
俺はそう気づき、手を打った。
早く行けばまだそこにいるかもしれない。
そこで俺はまず解体屋のオヤジに道を尋ねて、『冒険者ギルド』へ行ってみた。
シュン、シュン、シュン……
身のこなし+200で町の人々にギョッとされながらも急いでいったのだが、しかし、リリアはもうそこにはいなかった。
「あとは……たしか、『いつもの店で合流』とも言っていたよな」
そんなふうに思い出した俺は飲食店を一軒一軒回ってみる。
仲間が合流する店と言えば飲み食いするところだろうからな。
でも、町は大きいから飲食店なんか星の数ほどあった。
全部確認していたらキリがない。
「この町に冒険者の集う店とかってありますかね?」
「なんだ、またお前か」
そこで、また解体屋のオヤジにそんなふうに聞く。
彼は眉をひそませてこちらをギロリと睨んだが、すぐにガリガリとメモに書いて教えてくれた。
やっぱ気のいいオヤジだ。
……まあ、オヤジと言っても、俺の実年齢と同じくらいだろうけど。
「ほらよ」
「ありがとうございます!」
「しかし、ガキが行くような店じゃないぞ」
「大丈夫です。俺、もう17歳ですから」
と肉体年齢を言う俺。
「なんだ、成人しているのか」
どうやら、この世界のここらの成人は17歳より下らしい。
「でもまあ気を付けるんだな。冒険者には荒くれもいる」
「はあ。気をつけます」
俺はメモを手に解体屋を出ると、また走っていった。
カランカラン……
そこは、冒険者の集う酒場『エーカー』という店だった。
あまりガラのいい店構えではなく、灰色の壁にゴチャゴチャと落書きがしてあるのをそのままにしているのが不良っぽい。
うっ、さすがにちょっとこわいな……
そう思いながら足を踏み入れた途端、
「なんではぐれちまうんだよ!」
と店内に大声が響くのでビクッとなる。
だが、女の声だったのでもしやと思って声のしたテーブル席の方を見やると、果たしてリリアたちであった。
ビンゴだ!
「あの子は町に来るのは初めてなんだ。きっと困ってるじゃないか」
「……アイツからふらふらと行っちまったんだぜ。もうオレたちと一緒にいたくなかったんじゃないか?」
と、僧侶はウソをつき、魔法使いと武闘家はクックックっと笑っている。
「そ、そんな。仲良くなれたと思ってたのに、本当は嫌だったってことかい……」
と肩を落とすリリア。
俺はそんなリリアの後ろからそーっと近づき、こちらを向く僧侶たちへ向かってニコッと笑いかけてやった。
「あっ……!」
「……っ」
「チッ……」
僧侶たちは俺に気づくと目を見開いて驚いたが、すぐに苦虫を噛み潰したような顔になる。
で、女戦士が彼らの異変に気付き「ん? どうしたんだい?」と怪訝に尋ねるところ、俺は彼女の肩をポンっと叩いた。
「やっ」
「あ、アンタ!」
リリアは瞬間ハッと息を呑み、俺の顔をマジマジと見つめる。
「アンタ、もうアタシたちとは一緒にいたくなかったんじゃなかったのかい?」
「そんなわけないでしょう。せっかく仲良くなれたのに」
と答えると、女戦士の顔にパッと花のような笑顔が咲いた。
「お前、どうしてここが……」
一方、僧侶がそう聞くので、俺はどうしてこの店へ至ったのかというところを説明してあげると、リリアは「すごいんだねえ」とたいへん感心していた。
「でもアンタ、どうしてキースについて行かずにどこかへ行っちまったんだい?」
「いや、道が混んでいて、はぐれてしまったんですよ。ねえ、キースさん」
「あ……ああ……まあな」
僧侶は居所が悪そうに目をそらす他なさそうだった。
「なんにせよ会えてよかったよう。今日はアタシたちのおごりだからさ。たあんと食べて、飲んでおくれ」




