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龍嬢  作者: 北村タマオ
第1章 黎明篇
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0010 難き途 その3

「全員解雇。失業手当は出す。あとは民間で仕事をすればいい」

 日本国防軍空軍部門参謀総長の鷲鉄奈央が、技術部門にて旧陸海軍から選別して雇った技術者に1つの通達を出していた。これから日本の空を飛ぶ新しい戦う翼を造ろうと意気込んでいた中での、この仕打ち。まさしく外道と言うべきであるが、次に出てきた言葉は、過去の痛い部分を突かれた形であった。

「旧陸海軍にて設計、採用された航空機は、航空機とはなんぞやと言う根本的な問を誤魔化している様に感じる。力不足の非力なエンジンしか造れない中で、これを補う為に無茶な設計を行い、軍からの過分な要求を断りきれずに、無茶苦茶な設計を行い、多くのパイロットを死地に追い込んだ事は真実である」

 奈央はそこまで説明した後で、こうも続けた。

「だからこそ、海外から技術を学んできて、航空機の基礎・基本から学び直してくるしかない。その為の海外留学の費用と手筈は整えたから、一旦は解雇して、全員学んできた上で再雇用する。技術力は確かにある。環境が伴わなかっただけよ。だから、海外の優秀な技術を学んできて、10年後には日本の空を守る翼を造ってほしい。国産で、大型で、強力なエンジンと頑丈な機体を持つ、戦う為に産まれてきた防空戦闘機を造るのよ」

 AL1947年の正月明けから、日本空軍に航空機を納品する予定の航空機メーカーの技師達は、根こそぎ海外留学に送り出されていった。海軍の護衛空母にて使う艦載機の技術も鍛えなければならない。戦略空軍でもなければ戦術空軍でもない、防空空軍とでも呼べる新生日本空軍にとって、戦闘機は自らのアイデンティティそのものである。あのメッサーシュミットMe262、タンクTa152に匹敵する戦闘機を造れる国にするのだ。零戦だの隼だの疾風だの紫電改だので、天狗になるのは1000年早い。正直、アメリカ海軍が艦載機の技術を教えるのを渋っているが、お情けで提供されたF4Uコルセア相手にも、単純な性能だけ見れば、辛勝かほぼ互角と言った所だ。

 防空空軍。侵略行為としての戦争を禁じる憲法9条のもとで、存続を許された軍組織から産まれた日本空軍は、双発だろうと四発だろうと、戦略爆撃機なんてものは造れない。仮に造ったとして、量産なんて出来ないから、設計した所で意味はない。

 戦闘機とは何か。戦闘機とは、戦う為だけに産まれてきた、言うなれば競走馬である。人を乗せて走る為だけに産まれてきた存在である。戦闘機こそが、その国の空軍を象徴する兵器である。その戦闘機がちんちくりんでは、抑止力として、そして有事の際の戦闘に置いて役に立たない。金と時間の無駄である。

 技術力はある。才能もある。あとは環境だ。工業力を育てて、国力を鍛えていけば、技術力と才能を発揮できる。日の丸ジェット戦闘機が、あるいは大型戦闘機が、日本の空を飛ぶ光景を鷲鉄奈央の思い描く未来の空軍である。

 ドイツの超科学も学ぶべきであるが、アメリカ合衆国やイギリス連邦の実用主義や技術力も学ぶべきだ。ここから先、絶対に必要になる。日本の貧相な作りの航空機では、ソ連空軍には勝てない。このままでは、旧大日本帝国方式では駄目だ。もっと速く、もっと頑丈で、もっと扱いやすい、堅実でタフで長く使える戦闘機が、奈央の理想とする戦闘機である。

 1年や2年で造れるとは思えない。10年はかかるだろう。鷲鉄奈央、一世一代の荒療治であった。


 AL1947年の春、火鳥朱根は夫と共に、その大爆発を眺めていた。Jロケット1号と名付けられた、今の日本の宇宙開発の技術力を推し量るべく許された予算の範囲内にて造った、小さいロケットは、空へ飛び立つ前に大爆発していた。

「花火にしてはお金かかったわね」

 朱根の言葉が、夫の胸に刺さるものの、すかさずにフォローを入れる。

「明日には、残骸を集めて、分析して、反省会ね。今日は取り敢えず、徹夜の疲れをとりましょう」

 とは言われても、若きロケット技師達の落胆ぶりは、フォローしきれなかった。自分達の技術のレベルをまざまざと見せつけられていた。こんな小さいロケットでも、飛ばせられないのだ。自分達の力不足を、一番わかりやすく示されて、誰も彼もが肩をガックシおとしていた。

 まだまだ、学ばなければならない。もうこんな石ころの上で殺し合いをする様な時代を終わらせなければならないのだ。宇宙開発は、その未来の先鞭を担う事業である。宇宙へ行ければ、何でも出来る。

 世界のロケット技師の3分の2は、皆同じ事を考えているに違いない。そして、先に宇宙に辿り着いた者が、この競争に勝つ事が出来る。残り3分の1は、同じロケットでも、宇宙へ行くのではなく、兵器としてのロケットを開発しているのだ。

 困難な途ではあるが、ここを走り抜ければ、次の世代に託せるだけの技術力を遺せる。最後のゴールは、火星なのだ。月に行く程度でヒーヒー言っている場合ではない。

 実験場に選んだ旧軍の飛行場の跡地に隣接する宿屋にて、自棄酒飲んで、酒の肴に久々の魚の刺身を食べて、後は1人酔いつぶれて、もう1人酔いつぶれて、更に1人酔いつぶれて、最後の1人に残ったのが、火鳥朱根であった。技師達を布団まで運んでいって、自分は1人で、ちびちびと飲みながら、宿屋の窓から夜空を見上げる。

 いつか、あの星空の世界に飛び立てる日が来るのであろうか。それが自分達の生きている間は無理なのは分かる。もうこんな石ころの上で殺し合う余裕は無いのだ。いつかは出ていかなければならない。火星まで行って、生き延びられるのであれは、どんな世界でも、どんな星でも生きていける。あの夜空の星の向こうには、無限の開拓地であるのだ。


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