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絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


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第56話 潜入計画、飯から始まる

「では、第一回・大聖堂攻略会議を始める」


宿舎の一室。卓上には、ひなたの食レポと、沙耶が大書庫で写してきた大聖堂の公開見取り図と、ヴィクの手描きの補足(なぜ内部構造を知っているのかは、聞かないでおいた)。


「目標の確認。大聖堂の“奥書庫”だ。五十年前に大書庫から移管された、北方伝承の記録。ヴィクの探し物の、最有力候補地」


「問題は、場所よ。奥書庫は聖域区画。司祭以上しか入れない。巡礼が入れるのは、礼拝堂と回廊と広場だけ」


「つまり、正面からは無理。……で、俺たちの流儀の出番だ」


「飯ね」


「飯だ」


作戦の骨子は、こうである。


大聖堂の西広場では、毎朝、修道士たちが炊き出しをやっている。人手は、常に足りていない。そこで、俺たちが「奉仕活動」として炊き出しを手伝い、聖堂の中の人になる。フォルテの教会で実績のある、由緒正しい手口である。


「奉仕の実績を作って、顔を覚えてもらう。そのうち、物資運びやら掃除やらで、聖域区画の“縁”までは入れるようになる。……そこから先は、状況次第だ」


「地道ねえ。もっとこう、屋根から忍び込むとかじゃないんだ」


「大聖堂の屋根には、警備の“目”の魔道具がある。……僕が言うんだから、間違いない」


「監視長が言うと説得力が違うな」


「い、一般論だ!一般論!」


——翌朝から、《腐れ縁》の奉仕活動が始まった。


炊き出しの列は、長かった。王都は大きい。大きいぶんだけ、日々の飯に困る者も多い。北から流れてきたという家族連れの姿も、ぽつぽつと混ざっていた。


「はい、なみなみ。つぎのひと、どうぞ」


ひなたの配膳は、初日から職人だった。椀の縁まで正確に注ぎ、子供には具を多めに沈め、遠慮する年寄りには「おかわり、あるよ」を先に言う。三日目には、修道士たちから「ひなた聖女」と呼ばれ始めた。


「聖女……あの子が……」


「食い物が絡んだ時のあいつは、昔から本物だぞ」


隼人は薪割りと力仕事で株を上げ(平時の非力を「今日は調子が悪くて」で誤魔化しながら)、沙耶は炊き出しの帳簿を三日で立て直して会計係の修道士に拝まれ、そして俺はというと。


「マントのにいちゃん、それなに?」


「ふっ……よくぞ聞いた、王都の小さき者よ。これは“漆黒の——”」


「「「ふろしきだー!!」」」


「なぜ分かった!?王都まで俺の情報が!?」


「フォルテのじゅんれいのひとが、うたってた!“くちじょうずのざこ”!」


「歌が巡礼路を伝って広まってる!?」


大陸の流通網は、悪名にもよく効くのである。ちなみにその晩、俺は枕を涙で濡らし(比喩)、ヴィクに「に、二つ名くらいで落ち込むな。……ほ、ほら、甘いのやるから」と慰められた。貸し一である。いや、この場合は借りか。


なお翌日、俺は汚名返上のため、王都の子供たちに“本物の漆黒”を披露した。


「見よ!!我が影が、うねる!!」


足元の影が、ぴくり、と動いた。


「「「…………」」」


「今のを見たか!!影が!!」


「うごいてない」


「フォルテのうたのとおりだ!」


「くちじょうずのざこは、ほんものだった!!」


「“本物の雑魚”という評価は初めてだが!?」


汚名は、返上どころか、実演付きで裏書きされた。王都の子供も、フォルテの子供と、同じ目をしていた。


——そして、五日目。


転機は、向こうからやってきた。


「あなたがたが、噂の奉仕の一団ですか」


炊き出しの片付け中、声をかけてきたのは、若い司祭だった。糊のきいた法衣。生真面目を絵に描いた顔。歳は俺たちと同じくらいだろうか。


「大聖堂・書庫室付き司祭の、トマと申します。……あの、折り入って、お願いがありまして」


「(書庫室付き!!)」


「(来た!!向こうから来た!!)」


「(顔!!全員、平常の顔!!)」


トマ司祭の「お願い」は、こうだった。


「書庫の……その、蔵書の“虫干し”の季節でして。人手が、まったく足りないのです。奉仕の皆さんの働きぶりは伺っております。もしよろしければ、書庫の作業を手伝っていただけないかと……あ、もちろん、入っていただくのは“外書庫”です。聖域の奥書庫は、私どもでも入れませんので」


「「「「(外書庫でも大前進だ!!)」」」」


「謹んで、お受けしよう」


「ああ、よかった!実は司教様がたに奉仕の方を入れる許可を取るの、大変で……献身的な方々で本当に助かりました」


生真面目な司祭は、ほくほくと帰っていった。良心が、少し痛んだ。半分は本当に奉仕のつもりでやっている、ということにしておく。


会議は、その夜も開かれた。


「状況、整理するわよ。明後日から、外書庫の虫干し作業。期間は十日。作業員は私たち五人と、修道士が数人」


「外書庫と奥書庫の位置関係は——ヴィク、頼む」


ヴィクが、手描きの図を卓に広げた。


「外書庫は聖域区画の手前。奥書庫は、その先だ。回廊を挟んだ、地下にある。入り口はひとつ。扉は魔道具の錠。鍵は、司教級が持つ“印章”……のはずだ」


「はず、って。お前、詳しすぎないか、やっぱり」


「……昔、調べたことが、あっただけだ」


「(昔、潜入を試みたことがある、の顔ね)」


「(そして失敗した顔だな)」


「な、なんで分かるんだ!?」


「顔に出てるのよ、あなたも大概」


ヴィクは、フードを深く被り直して、話を戻した。


「……とにかく。十日間、毎日、奥書庫の“入り口の前”を通れる。それだけでも、錠の型、警備の周期、司祭たちの動線が調べられる。焦らず、まず、それからだ」


「監視長の計画が、今日も手堅い」


「潜入は、準備が九割だ。……残りの一割は」


「一割は?」


「運と、勢い」


「俺たちの得意分野だな、後者は」


——散会の後。


俺は、窓辺で夜の尖塔を見ているヴィクの隣に、なんとなく立った。


「……近いな、探し物まで」


「ああ。……五年、探した。こんなに近づいたのは、初めてだ」


「五年」


つい、口に出た。五年。こいつは五年、一人で、屋根の上と野営とフードの下で、これを探してきたのか。


「……なんだ、その顔は。同情なら要らないぞ」


「同情ではない。感心だ。五年も一人で探し続けられる奴は、そういない。——だが、訂正もしておこう」


「訂正?」


「今は、一人ではないだろう。炊き出し係が四人、付いてる」


ヴィクは、一瞬黙って、それから、窓の外に顔を逸らした。


「……ふん。せいぜい、働け。炊き出し係」


声が少し笑っていたのを、俺の耳は拾った。拾ったことは、例によって、言わないでおいた。


外書庫作業、明後日開始である。


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