↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/172

第63話 王都よ、また来る

出立の朝は、挨拶の行脚から始まった。


一日前倒しの帰還である。世話になった顔ぶれに、朝駆けで別れを告げて回る。


最初は、ロズリンさんだった。総本部の執務室で、彼女は書類から顔も上げずに言った。


「一日前倒し。理由は、聞いた方がいいですか」


「……聞かない方が、報告書が薄く済みます」


「では聞きません。これ、道中の携行証明です。Cランクの正式な。検問で困らないように」


差し出された書類の束は、完璧だった。例の“同行者一名”の欄も、更新済みである。


「監査官さん。あなた、実は私たちの担当になってから、仕事が増える一方では」


「ええ。……ですが、退屈は、していません」


眼鏡の奥で、事務の鬼が、ほんの少しだけ笑った。


「フォルテの観測日誌、月次で写しを送ってください。観測官さん。あれは、良い記録です。総本部で読んでいるのは、たぶん私だけですが」


「読んでくれてたんですか!?」


「“朝飯の味”の欄まで、毎回」


次は、ユリス卿。侯爵邸に寄ると、寝起きの金の巻き毛が、寝間着のまま転がり出てきた。


「か、帰る!?もう!?聞いてないよ!!」


「急用ができまして。世話になりました、御曹司。飯は全部うまかった」


「うぐぐ……母上が悲しむよ!次はいつ来るんだい!」


「さて。……ま、縁があれば」


「縁なら、あるとも!君たちのは“切れない”そうじゃないか!ならば、また会うのは決定事項だね!」


理屈はめちゃくちゃだが、嫌いになれない理屈だった。ユリス卿は、別れ際、荷馬車に酒とチーズの箱を三つ押し込んできた。貴族の友情は、物量で来る。


魔導院のセヴラン導師は、朝から研究室にいた(たぶん、帰っていない)。


「帰るか、外れ値ども」


「はい。検証への協力、これにて」


「ふん。……最後に、ひとつだけ、老人の忠告を追加しておく」


導師は、黒板の前で、こちらを見ずに言った。


「お前たちの周りに、近頃“影の薄い者”がうろついておろう」


「「「「…………」」」」


「……気づいて、いたんですか」


「わしの研究室の計器はな、感度だけは大陸一なのだ。先週から、王都の魔素の“流れ”に、妙な淀点(よどみてん)が二つ、ふらふらと動いておる。生き物のようで、生き物の反応がない。……わしはあれを、五十年前の記録で一度だけ読んだ」


「五十年前……北方の書が、消された年」


「ほう。そこまで調べたか」


導師は、初めて振り向いて、飢えた目を、俺たちに向けた。


「記録には、こうあった。“灰色は、数えに来る”。何を数えに来るのかは、書いておらなんだ。……せいぜい、数えられんように、するのだな。お前たちは、どうせ“数えられん”のが取り柄なのだから」


「それ、褒めてます?」


「わしなりの、餞別だ」


最後に、大聖堂。西広場の炊き出しに、最終日の手伝いで顔を出した。


トマ司祭は、俺たちの出立を聞いて、目に見えてしょんぼりした。


「そう、ですか……虫干し、来年も、その、もし縁があれば」


「ええ。縁があれば、必ず」


「ひなたさん、これ、修道院の焼き菓子です!皆さんで、道中に!」


「ん。トマ、いいひと。——てんしょく、するなら、フォルテの教会に」


「て、転職!?」


炊き出しの列の子供たちにも、別れがバレた。


「くちじょうずのざこ、かえっちゃうの?」


「うむ。だが、悲しむな、少年少女よ。この漆黒はいずこに在ろうと、諸君の空の下に——」


「ようするに、かえるんだな」


「要約が早い!!」


「じゃあ、さいごに、かげ、うねらせて!!」


「よかろう!!見よ!!我が影の、最後の胎動を!!」


「「「うごいてなーい!!」」」


「王都の諸君、達者でな!!(涙目)」


子供たちは笑いながら、それでも列を作って、ひなたと指切りをしていった。「またくる」「ん、またくる」。約束は、三十人ぶん、積み上がった。


そして——広場の端に、白と金の法衣が、供も連れず、立っていた。


バレアス大司教は、俺たちが近づくと、先に口を開いた。


「発つか」


「はい。……猊下。写本を、どうか」


「案ずるな。あれは今日から、もっと深い場所で眠る。錠も、増やした。……それより」


大司教は、ヴィクのフードに、静かな目を向けた。


「名も知らぬ御仁。ひとつ、老人の言葉を持って行かれよ。“見張りの座は、独りでは務まらぬ。されど、独りで座ろうとする者ほど、その座に呼ばれる”。……五十年、書庫の言葉を預かってきた者の、勘だ」


ヴィクは、何も答えなかった。


「良い連れを、持たれた。それだけで、そなたの旅は、先代の見張りたちより、もう幸いだ」


ヴィクは、深く、深く、頭を下げた。フードの奥の言葉は、声にならなかったが、たぶん、届いていた。


——昼前。東門から、乗合馬車が出た。


車窓の向こうで、白い城壁が、ゆっくりと遠ざかっていく。大聖堂の尖塔。大書庫の屋根。ひと月弱の、大きすぎる街。


「……行っちゃうわね、王都」


「ん。おいしかった、王都」


「食った感想なのよ、それ」


「なあ。結局、王都で稼いだ金額と使った金額、どっちが多かったんだ?」


「聞きたい?帳簿、読み上げようか?」


「「「「やめておこう(く)」」」」


騒がしい荷台の隅で、ヴィクは、写しの束の入った胸元を、そっと押さえていた。五年の答えと、北の地図と、独りの見張り番の願いを、抱えて。


「……なあ、圭吾」


「ん?」


「フォルテに帰ったら……観測日誌の書式に、欄をひとつ、増やしたい」


「ほう。何の欄だ」


「——“北の空の色”」


「……いいな。採用だ、我が眷属よ」


馬車は、街道を西へ。


灰色の視線は、王都の門を出てから、一度も感じない。……今のところは、である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。