第92話 女子会は壁の向こう
「女子会、開催よ」
ロゼ姉御の宣言により、その夜、我が家の広間は「女子専用区画」となった。参加者、姉御・沙耶・ひなた・ヴィク。菓子、山盛り(姉御持参)。酒、少々(姉御持参)。
そして、男二名は、台所に、追放された。
追放の瞬間の攻防を、記録しておく。
「待たれよ姉御!!せめて給仕役として、俺を会場に——」
「女子会に紳士は入れませーん」
「では質問!!湯守イタチは!?」
「イタチはいいの。かわいいから」
「基準が理不尽!!」
「イタチ、あんたより聞き上手だもの」
「聞き上手対決でイタチに負けた!?」
かくして扉は閉ざされ、俺と隼人は、茶碗を洗う係になった。
「壁一枚向こうで女子会。……なあ、圭吾。これって、あれだよな。拷問だよな」
「聞くな。聞いてはならん。紳士の誇りに懸けて——」
『で!!角の子はさ、結局、紳士くんのこと、どう思ってんのよ』
「「…………」」
台所の男二名、静止。
『ぶッ!?な、ななな、なんで、そこに、圭吾が出てくるんだ!!』
『出てくるでしょうよ。あんた、あいつの話する時だけ、声が半音上がるもの』
『眼鏡ちゃん、鋭い。あたしもそれ思ってた』
『あ、上がってない!!断じて!!だいたい、あいつは私を“眷属”呼ばわりする変な奴で、じろじろ見るし、口上は長いし、詮索しないし、菓子をくれるし、追いかけてくるし』
『後半、悪口じゃなくなってるわよ』
『わ、悪口だ!!全部悪口だ!!』
「(……なあ、圭吾。息してるか)」
「(紳士は、盗み聞きをしない。紳士は、盗み聞きを、しない……)」
「(呪文唱えながら耳が壁に向かってんだよ、お前)」
『ちなみに、ん。ヴィクは、けーごのこと、すき?』
『ぶーーッッ!!(茶を噴く音)ひ、ひなた、お前まで!!な、なんでそういう話に!!』
『じょしかいって、そういうはなしをするところって、コタが言ってた』
『情報源がコタなの、味わい深いわね』
『と、とにかく!!私は、その、恩義と、監視業務と、腐れ縁二号としての、義理が……す、好きとかそういう、次元の話では……』
『はいはい。……ま、その調子だと、自覚はまだまだ先ねえ』
『じかく?なんの?』
『大きくなったら分かるのよ、大食い姫』
「(じ、自覚って、なんだ、圭吾。何の自覚だ)」
「(し、知らん。俺に聞くな。……なぜか俺も、心拍が、変だ)」
「(お前も大概、自覚がねえよなあ……)」
——話題は、転がった。
『そういう眼鏡ちゃんはどうなのよ。あんた、あの紳士くんと、幼馴染なんでしょ』
『はあ?あれを?……ふ、ふふ。姉御、正気?あれはね、視線が変態で、口を開けば中二で、財布は万年空で、風呂敷を装備と言い張る生き物よ。恋愛対象って単語を使うだけ、経費の無駄だわ』
『言い切ったわねえ、眼鏡ちゃん』
『事実の列挙よ。減点方式なら大陸最下位を争える男よ、あれは』
『ふうん?……ま、いいけどさ。じゃ、代わりに聞くけど。あんたの魔法の話。“素が出ると、化ける”んだって?』
『……よく、ご存知で』
『ミアちゃんから文が来たのよ。王都の練習会の件。……ねえ、眼鏡ちゃん。あたしの持論、言っていい?あんたの“品行方正”はさ、鎧なのよ。角の子のフードと、同じ』
『…………』
『鎧はさ、脱げって言われて脱げるもんじゃない。でも、脱いでも大丈夫な場所が増えると、勝手に軽くなってく。……角の子が、いい見本でしょ』
『わ、私を教材にするな』
『……ふふ。そうね。……いい見本だわ、ほんと』
「(……姉御、いい人だな)」
「(いい女、って言いな、だそうだ)」
——散会後。
台所の茶葉を取りに来た沙耶が、戸口で、じと、と俺たちを見た。
「で。何時間、そこに居たの」
「「ぐ」」
「壁、薄いのよね、私たちの家。……あんたたちの“紳士は盗み聞きをしない”の呪文、三回聞こえたわよ」
「「すみませんでした」」
「罰として、明日の女子会二次会(甘味屋)の会計は、男性陣持ちです」
「「はい」」
なお、この夜の会話の詳細を、俺と隼人は墓まで持っていくことにした。心拍の変さの理由も、当分、棚に上げておくことにした。
棚は、いつか、降ろす日が来る。……たぶん、ずっと先に。




