第67話 四組の聞き込み
聞き込みは、二人一組で、一日がかりだった。
解消届を出した四組。九人。全員が、フォルテの現役冒険者である。夕方、我が家の円卓に、結果が持ち寄られた。
なお、聞き込みの手法は、組ごとに個性が出た。
沙耶と隼人の組は、「金の相談」を装った。解散したら装備の売値はどうなるか、という体裁で近づき、雑談のふりをして核心を掘る。プロの手口である。
俺とひなたの組は、こうだった。
「こんにちは!!我らは“縁の巡回員”!!貴殿の絆の健康診断に参上した!!」
「なにそれ、怪しっ」
「ん。あやしくない。おかしもらえる」
「もらえるの!?診断って何すんの?」
——という手口で、九人中五人に通用した。フォルテの治安と菓子の力である。ちなみに残り四人には通用せず、憲兵を呼ばれかけた。世間は正しい。
「報告するわよ。一組目、《双月》。姉妹の二人組。解散理由“なんとなく”。十日前、東街道で“白い巡礼”に会って、祝福を受けてる」
「二組目、《鉄鍋会》。飯仲間から始まった三人組。理由“なんとなく”。八日前、南門の外で白い巡礼。祝福あり」
「三組目、《夜明け鳥》。幼馴染の二人。理由“なんとなく”。一週間前、市場で白い巡礼。祝福あり」
「四組目が《岩割り》の兄弟。東街道。祝福あり。全組、一致ね」
四分の四。もう、偶然ではない。
「圭吾の眼の方は?」
「九人全員、視た。全員に、同じ特記が出た。“絆・該当なし”。それと、もうひとつ、分かったことがある」
俺は、円卓に、街の地図を広げた。祝福の場所に、印を付けていく。東街道。南門。市場。東街道。
「目撃場所が、全部“街の縁”だ。中心部には、入ってきてない。……まるで、外側から、ゆっくり回り込んでるみたいに」
「羊の群れを回る、犬みたいね」
「……犬なら、まだいい。あれは、たぶん」
ヴィクが、地図の印を、じっと見た。
「——刈り入れ前の、畑の見回りだ」
円卓が、静かになった。
「……ひなた。匂いの方は、どうだった」
「ん。へんなの、みつけた」
ひなたは、地図の東街道の印を、ちいさな指で押さえた。
「きのう、ここ、とおった。そのとき、“におわない場所”が、あった」
「匂わない、場所?」
「みちの、いっかしょだけ。ごはんのにおいも、くさのにおいも、ひとのにおいも、ぜんぶ、うすい。……とおりすぎたら、もどった」
「……白い巡礼が“立ってた場所”か。匂いのない奴が長く居た場所は、匂いが薄れる、と」
探知係の鼻は、奴の足跡まで拾えるらしい。心強い。心強いが、つまり、確実に、居るのだ。この街の縁を、ゆっくり回っている何かが。
「で、これからの話よ。……ギルドには、報告するの?“巡礼が絆を消して回ってます”って?」
「報告は、する。支部長は信じてくれるだろう。……だが、問題はその先だ。仮に信じても、何ができる?相手は“にこにこ拝んでくるだけ”の巡礼だぞ。罪状がない。憲兵は動けん。追い払う理由すら、作れん」
「じゃあ、どうするのよ」
「決まってる。俺たちで、調べる。会って、視て、話す。いつもの流儀だ」
「会うって、あんた……」
「幸い、居場所の見当はつく。街の縁を、外回りで回ってるんだ。今の速度なら、次は、北門の外。二、三日のうちだ」
会議の空気が、引き締まった。
と、その時。円卓の隅で、ずっと黙っていたヴィクが、口を開いた。
「……ひとつ、言っておくことが、ある」
「ん?」
「白い巡礼と、会うなら、僕は、同行できない」
「「「「…………」」」」
「灰色は、僕を“見た”。あの視線は、忘れられてない、と思う。白いのが灰色の仲間なら……僕が居る場所に、あれを近づけるのは、まずい。僕が、あいつらの“目当て”の一つかもしれない以上」
正論だった。正論だったが、俺たちは、顔を見合わせた。
「……つまり、あれか。お前は、留守番」
「そうだ」
「一人で」
「そ、そうだ。仕方ないだろ」
「「「「(絶対、勝手に動くやつだ)」」」」
「なぜ全員でこっちを見る!!」
「日頃の行いよ」
「僕の行いのどこに!?」
「毎晩黙って家を抜けて、見張りに行ってた前科は?」
「ぐ……」
結論として、ヴィクの「留守番」には、コタとブロム棟梁と湯守イタチ(貸出許可済み)という、鉄壁の(そして本人に不満の多い)布陣が付くことになった。
「い、イタチまで!?僕の監視に!?」
「監視長が監視される日が来たな」
「屈辱だ!!」
——夜。屋根の上。
定位置に並んで、俺たちは北の空を見た。今夜の色は、藍。ただ、地平の際に、ほんのわずかに、濁った帯がある気がした。気のせいの範囲、で済むうちに、書き留めておく。
「なあ、圭吾。……本当に、会う気か。あれに」
「ああ」
「怖くないのか。三十年を、五日で刈る相手だぞ」
「怖いさ。……だがな、ヴィク。俺は、あの酒場のドムさんの顔が、忘れられん」
「……顔?」
「三十年の弟との縁を刈られて、“清々してる”と笑った顔だ。あれはな、傷ですらないんだ。傷なら、痛む。痛めば、気づける。でもあれは、痛みごと、持っていかれてる」
夜風が、二つのフードの間を抜けた。
「——ああいうのはな。腹が、立つんだよ。静かに、深く、な」
「…………そうか」
「そうだ。……で、腹の立つ相手に俺たちがやることは、昔から決まってる」
「正面から、だろ」
「よく分かってきたじゃないか、我が眷属よ」
二、三日のうちに、白い巡礼と、初対面である。




