第6話 女戦士パーティ
「……ウ?」
俺が足を踏み出すとオーク・メイジは『まだ残っていたか』というふうに肩越しにこちらを一瞥する。
しかし、もう面倒だと思ったのか、ヤツは女戦士をかついだまま大口を開け、
「ウウウウウウ!!!!」
と、威嚇するように雄叫びをあげた。
こ、怖え……
本格的な魔獣の重厚な威圧感。
この間まで現代日本で小市民やってた俺にはかなりキツい。
自分の戦意がみるみる萎んでいくのを感じた。
「な、なんだい坊や!? 早く逃げな!!」
一方、オーク・メイジにかつがれた女戦士は赤い髪を振り乱して叫ぶ。
「コイツはただのオークじゃないんだ。殺されちまうよ!」
こっちの心配をしてる。
どうやら気骨の女性なようだ。
どうにか風の腕輪の素早さで彼女だけでも助けたいと思うけど……
……ガクガクガク
でも、本能的に足が震えて動かない。
「ウッウッウッ(笑)」
やがて俺が立ちすくんだままでいると、オーク・メイジは女の鍛え上げられた尻をなで回ししつつ背を向けた。
「くっ……」
女戦士は気の強そうな唇を噛んで、悔しそうに太ももを内股にモジモジさせる他ない。
「がああああ!!!」
そこで、とっさに俺はそんなふうに吠えてみせたんだ。
敵の真似だったが、大きな声を出したら少し体が楽になった気がする。
「ウッ!?……ウウウウ」
そして、俺に敵意があることを察知してか、オーク・メイジは面倒くさそうに振り返って、女戦士を地面へ下ろした。
そして、瞬間。
ドドドドッ……!
敵は猛烈な勢いでこちらへタックルしてきたのだ。
えっ、速い?
普通のオークとはスピードも全然違う。
いざとなれば『風の腕輪』の力で避けれるという算段があって気張ったのに……
「ぎっ!」
避けきれないと思って、俺は(半ばパニック状態で)やみくもに銅の剣を振った。
ボコオオ!!
あ、剣が折れた……という感覚とほぼ同時に、目の前ではオーク・メイジがふわっと浮いたように見える。
で、それは目の錯覚ではなく、次の瞬間、敵の巨体はまるでサッカーボールのシュートのようにライナーで吹っ飛んで行き、森の木を何本も何本も倒しつつ、ずっと彼方で土埃をあげて倒れたのだった。
「……は?」
ちょっと意味がわからない。
折れた剣の柄を持ってポカーンとしていたのだけれど、ふと、あちらで目を丸くしている女戦士と目が合う。
「坊や!……すごく強いんだねえ!」
そう言って駆け寄ると、女戦士はぎゅむっと俺を抱きしめた。
女性とは思えないパワーにびっくりして俺は正気を取り戻したが、女性らしい甘い香りと、ブラジャーのような鎧の乳房がぷりんぷりんいうので硬直せざるをえない。
「えっ、あの、その」
「ひぐっ! ううう……」
しかし、俺が戸惑っていると、女戦士は途端に痛みを思い出したかのようにお腹を押さえてその場で膝をついてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
そうだ。
この女性、ダメージを受けているんだった。
「ちょ、ちょっと待っててください」
そう言って、俺はアイテムBOXから薬草(上)×5を取り出す。
薬草は患部にかざし消費するとダメージを回復してくれるはずだった。
薬草(上)を使うのは初めてだけれど、使い方は同じでいいんじゃないかな。
パアアアアア☆☆☆
俺は女戦士のパンツのような鎧の上の隆起した腹筋へ薬草(上)をかざしてみた。
「ど、どう?」
「ううう……あれ? おかしいねえ。ちっとも痛くないや」
「ほっ、よかった。念のためもう一回回復しておきますか?」
「ちょ、ちょっと、それもしかして『薬草(上)』かい?」
女戦士はぱっちりとした目をぱちぱち瞬かせて言った。
「え、そうだけど」
「坊や、ずいぶん高価なものを持っているんだねえ」
坊や坊やとあきらかに年下の女性(おそらく20代中盤だろう)がそう言うのを怪訝に思ったが、そう言えば俺の肉体年齢は17歳になっているのだったと思い出す。
「そんなことより、他に痛むところはありませんか?」
そう言ってまた薬草(上)をかざそうとすると女戦士はあわてて「も、もう元気だよ!」と叫ぶ。
「ほら! この通り。ねっ?」
そう言って腕を折りたたんで力こぶを誇ると、勇ましい乳房が元気よく揺れた。
「それより……」
と女戦士は視線を俺の後ろへやる。
振り返ると、オーク・メイジにやられた彼女の仲間たちが倒れていた。
「あっ、そうか! 治してあげないと」
そう叫んで、俺は魔法を使っていた男と、小太りな武闘家と、僧侶風の男へ薬草(上)を使う。
彼らは女戦士より重症で、より多くの薬草(上)と薬草を要した。
「ううう……」
「……一体」
「ありゃりゃ、オーク・メイジがいない??」
小太りの武闘家がそう気づく。
「ふふーん、この坊やが倒してくれたのさ」
「「「コイツが?」」」
「ああ、この子すごく強いんだよ!」
女戦士はそう笑いながら俺の肩をガシッと組む。
ずいぶん密になってくるが、彼女の肌はとても健康的でぴたぴたとして気持ちいいし、悪い気はしない。
「むっ……」
「ぺっ……」
「……チッ」
しかし、これに男3人の表情がムスッとするのを俺は見逃さなかった。
ヤバ。
どうやらみんなこの女戦士のことが好きらしい。
「こんなガキにそんなことができるとは思わねえが」
と、魔法使いの男が言う。
さすがに感じが悪い。
「……俺、ガキって歳じゃないです。もう17ですから」
実年齢を言っても信じてもらえないと思ったので、そう返しておく。
「そうだよ! 坊やはもう大人さ。命の恩人に失礼じゃないか」
そう言う彼女も『坊や』というので、俺は苦笑いした。
◇ ◇ ◇
それから俺はオーク・メイジの躯を確認しに行った。
魔石1000だから、絶対に回収しておきたい。
「おお……」
「ほ、本当にオーク・メイジが」
「信じられねえ」
後ろについて来た冒険者たちが口々にそう言う。
しかし、かなり躯は無残だったので、俺はすぐにそいつをアイテムBOXへしまった。
「ちょ、ちょいと! オーク・メイジが消えたよ?」
「はあ、アイテムBOXへしまっただけですけど」
女戦士があわてるのに答えると、冒険者たちは顔を見合わせた。
「アンタ、アイテムBOXまで持っているなんて……一体何者なんだい?」
あ、ちょっとヤバかったか?
とは思ったが、何を隠すべきか、隠すべきでないかを考えるとキリがないので、堂々としていようと思った。
それよりこの際、彼らに聞いておきたいことがある。
「別にただの森育ちのガキですよ。でも、俺。解体ができないんですよね。だから魔獣系モンスターから魔石が取り出せなくて……」
「解体ならウチのキースが得意だよ」
と女戦士は僧侶の男の方を見て言った。
「ちょ、ちょっと待ってくれよリリア。オレは確かに僧侶だし、一応は解体もできる。しかし、オーク・メイジなんて強い魔物を解体したことはない。オレには無理だよ」
「なんだい。はなっから無理って……情けないねえ」
女戦士はリリアという名前なのか。
彼女はため息をついて尋ねた。
「じゃあ一体。オーク・メイジの解体はどうすりゃいいんだい?」
「町の解体屋に持って行って頼めば確実だろうよ。そのガキはアイテムBOXを持っているんだろ? 簡単なことじゃねえか」
そうは言われても俺はこの世界で町に行ったことがない。
そんなことを説明するわけにはいかないので、「森育ちで町へ行ったことがなくて……」というふうに話を作った。
「へえ! 今時めずらしい子だねえ」
「はあ。田舎者なんです」
と頭をポリポリかく俺。
「じゃあ、よかったら私たちと一緒に町へ行かないかい?」
「えっ?」
「この先を丸一日歩くと、私たちが泊まってるレベッカの町というところがあるのさ。解体屋もあるし、人もいっぱいいるよ。行ってみたいだろ?」
その誘いはとてもありがたく、俺は頭を下げてお願いした。
「よろしくお願いします」
「はっはっは! 任せなって」
と女戦士はまたすごい力で俺の肩をガシッと組んだ。
ただし、他の男3人の顔はたいへん不満そうだったけれど……




