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絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


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第96話 帳簿の神様と、角の子

雨の日だった。


外仕事が流れ、掲示板に残った依頼は、見覚えのある一枚きり。


『サンサーラ教会より。炊き出しと雑務の手伝い。報酬、銅貨40枚と昼食付き』


「懐かしいわね、この依頼」


「ん。とった」


「……教会、か」


ヴィクの足が、一瞬、止まった。


魔族と、教会。大聖堂の尖塔を、大陸でいちばん警戒していた我が眷属である。フォルテの小さな教会とはいえ、思うところは、あるらしい。


「……無理には、誘わん。留守番でも」


「いや。行く」


ヴィクは、フードに手をかけ——被らずに、下ろした。


「いつかは、通る道だ。……それに、興味もある。“帳簿の神様”に。お前たちを、こっちに送った張本人なんだろ」


——教会は、変わらず、こぢんまりと温かかった。


出迎えたシスターは、ヴィクの角を見て、まあ、と目を丸くした。丸くして、それだけ、だった。


「あらあら、あなたが噂の。ようこそ、角のお嬢さん。はい、これ、エプロン。今日は芋の皮むきからお願いね」


「……え。それ、だけ?」


「?他に、何か?」


「い、いや、その……魔族が、教会に、入っていいのか、とか」


シスターは、ころころと笑った。


「うちの神様はね、“帳簿の神様”ですよ。記録されるのは、何をしたか、だけ。角の有る無しの欄なんて、帳簿には、ありませんよ」


「「「「(シスター、いいこと言う)」」」」


「ほらほら、おしゃべりより芋!今日は寒いから、列が長いんです!」


——炊き出しは、いつも通り、俺たちの独壇場だった。


ひなた聖女の配膳、沙耶の在庫整理、隼人の薪割り。俺は例によって子供たちの玩具になり、そして、ヴィクは。


「つののおねえちゃんだ!!」


「ほんものだ!!コルンむらの、えいゆうの!!」


「さわっていい!?つの!!」


子供たちに、囲まれていた。フォルテの子供たちの間で、「角のお姉ちゃん」は、もはや英雄譚の登場人物である。


「さ、触るのは、一人ずつ!!並べ!!列!!」


「(監視長、子供の扱いが板についてきたわね)」


「(講座で鍛えられたからな、先生は)」


列の常連たちも、角の給仕係に、それぞれの流儀で接した。


「嬢ちゃん、椀、もういっぱい頼むわ。……ああ、角は別に、どうでもええ。芋が熱けりゃ、それでええ」


「儂の若い頃はな、北の山にも行商に行ったもんじゃ。角の衆とも、取引したぞ。義理堅い連中じゃった」


「え……あ、会ったこと、あるのか。私の、一族と」


「さて、どこの一族かは知らんがの。まけてくれた分は、五十年経っても、覚えとるもんじゃ」


ヴィクは、じいさまの椀に、芋を、ひとつ多く盛った。五十年前の値引きの、利子である。


——昼過ぎ。雨上がりの中庭で、また、あの歌が始まった。


女の子たちの、輪遊び。むすんで、むすんで、なないろのいと。


ヴィクは、芋の皮むきの手を止めて、じっと、聞き入っていた。


と、歌の途中で、節が、変わった。


「つのの、おねえちゃんは、つよいぞー」


「むらの、こどもを、まもったぞー」


「かみは、むらさき、めは、きんいろ」


「こわく、ないぞー、やさしいぞー」


「「「「…………」」」」


子供たちが、勝手に、新しい節を足していた。古い遊び歌の後ろに、出来立ての英雄譚を、継ぎ足して。


ヴィクは、芋を持ったまま、固まっていた。


「……シスター。あれは」


「あらあら。……歌って、ああやって育つんですねえ。私も初めて見ました」


シスターは、目を細めた。


「古い歌はね、器なんですよ。時代ごとに、その時いちばん伝えたいものを、継ぎ足して運んでいく。……百年後の子供たちは、あの節も“昔からある歌”だと思って歌うんでしょうね」


「百年後」


「ええ。あなたのことが、この土地の歌に、なったんです。おめでとう、角のお嬢さん」


ヴィクは、俯いた。肩が、小さく震えて、それから、袖で、ぐい、と目元を拭いた。


「……っ、芋!!芋の続きを、する!!」


「(照れたわね)」


「(照れたな)」


——帰り際。


ヴィクは、一人で、祭壇のサンサーラ像の前に立った。帳簿を抱えた、目を閉じた立像の前に。


俺は、少し離れて、待った。聞くつもりはなかったが、静かな聖堂で、小さな声は、届いてしまった。


「……あんたが、こいつらを送り込んだ神様か。……変な連中を、送り込んだもんだ。ほんとに、変な——」


声が、少しだけ、湿った。


「ありがとう、って。……言っておく。一応、な。帳簿に、つけておけよ。“角の子が、礼を言った”って。……忘れるなよ」


像は、目を閉じたまま、何も言わなかった。


だが、帰り道、ヴィクの表情は、来た時より、ずっと軽かった。


「なあ。神様の帳簿って、ほんとに全部つけてると思うか?」


「つけてるだろうな。あの神は、雑だが、記録だけは、確かだ」


なにせ、俺たちの一万四千二十件を、数え切った神である。角の子の礼のひとつくらい、間違いなく、載っている。


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