↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/172

第88話 北の谷へ、五人と一党

出発は、二日後の早朝と決まった。


編成は、《腐れ縁》五名と、《酔いどれ猫》四名。ギルドの正式依頼「北の谷・魔物集結の調査および対処」。後詰めに《岩割り》兄弟が街道の中継点に待機し、コルン村には先触れを出した。前回の防衛戦の経験が、そのまま布陣になっている。


「で、作戦会議なんだけどさ」


前夜、我が家の円卓に、ロゼ姉御が当然の顔で混ざっていた(手土産の酒で入場権を買ったらしい。経理が受理した)。


「谷の地形は、こう。入り口が狭くて、奥が広い。群れは奥の窪地に溜まってる。……で、俺たちの偵察係が見た、気になるもんがこれ」


姉御が、地図の窪地の奥に、印を描いた。


「窪地のどん詰まりにさ、“黒い水たまり”があんのよ。どぶ川みたいな色の。魔物ども、あれを囲んで、じっとしてやがった」


「「「「淀み」」」」


「あんたらの言う、例のあれかい。……しかもさ、水たまりん中から、時々、“ぽこ”って、泡みたいなもんが浮くのよ。泡が割れると、近くの魔物が一匹、身震いして、目の色が濁る」


円卓が、静まった。


「……ヴィク。今の、つまり」


「淀みが、“芯”を産んでる」


ヴィクの声は、短く、硬かった。


「コルン村で砕いた芯は、どこかで作られて、群れに“植えられた”ものだった。……その工房が、あの谷だ。放っておけば、芯持ちの群れが、何度でも湧く。フォルテどころか、この地方全部の問題になる」


「消せるのか、その工房」


「大きさによる。……姉御の話の規模なら、私一人じゃ、無理だ。ヤナギ瀬の水車のやつの、十倍はある」


「一人じゃ無理。なら?」


ヴィクは、ちら、と隣を見た。視線の先には、芋餅を頬張る、俺たちの大砲である。


「二人なら、たぶん」


「ん。いっしょに、どーん、だね」


「合同稽古の成果、初陣ってわけね。……ちなみに、費用は」


「ひなたの食費、大盛りで見ておけ。あと私の甘いのも」


「経理として承認します。命の値段より安いもの」


——翌々日。北の街道。


九人の行軍は、賑やかだった。《酔いどれ猫》の面々(盾のデガン、弓のミロ、投擲のサラ)は姉御に似て陽気だった。デガンは一日三語しか喋らない巨漢、ミロは軽口の割に三歩に一度つまずく弓手、サラは口の悪い方の世話焼きである。道中はもっぱら、俺たちの噂話の答え合わせ大会になった。


「なあなあ、パンで狼落とすって、ほんとか?」


「ん。みせる?ざんだん、じゅうご」


「ほんとに携行してんのかよ!!」


「紳士くんはさ、ほんとに視えるの?あたしの——」


「姉御、その遊びは道中禁止です!!俺の紳士力が保たん!!」


「あっはっは!!減るもんじゃなし!!」


「減る!!精神力が減る!!」


ヴィクは、隊列の真ん中を歩いていた。フードは、下ろしたまま。すれ違う行商人が角を二度見しても、もう、足は止まらなかった。……止まらなくなるまでに、ずいぶんかかった。長いか短いかは、知らない。


「時に、我が眷属よ」


「ん?」


「明日の“どーん”の詠唱。あれは、俺も覚えた方がいいのか?ほら、万一の詠唱補助というか、その、共同詠唱的な」


「……お前、ただ言いたいだけだろ。私の一族の詠唱を」


「言いたい!!だってあれ、格好いいだろ!!実話だし!!」


「実話だからこそ、気安く言うな!!……ま、まあ……そのうち、気が向いたら、教えなくも、ない、けど」


「(照れたわね)」


「(照れたな)」


「て、照れてない!!」


——夕刻。中継点で《岩割り》と合流し、野営になった。


焚き火を囲んで、九人+二人。ひなたの鍋が回り、姉御の酒が回り、ドムとガレンの油論争が三巡した。


宴の途中、姉御が、とんでもない遊びを始めた。


「はい、注目〜。今から“紳士くん我慢大会”やりまーす。あたしが革鎧の留め具を、上からひとつずつ——」


「やめろぉぉ!!野営地で何を開幕する気だ!!」


「外すのは肩当てよ?何を想像したの、紳士くん」


「〜〜〜っっ、姉御ォォ!!」


「あっはっは!!二連敗!!」


「(ん。けいごの“がまん”、よわい)」


「(留め具くんは目を逸らして正解だったわね。……逸らした先の焚き火をずっと睨んでるけど)」


俺たちの男性陣の敗北を肴に、姉御の酒は進み、ドムとガレンの油論争は四巡目に入った。賑やかな夜だった。明日、戦だというのに——いや、明日戦だからこそ、である。


その輪から少し離れて、俺とヴィクは、見張りの岩に座っていた。定位置の、野営版である。


「……明日、うまくいくと思うか」


「五分五分、と言いたいが、六分四分で、いける。稽古の時のお前たちの“どーん”は、悪くなかった」


「六分の根拠は」


「私が、隣で撃つのが、ひなただからだ」


ヴィクは、焚き火の方を見た。鍋の湯気の向こうで、大食い姫が四杯目をよそっていた。


「あいつの魔力は、底なしで、まっすぐで……“怖くない”。隣に立つと、分かる。……あんな魔力、私は、初めてだ」


「ほう」


「私の一族の魔力は、その、少し……“重い”んだ。歴史とか、役目とか、そういうのが染みてて。……でもあいつのは、ただ“おいしいものが好き”でできてる。隣に居ると、私のまで、軽くなる」


「……なるほどな。良いコンビだ」


「こ、コンビじゃない。臨時の、共同砲撃班だ」


「はいはい」


夜空の北に、灰色の帯。明日は、あの下へ行く。


だが、今夜の焚き火は、暖かかった。それで、十分である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。