↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/172

第64話 ただいま、フォルテ

帰りの街道は、拍子抜けするほど、平和だった。


男爵領の検問は携行証明で素通りし、赤鼻団の谷では「警備の詰所」が建ちかけていて(あの頭目が、揃いの制服で手を振ってきた。似合っていなかったが、いい顔をしていた)、宿場の看板娘さんは俺の顔を見るなり襟首の位置を確認した。風評である。


そして、六日目の夕方。


「見えた」


夕日の向こうに、見慣れた城壁が現れた。


フォルテ。俺たちの、最初の街。


「「「「ただいまー……」」」」


「おかえり!!《腐れ縁》!!」


東門で、いつもの門番さんが、手を挙げて迎えてくれた。


「王都はどうだった」


「何も起きませんでした(王盤の沈黙と大司教との面会と正体不明の灰色を除く)」


「今日の括弧、長くないか!?」


——家は、無事だった。


いや、無事どころではなかった。ブロム棟梁は約束通り屋根を点検し(ついでに庭に石畳の小道が増えていた。「暇だったんでな!ガッハッハ!」)、コタは冷蔵庫を守り抜き(中身は空のままピカピカに磨かれていた)、観測当番の新人三人組は、日誌を一日も欠かさずつけていた。


「おかえりなさい、皆さん!!観測日誌、全部つけました!!“朝飯の味”の欄も!!」


「うむ。……どれどれ。“靄、異常なし。屋台のスープ、うすい”……よし、合格だ」


「監視長さんに合格もらった!!」


ギルドに顔を出すと、リタさんが受付から飛び出してきた。


「おかえりなさい!!ああ、もう、無事で……で!?胃薬は!?」


「挨拶より先ですか」


「先です!!」


四瓶(おまけ込み)を渡すと、リタさんはその場で一瓶の封を切った。台帳を見れば、理由は分かった。留守中のうち宛ての問い合わせ・依頼・紹介状の山が、受付の棚をひとつ、占領していた。Cランク昇級の報は、俺たちより早く着いていたのである。


「今夜は詮索しません!でも明日、王都の話、全部聞かせてくださいね!全部です!!」


「善処します」


夜は、ギルドの酒場が、勝手に祝勝会になった。


グスタフさんが樽を開け、ヘクトルさんが「ふん、Cランクごときで」と言いながら誰より早く来ており(土産の「配る用」の菓子は、無言で受け取られた)、じいさんは眼鏡拭きを検分して「上物ですじゃ」と目を細め、コタはひなたの王都食レポを正座で拝聴していた。


「で、だ」


宴のあと、支部長室に、俺たちは呼ばれた。


グスタフさんとヘクトルさん。扉は、閉められた。祝いの顔は、そこには、なかった。


「王都の“土産話”、聞かせろ。……リタに話せん方のやつをだ」


俺たちは、話した。写本のこと。北の記憶の欠番のこと。そして——灰色の巡礼のこと。


聞き終えた支部長は、腕を組んで、長いこと唸った。


「……灰色の外套、か。実はな、こっちでも、妙な話がひとつある」


「妙な話?」


「お前らの留守中だ。コルン村の先の、山裾の集落から、報せが来た。“灰色の外套の二人連れが、村を通っていった。何もせず、ただ、歩いて”……とな」


「「「「…………」」」」


「報せた村長は、笑ってたそうだ。“変な巡礼さんだ”と。……だがな、俺はお前らの顔を見て、確信したよ。笑い話じゃ、ないんだろう」


俺は、支部長の目を、まっすぐ見返した。


「はい」


「ふん。……ま、いい。Cランクの帰還初日に、辛気くさい顔は、ここまでだ」


グスタフさんは、切り替えるように、机をばん、と叩いた。


「明日から、通常営業!依頼は山積みだ!稼げ、英雄ども!」


「ガハハ、と笑わないんですね、今日は」


「……笑うさ。お前らが揃って帰ってきた日に、笑わん支部長がいるか。ガハハ!!」


やや、無理のある「ガハハ」だった。それでも、その心遣いが、フォルテだった。


——夜半。我が家。


風呂を沸かした。我が家の風呂は、やはり最高だった。


なお、順番決めで、恒例の議事が発生した。


「一番風呂は、旅の垢がいちばん多いやつからだ。つまり、俺——」


「却下。一番風呂は監視長のヴィクよ。六日間、幌の陰で一番窮屈だったんだから」


「ぼ、僕はべつに、後で……」


「ん。ヴィク、いちばん。せんぱいのめいれい」


「後輩の命令では?」


「我が家では飯を作る者がいちばん偉いんだ。諦めて浸かってこい」


「……っ、す、すまない。じゃあ、お先に」


ぱたぱたと消える足音を聞きながら、隼人が、ぼそりと言った。


「……あいつ、絶対、風呂で鼻歌うたうよな」


「聞くな。聞いても、言うな。それが紳士だ」


三十秒後、脱衣所の方から、小さな鼻歌が聞こえた。全員、無言で茶を飲んだ。紳士協定は、五人目の知らないところで、今日も固い。


風呂のあと、冷蔵庫に牛乳を補充し(コタが明朝ぶんを買っておいてくれた)、五人で腰に手を当てて一気飲みをして、それぞれの部屋に散った。


俺は、寝る前に、屋根に登った。


先客は、もちろん、いた。


「……定位置だな、我が眷属」


「ん。……フォルテの屋根は、やっぱり、走りやすそうだ」


ヴィクは、膝を抱えて、北の空を見ていた。旅の間に増えた、観測日誌の新しい欄。“北の空の色”。今夜のフォルテの北の空は、雲もなく、静かな藍色だった。


「なあ、圭吾。……僕は、決めたことがある」


「ほう」


「写しを、全部読み解く。地図を、確かめる。準備をして、力をつけて、それで、いつか」


「いつか?」


「——北に、行く。“見張りの塔”に。……確かめなきゃいけない人が、いる」


初めて、ヴィクは「探し物」を「人」と言った。


俺は、夜空を見上げたまま、いつも通りに答えた。


「そうか。なら、俺たちも準備しておこう。北は寒いらしいからな。ひなたの弁当が凍らん工夫が要る」


「……ふ。心配の順番が、お前たちらしいよ」


「あとは、そうだな。北方古語も、少し習っておくか。先生を、ひとり知ってる」


「……仕方ないな。月謝は、甘いのでいい」


夜風が、二つのフードと一つの前髪を撫でて、北へ抜けていった。


——王都編、これにて閉幕。


腐れ縁四人と眷属一人の物語は、次の章へ続く。北の空の色を、毎晩記録しながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。