↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/172

第62話 灰色の外套

祈りが通じなかったのは、翌日の夕方だった。


帰還準備の買い出しから宿舎に戻る途中、学問区の裏道で、ひなたが、ぴたり、と足を止めた。


「……ん」


「どうした。屋台か?」


「ちがう。“へんなの”が、いる」


全員の足が、止まった。ひなたの「へんなの」は、俺たちの警報の中で、いちばん信用できる部類である。


「方角は」


「うしろ。……ずっと、ついてきてる。においが、しない、ひとたち」


「匂いが、しない?」


「ん。ひとは、みんな、においがする。ごはんとか、汗とか、せっけんとか。あのひとたち、なにも、しない」


振り向かずに、俺は視線だけを、ガラス窓の反射に走らせた。


——居た。通りの角。灰色の外套が、二つ。フードの奥は、影。


加護が、走る。


——状態: 【???】


「(読めない)」


背中に、冷たいものが走った。これまで、俺の眼が読めなかった相手は、ただ一人。隣にいる、俺たちの眷属だけだ。


それが今、二人、通りの角に立っている。


「(ヴィク。……あれは、お前の“同類”か)」


返事は、すぐには来なかった。


「(分からない。気配の消し方は、似てる。でも……違う。あれは、消してるんじゃない。最初から“無い”んだ)」


ヴィクの声が、微かに、震えていた。


「(どうする?撒く?)」


「(いや。……俺たちの流儀で行こう)」


「(まさか)」


「(正面からだ)」


俺は、くるりと踵を返し、通りの角に向かって、堂々と歩き出した。風呂敷マントを、翻して。


「そこの灰色のお二方!先ほどから我らの後をゆかれるが、道にでも迷われたか!この“漆黒の存在”が、案内して進ぜよう!!」


裏道に、俺の声が響き渡った。


灰色の外套が、二つ、同時に、こちらを向いた。


フードの奥に、顔は見えなかった。影が、深すぎる。ただ、視線だけが、確かに、俺を通り過ぎて、俺の後ろの、小柄なフードに、注がれた。


数秒の、静止。


そして、灰色の二人は、何も言わず、すっ、と裏道の奥へ歩き去った。足音が、しなかった。


「「「「…………」」」」


「……行った、わね」


「ああ。……なあ、みんな、今の視線、気づいたか」


「ええ。……あの人たち、私たちを見てなかった。ヴィクだけを、見てた」


全員の目が、ヴィクに集まった。


ヴィクは、路地の壁に手をついて、フードの下で、荒い息をしていた。顔色が、見なくても分かるほど、白い。


「ヴィク!?おい、大丈夫か」


「……だい、じょうぶだ。……ちょっと、昔のことを、思い出しただけだ」


「昔のこと?」


ヴィクは、しばらく黙って、それから、絞り出すように言った。


「五年前。僕が、探し物の旅を始めた頃。……一度だけ、あれと、会ったことがある」


「なに?」


「北の、山裾の村で。あの灰色が、二人、村を歩いてた。何もしない。ただ、歩いて、去った。……その村は、半年後に空になった。誰も、何も、覚えてないまま。“なんとなく、居られなくなった”って、みんな、笑って言うんだ」


「「「「…………」」」」


なんとなく、居られなくなった。


行商のおっちゃん。赤鼻団の頭目。北から流れる人々。全員が、同じ言葉を使った。その始まりの風景に、あの灰色が、立っていた。


「……あいつらは、何なんだ」


「分からない。名前も、正体も、目的も。……ただ、僕の故郷では、ああいうのを、こう呼んでた」


ヴィクは、フードの奥で、その言葉を、吐き出すように言った。


「“灰色の巡礼”。あれが通った土地は、縁が、痩せる」


宿舎への帰り道は、全員、無言の早足だった。角を三つ曲がったところで、隼人が、ぽつりと言った。


「……なあ。さっきの、正面から声かけた時さ。俺、実は、剣の柄、握ってたんだよ」


「知ってる。視えてた」


「で、思ったんだけど、あれ、斬り合いになってたら、俺、勝てた気がしねえ。……“強い弱い”じゃなくてさ。斬るものが、無い感じがした」


「「「…………」」」


俺たちのエースの戦闘勘は、俺たちの計器の中で、ひなたの鼻の次に正確である。その勘が「斬るものが無い」と言った。……覚えておくべき情報だった。


——宿舎に戻って、緊急会議になった。


議題は三つ。灰色の巡礼とは何か。なぜヴィクを見ていたのか。そして、どうするか。


「情報を整理するわよ。大書庫で北方伝承を探ってた二人組。奥書庫の錠を“触れずに試した”何か。そして今日の、匂いのない二人。……全部、同じ連中だと考えるのが自然ね」


「連中の狙いは、北の記憶と、たぶん、写本だ。大司教の懐の、あれ」


「じゃあ、猊下が危ないんじゃ」


「いや。……たぶん、今夜狙われるとしたら、猊下じゃない」


俺は、卓の上の、写しの束を見た。


「——写しを持ってる、俺たちだ」


部屋の空気が、引き締まった。


「ど、どうするの。焼く?写しを」


「焼かない」


即答したのは、ヴィクだった。


「五年ぶんの答えだ。焼かせない。それに、焼いたって、連中は“僕たちが読んだ”ことを消せない。狙われる理由は、もう、消えないんだ」


「なら、話は簡単だな」


隼人が、剣の手入れをしながら、にやりと笑った。


「持って、逃げる。明日の朝の便で、フォルテに帰る。予定を一日、前倒しだ。王都のど真ん中でやり合うより、慣れた庭の方が、百倍やりやすい」


「賛成。手続きは今夜中に済ませるわ」


「ん。おべんとう、つくる」


「遠足じゃないんだよなあ……いや、今回ばかりは、頼む」


——荷造りの夜、俺は屋上で、最後の見張りに立った。


王都の屋根の海は、今夜も灯りで満ちている。その海のどこかに、匂いのしない灰色が、二つ。


「……交代の時間だ」


音もなく、隣に我が眷属が降りた。定位置である。


「なあ、ヴィク。ひとつだけ、確認だ。あの灰色は、お前の探し物と、敵対する何かか」


「…………たぶん。いや、確実に」


「そうか。なら、俺たちの方針も確定だ」


「方針?」


「“俺の眷属を痩せさせる縁は、全部、俺たちの敵”。単純だろう」


ヴィクは、フードの奥で、長いこと黙って、それから、ぽつりと言った。


「……お前たちを巻き込むのが、いちばん怖かったんだ。ずっと」


「知ってる」


「……もう、遅いんだよな」


「ああ。あの夜の井戸端で、白パンを受け取った時点でな」


フードの奥で、俺たちの眷属が、小さく息を吐いた。


「ばか」


明日の朝、俺たちは王都を発つ。


灰色の視線が、どこまで追ってくるかは、まだ、分からない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。